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過去30年間におけるADHDとASDに関する動物モデル研究の動向

· 52 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本ブログ記事では、発達障害(特にASDやADHD)に関連する最新の学術研究を幅広く紹介しており、問題的インターネット使用や感情調整、医療アクセス支援、社会的第一印象の偏見、動機づけ評価ツールの開発、脳機能異常の可視化、抗精神病薬の多剤処方の実態把握など、多面的なテーマが取り上げられています。いずれの研究も、発達障害当事者の生活の質を向上させるための支援や理解、個別化された介入法の重要性を示しており、科学的根拠に基づいた福祉・教育・医療の今後の実践や政策形成に貴重な示唆を与える内容となっています。

学術研究関連アップデート

Caught in the Web of the Net? Part I: Meta-analyses of Problematic Internet Use and Social Media Use in (Young) People with Autism Spectrum Disorder

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある若者や子どもたちが、インターネットやソーシャルメディアをどのように使っているか、そしてそれが問題行動(依存や過剰使用など)とどう関係しているかを明らかにするために行われた**2つのメタ分析(過去研究のまとめ分析)**を報告したものです。


🔍 主な発見

  1. ASDのある人は「問題的インターネット使用(PIU)」の傾向が高い
    • 対象:46の研究、42,274人
    • 問題的使用には、ネット依存、ゲームのやりすぎ、スマホの過剰使用などが含まれる
    • 平均効果量:r = 0.26(中程度の関連)
  2. ASDのある人は、ソーシャルメディア(SNS)での活動が少ない傾向
    • 対象:15の研究、7036人
    • 友達とのやり取りや投稿など、SNS上での交流の頻度が低い
    • 平均効果量:r = -0.28(中程度の逆相関)

💡 補足と意義

  • ASDの人はネットやデジタル環境に親和性がある一方で、使い方に偏りが出やすく、問題化しやすいことが示されました。
  • SNSでの交流が少ない理由としては、対人コミュニケーションの難しさやストレス、構造化されていない会話の苦手さなどが影響している可能性があります。
  • 今後は、インターネットの利点を活かしつつ、使いすぎや孤立を防ぐための支援が求められると著者たちは述べています。

✅ まとめ

この研究は、ASDのある若者はインターネットを使いすぎる傾向がある一方、SNSでは孤立しやすいという二面性を明らかにしており、デジタル時代の発達支援において重要な知見を提供しています。

Leveraging Feedback From Autistic Adults to Develop an App to Access Healthcare Services

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある成人当事者からの意見をもとに、医療サービスへのアクセスを支援するアプリを開発するための研究です。ASDのある人は、持病が多く、医療へのアクセスにおいてさまざまな不平等(診察の受けにくさ、配慮の欠如など)に直面しやすいことが知られています。


🔍 研究の内容

  • 15人のASD当事者にインタビューし、「どんな医療アプリがあれば役立つか?」を聞き取りました。
  • 特に重視されたのは、「ASD当事者向けに特化したアプリ」の必要性と具体的な機能です。

💡 参加者の意見から導かれた主な機能

  1. 医療情報を一元管理できること
    • 予約、薬の情報、診察記録などがひとつの場所に集約されていると便利。
  2. 医療機関に配慮をお願いする機能
    • 感覚過敏や対話の苦手さに対応できるよう、自分のニーズを事前に伝えるツールがほしい。
  3. 役立つリソースへのアクセス
    • 信頼できる医療機関、支援団体、手続きの情報などにすぐアクセスできる機能。
  4. カスタマイズ可能なフィルター
    • 「静かな待合室があるか」「事前に質問リストを送れるか」など、自分に合った医療機関を探しやすくする条件設定

✅ 結論と意義

この研究は、ASD当事者の声を反映した医療支援アプリの開発が重要であることを明らかにしたものです。ただ情報を提供するだけでなく、個々の特性に寄り添った機能を持つアプリが、医療アクセスの格差を減らす鍵になると示唆されています。


🔸要するに:自閉症のある人たちが「本当に使いやすい」と感じる医療アプリを作るには、当事者の声を聞くことが不可欠。この研究は、その第一歩として非常に意義深い内容です。

