ADHDと慢性痛の関係
この記事では、自閉スペクトラム症(ASD)の診断率上昇に関する社会的議論から、VRやAI技術を活用したASD支援、ADHDと慢性痛の関係、ディスレクシアにおけるセルフ・コンパッションの意義、向精神薬に対する親の認識、溺水リスクに関するASD児の水の安全など、医学・教育・福祉・技術の各分野での重要な研究成果を取 り上げています。いずれも、支援の質を高めるための科学的な知見や、政策・実践への示唆を含んでおり、発達障害をめぐる多面的な課題とその解決へのアプローチが集約された内容です。
社会関連アップデート
Opinion | The Madness in RFK Jr.’s Autism Method
📰 RFK Jr.の「自閉症対策」には懸念も──科学の信頼性は守られるべきか?
2025年9月までに自閉症の原因究明を目指すと宣言したロバート・F・ケネディJr.長官。その「本気の姿勢」は評価されつつも、医師であるNicole Saphier氏は、「方法」に対して強い懸念を表明しています。複雑な自閉症の成因を単純化するリスクや、信頼性に欠ける研究者の登用が、科学的な前進をむしろ阻むのではないかという指摘がなされており、政治よりもエビデンス重視の姿勢が今こそ求められていることを訴えます。
「本当に家族のためになる支援とは何か?」を問い直す視点から、一読の価値ある論考です。
学術研究関連アップデート
Assessment and intervention with virtual reality technology for children aged 3–12 years with autism spectrum disorders: A scoping review
この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある3~12歳の子どもに対して、バーチャルリアリティ(VR)技術がどのように活用されているかを包括的に整理したスコーピングレビューです。
✅ 目的と背景
これまでにもVRがASDの子どもに有効だという研究は多くありましたが、「どの種類のVR技術が、どのような目的で使われているのか」についての整理は不足していました。そこで本研究では、52本の研究論文を対象に、**評価(アセスメント)と介入(トレーニングや支援)**の両面から、VR技術の活用方法を明らかにしました。
🔍 主な内容と結果
- 研究対象に偏り
- 多くの研究が**6〜12歳の比較的高機能なASD児(軽度〜中等度)**を対象にしており、3〜5歳の低年齢や重度のASD児は対象外になりがち。
- VRは有効
- VRは、ソーシャルスキルの学習、行動観察 、感覚トレーニングなどにおいて有効とされ、評価ツールとしても介入手段としても効果あり。
- HMD型VRの課題
- 頭に装着するタイプのVR(HMD VR)は、ASD児にとって感覚過敏を引き起こしやすい可能性があり、段階的に慣らす(脱感作)工夫が必要とされる。
- 最も多く使われているのはDesktop VR
- *パソコンやタブレットを通して体験するVR(Desktop VR)**が、最も多くの研究で使用されていた。
🧠 結論と今後の課題
- VRはASD支援に有望なツールであり、HMD、Desktop、Handheld、プロジェクター型、CAVE(部屋全体が仮想空間)型など、複数のタイプすべてに一定の効果がある。
- 一方で、年齢が低い子や重度の子どもへの応用はまだ研究が不十分であり、今後の課題となっている。
この論文は、VRを使ったASD支援に取り組む教育・医療・福祉関係者にとって、技術選定や対象児の理解に役立つレビューです。また、テクノロジーをどう安全に、効果的に使うかを考えるうえでのガイドラインにもなり得ます。
Correlation between attention deficit/hyperactivity disorder and chronic pain: a survey of adults in Japan
この研究は、日本国内の成人を対象に、ADHD(注意欠如・多動症)と慢性痛との関連性を調査したものです。痛みを抱える人の中に、ADHDの傾向を持つ人が多いのではないかという疑問に答える形で行われました。
🔍 研究の概要
- 対象:20〜64歳の成人4,028人(過去4週間に身体のどこかに痛みを経験した人)
- 方法:
- 痛みの程度は0〜10点のNRS(数値評価スケール)で評価
- ADHDとASDの傾向は、それぞれASRS(成人ADHD自己記入式質問票)と自閉スペクトラム指数で測定
- *メンタルヘルスの問題(PMH)**も併せて評価し、ADHD傾向と痛みとの因果関係を分析
📊 主な結果
- 慢性痛ありのグループ(1,465人)は、慢性痛なしの人(2,563人)よりADHDの傾向が強いと評価された
- ADHD傾向のある人ほど、痛みの強さが高くなる傾向
- 特に**「非常に強い痛み」を訴える人のうち38.3%がADHD傾向あり**
- ADHD傾向と慢性痛との関連(相関係数0.26)は、メンタルヘルスの問題(相関係数0.09)よりも強かった
- ASDの傾向は、慢性痛とは有意な関連がなかった
✅ 結論と意義
- ADHDの傾向がある成人は、慢性的な強い痛みを感じやすい可能性がある
- ASD傾向と痛みとの関連は認められなかった
- 一部の研究では、ADHD治療薬が痛みの軽減に役立つ可能性も示唆されている
- 今後、慢性痛を訴える患者にはADHDのスクリーニングや治療も考慮すべきという新たな視点が提示されている
