ASDのある成人やASDのある子どもを育てる保護者の語りを通じて、幼少期の感覚体験を調査した研究
このまとめ記事では、発達障害や関連分野に関する最新の研究成果を紹介しています。具体的には、自閉スペクトラム症(ASD)のあるラテン系家族が成人向け障害サービスを利用する際の課題、知的・発達障害者における障害受容とストレスの関係、ASD児や成人の幼少期の感覚体験、診断基準に満たないサブスレッショルドASD・ADHDへの対応、ASD診断を待つ若者のメンタルヘルス、ADHD児における身体活動のばらつきと症状の関連、ASDにおける腸内細菌叢の変化、ディスレクシア大学生における運動・バランス問題など、幅広いテーマが取り上げられています。いずれも、従来見落とされがちだった側面に光を当て、支援や介入の重要性を訴える内容となっています。
学術研究関連アップデート
Navigating Adult Disability Services by Latino Families of Youth with Autism
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある若者を育てるラテン系家族が、成人向け障害サービスを利用する際に直面している特有の課題を明らかにしたものです。
🔍 研究の背景
- ラテン系家族は、一般の家族と比べて障害者向けサービスへのアクセスに困難を感じやすい。
- その理由には、
-
スペイン語での情報不足
-
差別や偏見の存在
が含まれています。
-
- こうした障壁を理解し、**知識・スキル・自信・自己効力感(エンパワメント)**を高める支援が求められています。
🧪 研究方法
- 対象:ラテン系の保護者45人(主に母親)
- 方法:12週間の支援者育成プログラム参加前にアンケートを実施
- 調査内容:
- 成人向け障害サービスに関する知識
- 支援を求めるスキルと自信(アドボカシースキル)
- エンパワメント(自己効力感)の感覚
📊 主な結果
-
*サービスに関する支援要請の自信(コンフォート)**が高い人ほど、エンパワメント感覚も高かった。
-
英語力が高いほど、アドボカシースキルと自信も高かった。
-
「家族内でのエンパワメント」(例:家庭内での支 援や自信)は強かったが、
「システム内のエンパワメント」(例:地域・行政機関への働きかけ)では弱さが見られた。
✅ 結論と意義
- ラテン系家族が直面する課題は、言語の壁やシステムへの働きかけに対する自信不足にある。
- これらを解決するためには、文化に配慮した支援プログラムや、スペイン語対応リソースの整備が不可欠。
- 特に、家族の強みを生かしながら、地域社会や制度にアクセスできる力を高める支援が重要だと示されました。
🔸要するに:
ラテン系家族は家庭内では強い力を持っているが、英語の壁や制度の複雑さで苦労している。だからこそ、文化に合わせた支援策と、地域社会への橋渡しをサポートする仕組みが必要だということを教えてくれる研究です。
Longitudinal analysis of disability acceptance and disability-related stress in people with intellectual and developmental disabilities
この研究は、知的障害や発達障害のある韓国の成人を対象に、**「障害を受け入れる気持ち(ディスアビリティ・アクセプタンス)」と「障害に関連するストレス」の関係を長期的に(2016〜2022年)**調べたものです。
🔍 研究の背景
- 知的・発達障害のある人は、日常生活で多くの困難に直面し、強いストレスを感じやすい。
- 自分自身の障害を受け入れること(disability acceptance)ができると、生活の質(QOL)が向上し、ストレスも軽減する可能性が指摘されてきました。
- これまで長期的にこの関係を調べた研究は少なかったため、今回の研究が行われました。
🧪 研究方法
- データ:**障害者雇用パネル調査(PSED)**に登録された、知的障害を自己申告した3,077人のデータを使用
- 分析手法:GEE(一般化推定方程式)分析という、時間の経過を考慮した統計手法で関係性を検証
📊 主な結果
- 障害を受け入れる気持ちが高い人ほど、障害に関連するストレスが低いことがわかった。
- これは時間がたっても一貫して見られた傾向であり、短期的なものではなかった。
✅ 結論と意義
- 障害を受け入れる力を育てる支援(教育・プログラム)が非常に重要だということが確認された。
- 具体的には、
