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ASDの遅い診断に関する定義と背景

· 18 min read
Tomohiro Hiratsuka

この記事では、自閉症スペクトラム障害(ASD)に関連する最新の研究を包括的に紹介しています。幼稚園児の音声処理が読解能力に与える影響から、COVID-19パンデミック下でのフェイスマスク使用がASD評価に与えた影響、非発声のASD児における言語環境が社会的コミュニケーションに与える効果、外見に基づくASDの自動識別法、名前を聞いた際のASD児の注意喚起の神経反応、中国語を使う読字障害の音韻欠陥プロファイル、拒食症とASD特性の関係性、そしてASDの遅い診断に関する定義と背景に至るまで、多岐にわたるテーマが取り上げられています。

学術研究関連アップデート

Neural Processing of Speech Sounds in Autistic Kindergarteners as a Predictor of Reading Outcomes

この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ幼稚園児の音声処理の神経的基盤が、読みの発達(単語認識と読解力)にどのように関連しているかを調査したものです。56人の幼稚園児(ASD 28人、定型発達児28人)が、音声刺激(「旧」/gibu/と「新」/bidu/)に対する早期の聴覚事象関連電位(ERP)を測定され、幼稚園の入園時と修了時に読みの能力が評価されました。

主な結果

  1. 自閉症の子どもで読み能力が低いグループは、「新」刺激に対してERP振幅(P1とP2)が有意に高く、「旧」刺激との違いが大きいことが示されました。
  2. ERPの差スコア(旧 vs 新)は、幼稚園修了時の単語認識能力を予測しました(P1: p=0.05, P2: p=0.04)。ただし、読解力には影響を与えませんでした。
  3. 読み能力が高い自閉症児や定型発達児とは異なる音声処理パターンが観察されました。

結論

自閉症児における音声処理の神経的な違いが、読み能力の個人差に寄与している可能性があります。この知見は、自閉症児の読解スキル向上を目指した介入策の設計に役立つことが期待されます。

The Impact of Face Mask Use on Research Evaluations of 5–7 Year-Old Children With Autism Spectrum Disorder

この研究は、COVID-19パンデミック中に行われた自閉症スペクトラム障害(ASD)の研究評価において、フェイスマスクの使用が与える影響を調査しました。5~7歳のASD児(平均年齢6.2歳、n=60)を対象に、認知、言語、社会的コミュニケーション能力を評価しました。

主な結果

  1. マスクの耐容性:
    • 全期間着用: 66.7%
    • 部分的に着用: 21.6%
    • 着用不可: 11.6%
  2. 耐容性と認知・コミュニケーションスコア:
    • マスクを耐容できなかった子どもは、全期間または部分的に着用した子どもよりも**認知スコア(F=13.241, p<0.001)コミュニケーションスコア(F=13.639, p<0.001)**が有意に低い結果を示しました。
  3. 診断確信度:
    • 88%の評価で、研究者はマスク使用が診断結果に「影響なし」と回答。
    • マスク使用が評価完了やASD診断能力に大きな影響を及ぼさなかったと報告されました。

結論

マスクの使用は、多くのASD児にとって耐容可能であり、研究評価結果や診断の確信度に大きな影響を与えなかったことが示されました。ただし、マスクを耐容できない子どもは、認知やコミュニケーション能力に課題がある可能性があり、さらなる支援が必要であることが示唆されます。

Social Communication During Play Across Language Environments in Nonvocal Preschool-Age Children with ASD from English and Non-English Speaking Families

この研究は、非発声の自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ未就学児が異なる言語環境で示す社会的コミュニケーション行動を調査しました。対象は、英語圏および非英語圏の家族出身の子どもたちで、バイリンガルの介入者が英語と非英語(「世界言語」)の2つの条件で交流しました。

主な結果

  • 社会的コミュニケーション行動は参加者間で異なりが見られましたが、同一の参加者内では言語環境間で有意な違いはありませんでした。
  • ASD児は言語環境を区別していないように見え、バイリンガル環境がASD児に悪影響を与えないという先行研究を支持する結果となりました。

結論

親はASD児に対してバイリンガル教育を躊躇する必要はないと示唆されます。研究結果は、バイリンガル環境がASD児の社会的コミュニケーション能力に悪影響を与えないことを示しており、さらなる研究の必要性も議論されています。

Risk assessment and automatic identification of autistic children based on appearance

この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断において、従来のスケールや医師の評価が持つ主観性やコストの問題を解決するために、外見に基づく新しいリスク評価と自動識別アプローチを提案しています。

主な内容

  • 対象データ:社会的相互作用のシナリオを作成し、自閉症児(92名)と定型発達児(95名)の顔データセット(ACFD)を収集。
  • 分析手法:顔の出現時間、目の集中度、名前呼びかけへの反応時間、感情表現能力などの外見的特徴を抽出。
  • 機械学習:これらの特徴を組み合わせ、分類に使用。特にベイズ分類器は94.1%の高い精度を達成。

結論

視覚的外見特徴はASDの典型的な症状を反映し、自動識別法は医師による診断の補助やデータ支援として有用であることが示されました。この方法は客観的、迅速、低コストであり、ASD診断の効率化に寄与する可能性があります。

The Effects of Hearing One’s Own Name on Subsequent Attention to Visual Stimuli in Autistic and Neurotypical Children: An ERP Study

この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ子どもが自分の名前を聞いた際、その後の視覚刺激への注意にどのような影響を受けるかを検討したものです。

主な内容

  • 対象:ASD児と定型発達児(3~7歳、各28名)を対象に、名前を聞いた後の視覚刺激に対する脳波(EEG)の変化を測定。
  • 方法:自分の名前または知らない名前を聞いた後に物体を見るタスクを実施し、聴覚および視覚の事象関連電位(ERP)を分析。

