自閉症の診断ツールAMSEのトルコにおける有効性
このブログ記事では、発達障害や福祉に関する最新の学術研究を紹介しています。具体的には、授乳期間と自閉症の関係(21か月の授乳が有益な可能性)、自閉症の診断ツールAMSEのトルコにおける有効性、乳児期の感覚処理が遺伝・環境とどのように関係し、自閉症特性とリンクするか、成人ADHDの診断における性別による違い(女性は成人期に症状を強く報告する傾向)、そして**学習障害のある成人が支援員との関係をどのように構築しているか(プロフェッショナル、家族のような関係など5つのパターン)**についての研究を取り上げています。これらの研究は、発達障害の理解や診断・支援の質を向上させるための重要な知見を提供しており、今後の福祉や教育、医療分野の発展に貢献することが期待されます。
学術研究関連アップデート
Breastfeeding duration and neurodevelopment: insights into autism spectrum disorders and weaning practices - Journal of Health, Population and Nutrition
この研究は、授乳期間と自閉症スペクトラム障害(ASD)の発症や神経発達との関係を調査し、最適な離乳時期を探るものです。母乳育児は、免疫力の向上や神経発達の促進に寄与すると広く認識されていますが、その理想的な期間については議論が続いています。本研究では、現代の科学的研究とコーランの教えを統合し、21か月の授乳期間が最適である可能性を示唆しています。この期間は、長期授乳によるメリットと潜在的なリスクのバランスを取るものとされています。研究結果によると、授乳はASDの症状を軽減し、免疫調整、腸内細菌の多様性の向上、ホルモン経路の調整を通じて神経発達を支援する可能性があると示唆されています。しかし、授乳期間とASDの関連についてはさらなる詳細な研究が必要であり、長期的な影響を解明することが今後の課題とされています。
The Psychometric Properties of Autism Mental State Examination (AMSE) in Turkish Sample
この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の早期診断に役立つ「Autism Mental State Examination(AMSE)」のトルコ人児童における信頼性と妥当性(心理測定特性)を検証したものです。ASDの早期診断は、その後の支援や治療の効果に大きく影響するため、正確で実用的な評価ツールの開発が重要とされています。
研究の概要
- 対象:**ASDが疑われるトルコ人児童307名(生後17か月~10歳)**を対象。
- 診断基準:DSM-5基準に基づき、ASD群と非ASD群に分類。
- 評価方法:
- *AMSE(自閉症精神状態検査)とCARS(小児自閉症評価尺度)**を使用し、盲検(評価者が診断を知らない状態)で検査。
- 61名を対象に3週間後の再検査を実施し、**時間的安定性(テスト・再テスト信頼性)**を評価。
主な結果
- AMSEのカットオフスコアを4に設定すると、感度84%、特異度97%と高い診断精度を示した。
- 感度(Sensitivity):ASDの子どもを正しくASDと診断できる割合。
- 特異度(Specificity):ASDではない子どもを正しく非ASDと診断できる割合。
- 内部整合性(質問項目の一貫性)は良 好(Cronbach’s α = 0.80)。
- テスト・再テスト信頼性(同じ子どもに再度テストを実施して結果の一貫性を確認)は非常に高い(ICC = 0.959)。
- 評価者間の一致率(異なる評価者間での診断の一致度)も極めて高い(ICC = 0.997)。
- AMSEのスコアとCARSのスコアには非常に強い相関(r = 0.94, p < 0.001)があり、両者の評価が一致していることを示唆。
- ASD群と非ASD群の間で、AMSEスコアに統計的に有意な差があり(p < 0.001)、診断精度の高さが確認された(効果量Cohen’s d = 1.40)。
結論
本研究の結果から、AMSEはトルコの子どもにおいて、ASDの診断ツールとして高い信頼性と妥当性を持つことが確認された。特に、診断精度の高さ(感度84%、特異度97%)と、時間的安定性・評価者間の一致率の高さが示されており、臨床現場での実用性が期待できる評価ツールであることが分かった。今後、トルコ以外の国でも同様の検証を行うことで、国際的な診断ツールとしての発展が期待される。
Different sensory dimensions in infancy are associated with separable etiological influences and with autistic traits in toddlerhood
この研究は、生後5か月の乳児の感覚処理の違いが、遺伝的および環境的な要因とどのように関連し、その後の自閉症の特徴(自閉症特性)とどのような関係があるのかを調査したものです。特に、感覚刺激に対する乳児の反応の違い(感覚処理の特徴)が、遺伝と環境のどちらに強く影響されるのかを分析しました。
研究の概要
- 対象者:スウェーデンの「BabyTwins Study(BATSS)」のデータを使用し、**生後5か月の一卵性双生児(MZ)と二卵性双生児(DZ)合計285組(570人)**を調査。
- 評価方法:
- 感覚処理の特徴(例:感覚刺激を求める、避ける、敏感である、鈍感である)をInfant/Toddler Sensory Profileを用いて測定。
- 36か月(3歳)時点の自閉症特性を**Quantitative Checklist for Autism in Toddlers(Q-CHAT)**で評価。
- 分析方法:
- 探索的因子分析(異なる感覚処理のタイプを分類)。
- 双生児モデル解析(遺伝と環境が感覚処理にどのように影響しているかを分析)。
主な結果
- 感覚処理には4つの独立した側面があることが判明:
- 感覚探求(Sensation Seeking):刺激を積極的に求める。