Dialectical behavior therapy in autistic adults: effects on ecological subjective and physiological measures of emotion dysregulation - Borderline Personality Disorder and Emotion Dysregulation

この論文は、感情のコントロールが苦手な自閉スペクトラム症(ASD)の成人に対して、弁証法的行動療法(DBT)がどのような効果を持つかを、リアルタイムでの主観的評価と生理的データの両方から検証した研究です。


🔍 研究の背景

  • 自閉スペクトラム症のある成人の中には、強い感情の波や感情表現の困難(=情動調整の困難、ED)を抱える人が多くいます。
  • DBT(弁証法的行動療法)は、元々境界性パーソナリティ障害などの治療で効果が実証されている感情調整に特化した心理療法ですが、ASD当事者への効果をリアルタイムで検証した研究はこれまでありませんでした

🧪 研究の方法

  • 26人のASDのある成人が、5か月間のDBTプログラムを受けました。
  • 効果を測定するために、以下の2つの方法を使用:
    1. Ecological Momentary Assessment(EMA):スマホで1日12回×7日間、リアルタイムで「今の気持ち」「どんな感情か」「感情をコントロールできているか」などを記録。
    2. 生理的モニタリング:腕時計型センサーで、心拍数(HR)、心拍変動(HRV)、皮膚電気反応(SCL)を連続測定。

📊 主な結果

  • ネガティブな感情や感情の混乱自体は大きく減らなかったものの、以下のようなポジティブな変化が見られました:
    • 自分の感情に気づけるようになった(感情認識の向上)
    • ポジティブな感情が増えた
    • 感情のコントロールがうまくなった
  • 生理的なデータでは大きな変化は見られませんでしたが、感情的な高まりと心拍変動(HRV)が連動していることが確認されました。

✅ 結論と意義

  • DBTは、ASDのある成人の感情調整スキルを改善するうえで有効であり、リアルタイムかつ客観的なデータ(EMAやセンサー)で効果を可視化できたのは大きな成果。
  • 今後は、無作為化比較試験(RCT)でこの手法を用い、より信頼性の高い検証が求められるとしています。

🔸要するに:この研究は、「感情の波がつらいASDのある人たちにDBTが有効である可能性が高い」ことを、スマホアプリと生体センサーを使ったリアルタイムデータで証明した初の試みです。感情の可視化とコントロール支援に向けた、実用的な示唆を多く含んでいます。

A Review of Behavior-Analytic Articles that Cite a Source of Misinformation about ABA

この論文は、応用行動分析(ABA)に関する誤情報が学術的にどのように扱われているかを調査したものです。特に注目しているのは、ABAが自閉スペクトラム症(ASD)の人にトラウマを与えると主張したKupferstein(2018年)の論文が、ABA専門の学術誌でどのように引用されているかです。


🔍 背景

  • ワクチンと自閉症の関連を示唆したウェイクフィールドの1998年の論文は、後に誤りとされ撤回されましたが、社会に大きな悪影響を与えました。
  • 同様に、ABAがトラウマを引き起こすというKupferstein(2018)の論文も、科学的根拠が不十分なまま一部で広まり、誤解を招いていると筆者らは指摘しています。

🧪 研究の目的と方法

  • Kupferstein(2018)の論文が、ABA専門の学術誌でどのように引用・扱われているかを調査。
  • 対象となる論文を分類し、次の3つの視点から引用のされ方をコード化しました:
    1. 誤情報の例として紹介
    2. ABAへの批判だが注意書き(caveat)付き
    3. 注意書きなしでABAへの批判として紹介

📊 主な結果

  • 調査の結果、ABAの専門誌の中ではKupferstein(2018)の論文は、
    • 主に「誤情報の例」として引用されている
    • ただし一部では、批判的文脈で注意書きなく引用されているケースもあり、誤解の拡散リスクがあることが明らかになった。

✅ 結論と意義

  • この論文は、ABAに関する誤情報がいかに学術的にも影響を及ぼしているかを可視化し、正しい情報の重要性を訴えています
  • 特に、学術論文内での引用の仕方が、読者の誤解を助長しないよう配慮する必要があると指摘。
  • 科学的に信頼できる情報と誤情報を明確に区別することが、ABA実践者・研究者にとって極めて重要であるという警鐘を鳴らしています。

