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ASDで話すことが難しい小学生が自己モニタリングアプリを活用した結果

· 約69分
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事では、発達障害や関連分野の最新学術研究を紹介し、特に自閉症スペクトラム障害(ASD)、ADHD、発達性言語障害(DLD)、ディスレクシア(読字障害)などに関する研究成果を解説しています。取り上げられている研究は、自律神経機能とBMIの関連、自閉症児の脳の活動パターン、教師の文化的背景と自閉症認識の関係、犬介在療法とロボット犬療法の比較、社会的サポートがADHD児の創造的自信に与える影響など多岐にわたり、教育・医療・福祉分野での支援のあり方や実践への示唆を提供しています。

学術研究関連アップデート

Pubertal developmental, body mass index, and cardiovascular autonomic function in children and adolescents with and without autism spectrum disorder: a four-time point accelerated longitudinal study - Journal of Neurodevelopmental Disorders

この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもと定型発達の子ども(NT)の自律神経機能(心拍調節など)と身体的健康(BMI=体格指数)との関係を思春期の成長に伴って追跡したもの です。自律神経系(ANS)は心拍数や血圧の調整などを担い、そのバランスの乱れがASDに関連する可能性があるため、研究チームは10〜13歳の子ども244名(ASD 140名、NT 104名)を対象に、4年間にわたって自律神経機能を測定しました。


研究の方法

  • 評価項目
    • 副交感神経の活動(RSA=呼吸性洞性不整脈):リラックス時の心拍変動を測定。
    • 交感神経の活動(PEP=駆出前期間):ストレスや活動時の心拍の変化を測定。
    • BMI(体格指数)と薬の使用状況 も影響因子として評価。
  • 統計手法
    • 線形混合モデル を使用して、年齢・思春期の進行・BMIなどの影響を分析。

研究結果

  1. ASDの子どもは、副交感神経(RSA)の調節が低い傾向があった(リラックス時の心拍変動が少ない)。
  2. BMIと薬の使用を考慮すると、ASDとNTの間のRSAの違いは統計的に消えた(つまり、BMIや薬の影響が大きかった)。
  3. 思春期の進行に伴い、交感神経の活動(PEP)が低下(=リラックスしやすくなる)する傾向があった
  4. BMIが高いと自律神経の機能が低下しやすいことが確認されたが、BMIの変化は自律神経機能に影響を与えなかった

研究の結論

  • ASD児とNT児の自律神経機能の違いは、思春期の成長やBMIなどの身体的要因と密接に関係している
  • ASDに特有の自律神経の異常というよりも、BMIや薬の使用が自律神経機能に大きな影響を与えている可能性がある
  • 自律神経の発達を理解するには、診断カテゴリーだけでなく、BMIや薬の影響も考慮する必要がある

ポイント(簡単なまとめ)

ASD児はリラックス時の心拍調節(副交感神経機能)が低いが、BMIや薬の影響が大きく関係していた。

思春期が進むと交感神経の活動(ストレス時の心拍制御)が変化し、リラックスしやすくなる傾向があった。

BMIが高いと自律神経機能が低下しやすいことが確認された。

ASD児の健康状態を見る際には、自律神経機能だけでなく、BMIや薬の使用も考慮することが重要。

この研究は、ASD児の身体的健康(特にBMI)と自律神経機能の関係を明らかにし、発達の過程でどのように変化するかを示した重要な研究 です。

Bioethical evaluation of methylphenidate and atomoxetine for pediatric ADHD and cognitive enhancement - Philosophy, Ethics, and Humanities in Medicine

この研究は、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の子どもたちに使用されるメチルフェニデート(リタリン)とアトモキセチン(ストラテラ)の倫理的問題を分析 したものです。特に、治療目的と認知機能の向上(学習能力や集中力の強化)目的の違い に焦点を当て、これらの薬の長期的な安全性や倫理的リスクを検討しました。


研究のポイント

  1. メチルフェニデート(リタリン)とアトモキセチン(ストラテラ)は、ADHD治療だけでなく、学習や集中力向上のために使われることもある。
  2. 認知機能向上(エンハンスメント)目的で使用する場合、「必要なリスク(副作用)」をどこまで許容するべきか? という倫理的問題がある。
  3. ADHD治療としての安全性も十分に確立されているとは言えず、30週間以上の長期データが不足している。
  4. 臨床試験では、メチルフェニデートの副作用として、睡眠障害、食欲低下、不安症状、心臓への影響(まれに重大な心疾患)が報告されている。
  5. 妊娠中の使用による胎児への影響(先天性異常のリスク)も懸念されている。
  6. アトモキセチンは副作用が比較的少ないが、まれに自殺念慮のリスクが指摘されている。
  7. 哲学的・倫理的視点から、人間の能力向上をどこまで許容するべきか?という議論がある(ジュリアン・ハクスリーやトランスヒューマニズムの考えも参照)。

