Skip to main content

ASD児の睡眠問題に影響する社会的・環境的要因

· 21 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

この記事では、発達障害(主にASDおよびADHD)に関する重要な知見を紹介しています。具体的には、ADHDの子どもたちの「待てなさ」の多様性とそれに対応する脳の機能的違い、ASDにおける「人への関心の低さ」の神経回路的要因(SC-VTA経路)、ASD児の睡眠問題に影響する社会的・環境的要因、レバノンにおけるASDへの知識と偏見の実態、そしてASDのある人が言語と音楽の構造処理に共通の脳的困難を抱えている可能性を示した脳波研究など、個人特性から社会環境、脳機能に至るまで、多角的な視点から支援や理解に役立つ知見がまとめられています。

学術研究関連アップデート

Behavioral and neurofunctional profiles of delay aversion in children with attention-deficit hyperactivity disorder

この研究は、注意欠如・多動症(ADHD)の子どもたちが「待つことが苦手(遅延忌避:delay aversion)」な傾向にどのような違いがあるかを行動面・脳機能面の両方から詳しく調べたものです。


🔍 背景と目的

ADHDの子どもは「すぐに報酬が得られないこと」が苦手で、待つ場面で我慢ができないことが多くあります(=遅延忌避)。しかし、この傾向には個人差が大きく、すべてのADHDの子どもが「我慢できない」わけではないことも知られてきました。本研究では、この遅延への反応のタイプを分類し、その違いにどんな行動的・神経的特徴があるかを明らかにしようとしました。


🧪 方法

  • 対象:ADHDの子ども43人と定型発達の子ども47人
  • 課題:報酬が「今すぐもらえるか」「少し待てばもっともらえるか」を選ぶ実験(遅延割引課題
  • 分析方法
    • 行動パターンに基づいてクラスタリング(グループ分け)
    • 保護者・教師による臨床評価スコア
    • fNIRS(近赤外分光法)による脳の機能的つながりの測定(特に前頭頭頂ネットワーク=FPN、デフォルトモードネットワーク=DMN)

📊 主な結果

  • *5つの行動タイプ(報酬の待ち方の違い)**が見つかりました:
    1. 従来型(Conventional):遅れるほど価値が下がるが通常の傾向
    2. 従来型・より急勾配(Conventional-steeper):同様だが価値の下がり方が急
    3. 急勾配(Steep):すぐの報酬しか選ばず、極端に「待てない」
    4. ゆるやか(Shallow):待ってもあまり価値が下がらない
    5. ゼロ(Zero):遅れても価値が変わらない(極端に「待てる」)
  • ADHDの中でもタイプに違いがあり:
    • *ADHD-多動性・衝動性タイプ(ADHD-C)**の約78%が「急勾配」タイプ
    • *ADHD-不注意タイプ(ADHD-IN)**の約42%が「Shallow」または「Zero」タイプ
  • 行動評価(親や教師の見立て)では大きな差はなし
  • しかし、**Shallow/Zeroグループでは脳のネットワークのつながり(FPN・DMN)が弱い(低結合)**ことが明らかに

✅ わかりやすくまとめると

✔ ADHDの子どもは「すぐ欲しい」と思う傾向があるが、その現れ方には大きな違いがある。

✔ 中には、極端に待てない子もいれば、**逆に「待つことにあまり抵抗がない子」**も存在する。

✔ 行動では見えにくいが、脳のつながり方に違いがあり、これが行動の個性に関係している可能性がある

✔ 「ADHD=待てない」だけではなく、報酬への反応の多様性を理解したうえで支援や診断を工夫することが大切


📝 一言まとめ

ADHDの子どもたちの「待てなさ」にはさまざまなタイプがあり、それぞれ異なる脳の特徴を持つことがわかった本研究は、今後の診断・支援の個別化に大きなヒントを与えてくれる成果です。

Translational research approach to social orienting deficits in autism: the role of superior colliculus-ventral tegmental pathway

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の重要な特徴のひとつである「人に注意を向ける力(=社会的指向性、social orienting)の弱さ」の原因を、脳の神経回路レベルで明らかにしようとしたものです。特に、上丘(Superior Colliculus:SC)と腹側被蓋野(Ventral Tegmental Area:VTA)という2つの脳の部位をつなぐ経路に注目しています。