🔸要するに:この研究は、「**ABAはトラウマを生む」という根拠不十分な主張が、学術界でどう扱われているかを精査し、科学的正確さと誤解防止の姿勢が求められることを明らかにしたものです。

MIEBL: Measurement of Individualized, Evidence-Based Learning Criteria Designed for Discrete Trial Training

この論文は、**自閉スペクトラム症(ASD)などの子どもへの療育でよく用いられる「離散型試行訓練(DTT)」における到達基準(学習達成の判定基準)を、より正確に決めるためのツール「MIEBL」**を提案したものです。


🔍 背景と目的

  • DTTでは、子どもが特定の課題を**何回正解すれば「習得した」とみなすか(=到達基準)**を決める必要があります。
  • これまでの研究でも基準の設定は議論されてきましたが、個別の学習者特性や確率論に基づいた明確な枠組みはなかったのが現状です。
  • 本研究では、**学習者ごとの違いや学習目標を加味して「根拠ある基準」を算出できるツール(MIEBL)**を開発しました。

🛠 MIEBLの特徴と活用法

  • 個別の評価データや目標習得率をもとに、到達基準を確率的に計算
  • 既存の研究と整合性のある結果を示すことが確認されています。
  • 論文ではツールの使い方チュートリアルとソフトウェアも提供されており、すぐに実践に活用できます。

✅ ツールの活用場面

  • 現場の支援者(実践家)
    • 教え方を続けるか切り替えるかの判断に使える
    • 成果の期待値を把握して戦略を立てやすくなる
  • 研究者
    • 「一見できているように見えるが本当に習得したか?」という観察データの偏りや曖昧さの補正に使える
    • *習得後の維持や応用(汎化)**の評価においても、より客観的な判断が可能になる

📌 結論

この研究は、「“何回できたら教え終えてよいか”を科学的に判断できるツール」を提供することで、DTTにおける教育の精度と信頼性を高め、現場と研究の両方に貢献するものです。


🔸要するに:MIEBLは、DTTの「いつ教え終えるか」の判断を根拠のある数値でサポートしてくれる便利なツールであり、実践者にも研究者にも役立つ現場支援の新しいアプローチです。

Insights into healthcare services for youth with autism spectrum disorder transitioning to adulthood: a focus on rural Atlantic Canada - BMC Health Services Research

この論文は、カナダ東部の農村地域(アトランティックカナダ)に住む自閉スペクトラム症(ASD)の若者が、子ども向け医療から大人向け医療に移行する際に直面する課題を、本人・保護者・支援者の視点から明らかにした質的研究です。


🔍 研究の背景と目的

  • ASDなどの発達障害を持つ人は、医療支援が長期的に必要ですが、**思春期から成人への移行期(transition)**は支援が不十分になりやすい時期。
  • 特に地方・農村部では医療資源が限られており、移行期の支援はさらに困難
  • 本研究では、この移行期に起こる現実的な困難を深掘りし、今後の政策やサービス改善に生かすことを目的としています。

🧪 方法

  • 対象:カナダのアトランティック州の農村地域から26名(ASDの若者16名、保護者6名、支援者4名)をリクルート
  • 手法:半構造化インタビューを実施し、移行時の経験、課題、困りごとについて聞き取り
  • 分析:テーマ別に内容を分類・整理(テーマ分析)

📊 発見された3つの主な課題

  1. 交通手段の確保
    • 医療機関までのアクセスが悪く、通院そのものが困難
  2. 資源の不足
    • 専門医・支援者・プログラムなどの選択肢が少ない
  3. ケアの継続性の欠如
    • 小児期から大人向けの医療にうまく引き継がれず、支援が途切れる

✅ 結論と意義

  • 農村部のASD当事者とその家族は、医療へのアクセスや支援の継続性に大きな困難を抱えている。
  • 現場の声をもとにした政策形成が不可欠であり、移行支援の制度化や遠隔医療などの柔軟な選択肢の整備が今後の課題。

🔸要するに:この研究は、農村地域に住むASDの若者が医療移行期に直面する交通・資源・継続性の課題を明らかにし、今後の公平な医療アクセス実現に向けた重要な知見を提供しています。