-
障害受容を促す教育プログラムやガイドラインの開発
-
心理的・情緒的な健康を高めるための介入
が、より多くの知的・発達障害者の生活の質向上につながると示唆されています。
-
🔸要するに:
「障害を受け入れる気持ち」が強いほど、ストレスも少なくなる。
だから、自己受容を育てる支援が、心の健康にとってとても大事だということが、長期データを使って裏付けられた研究です。
'We're quite good at thinking outside the box: Early autistic sensory experiences expressed by autistic adults and caregivers of autistic children
“We’re quite good at thinking outside the box” ― 自閉スペクトラム症(ASD)のある人の幼少期の感覚体験に関する研究 ―
🔍 研究の背景と目的
これまで、自閉スペクトラム症(ASD)のある人が持つ感覚の違いは多く報告されてきましたが、特に「幼少期」における感覚体験について、本人たちの視点から詳しく調べた研究はほとんどありませんでした。本研究は、ASDのある成人やASDのある子どもを育てる保護者の語りを通じて、幼少期の感覚体験を深く理解することを目的としています。
🧪 方法
研究チームは、建設主義的アプローチに基づく質的記述デザインを採用しました。対象者は以下の通りです。
- ASDのある成人3名
- ASDのある子どもの保護者12名(うち一部は自身もASD診断あり)
これ らの対象者に対してフォーカスグループ形式のインタビューを行い、得られたデータをリフレクティブ・テーマティック分析(主観的解釈を重視する手法)によって分析しました。
📚 主な結果
分析から、幼少期の感覚体験を表す5つのテーマが抽出されました。
-
感覚の好みは非常に個別的であることの認識
それぞれ異なる感覚の好みや反応があり、十人十色であることが強調されました。
-
感覚刺激による日常生活への影響
音や触覚などに対する過敏さ・鈍感さが、生活において大きなストレスや困難を引き起こしていました。
-
「他者と違う」という感覚と帰属意識の追求
幼少期から「自分は周囲と違う」という感覚を持ち、孤独感を感じたり、受け入れられたいと願う気持ちが生まれていました。
-
日常生活を送るために感覚環境を自ら調整する工夫
苦手な感覚刺激を避けたり、安心できる環境を自分で作ろうとする行動が見られました。
-
感覚的な困難を乗り越えていく力
本人や家族が試行錯誤しながら、困難な環境にも少しずつ適応していく様子が描かれました。
✅ 結論と意義
本研究は、ASDのある子どもを支援するうえで、それぞれの子どもが持つ感覚特性を尊重することの重要性を改めて示しています。また、保護者たちが柔軟に環境を調整しながら子どもを支援している様子も明らかになりました。研究者や支援者にとって、個々の感覚体験の違いを理解し、オーダーメイドの支援を心がけることが、より良い支援に不可欠であるというメッセージが得られたといえます。
Subthreshold Autism and ADHD: A Brief Narrative Review for Frontline Clinicians
背景
自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)といった神経発達症(NDD)は、正式に診断されるよりも、実際にはより多くの子どもたちに存在していることが疫学研究から示されています。つまり、多くの子どもや若者が、臨床的診断には至らないものの、日常生活の一部に支障をきたす「サブスレッショルド(閾値下)」な状態を抱えている可能性があります。このレビューでは、ASDおよびADHDにおけるサブスレッショルド状態に関する既存文献を整理し、現場の臨床家にとって役立つ知見を引き出すことを目的としています。
方法
- 検索対象:PubMedやPMCなどの電子データベース
- 使用キーワード例:「Subthreshold」「Subclinical」「Neurodevelopmental」「Childhood」「ADHD」「ASD」
- ナラティブレビュー形式で、テーマごとに文献を整理・分析
主な結果
レビューによって明らかになった重要なテーマは以下の通りです。
-
定義
「サブスレッショルド」とは、診断基準は満たさないが、機能障害が持続的に存在する状態を指します。
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有病率
