メインコンテンツまでスキップ

小児の身体活動を評価する新しいアクティビティモニターの有効性

· 約18分
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事では、発達障害やADHDに関する最新の学術研究を紹介しています。具体的には、小児の身体活動を評価する新しいアクティビティモニターの有効性、ADHDの若年成人に見られる脳の構造的特徴、ASD児の運動スキルと社会スキルが活動参加に与える影響、そしてADHD治療のための非侵襲的脳刺激(NIBS)の適切なターゲット領域の特定について取り上げています。これらの研究は、発達障害の理解を深め、診断・治療の新たな可能性を示すものであり、医療・教育・福祉の分野における今後の実用化が期待されます。

学術研究関連アップデート

Monitoring of child-specific activities in ambulatory children with and without developmental disabilities - BMC Pediatrics

この研究は、小児の身体活動をより正確に把握するために、新しいアクティビティモニター(AM-p)を使って、その有効性を検証したものです。特に、発達障害のある子どもとない子どもを対象に、日常環境での動きを測定し、その正確性を評価しました。

研究の背景

  • 小児の健康をサポートするためには、日常の身体活動を正しく測定することが重要。
  • これまでの研究では、主に研究室内での測定が中心で、実際の生活環境での検証が不足していた。
  • そこで、新しいAM-pを子どもに装着し、日常環境でどの程度正しく測定できるかを調査。

研究方法

  • 2〜19歳の歩行可能な子ども93人(うち28人は発達障害あり)が参加。
  • 子どもたちは足首にAM-pを装着し、活動中の様子をビデオ撮影(ゴールドスタンダードとして使用)。
  • 5秒ごとに「静止」「自転車」「歩行・走行(移動)」の3つのカテゴリーに分類。
  • 機械学習を活用し、AM-pのデータとビデオの活動ラベルを比較。

研究結果

  • AM-pは 82%の精度 で活動を判別可能。
  • 「静止」「自転車」「移動」の分類において、リコール78%、適合率75%、F1スコア75%。
  • 13歳以上の定型発達児(発達障害のない子ども)の方が、2〜12歳の子ども(発達障害あり・なし)よりも正確に測定可能。

結論

  • AM-pは、子どもの日常生活における活動を 比較的高い精度(82%) で測定できる。
  • 発達障害の有無に関わらず、歩行可能な子ども全体で活用できる可能性がある。
  • 小児医療の現場で、子どもの身体活動を評価する新しいツールとして有望。

ポイント

  • 足首に装着するだけで活動を測定できる。
  • ラボではなく 実際の生活環境 で検証された点が重要。
  • 機械学習を活用し、一定の精度で活動を分類可能。
  • 今後、医療やリハビリ、運動指導などに活用される可能性がある。

この研究により、子どもたちの 日常生活の動き をより詳細に評価できるツールが開発され、特に発達障害のある子どもたちの健康支援にも役立つ可能性が示されました。

Unique cortical morphology in young adults who are diagnosed with and medicated for attention-deficit/hyperactivity disorder

この研究は、注意欠陥・多動性障害(ADHD)のある若年成人(18〜26歳)の脳の形状が、ADHDのない人と比べてどのように異なるのかを調べたものです。特に、**大脳皮質の厚みやシワ(回転)や溝(脳のシワの深さ)**の違いに着目しています。


研究の背景

  • ADHDの子どもは、脳の皮質(大脳の表面)の厚みが薄くなったり、折りたたまれ方(回転や溝の深さ)に違いがあることが知られています。
  • しかし、大人になってもその違いが続くのか? については、はっきり分かっていませんでした。
  • そこで、この研究では、ADHDのある若年成人の脳の形を詳しく調べることを目的としました。