Distracted, hyperactive, and thriving: factors supporting everyday functioning in adults with ADHD - BMC Psychiatry

この論文は、ADHD(注意欠如・多動症)を持つ大人たちが、どのような要因によって日常生活でうまく機能し、充実した生活を送ることができるのかを明らかにしようとした研究です。注目すべきは、**「できないこと」ではなく「できていること」に焦点を当てる“強みに基づくアプローチ”**を取っている点です。


🔍 研究の目的と方法

  • 対象:ADHDの診断を受けた19〜80歳の成人64名
  • 調査内容
    • 日常生活の機能(社会性、仕事、性生活など)
    • ADHDやうつ・不安の症状
    • 性格特性(誠実性、外向性など)
    • ソーシャルサポート(人間関係の支援)
    • 対処スキル(ストレスへの対応方法)
    • 幼少期のポジティブな経験(家庭や学校での良い記憶など)

📊 主な発見

  • 誠実さ・外向性の高い人、感情に基づく対処が得意な人、子ども時代に良い経験を多く持つ人は、社会生活や性生活などにおいて高い機能を維持している傾向が見られた。
  • 「仲間意識」や「自己肯定感」を高めるようなソーシャルサポートが多いほど、全体的な生活の質や人間関係の充実度が高かった
  • これらの支援的要因は、ADHDの症状の強さに関係なく効果があることが示された。

✅ 結論と意義

  • ADHDの症状が軽くても重くても、良好な人間関係や支援のある環境があれば、日常生活でうまく機能できる可能性が高い。
  • 「支援は重症者だけのもの」ではなく、すべてのADHD当事者に価値があることを示唆。
  • 今後はこれらの結果を長期的に追跡する研究(縦断研究)で検証する必要がある。

🔸 要するに

この研究は、「ADHDがあっても、良好な人間関係・子どもの頃のポジティブな経験・柔軟な対処スキルがあることで、日常生活をうまく乗り越えて“うまく生きられる”」ことを示しており、支援の焦点を“困りごと”だけでなく“強みやつながり”に置くことの重要性を教えてくれる内容です。

Cerebellar and subcortical interplay in cognitive dysmetria: functional network signatures associate with symptom and trait assessments across schizophrenia, bipolar II, and ADHD patients

この論文は、**統合失調症(SCHZ)・双極性障害II型(BIPOL)・ADHD(注意欠如・多動症)という異なる精神疾患に共通する脳機能の異常を、「コグニティブ・ディスメトリア(認知の不調和)」**という視点から解明しようとしたものです。コグニティブ・ディスメトリアとは、小脳・大脳皮質・皮質下構造(例:海馬、視床、線条体など)が連携して思考や行動を調整する仕組みがうまく働かなくなることを指します。


🧠 研究の概要

  • 使用データ:UCLAのfMRI公開データ(計135人)
    • 健常者:39人
    • 統合失調症:27人
    • 双極性障害II型:38人
    • ADHD:31人
  • 調査対象:脳内の機能的ネットワーク結合(FNC)
    • 特にデフォルトモードネットワークやサリエンスネットワーク、および小脳・皮質下領域の115部位
  • 状況別比較:
    • 安静時(タスクなし)
    • 作業記憶タスク中(タスクあり)

🔍 主な発見

  • 安静時における異常なネットワーク結合(FNC)の分布は、統合失調症とADHDで特に顕著だった。
  • タスク中は、3つの疾患群すべてにおいて異なるパターンの異常が観察された
  • 特に異常が見られた脳領域
    • 小脳
    • 視床
    • 線条体(運動や報酬に関わる)
    • 海馬(記憶)
    • 内側前頭前皮質・前部島皮質(自己や感情の処理)
  • FNCの異常と、特定の症状や性格特性が統計的に関連していたことが明らかに。
    • 例:ADHDの衝動性や双極性障害の気分変動など

✅ 結論と意義

  • 小脳と皮質下構造の連携の乱れが、精神疾患の根底にある“思考の制御の不調和”に関係している可能性が示唆された。
  • 診断名に関係なく、脳内の接続パターンと症状・特性との関連から、より個別化された治療や診断の可能性が広がる。
  • 今後は、こうした脳ネットワークの異常に注目した新たな治療法の開発や臨床応用が期待される。

