ASDにおける睡眠のタイプ
この記事では、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などの発達障害に関する最新の研究動向を幅広く紹介しています。具体的には、ASDにおける睡眠や食行動、言語理解、診断の多様性、文化的背景の影響などに焦点を当てた研究や、ADHDに関しては自然言語処理やスタイロメトリーによる診断支援、産後うつと の関連、自己申告による診断区別の可能性などが取り上げられています。また、AIやfNIRSといった先端技術の応用、母子の心理的要因の相互作用、グローバルな文化文脈における支援課題なども含まれており、臨床・教育・福祉における支援や介入の質を高めるための実践的な示唆が豊富に含まれています。
社会関連アップデート
障害者の性犯罪被害、加害者の3割が支援者〈法務総合研究所〉|福祉新聞
法務省の特別調査により、障害者が性犯罪の被害に遭った事件の加害者の約3割が支援者であったことが明らかになりました。これは、障害のない人の場合と比べて大きく異なり、被害が学校や福祉施設の屋内など支援の場で多発していることも特徴です。調査は2018年からの有罪判決データに基づき実施され、障害者支援における性犯罪防止の重要性が浮き彫りとなりました。研究者は、「子どもの性被害対策に比べて、障害者の対策は遅れており、関心と対策の強化が必要」と警鐘を鳴らしています。
学術研究関連アップデート
Help-Seeking Experiences of Asian American Parents of Children with Autism: A Qualitative Study
この研究は、アジア系アメリカ人の親が自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもの支援を求める際に直面する困難を明らかにすることを目的とした質的研究です。10人の親へのインタビューから、次の4つの主な障壁が浮かび上がりました:
- 制度上のハードル:医療費の高さ、保険の遅延、長い待機時間などにより、必要な支援を受けにくい。
- 支援者側の課題:文化的背景への理解が乏しい専門職が多く、診断の遅れや不満につながっている。
- 自閉症に関する知識の不足:家庭や地域社会での理解が十分でなく、早期の気づきや対応が遅れやすい。
- 文化的なスティグマ(偏見):障害に対する「恥」や周囲からの目を気にして、支援をためらう傾向がある。
さらに、ASD関連のメディアや啓発活動にアジア系の登場が少ないことも、孤立感や情報不足を助長しています。このような背景から、文化的に配慮された支援体制や啓発活動の強化が急務であると研究者たちは訴えています。
本研究は規模が小さいものの、多様なアジア系家庭への理解と支援のあり方を見直すきっかけとなる重要な知見を提供しています。
Postpartum Depression Increases the Risk of Childhood Attention Deficit Hyperactivity Disorder Diagnosis
この研究は、産後うつ病(PPD)を経験した母親の子どもが、ADHD(注意欠如・多動症)と診断されるリスクが高いのかどうかを大規模な医療データを用いて調査したものです。
🔍 研究概要
- 対象:2010~2019年に米国カイザーパーマネンテ病院で出生した3〜12歳の子ども約23万人
- 方法:母親のPPDの有無と、子どものADHD診断の有無を医療記録や処方歴から確認
- 分析:PPDのある母親の子どもがADHDになる割合と、そのリスクを統計的に比較
📊 主な結果
- PPDのある母親の子どもは、ADHDと診断される確率が約1.76倍高かった
- ADHDの発症率:PPDあり 8.85/1000人年 vs. PPDなし 5.18/1000人年
- 早産(29~36週)だった場合、さらにADHDリスクが高まる
- この傾向は、性別や人種・民族を問わず全体に共通していた
✅ 結論と意義
- 産後うつ病を経験した母親の子どもは、ADHDのリスクが高くなる可能性がある
- PPDのある母親の子どもを早期にモニタリングし、必要に応じて支援を行うことが重要
- ただし、PPDがADHDを直接引き起こしているのか、共通の背景要因があるのかは今後の研究課題
この研究は、産後うつと子どもの発達障害リスクの関連性に注目し、早期支援や予防的介入の必要性を示す重要な一歩となっています。
Psychological and spiritual well-being of adolescents with autism spectrum disorder in Ghana - BMC Psychiatry
この研究は、ガーナに住む自閉スペクトラム症(ASD)のある10代の若者たちが直面する心理的・スピリチュアル(宗教的)な課題について、親の視点から探ったものです。
🔍 研究の概要
- 対象:アクラ(ガーナの首都)に住むASDのある10代の子どもを持つ親13人
- 方法:半構造化インタビューによる質的研究
- 分析手法:テーマ別に分類して共通のパターンを抽出
📊 主な発見(2つのテーマ)