研究の方法

  • 対象
    • ADHDと診断され、毎日薬を服用している 30人(ADHD群)。
    • 年齢と性別が一致し、生まれてから一度もADHDと診断されていない 30人(非ADHD群)。
  • 検査方法
    • MRI(磁気共鳴画像法)を使って、脳の表面の形状を詳細に分析。
    • 皮質の厚み(厚い or 薄い)、回転の程度(シワの多さ)、溝の深さ を比較。

研究結果

  • ADHDのある人は、以下の脳の特徴が見られた
    • 皮質の厚みが薄い(主に前頭葉・頭頂葉・側頭葉)
      • 影響を受けた部位
        • 左上頭頂小葉(左の後頭部の上あたり)
        • 両側の下側頭回(こめかみの内側)
        • 右外側眼窩前頭回(おでこの内側)
    • 脳の回転(シワ)が多い(主に前頭葉・後頭葉・側頭葉)
    • 脳の溝の深さが変化
      • ほとんどの部位では溝が深かった
      • ただし、右の中心後回(体性感覚をつかさどる部分)と下側頭回(視覚処理の部分)では浅かった

研究の結論

  • ADHDの人は、大人になっても脳の形が特徴的に異なることが分かった。
  • 特に、脳の皮質が薄いことや、シワの多さ、溝の深さに違いがあり、これらはADHDの特徴として使える可能性がある。
  • 将来的に、脳の形の違いを使ってADHDの診断や治療の指標にできるかもしれない。

ポイント(簡単なまとめ)

✔ ADHDの若年成人は、脳の表面の形が特徴的に異なる

皮質が薄くなりやすい部分がある(前頭葉・頭頂葉・側頭葉)

脳のシワ(回転)が増えたり、溝の深さに違いがある

ADHDの診断や治療の新しい手がかりになる可能性がある

この研究により、「ADHDは子どもの頃だけのものではなく、大人になっても脳の特徴的な違いが残る」ことが明らかになりました。今後の診断方法や治療の進展に役立つかもしれません。

Exploring the impact of motor and social skills on activity participation among children with autism spectrum disorder

この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)のある子どもたちの運動能力や社会的スキルが、日常生活での活動参加にどのように影響するか を調べたものです。特に、運動スキルと社会スキルの関係、そして それらが異なる種類の活動への参加にどう影響するか に焦点を当てています。


研究の背景

  • ASDの子どもたちは、運動スキル(例:ボールを投げる、バランスをとる)や 社会スキル(例:感情をコントロールする、他者とやり取りする)に課題を抱えることが多い。
  • これらのスキルが、学校や遊び、日常生活での 活動への参加にどのように関わるのか は、十分に研究されていなかった。
  • 本研究では、保護者の報告をもとに、運動スキルと社会スキルが、どの活動にどの程度関わるのか を調査。

研究の方法

  • 対象:ASDの診断を受けた子ども 100人 の保護者が調査に協力。
  • 使用したアンケート
    • 運動スキル:発達性協調運動障害質問票(Developmental Coordination Disorder Questionnaire)
    • 社会スキル:感情調整と社会的スキル質問票(Emotion Regulation and Social Skills Questionnaire)
    • 活動への参加状況
      • Activity Questionnaire(全体的な活動レベル)
      • Child Participation Questionnaire(活動の種類ごとの詳細な参加レベル)

研究結果

  1. 運動スキルと社会スキルには相関がある
    • 運動が得意な子どもは、社会スキルも比較的高い傾向があった。
  2. 運動スキルが高いと、いくつかの活動に積極的に参加しやすい
    • 特定の遊びやレクリエーション活動(例:スポーツや体を動かす遊び)との関連が強かった。
  3. 社会スキルが高いと、ほぼすべての活動で参加率が高くなる
    • 友達と関わる活動や、学校でのグループ活動など、幅広い活動で影響が見られた。
  4. 社会スキルが、運動スキルと活動参加の関係を調整する
    • 運動スキルが低くても、社会スキルが高い子どもは活動に積極的に参加できる傾向があった
    • 逆に、運動スキルが高くても、社会スキルが低いと、活動への参加はあまり増えなかった。