🔸要するに:この研究は、精神疾患の違いを超えて「脳内のつながりのズレ=コグニティブ・ディスメトリア」が鍵になっていると示し、症状に応じた支援や介入の可能性を脳機能の視点から切り拓く意欲的な取り組みです。

Inequalities of the Waiting Time for Education Health and Care Plan Provision for Pupils With Intellectual Developmental Disabilities: A Brief Report

この論文は、知的・発達障害(IDD)を持つ子どもたちが、イギリスの学校で特別支援を受けるために必要な「教育・保健・ケア計画(EHCP)」を取得するまでの待機時間に、地域や経済状況による不平等が存在することを明らかにした研究です。


🔍 研究の背景

  • EHCPは、障害を持つ児童・生徒が学校で必要な支援を受けるための重要な法的文書
  • 適切な時期にEHCPが提供されないと、学習機会や心身の発達に悪影響が生じます。
  • しかし、待機期間の長さに地域差や社会的格差があるのではないかという問題意識がありました。

🧪 研究の方法

  • 対象:遺伝的な要因に基づくIDDを持つイギリスの6〜28歳の子どもと若者2131人
  • 使用データ:
    • National Pupil Database(全国学力データベース)
    • 家庭の経済的困窮度(IMDスコア)
    • 無料給食の利用状況
    • 人種・性別・居住地域
    • EHCP申請から取得までの待機期間
  • 分析:線形回帰モデルにより、上記の要因が待機期間にどのように関係するかを統計的に解析

📊 主な結果

  • 貧困地域に住む子どもほど、EHCPを取得するまでに長く待たされる傾向がある。
  • 性別や人種による差は見られなかった
  • ロンドンに住む子どもたちは、他の地域よりも早くEHCPを受け取っていた
  • SENの分類(学習障害か、行動面の問題かなど)に関係なく、経済的に厳しい地域ほど待機が長引く傾向は一貫していた。

✅ 結論と意義

  • イギリス全体で、EHCP提供のスピードに地域格差と経済的格差が存在する。
  • 特に、教育予算やリソースの地域間の差が根本的な原因である可能性が高い。
  • 今後は、公平な教育支援が行き届くよう、政策的な対応と地域間の資源配分の見直しが必要だと示唆されています。

🔸要するに:「EHCPの取得には“運”や“住んでいる場所”が関係している。最も支援が必要な子どもたちが最も待たされることがあってはならない」というメッセージを、実証データに基づいて明らかにした社会的に重要な研究です。

First Impressions Towards Autistic People: A Systematic Review and Meta-Analysis

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)の人に対して、人々が初対面で抱く印象(ファーストインプレッション)が、非自閉の人と比べて否定的になりやすいという傾向をまとめた**システマティックレビューとメタアナリシス(統合解析)**です。


🔍 研究の目的と方法

  • これまでの研究21本を対象に、「自閉の人」と「非自閉の人」に対する第一印象を比較
  • 第一印象の測定には、次のような多様な刺激形式が使われていました:
    • 音声のみ
    • 映像のみ
    • 音声+映像
    • 静止画像
    • 文章(発言内容の文字起こし)

📊 主な結果

  • 映像・音声・画像を使ったすべての形式において、自閉の人は非自閉の人より好まれにくい印象を与えていた
  • ただし、発言内容だけ(文章)の場合は、その差は見られなかった
  • 特に差が大きかった印象評価の項目は:
    • 対人魅力(親しみやすさ、付き合いたいかどうか)
    • 社会的な振る舞いやコミュニケーションの様子
  • 一方、性格や心理的特徴の印象にはそこまで大きな差はなかった。
  • また、観察者(見る側)の特性によって印象は変わりうることも示された:
    • 自閉症への知識が豊富
    • 自閉の人とよい関係を持った経験がある
    こうした人は、より公平な印象を持つ傾向がある。

✅ 結論と意義

  • 「最初の印象」が自閉の人に不利に働く現実が統計的に裏付けられた。
  • これは、その後の人間関係や社会的経験にまで影響を与えかねず、自閉の人の孤立や心理的苦痛の一因にもなり得る
  • よって、
    • メディアや教育での「見せ方」
    • 観察者側の知識・態度の改善
    などが、偏見の解消とインクルーシブな社会の実現に向けて重要だとされています。