研究の結論

  • 「個人の健康を守ることが、成績向上や集中力の向上よりも優先されるべき」という慎重な立場を推奨。
  • ADHD治療においても、薬の長期的なリスクが不明なため、行動療法など非薬物治療を優先するべき。
  • 認知機能の向上を目的とした薬の使用は、倫理的にも議論の余地があり、慎重な対応が求められる。

ポイント(簡単なまとめ)

メチルフェニデートとアトモキセチンは、ADHD治療と認知機能向上の両方に使われるが、後者は倫理的に問題がある。

長期使用の安全性が十分に検証されておらず、副作用(睡眠障害、食欲低下、心疾患リスク、自殺念慮など)が懸念される。

「学力向上のための薬の使用」は倫理的に問題があり、慎重な対応が求められる。

ADHD治療には、可能な限り行動療法など非薬物的アプローチを優先すべき。

この研究は、子どもの薬物治療のリスクと倫理的課題を問い直し、より安全な治療法の検討を促す重要な議論を提供しています。

Abnormalities in brain complexity in children with autism spectrum disorder: a sleeping state functional MRI study - BMC Psychiatry

この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもたちの脳が、典型発達(TD)の子どもたちと比べて、どのように異なる働きをしているのかを「睡眠中の脳の複雑さ(brain complexity)」を通じて調べたもの です。特に、機能的MRI(fMRI)を使い、脳の活動のランダム性(サンプルエントロピー, SampEn)と情報伝達(転送エントロピー, TE)を比較 しました。


研究の背景

  • 神経発達の違いがある人の脳は「複雑さが減少している(complexity loss)」と考えられてきた。
  • しかし、自閉症(ASD)に関する研究では、必ずしもこの理論に合致しない結果が報告されている ため、より詳細な調査が必要だった。
  • 睡眠中の脳の活動を調べることで、外部刺激の影響を排除し、純粋な脳の働きを分析できると考えられる。

研究方法

  • 対象者
    • ASDの子ども 42人
    • 典型発達(TD)の子ども 42人
  • 測定方法
    • 睡眠状態の機能的MRI(ss-fMRI) を使用し、脳の活動を記録。
    • 脳の「複雑さ」 を測定するために、**サンプルエントロピー(SampEn)転送エントロピー(TE)**という指標を用いた。
    • ASD群では、症状の重さとSampEn・TEの関係 も調査。

研究結果

  1. ASDの子どもは、右下前頭回(right inferior frontal gyrus)でSampEnが高かった(=よりランダムな脳活動を示した)
    • これは、ASDの子どもたちの脳の活動が「不規則に動いている」可能性を示唆している。
  2. TDの子どもたちは、13組の脳領域間でのTE(情報のやり取り)がASD群よりも高かった
    • つまり、TDの子どもたちは脳内の情報伝達がより活発だった ことを示している。
  3. ASDの子どもたちでは、5組の脳領域でTD群よりもTEが高かった
    • 一部の領域では、ASDの子どもたちの方が情報伝達が活発になっている 可能性がある。

研究の結論

  • ASDの子どもたちは、脳の活動のランダム性が異常に高く、情報の伝達が一部の領域で減少しているが、逆に一部の領域では増加しているという「アンバランスな状態」にある。
  • 脳のランダム性(SampEn)や情報伝達の変化(TE)は、ASDの症状の重さとも関係している可能性がある。
  • ASDの脳の「複雑さの変化」は、単純に減少するのではなく、「異常なランダム性」や「不均一な情報伝達」として現れる可能性がある。

ポイント(簡単なまとめ)

ASDの子どもは、脳の一部(右下前頭回)の活動が異常にランダムで、不規則な働きをしている可能性がある。

ASDの子どもは、典型発達の子どもに比べて、脳の領域間の情報伝達が全体的に少なく、一部の領域では過剰になっている。

脳の「複雑さ」の違いは、ASDの症状の重さとも関連している可能性があり、今後の研究でさらに詳細な分析が必要。

この研究は、ASDの子どもたちの脳の働きを「複雑さ」という視点から捉え直し、今後の診断や理解の手がかりを提供する重要な発見 となっています。

The Meaning of Autism Friendly in Hospital Settings: A Scoping Review of the Autism Community’s Perspectives