臨床診断されるよりも、潜在的にサブスレッショルドな状態の子どもは多く存在します。
-
評価ツール
サブスレッショルド状態を捉えるには、既存の診断ツールだけでなく、より繊細なスクリーニングや観察が必要とされます。
-
生涯にわたる影響
正式な診断を受けていない場合でも、教育、対人関係、心理的健康などに長期的な悪影響が及ぶ可能性があります。
-
NDDの分類モデル
従来の「診断あり/なし」という二分法に加え、連続的なスペクトラムモデルで理解する重要性が強調されました。
-
支援と管 理
サブスレッショルドの子どもにも支援が必要であり、個別ニーズに応じた柔軟な介入が求められます。
-
啓発活動
学校や地域社会において、サブスレッショルド状態の理解を広めることが重要です。
-
今後の研究課題
より正確な定義付けと評価方法の開発、支援モデルの検討が課題とされています。
結論
著者らは、診断基準を満たさなくても、1つ以上の環境(学校、家庭など)で明らかな持続的な機能障害がある場合には「サブスレッショルド状態」として記録すべきだと提案しています。この視点により、診断に至らない子どもたちへの早期支援が可能になり、二次的な困難の防止にもつながると期待されています。
Brief Report: Mental Health and Wellbeing Across the Autism Assessment Experience
背景
近年、不安 やうつなどのメンタルヘルスの問題をきっかけに、自閉スペクトラム症(ASD)の評価を受ける若者が増えているという傾向があります。しかし、ASDの診断過程を通じてメンタルヘルスがどのように変化するのかについては、これまで十分に調査されていませんでした。本研究は、初めて診断待機中から診断後までを追跡した縦断的調査を行い、この課題に取り組みました。
方法
- 対象者:27名の若者とその親/養育者
- 調査タイミング:
- 診断待機中
- 診断時
- 診断結果受領後3か月
- 測定内容:
- メンタルヘルス(不安、うつなど)
- ウェルビーイング(幸福感)
- 生活の質(QOL)
主な結果
- 多くの若者が、臨床的に重大なメンタルヘルス問題を抱えていた。
- 若者自身は、親よりも深刻な症状を訴える傾向があった一方で、親は影響度(生活への支障)をより強く感じていた。
- メンタルヘルスの症状が悪化すると、生活の質も低下していた。
- 重要な点として、診断待機や診断自体が若者のメンタルヘルスを悪化させる証拠は見られなかった。
結論
若者たちは、ASDの診断を受ける前から、すでに多様で持続的なメンタルヘルスの問題を抱えていることが明らかになりました。そのため、ASDの評価時には、包括的なメンタルヘルスのアセスメントが不可欠です。また、「診断待ちがストレスになってメンタルヘルスが悪化するのでは」という懸念で診断を遅らせる必要はないことも示されました。
The Importance of Physical Activity Variability and Its Relation with Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder Symptoms in Young Children
背景
ADHD(注意欠如・多動症)の症状を把握するためには、これまで主に親や教師による評価(主観的評価)が使われてきました。しかし、客観的な行動指標、特に身体活動の測定が、ADHD症状のより細かな理解に役立つ可能性が注目されています。本研究では、**身体活動量(どれだけ動いたか)と身体活動のばらつき(動き方の変動)**が、ADHD症状とどのように関連しているかを検討しました。
方法
- 対象:6〜8歳の小学生176人(平均年齢6.83歳、53%が男児)
- 実施内容:
- 学校前プログラム(運動または座学活動)への参加
- 介入期間中、**加速度計(体に装着する小型センサー)**で身体活動を記録
- 介入後、教師がADHD症状(多動・衝動性、不注意)を評価
- 分析:身体活動量と身体活動のばらつきがADHD症状に与える影響を多変量回帰モデルで検証
主な結果
- 身体活動量が多い子どもほど、多動・衝動性の症状が強い傾向が見られた。
- 一方で、身体活動のばらつきが大きい子どもほど、多動・衝動性および不注意の症状が少なかった。
- 身体活動量とばらつきを同時に考慮した場合、身体活動のばらつきだけがADHD症状の有意な予測因子となった。
- ばらつきが大きい=より柔軟に動ける子どもは、ADHD症状が少ないという結果。