🔸要するに:「見た目や話し方だけで“なんとなく”自閉の人がネガティブに見られてしまう」傾向があり、それが人間関係や社会参加に影響するかもしれない。だからこそ、私たちの“第一印象”の持ち方そのものを見直す必要がある──ということを、多くの研究の統合結果として明らかにした論文です。

The moderating role of co-occurring attention-deficit hyperactivity disorder in social skills group training for autistic children and adolescents

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもや青年が社会的スキルを学ぶ「グループトレーニング(KONTAKT™)」の効果に、ADHD(注意欠如・多動症)の併存がどのように影響するかを検証したものです。対象は7〜18歳のASDのある子ども241人で、効果は親の評価(Social Responsiveness Scale)をもとに測定されました。


🔍 主な発見

  • ASDのみの子どもや青年(ADHDを併発していない)は、このグループトレーニングで大きな改善効果が確認されました。
    • 信頼できる改善(25点以上の変化):改善する可能性が約12倍
    • 臨床的に意味のある改善(10点以上の変化):約10倍
  • 一方で、ASD+ADHDを併発しているグループでは、全体としては明確な効果が見られませんでした
  • ただし、年齢別に見ると、思春期の青年(13〜18歳)では一部改善が見られた可能性がある一方で、小児期(7〜12歳)ではほとんど効果がなかったという結果に。

✅ 結論と意義

  • ASDだけの子ども・青年にはKONTAKT™が有効だが、ADHDを併発していると特に小児期には効果が薄い可能性がある。
  • よって、ASD+ADHDの子どもには、別の支援法や補完的な方法が必要であることが示唆されました。

🔸要するに:社会的スキルのトレーニングは、ASDの子どもたちにとって有益な手段ですが、ADHDも併せ持つ場合には、その効果が限定的であり、特に小学生年代の子どもには別の工夫が必要だとわかる研究です。より個別化された支援の重要性が浮き彫りになりました。

Development and Further Content Validation of the Motivation Assessment Tool for Physical Activity (MATPA) Among Children with Autism Spectrum Disorder

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある6〜17歳の子どもが学校外で身体活動に対してどれだけ意欲を持っているかを測るための評価ツール「MAT-PA(Motivation Assessment Tool for Physical Activity)」の開発と内容の妥当性の検証を行ったものです。


🔍 研究のポイント

  • MAT-PAは、ASDのある子どもの身体活動への動機づけを理解するために初めて開発されたツール
  • 開発段階では、**3つのバージョン(0.1~0.3)**が子どもたちへのインタビューを通じてテストされ、内容や質問文が繰り返し改善されました。
  • 20人のASDの子どもたちがツールの内容確認に参加し、そのうち12人は全体のインタビューに回答できました。
  • 子どもたちの**言語能力(表出と言語理解)の目安として、Vineland適応行動尺度(VABS-2)**を使用。
    • その結果、MAT-PAは受容的言語能力が3歳相当、表出的言語能力が6歳相当の子どもから使用可能と判断されました。

✅ 結論と意義

  • MAT-PAはASDのある子ども向けに設計された初の身体活動動機づけ評価ツールであり、内容の妥当性が確認された
  • 今後は、信頼性の向上や、異なる環境への応用、テクノロジーとの連携によるスケーラビリティの強化が求められます。

🔸要するに:この研究は、ASDのある子どもが身体活動にどれだけ意欲的かを把握するための新しいツールを開発し、その使いやすさや子どもからのフィードバックを通じて「使える内容かどうか」を確認した初期段階の成果を示したものです。今後の実用化と応用が期待されます。

Frontiers | Three decades of neuroscience research using animal models of ADHD and ASD: a bibliometric analysis

この論文は、過去30年間(1990〜2023年)におけるADHD(注意欠如・多動症)とASD(自閉スペクトラム症)に関する動物モデル研究の動向を、網羅的かつ統計的に分析したビブリオメトリック(文献計量学)研究です。