結果

  1. 名前を聞いた際の反応
    • 定型発達児は自分の名前に対してP300の増強が見られたが、ASD児では見られなかった。
    • ASD児は、自分の名前に対して左前頭領域でより負のN1応答を示した。
  2. 視覚刺激への反応
    • 両群とも、自分の名前を聞いた後に視覚刺激を見た際、N2、P3、LPPの変化が同等だった。

結論

ASD児は、外見上は自分の名前に反応しない(頭を振り向かない)ことが多いものの、名前を重要な音として認識しており、その後の視覚刺激への注意が高まることが示されました。これは、ASD児が名前の社会的意味を十分に理解していない可能性を示唆しています。

Profiles of phonological deficits and comorbidity in Chinese developmental dyslexia

この研究は、中国語の発達性読字障害(DD)における音韻認識(PA)迅速連続呼称(RAN)、および**言語短期記憶(VSTM)**の3つの音韻的欠陥のプロファイルと、それらの共存を調査したものです。アルファベット表記言語での研究は多いものの、表意文字である中国語においてこれらがどのように関連するかを調べたのは初めてです。

方法

  • 対象:8~11歳の発達性読字障害児128名と年齢を一致させた対照群135名。
  • タスク
    • PA:音素削除、音節分割
    • RAN:数字、物体、色の呼称
    • VSTM:スプーナリズム、数字のスパン
    • その他:文字認識、形態認識
  • 解析:潜在プロファイル分析とVennプロットを使用。

主な結果

  1. 3つのプロファイル
    • RAN欠陥群:呼称速度の欠如。
    • PA重度欠陥群:音韻認識の困難。
    • VSTM軽度欠陥群:短期記憶の制約。
  2. 音韻的欠陥の有病率
    • DDの83.59%が音韻的欠陥を示し、58.59%がRAN欠陥、49.22%がPA欠陥、47.66%がVSTM欠陥を持ち、これらは重複する場合が多かった。

結論

中国語のDDでは、RAN、PA、VSTMの3つの音韻的欠陥が主要な特徴であり、これらの重複が障害を複雑にしています。この結果は、DDの特定と介入策の開発に重要な示唆を提供します。

Neural Processing of Speech Sounds in Autistic Kindergarteners as a Predictor of Reading Outcomes

この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の幼稚園児における音声処理の神経基盤が読解能力(単語認識と読解力)にどのように関連するかを調査したものです。28名のASD児と28名の定型発達(TD)児が参加し、二音節の擬似語を用いた聴覚誘発電位(ERP)タスクを実施しました。行動評価として、入園時と終了時に読解能力を測定しました。

主な結果

  1. ERPの違い
    • ASD児で読解能力が低い子どもは、新しい刺激("new")に対して旧刺激("old")よりも大きなP1およびP2振幅を示しました。
    • TD児および読解能力の高いASD児では、この傾向は見られませんでした。
  2. 予測因子
    • ERPの旧/新差分スコアは、幼稚園終了時の単語認識能力を有意に予測(P1: p=.05、P2: p=.04)しましたが、読解力には影響しませんでした。

結論

ASD児は、音声処理の神経応答において読解能力に応じた異なる特徴を示すことが明らかになりました。特に単語認識能力の低いASD児では、新しい音声に対する神経反応が異なっており、ASDにおける読解能力の多様性を示唆しています。この研究は、音声処理の神経基盤を理解し、ASD児の読解支援策を改善するための貴重な知見を提供しています。

Moving Beyond the Phenotypic Correlation Between Anorexia Nervosa and Autism

この論文は、拒食症と自閉症特性の関連を探る研究についての論考です。Inal-Kaleliらのシステマティックレビューとメタ分析は、拒食症の人々に自閉症特性や自閉症の割合が高いこと、また拒食症状のレベルと自閉症特性の間に小さいが有意な相関があることを示しました。本論文では、この関連性の起源や具体的なメカニズム、自閉症を持つ人々における拒食症の現れ方、そして性やジェンダーがこれらの関係に与える影響について議論しています。

目的としては、単なる表面的な相関を超え、拒食症と自閉症特性の関係性をより深く理解するための研究の方向性を提案することで、これらの問題を抱える人々に適した予防策や介入法の開発を支援することです。この分野でのさらなる研究が、より効果的なサポートを提供する基盤となることを強調しています。

Who, when, where, and why: A systematic review of “late diagnosis” in autism

この論文は、自閉症の「遅い診断(late diagnosis)」に関する研究のシステマティックレビューを行い、その定義や傾向を分析したものです。対象となった**420件の研究(1989~2024年発表)**から、自閉症の遅い診断の基準が大きく異なることが確認されました。

主な結果

  • 遅い診断の年齢基準:
    • 平均:11.53歳
    • 範囲:2歳~55歳
    • 中央値:6.5歳
    • 分布は3歳18歳の2つのピークを持つ二峰性分布を示しました。
  • 診断基準は、地域やサンプルの年齢によって大きく異なり、**地域(p < 0.0001)年齢(p < 0.0001)**が診断基準に影響を与える重要な要因であることが示されました。
  • *34.7%**の研究のみが明確な遅い診断のカットオフを提供していました。

遅い診断の背景と理由

  • サービスへのアクセスの問題
  • 成人期の診断に関する配慮
  • データ駆動型のアプローチ

結論

遅い診断の定義は研究の文脈に大きく依存しており、統一された基準は存在しません。本研究は、著者が診断年齢のカットオフを明確にし、その背景を説明する必要性を強調しています。この結果は、自閉症診断の時期に関する研究や政策の改善に寄与する可能性があります。