この研究は、**「痛みの背景に発達特性が隠れているかもしれない」**という重要な示唆を与えており、医療現場での評価・支援の幅を広げるヒントとなる成果です。
The role of self-compassion in adults with dyslexia
この研究は、大人のディスレクシア(読み書き障害)を持つ人たちにとって「セルフ・コンパッション(自分への思いやり)」がどのような役割を果たしているかを明らかにしようとした初の研究です。
🔍 背景と目的
ディスレクシアは学習の難しさだけでなく、自己評価の低下や不安などの心理的な問題とも関係しています。しかし、これまで**「自分に優しくする力=セルフ・コンパッション」**がどのように関連しているかはほとんど研究されてきませんでした。
この研究では、以下の点を調べました:
- セルフ・コンパッションと、自己肯定感(self-esteem)、自己効力感(self-efficacy)、不安との関係
- セルフ・コンパッションが、**ディスレクシアの人の不安をやわらげる「仲介的な役割」**を果たすかどうか
👥 研究方法
- 対象:ディスレクシアを持つ成人100人
- 方法:オンラインで以下の指標を測定
- セルフ・コンパッション
- 自己肯定感
- 自己効力感
- 不安レベル
📊 主な結果
- セルフ・コンパッションが高い人ほど、不安が低く、自己肯定感や自己効力感が高い傾向にあった
- 特に注目すべきは、セルフ・コンパッションが「不安」と「 自己肯定感/自己効力感」の関係を仲介していたこと
- つまり、「自分を責めすぎない力」が、自信や不安の改善に間接的に貢献していることが初めて明らかになった
✅ 結論と意義
- ディスレクシアのある大人にとって、セルフ・コンパッションは心理的な健康を守る重要な要素
- 今後の支援やカウンセリングでは、「学習の支援」だけでなく、自分に優しく接する姿勢を育むアプローチが効果的かもしれない
この研究は、ディスレクシアの心理的側面に光を当て、「自分に厳しすぎること」が不安や自己否定感を悪化させている可能性を示しており、支援の新たな視点を提供しています。
Perspectives of South Korean Parents Toward Psychotropic Medication Use Among Autistic Individuals
この研究は、韓国の保護者が自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもに対する向精神薬の使用についてどのように考えているのか、またその使用状況や関係者とのコミュニケーションのあり方を明らかにすることを目的としています。
🔍 研究の概要
- 対象:18歳以上の自閉症の子どもを持ち、向精神薬を処方されている韓国の保護者19名
- 方法:個別インタビューによる質的調査
- 分析:比較分析法とテーマごとのコーディング
📊 主な結果とポイント
- 処方傾向の特徴:
- いつから薬を使い始めたか、使用の目的、服薬量、入院歴などで分類
- 向精神薬の使用は主に行動問題の管理を目的としていた
- 薬に対する親の見解:
- 多くの保護者が、薬の効果に懐疑的または不安を抱いていた
- そのため、**医師の指示通りに服薬しないケース(服薬アドヒアランスの低下)**が見られた
- コミュニケーションの問題:
- 精神科医、本人、他の支援者(例:教師、ソーシャルワーカー)との情報共有や対話が不足
- 本人の意思が十分に尊重されていない状況も浮き彫りに
✅ 結論と提言
- 保護者の不安や誤解を減らすために、薬についての基本知識・適正な用量・副作用対策などを学べる教育プログラムの整備が必要
- 本人を中心に据えたチームアプローチと、継続的な多職種連携による対話の場の保障が求められる
- 特に、当事者本人の声が尊重される医療・支援のあり方を重視すべき
この研究は、**薬物治療の現場でよくある「納得のない服薬」や「孤立した意思決定」**といった問題に注目し、より丁寧で包括的な支援体制の必要性を示しています。
Parent Perspectives on Water Safety for Children with Autism
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもたちの水の安全(ウォーターセーフティ)について、保護者がどのような経験や不安を抱えているのかを明らかにするために行われました。特に、自閉症の子どもは**14歳までの死因で最も多いのが「溺死」**であるという深刻な背景があります。
🔍 研究方法
- 自閉症の子ども を持つ保護者を対象に、6回のフォーカスグループと1件の個別インタビューを実施。
- 保護者の経験や悩みを聞き取り、共通するテーマを抽出。
📊 明らかになった6つの主要テーマ
- 自閉症の特性が水の危険性を高める
- 衝動性、危険の理解の乏しさ、徘徊傾向などが溺水リスクを上げている。
- 水に関する不安が家庭生活に影響
- 家族での外出や水辺のレジャーが制限され、保護者のストレスも増加。
- 水泳教室や安全教育の情報が見つけづらい
- ASD児向けの適応プログラムが少なく、探すのに苦労している。
- 自閉症の特性により水泳レッスンの参加が難しい
- 集団行動が苦手、音や水の感覚への過敏さなどにより、通常のレッスンでは効果が薄い。
- ASD児には個別化された水泳指導が必要
- 進度や指導方法を柔軟に対応する必要がある。
- インストラクターの理解と準備が成功の鍵
- ASDについての知識や対応スキルが指導の質に大きく影響する。