- 感覚回避(Sensation Avoiding):刺激を避ける。
- 感覚過敏(Sensory Sensitivity):小さな刺激にも敏感に反応する。
- 感覚鈍麻(Low Registration):刺激に気づきにくい。
- それぞれの感覚処理の特性は、異なる遺伝的・環境的影響を受ける:
- 遺伝の影響が強いものもあれば、家族環境の影響が強いものもある。
- 感覚過敏や感覚回避は遺伝の影響が大きく、感覚探求や感覚鈍麻は家族環境の影響も大きい。
- 感覚処理の違いは、その後の自閉症特性と関連があった:
- 特に「触覚に関する行動」「感覚過敏」「感覚回避」「感覚鈍麻」が強く関係していた。
- つまり、乳児期に感覚刺激に対して敏感だったり、鈍感だったりする子どもは、後に自閉症特性が強くなる可能性がある。
結論と意義
- 乳児の感覚処理の違いは、遺伝と環境の両方の影響を受けており、それぞれ異なる 要因によって決まることが明らかになった。
- 感覚処理のタイプによって、自閉症特性の発達リスクが異なる可能性があるため、乳児期の感覚反応を観察することで、将来の発達リスクを早期に把握できる可能性がある。
- 感覚処理の特徴を考慮した個別のサポートが、発達の早い段階から提供できるようになることが期待される。
この研究は、自閉症の早期発見や支援のために、乳児期の感覚反応をどのように活用できるかを示唆する重要な知見を提供しています。
Frontiers | Bias by gender: exploring gender-based differences in the endorsement of ADHD symptoms and impairment among adult patients
この研究は、成人の注意欠如・多動症(ADHD)の診断における性別による違いを分析し、特に女性の経験に焦点を当てたものです。成人ADHDの研究はまだ少なく、特に女性の症状の表れ方や診断への影響についての理解が不足しています。
研究の概要
- 対象者:オランダの精神医療機関「Parnassia Groep」でADHDと診断された成人患者2257名(男性・女性を含む)。
- 評価方法:
- DIVA-5(Diagnostic Interview for ADHD in Adults) を用いて、現在(成人期)と過去(小児期)のADHD症状と機能障害(インパクト)を評価。
- 性別ごとの症状の報告率(endorsement rate)を比較。
- 分析手法:
- 記述統計および**カイ二乗検定(χ²)**を用いて、男女の差を検討。
主な結果
- ADHDの基本的な特徴は男女で共通していたが、細かい違いが見られた:
- 女性は成人期において、不注意症状や多動・衝動性の症状をより頻繁に報告した。
- 男性は子ども時代のADHD症状をより多く報告する傾向があった。
- 機能障害(インパクト)の性差:
- 女性は「自尊心の低さ」や「社会関係の困難」など、精神的・社会的な側面での影響を強く訴える傾向があった。
- 男性は子ども時代の行動的な困難をより多く報告した。
- 診断ツール(DIVA-5)の課題:
- ADHDの診断における**性別によるバイアス(偏り)**の可能性が示唆された。
- 女性の症状は過小評価されやすく、診断や治療の遅れにつながる可能性がある。
結論と意義
- ADHDの症状は男女で基本的に似ているものの、表れ方や影響の受け方には性差があることが示された。
- 女性は成人期に症状を強く訴える傾向があり、特に精神的・社会的な影響を受けやすい。
- 現在の診断ツール(DIVA-5)の見直しや、性別に応じた診断・治療の工夫が必要。
この研究は、女性のADHD診断における潜在的な見落としを防ぐための重要な知見を提供しており、より公平な診断基準の確立に向けた一歩となるものです。
How do adults with a learning disability construct their relationships with support workers? A Foucauldian discourse analysis
この研究は、学習障害のある成人が支援員(サポートワーカー)との関係をどのように捉えているかを分析したものです。著者は、**Foucault(フーコー)の言説分析(ディスコース・アナリシス)**を用いて、支援員との関係がどのように構築され、社会的な枠組みの中でどのように意味づけられているのかを考察しました。
研究方法
- 対象:学習障害のある成人
- データ収集:半構造化インタビュー(参加者の自由な語りを重視)
- 分析手法:フーコー的言説分析(Foucauldian discourse analysis)
- 「支援員との関係」をめぐる**言説(社会的な語り方や考え方)**を整理
- *関係性のあり方(構築の仕方)**を分類
主な結果
研究では、支援員との関係が5つの異なる形で構築されることが明らかにされました:
- 「プロフェッショナルな関係」
- 支援員は専門職としての役割を持ち、ルールや制度のもとで働く存在と捉えられる。
- 「平等で共有された関係」
- 支援員との関係は対等なものであり、共に協力しながら築かれるものと考えられる。
- 「お金で買える関係」
- 支援はサービスとして提供されるため、お金で成り立つ「雇用関係」として認識されることもある。
- 「家族のような関係」
- 長い時間を共にすることで、支援員は「家族的な存在」とみなされることがある。
- 「監視・保護される関係」
- 支援員は見守りや保護を提供する存在であり、ある種の監視的な役割も担っていると認識される。
結論と意義
- これらの**異なる「関係の形」は、それぞれ社会的な枠組み(ディスコース)**に基づいて構築されている(例:専門職の倫理、独立の概念、経済活動、家族観、障害の理解など)。
- 支援関係のあり方は一つではなく、文脈や個々の経験によって異なる形をとる。
- この研究結果は、学習障害者向けの支援を考える際に、より柔軟で個別化されたアプローチを採用する必要があることを示唆している。
この研究は、支援員との関係を単なる「ケアの提供」としてではなく、より多様で複雑なものとして捉える視点を提供しており、支援の質を向上させるための重要な示唆を与えるものです。