🔍 研究の背景と目的

  • ADHDとASDは、生活に大きな影響を与える発達神経疾患で、研究が急速に進んでいます。
  • これらの疾患の理解と治療法の開発には、マウスやラットなどの動物モデルが不可欠です。
  • 著者らは、こうした研究が**どのような動物を使い、どの国・機関が主導しているのか、研究の傾向や影響力(被引用数など)**を調査しました。

📊 主な結果

  • 分析対象となったのは、Web of Scienceから抽出された10,844件の論文のうち、5,883件を精査
  • 主に使われていた動物モデルは:
    • マウスとラット(主要モデル)
    • 2000年代以降は、**ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエ(Drosophila)、線虫(C. elegans)**の利用が増加。
  • 最も多く研究を発表していた国は:
    1. アメリカ(3,059件)
    2. 中国(487件)
    3. イギリス(459件)
    4. 日本(440件)
    5. ドイツ(413件)
  • 主要な研究資金提供元は:
    • 米国国立衛生研究所(NIH)
    • 国立精神衛生研究所(NIMH)
    • 日本の文部科学省(MEXT)
  • アフリカやオセアニアでは論文数は少ないが、ガーナやポルトガルなど一部の国では近年、研究関心が高まっている

✅ 結論と意義

この研究は、世界規模でのADHD・ASD動物研究の広がりと変化を明らかにし、国際的な協力の重要性を強調しています。また、研究の地域格差や新興国での関心の高まりを捉えた点でも意義があり、今後の国際連携や資金配分のあり方を考えるうえで貴重な資料となります。


🔸要するに:この論文は、「ADHDやASDの動物モデル研究がどのように発展し、どの国・動物・資金源が関わってきたのか」を俯瞰的に整理し、今後の研究戦略のヒントを与える内容です。

Frontiers | Assessment of feasibility of actigraphy as a measure of clinical change in response to an experimental interventional treatment in adolescents and adults with autism spectrum disorder

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある青年および成人に対する実験的治療の効果を評価する手段として、「アクチグラフィ(actigraphy)」の実用性を検証したものです。アクチグラフィとは、腕時計型のデバイスを使って睡眠や身体活動を継続的に測定する手法です。


🔍 研究の概要

  • 対象となったのは2つの臨床試験のデータ:
    1. ASDの当事者63名を対象とした治療介入試験(AUT2001)
    2. 定型発達者53名を対象とした非介入試験(AUT0002)
  • 両グループとも、試験期間中ずっとリストバンド型のアクチグラフを装着し、週ごとの平均データを解析。
  • 主な分析項目:
    • 睡眠/覚醒の自動検出の精度
    • 臨床的に意味のある身体活動のパターン
    • 保護者による報告(睡眠の質や情緒的調整など)との相関

📊 主な結果

  • ASD群と定型発達群の間で、睡眠中の身体活動に有意な差(=ASD群はより多くの睡眠中活動を示した)
  • 睡眠の質に関して、アクチグラフィと保護者報告との間に有意な相関が確認された
  • 日中の身体活動量と自己調整能力(感情や行動のコントロール)との間にも関連があった
  • 不安、社会的応答性、反復行動などとも一部で有意な相関が確認された

⚠️ 課題と限界

  • アクチグラフィの着用率が低く、データの欠損が多かったため、分析に使えた人数が限られた
  • グループ間の経時的な変化には有意差がなかった(=治療効果との因果関係は示せず)

✅ 結論と意義

  • アクチグラフィはASDにおける客観的な行動測定ツールとして一定の可能性を持つ
  • とくに、睡眠や日中の活動パターンを継続的にモニタリングできるという点で、主観的な報告を補完するツールとして有望。
  • ただし、臨床で有効なバイオマーカーとして確立するには、さらに大規模かつ継続的な検証が必要である。

🔸要するに:「腕時計型センサーで日常生活の動きを測るアクチグラフィは、ASDの睡眠や行動の変化を客観的に捉える手段として期待されるが、実用化には課題も多く、今後の研究が必要」というのが本研究のまとめです。

Frontiers | A novel way to understand and communicate the burden of Antipsychotic Prescribing for Adults across Specialist Intellectual Disability Services in England and Wales: the APHID feasibility study protocol

この論文は、**知的障害を持つ成人に対する抗精神病薬の多剤処方の実態を、イングランドおよびウェールズの専門医療サービス間で比較可能にする新しい指標の可能性を検討した「APHID予備調査」**の研究プロトコルです。