- 心理的な課題
- 気分の不安定さやうつ状態などの精神的困難が見られる
- 社会的スティグマ(偏見や差別)によって本人だけでなく家族も大きなストレスを抱えている
- 経済的負担も心理的ストレスを強めている
- スピリチュアルな側面
- 宗教活動(礼拝や祈り)が家族や本人にとって大きな心の支えとなっている
- 一方で、感覚過敏などのASD特性によって宗教行事への参加が困難なケースもある
✅ 結論と意義
- ASDのある10代に対するメンタルヘルス支援や、宗教的支えの場の整備が急務
- 地域に根ざした支援(コミュニティ・ベースのメンタルヘルスサービスや、感覚特性に配慮した宗教活動)が求められる
この研究は、アフリカの文脈でASDを持つ若者の「心の健康」と「信仰」を支える新しい視点を提供しており、地域社会の理解と支援 の在り方を考えるうえで重要な示唆を与えています。
Case studies on the evolution and challenges in ASD diagnosis
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の診断がいかに難しく、時に変化し得るものであるかを、2つの具体的なケースを通して明らかにしたものです。
🔍 研究の概要
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ケース1:2歳でASDと診断された男児
→ 9歳で再評価したところ、ASDの診断基準を満たさなくなっていた
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ケース2:4歳でASDの診断を受けなかった女児
→ 8歳の再評価で、ASDの診断基準を満たすようになった
両ケースとも、「一度の診断で確定」とは言い切れない現実を示しています。
📊 示唆された主な要因
- 症状の現れ方や強さが年齢とともに変化する
- 性別による表れ方の違い(特に女性は見逃されやすい)
- 診断基準や評価ツールの変化
- 介入や支援による症状の緩和
✅ 結論と意義
- ASDの診断は一回きりではなく、継続的な評価が重要
- 経験豊富な臨床家と信頼性の高い診断ツールが不可欠
- 診断が変化する可能性もあることを踏まえ、柔軟かつ個別に対応する姿勢が求められる
この論文は、**「ASDの診断は一度で終わるものではなく、成長とともに再評価が必要」**という重要な教訓を伝えており、家庭・教育・医療すべての支援者にとって参考となるケーススタディです。
Syntax comprehension in Persian-speaking students with ADHD - BMC Psychiatry
この研究は、注意欠如・多動症(ADHD)を持つ7〜10歳のペルシャ語話者の子どもたちが、どれほど文法(統語)理解に困難を抱えているかを明らかにしたものです。
🔍 研究の概要
- 対象:ADHDと診断された子ども70人と、定型発達の子ども70人(計140人)
- 評価方法:**ペルシャ語文法理解テスト(PSCT)**を用い、文法構造の複雑さに応じた理解力を測定
📊 主な結果
- すべての難易度において、ADHD児は定型発達児より成績が有意に低かった(p < 0.001)
- 最も差が大きかったのは、複雑な文法構造の理解力
- 標準化平均差(SMD)= 0.72と中程度〜大きな効果量
- 全体の58%の設問で、定型発達の子どもの方が有意に高得点だった
✅ 結論と意義
- ADHDの子どもたちは、特に複雑な文法理解で困難を示す
- 学習支援の現場では、文法処理の難しさを前提にした教材設計や個別サポートが必要
- ADHDの特性が、単なる注意の問題だけでなく、言語処理の深い側面にも影響することを示す貴重なエビデンス
この研究は、ADHD支援において「言語理解力」にも目を向けるべきことを示しており、特に教育現場での配慮や教材設計に役立つ知見を提供しています。
Self-reported symptoms of attention deficit hyperactivity disorder (ADHD), autism spectrum disorder (ASD), and affective lability in discriminating adult ADHD, ASD and their co-occurrence - BMC Psychiatry
この研究は、大人のADHD(注意欠如・多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)、およびその併存(ADHD+ASD)を自己申告式の質問票を用いてどう区別できるかを明らかにしたものです。
🔍 背景と目的
ADHDとASDは共通する特徴も多く、特に両方の特徴を持つ人(併存ケース)では診断が難しいことがあります。また、感情の不安定さ(情動変動性)は多くの精神疾患で見られるものの、ADHDやASDとの関連性については十分に研究されていません。本研究では、ADHD・ASD・併存の各診断群を、自己申告による症状評価でどう見分けられるかを検証しました。