🔍 背景

  • ASDのある人は、人や社会的な刺激に対する関心が薄い傾向があり、これが対人関係や社会的発達に大きく影響しています。
  • これまで、この「人への注意の向けにくさ」の原因となる脳の仕組みは十分に分かっていませんでした。
  • SCは視覚情報処理や注意の向け先を決める役割を、VTAは「やる気」や「報酬の感覚」を司る部位で、この2つの間の回路が「社会的な注意づけ」に関わっている可能性があると考えられています。

🧪 方法と結果

  • ASDの子どもと、Shank3遺伝子を欠損したマウス(ASDの特徴を示すモデルマウス)を使った比較研究
  • 【ヒト】fMRI(脳機能画像)で調べたところ、ASDの子どもではSCとVTAのつながりが弱くなっていた
  • 【マウス】ミニスコープという技術を使い、SC→VTAへつながる神経の活動を観察。Shank3−/−マウスでは、この経路の神経活動(カルシウムの動き)が少なく、神経同士の連携も乱れていた
  • さらに、このSC-VTA経路の異常は、社会的関心の弱さの程度と関連していた(人でもマウスでも)。

✅ わかりやすくまとめると

✔ ASDのある子どもでは、「視覚的な注意」と「やる気」をつなぐ脳の経路(SC→VTA)に機能低下が見られ、それが「人への注意の向けにくさ」と関係している可能性がある。

✔ 同様の異常は、ASDの特徴を持つマウスにも見られ、**人と動物をまたぐ「共通のメカニズム」**が示唆された。

✔ この経路は、ASDの「社会的関心の低さ」を説明する神経生物学的な鍵になるかもしれず、将来的には**早期診断や治療の新しい標的(バイオマーカー)**になる可能性がある。


📝 一言まとめ

ASDの「人への関心の薄さ」は、視覚注意と報酬系をつなぐ脳の経路(SC-VTA)の機能低下と関係している可能性があり、早期発見・介入の新たな道を拓く発見として注目されます。

Scoping Review of Socio-Ecological Factors Contributing to Sleep Health Disparities in Children with Autism Spectrum Disorder

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもたちにおける「睡眠の不調(睡眠問題)」が、社会的・環境的な要因によってどのように悪化しうるかを明らかにするために、過去の研究を広く整理・分析した「スコーピングレビュー」です。


🔍 背景と目的

  • ASDのある子どもには睡眠の問題(寝つけない、途中で起きるなど)が非常に多いことが知られています。
  • さらに、貧困や差別、家族のストレス、住環境の問題などの社会的・環境的要因があると、睡眠の問題がさらに悪化する可能性があります。
  • 本研究では、個人・家族・地域・文化といった「社会生態学的な観点」から、ASDのある子どもの睡眠の健康格差に影響する要因を調べた先行研究を整理し、研究の偏りや今後の方向性を明らかにしようとしました。

🧪 方法

  • 2004年〜2023年に発表された、ASDのある子どもに関する「睡眠」と「社会的・環境的要因」を扱った41本の研究論文を抽出。
  • 着目した要因は、以下の3つのレベル
    1. 個人レベル(例:子どもの感覚過敏、ADHDの併存など)
    2. 家族レベル(例:両親のストレス、家族の睡眠習慣など)
    3. 地域・文化レベル(例:近隣の安全性、貧困、文化的背景など)

📊 主な結果

  • 個人レベルの要因に焦点を当てた研究が最多(75.6%)
  • 家族レベルの要因は65.9%、地域・文化レベルの要因は26.8%のみ
  • 3つすべてのレベルにまたがって調査していた研究は、わずか3本(7.3%)
  • 介入研究(睡眠改善プログラムなど)は6本のみだったが、これらでは睡眠や行動、生活の質の改善が見られた
  • 人種・民族的マイノリティの子どもや家族が含まれていた研究は非常に少なかった
  • 多くの研究が**「何が問題か」を調べており、「どう改善するか」にはまだ不十分**

✅ わかりやすくまとめると

✔ ASDのある子どもの睡眠問題について、多くの研究は子ども本人の要因(感覚過敏など)ばかりに注目し、家族の状況や地域・文化的背景についての理解がまだ浅いことがわかりました。

貧困・人種・住環境といった社会的要因が睡眠に与える影響についての研究は非常に少なく、重要な視点が抜け落ちている可能性があります。

✔ 将来的には、多様な家族背景を踏まえた睡眠支援プログラムの開発や、より公平な支援体制の構築が求められています。


📝 一言まとめ

ASDのある子どもの「眠れない」を支援するには、子ども本人だけでなく、家庭環境や社会的背景にも目を向ける必要がある――本研究はその視点の重要性と研究の偏りを明らかにし、今後の公平な支援づくりに貢献する重要な土台を示しています。