🔍 研究の背景と目的

  • 2016年に開始されたSTOMPプログラム(知的障害や自閉症のある人への過剰投薬をやめる取り組み)では、個別の薬剤減量に焦点が当てられてきました。
  • しかしこの研究では、「サービス全体としてどれだけの抗精神病薬が使われているか」=サービス単位の投薬負担量を明らかにする新たなアプローチを試みています。
  • 特に、同時に2種類以上の抗精神病薬が処方されているケース(推奨されていない処方パターン)に注目し、それをクロルプロマジン換算量として定量化し、地域や施設ごとに比較可能にすることを目的としています。

🧪 研究デザインと方法

  • 対象:2017〜2023年の7年間にわたる、7つのイングランド・ウェールズのNHS知的障害専門サービスにおいて、2剤以上の抗精神病薬を処方されている成人患者
  • 手法
    • 投薬内容(経口・注射など)をクロルプロマジン換算に統一
    • 個人情報を除いたデータ(年齢、診断、処方内容など)を収集
    • 統計的工程管理(SPC)ツールと混合効果回帰モデルを用いて時系列的変化を分析

📊 期待される成果と課題

  • 各サービスにおける投薬慣行の偏りや地域差を可視化できる
  • 将来的に、全国的なレジストリ(登録制度)構築の基礎情報として活用可能
  • 一方で、対象患者の特定やデータ整備、共通評価基準の運用には困難も多いと報告

✅ 結論と意義

この研究は、「どれだけの薬が使われているか」をサービス単位で定量化し比較する新たな方法の可能性を検討したものであり、全国規模での安全で適正な処方支援システム構築に向けた第一歩といえます。


🔸要するに:抗精神病薬の多剤処方を客観的に評価するために、「施設ごとの薬剤使用量をクロルプロマジン換算で比較する」という新しい枠組みを試みた予備調査です。これにより、不適切な多剤投与の是正や地域間格差の是正に向けた政策立案に貢献する可能性が期待されています。

Frontiers | Exploring perspectives of Dscam for cognitive deficits: a review of multifunction for regulating neural wiring in homeostasis

この論文は、神経回路の恒常性(ホームオスタシス)を調節する分子「Dscam(ダウン症細胞接着分子)」が、認知機能の低下にどのように関与しているかを探るレビュー研究です。特に、自閉スペクトラム症(ASD)やダウン症(DS)、さらにはアルツハイマー病(AD)の初期段階に見られる神経ネットワークの異常とDscamの関係に注目しています。


🔍 Dscamとは?

  • Dscamは細胞表面に存在する接着分子で、神経細胞同士が「自分と他人を区別する」役割を果たします。
  • *ショウジョウバエでは数万種類のアイソフォーム(バリエーション)**を持ち、神経回路の複雑な分岐形成に貢献しています。
  • 哺乳類のDscamはバリエーションは少ないものの、多様で複雑な神経機能に関わっているとされています。

🧠 認知機能とDscamの関係

  • ダウン症やASDでは、Dscamの発現異常が報告されており、これが神経回路の不安定さ=認知機能の低下につながる可能性が示唆されています。
  • Dscamは、神経細胞が外部刺激や学習によって**適応的に調整される「神経の恒常性(homeostatic plasticity)」**を維持するうえで、重要な役割を果たしている可能性があります。
  • アルツハイマー病の早期段階でも、Dscamの異常が神経機能の低下と関連する可能性が指摘されています。

✅ 結論と意義

この論文は、Dscamが「神経の安定した働き(恒常性)」を支える重要な分子であり、ASDやDS、ADなどの認知障害に深く関与している可能性があると指摘しています。これにより、Dscamを標的とした新たな治療法の開発にもつながる可能性があるとしています。


🔸要するに:「Dscamという分子が、脳のネットワークのバランスを保つことで認知機能を支えており、それが崩れることで発達障害や認知症につながる可能性がある」という視点を整理・提案した論文です。将来的には、Dscamの働きを整えることで、認知機能の低下を防ぐ治療法の可能性があるかもしれないという、重要なヒントを与えてくれる内容です。