研究の結論

  • 運動スキルと社会スキルの両方が、ASDの子どもの活動参加に影響を与える
  • 特に 社会スキルは活動参加全般に強く関係 しており、運動スキルの影響を補うこともできる。
  • 今後の支援や療育では、運動だけでなく、社会的なスキルを伸ばすことも重要

ポイント(簡単なまとめ)

ASDの子どもは、運動スキルが高いほど一部の活動に積極的

社会スキルが高いと、ほぼすべての活動への参加率が上がる

社会スキルは、運動スキルの影響を補う役割がある

療育では、運動支援だけでなく、社会スキルの向上も大切

この研究は、「ASDの子どもがより多くの活動に参加できるようにするためには、運動だけでなく、社会的なスキルのトレーニングも重要 である」ということを示しました。

Potential locations for non-invasive brain stimulation in treating ADHD: Results from a cross-dataset validation of functional connectivity analysis

この研究は、非侵襲的脳刺激(NIBS) という治療法を使って**注意欠陥・多動性障害(ADHD)**の症状を改善するために、最適な刺激部位を特定しようとしたものです。NIBSは、電気や磁気を使って脳を刺激する治療法で、手術を伴わないため安全性が高いとされています。しかし、どの部位を刺激すれば効果的なのか については、まだ十分な研究がされていませんでした。


研究の目的

  • ADHDの症状に関係する脳の特定部位を明らかにし、NIBSの刺激ターゲットとして最適な場所を特定する。
  • これを実現するために、既存の脳画像研究のデータ(fMRI)を組み合わせて分析 する方法を採用。

研究の方法

  1. 124のfMRI研究を分析(メタ解析)
    • ADHDに関係する脳の領域を特定し、重要な部位を「関心領域(ROI)」として設定。
  2. ADHD患者の脳機能データを解析
    • 2つの異なるデータベース(合計116人のADHD患者)から、安静時fMRI(何もしていない状態の脳活動)を解析。
    • 既に特定された関心領域(ROI)と脳の他の領域とのつながり(機能的結合; FC) を調査。
  3. NIBSのターゲット部位を特定
    • 2つのデータセットで共通して「ADHDに関連する脳部位」として出てきた領域を、NIBSの刺激対象候補として選出。
  4. 頭皮上の刺激ポイントへ変換
    • 10–20電極配置法(脳波測定などで使われる一般的な方法)を使い、実際に刺激を当てる位置を頭皮上にマッピング

研究の結果

  • ADHDに関係し、NIBSのターゲットとして有望な脳の部位 は以下の通り:
    • 両側の背外側前頭前野(DLPFC):注意力や実行機能(計画・判断など)に関与
    • 右下前頭回(IFG):衝動制御に関連
    • 両側の下頭頂小葉(IPL):空間認識や集中力に関係
    • 補足運動野(SMA)と前補足運動野(pre-SMA):運動の制御やリズム感に関連
  • これらの部位は、ADHDの患者で機能的な結びつきが変化していることが確認され、NIBSのターゲットとして適切である可能性が高い。

研究の結論

  • NIBSを用いたADHD治療に適した脳の刺激部位を特定
  • これまでターゲットが不明確だったNIBSの治療法について、より科学的に根拠のある刺激部位を示せた
  • 今後、臨床試験で実際の効果を検証する必要がある

ポイント(簡単なまとめ)

ADHD治療にNIBS(非侵襲的脳刺激)が有望

ADHDに関連する脳領域を、脳画像データをもとに特定

DLPFC、IFG、IPL、SMAなどが最適な刺激ターゲット

今後、臨床試験を通じて実際の治療効果を確認する必要あり

この研究は、ADHDの治療法としてNIBSをより効果的に活用するための重要な一歩といえます。今後、これらのターゲット部位を活用した治療法が確立されることで、ADHDの新しい治療の選択肢が広がる可能性があります。