共同注意を評価するVR×視線追跡技術の応用
本記事では、自閉スペクトラム症(ASD)や発達障害に関連する最新の学術研究を紹介しており、共同注意を評価するVR×視線追跡技術の応用、ASDの重症度と血中アミノ酸の関連性、免疫細胞による神経シナプスの除去能力の低下、模倣能力と社会的コミュニケーションの関係、低中所得国における早産児の発達障害リスク、精神保健サービスにおける支援者の課題、ASD児の脳内ネットワークの機能的結合の乱れ、中高年における自閉傾向と社会的孤立のメカニズム、保護者主導による逸走行動への行動療法、ADHDと地中海食の関連性、トルコ語版行動チェックリストの信頼性など、多角的な視点から発達支援や医療・教育現場に示唆を与える研究成果が紹介されています。
学術研究関連アップデート
Investigating joint attention in children with autism spectrum disorder through virtual reality and eye-tracking: a comparative study
この研究は、自閉スペクトラム症 (ASD)のある子どもたちの「共同注意(joint attention)」の力を、VR(バーチャルリアリティ)と視線追跡(アイ・トラッキング)技術を使って客観的に調べたものです。
🔍 そもそも「共同注意」とは?
「共同注意」とは、誰かと同じ物や出来事に注意を向ける力のことで、たとえば「相手が見ているものを一緒に見る」などがそれにあたります。これは、人とのコミュニケーションや社会性の土台となる非常に重要なスキルですが、ASDのある子どもにはこの力に困難があることが知られています。
🧪 研究の方法
- 参加者:ASDのある子どもと、定型発達(TD)の子ども
- 方法:VR環境の中で、視線の動きをアイ・トラッキングで記録し、
- 「社会的な刺激(人の動作など)」のみを使った場面
- 「社会的+非社会的な刺激(例えば物の動きや音など)」を使った場面 の両方で、子どもたちの共同注意の反応を比較
📊 主な結果
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ASDの子どもは、「社会的な刺激だけ」の状況では、環境に強く影響され、共同注意の反応が安定しなかった
一方で、TDの子どもは環境の変化に左右されず安定した反応を示した。
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「社会的+非社会的な刺激」を加えると、両グループとも共同注意のスコアが向上
→ 特に、TDの子どもはこの複合刺激に対して非常に効果的に反応した。
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ASDの子どもは、非社会的な刺激を加えることで、TDの子どものレベルに近づく反応を見せた
✅ わかりやすくまとめると
✔ ASDの子どもにとって、人だけが登場する状況よりも、物の動きなども加えた状況のほうが、共同注意の力を発揮しやすいことがわかりました。
✔ VRとアイ・トラッキングを使えば、目に見える行動だけではわからない注意の向け方を客観的に評価できるという新しい可能性も示されました。
✔ 今後の支援では、「人だけに注目させる」よりも、「人+物」のような多様な刺激を活用した環境づくりが、ASDの子どもの社会性を育てる鍵になるかもしれません。
📝 一言まとめ
VRと視線追跡技術を活用した本研究は、ASDのある子どもがよ り自然に共同注意を発揮できる環境づくりのヒントを示し、今後の支援や介入法の開発に役立つ重要な知見を提供しています。
Associations between amino acid levels and autism spectrum disorder severity - BMC Psychiatry
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の重症度と血中アミノ酸濃度との関連性を調べたもので、一部のアミノ酸がASDの重さと関係している可能性があることを示しています。
🔍 研究の背景と目的
- アミノ酸は、神経伝達物質の合成や脳の発達に不可欠な物質です。
- 過去の研究で、ASDのある人にはアミノ酸代謝の異常があるという報告がいくつかありました。
- この研究では、ASDのある子ども344人の血液中のアミノ酸濃度を分析し、症状の重さとの関係を統計的に検証しています。
🧪 方法
- 対象:ASDと診断された344人の子ども(空腹時に採血)
- 測定方法:**LC-MS/MS(液体クロマトグラフィー+質量分析)**で高精度にアミノ酸を測定
- 分析:
- ロジスティック回帰分析で重症度との関連を評価
- ROC曲線などを使い、診断モデルの精度も検証
📊 主な結果
- 以下のアミノ酸はASDの重症度と正の相関(濃度が高いほど重症):
- アスパラギン酸(aspartic acid)
- グルタミン酸(glutamic acid)
- フェニルアラニン(phenylalanine)
- ロイシン/イソロイシン(leucine/isoleucine)
- 一方、以下のアミノ酸は負の相関(濃度が低いほど重症):
- トリプトファン(tryptophan)
- バリン(valine)
- モデルの予測精度(AUC)は 0.806 と高く、実用性がある可能性
✅ わかりやすくまとめると
✔ 血液中の特定のアミノ酸濃度が、自閉スペクトラム症の重症度と関係していることがわかってきた。
✔ 特に、**アスパラギン酸やグルタミン酸など「興奮性神経伝達物質の原料になるアミノ酸」**が高いと、症状が重い傾向にある。
✔ 一方、トリプトファン(セロトニンの原料)などが少ないと重症度が高いことも示唆された。
✔ 今後の研究でさらに検証が進めば、血液検査によってASDの重症度を評価したり、個別の栄養・治療方針に役立てたりできる可能性がある。
📝 一言まとめ
ASDの重症度と血中アミノ酸濃度との関連性を示したこの研究は、今後の診断補助や個別支援に役立つ“バイオマーカー”の可能性を切り開くものとして注目されます。
Impaired synaptosome phagocytosis in macrophages of individuals with autism spectrum disorder
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある人における免疫細胞(マクロファージ)の「シナプス掃除能力(貪食能)」が低下していることを明らかにしたものです。これは、脳内の神経回路の異常や発達の問題と関係している可能性があり、ASDの新たなメカニズムを示唆する重要な発見です。
🔍 研究の背景と目的
- ASDのある人では、シナプス(神経細胞同士の接続部)の数や形に異常があるとされており、これが症状と関係していると考えられています。
- 通常、脳の免疫細胞「ミクログリア」が不要なシナプスを除去(貪食)する役割を持ちますが、ASDではこの働きがうまくいっていない可能性があります。
- 本研究では、直接ヒトのミクログリアを使うのが難しいため、血液から得られるマクロファージ(免疫細胞)を使って、同様の「シナプス貪食能力」を調べました。
🧪 方法
- ASDのある人と定型発達の人の血液から単球を取り出し、マクロファージに変化させる
- *2種類のマクロファージ(M1型とM2型)**を作成:
- GM-CSFで誘導したもの(M1型)→ 炎症型
- M-CSFで誘導したもの(M2型)→ 修復・掃除型
- *iPS細胞由来のヒト神経細胞から作られた「シナプトソーム(シナプス片)」**を使って、貪食能力を測定
- CD209という細胞表面マーカーとの関連も評価