A cross-sectional study of public knowledge and stigma towards autism spectrum disorder in Lebanon

この研究は、レバノンにおける一般市民の「自閉スペクトラム症(ASD)」に対する知識とスティグマ(偏見や差別意識)の実態を明らかにしようとした調査研究です。


🔍 研究の目的と背景

ASDのある人が社会の中で受け入れられるには、一般の人々が正しい知識を持ち、スティグマをなくすことが重要です。しかし、ASDに関する誤解や偏見は世界中で課題となっており、特にレバノンのような中東地域では、その実態に関する研究が限られていました。


🧪 方法

  • 実施時期:2022年2月〜7月
  • 対象:レバノンの成人949人(オンライン調査)
  • 使用した評価尺度
    • ASDの知識やスティグマを測定する ASK-Q(自閉症スティグマ・知識質問票)
    • 他者との心理的な距離感を測定する 自閉症ソーシャルディスタンス尺度

📊 主な結果

  • ASDの診断や症状についての知識は比較的高く(57.9%)、多くの人がある程度理解していた。
  • 一方で、ASDの原因(6.6%)や治療法(9.6%)に関する正しい知識はほとんどの人が持っていなかった
  • 83.4%の人はASDに対してスティグマを持っていないと回答
  • 興味深い点:
    • ASDについて「知っている」と答えた人は、知識は高かったがスティグマもやや高め(≒知識の内容が偏っている可能性あり)。
    • 一方で、知識が多い人ほど、ASDのある人との「心理的距離感」は低かった(=より受け入れる姿勢)

✅ わかりやすくまとめると

ASDの症状については比較的知られているが、「なぜそうなるのか」「どう支援するか」という知識はあまり浸透していない

知識がある人ほどASDのある人との接触に抵抗がない傾向が見られる一方で、表面的な知識が偏見につながる場合もある

✔ 今後は、誤解を減らし、受容を促すようなバランスの取れた啓発活動が求められる。


📝 一言まとめ

レバノンの人々はASDに対しておおむね前向きな姿勢を持っていますが、原因や支援に関する知識には大きなギャップがあり、より深く正確な理解を広めるための啓発活動が今後の課題です。

Linguistic and Musical Syntax Processing in Autistic and Non-Autistic Individuals: An Event-Related Potential (ERP) Study

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある人が、言語と音楽の「構造(=文法)」をどう処理しているかを脳波を使って調べたものです。


🔍 背景と目的

  • 言語も音楽も、単語や音などの「要素」を組み合わせて意味のある構造(文や旋律)を作るという共通点があります。
  • SSIRH(構造統合の共通リソース仮説)」という理論は、「言語での構造処理に困難がある人は、音楽でも似た困難を感じるかもしれない」と考えています。
  • ASDの人は言語には困難があることが多い一方で、音楽の能力は比較的保たれているとされるため、本当に両方に困難があるのかを調べました。

🧪 方法

  • 参加者:ASDのある成人31名と、定型発達の成人31名
  • 2つの課題を実施:
    1. 文法的に正しい/間違った文章を聞いて、正しさを判断
    2. 調和的に正しい/間違った音楽のフレーズを聞いて、正しさを判断
  • 同時に、脳の反応を脳波(ERP)で測定し、構造処理に関連する「P600波」を分析

📊 主な結果

  • 行動の正答率(答えが正しいかどうか)には、ASDと非ASDで大きな差はなかった
  • しかし、ASDの参加者はP600の反応が小さく、遅れていた(言語でも音楽でも)。
    • P600は、「構造が合っているかどうか」を脳が処理しているサイン。
  • ASDの人は、表面上は正しく判断できても、脳内では統合処理に負荷がかかっている可能性がある。

✅ わかりやすくまとめると

✔ 自閉スペクトラム症のある人は、言語だけでなく音楽の構造処理でも共通した脳の困難を抱えている可能性がある。

✔ 見た目には理解できているように見えても、脳内の処理メカニズムは異なっており、時間やエネルギーが余分にかかっていることが示唆される。

✔ 言語と音楽の処理が同じ脳の仕組みを共有しているというSSIRH仮説を支持する結果でもあり、言語支援や音楽療法の在り方に影響を与える可能性がある。


📝 一言まとめ

言語と音楽の「構造を理解する力」は、ASDのある人にとって両方で共通した課題となっている可能性があり、支援にはその背景をふまえた工夫が求められるという重要な示唆を与える研究です。