この研究は、病院が「自閉症に優しい(Autism Friendly)」環境を作るために何が必要なのかを明確にすることを目的としたもの です。現在、多くの病院が自閉症のある人々の受診しやすさを向上させようとしていますが、「自閉症に優しい」とは具体的に何を指すのか、共通の定義がない という問題があります。


研究の目的

  • 「自閉症に優しい病院環境」とは何か? を明確にする。
  • 自閉症のある人の視点 から、病院での 困難(バリア)改善策(サポート) を整理する。

研究方法

  • 4つの学術データベース11の自閉症関連団体の情報 を分析。
  • 「自閉症に優しい病院環境」に関する既存の定義 を調査。
  • 自閉症のある人の病院体験を扱った16の研究 から、困難(バリア)と改善策(サポート)を抽出。

研究結果

  1. 「自閉症に優しい病院環境」という明確な定義は存在しなかった。
  2. 自閉症のある患者が病院で直面する23のバリア(困難)と、19のファシリテーター(改善策)を特定。
  3. 3つの主要なカテゴリーに分類された:
    • 「人(People)」 → 医師や看護師の理解・対応の柔軟性。
    • 「場所(Place)」 → 病院の物理的環境(静かな待合室など)。
    • 「時間(Time)」 → 待ち時間の短縮や予約調整の柔軟性。
  4. 「柔軟性(Flexibility)」が最も重要な要素であり、すべてのカテゴリーで必要とされた。
    • 柔軟な対応をする医療スタッフ
    • 環境を調整できる病院
    • 時間の調整が可能な診療体制

研究の結論

  • 「自閉症に優しい病院環境」の具体的な定義はないが、柔軟性が鍵となる。
  • 医療スタッフのトレーニング、環境の配慮、予約・診療の時間調整が重要。
  • この研究は、病院が自閉症のある患者の受診しやすさを向上させるための具体的な指針を示している。

ポイント(簡単なまとめ)

病院が「自閉症に優しい」と言うための明確な定義はまだない。

自閉症のある人が病院で直面する課題は「人・場所・時間」の3つに分けられる。

「柔軟性」が最も重要なポイントであり、対応、環境、予約時間の調整が必要。

この研究は、病院が「自閉症に優しい」環境を作るための具体的な改善策を示している。

この研究は、病院の現場で実際に役立つ指針を提供するものであり、医療機関が自閉症のある患者のニーズに応じた対応をするための重要な一歩 となるでしょう。

Is There a Core Deficit in Autism Spectrum Disorder? An Analysis of CPEP-3 Assessment Data from 543 Children With Autism

この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)に「中核的な欠陥(コア・ディフィシット)」が存在するのか を検証したものです。発達障害の早期発見や介入を効果的に行うためには、「ASDの本質的な問題が何なのか」を明確にすることが重要ですが、これまで統一した見解はありませんでした。


研究の目的

  • ASDの子どもに共通する「中核的な発達の遅れ」が存在するのか?
  • それとも、ASDは単一の欠陥ではなく、多様な要因が絡み合った障害なのか?
  • 中国版の「Psychoeducational Profile-Third Edition(CPEP-3)」のデータを用いて検証。

研究方法

  • 対象者:ASDと診断された 543人の子ども
  • 評価ツールCPEP-3(心理教育プロファイル第3版)
    • 発達や適応行動の評価に用いられる検査
  • 分析手法:構造方程式モデリング(SEM)
    • 単一要因モデル(ASDの核心的な問題が1つに絞られると仮定)
    • 多要因モデル(ASDは単一の問題ではなく、複数の要因が関与すると仮定)
    • どちらのモデルがよりデータに適しているかを比較

研究結果

  • 「運動機能の遅れ」をコア・ディフィシットとする単一要因モデルは、他の単一要因モデルよりも適合性が高かった。
    • → つまり、ASDの子どもには「運動機能の遅れ」が重要な特徴として見られる可能性がある。
  • しかし、「多要因モデル」がすべての単一要因モデルよりもデータに適合していた。
    • ASDの症状は、運動機能だけでは説明できず、多様な発達の遅れや適応の問題が関与している。
    • ASDには単一の原因(コア・ディフィシット)を特定するのではなく、複数の要因が絡み合っていると考える方が適切。

研究の結論

  • ASDは、単一の発達の問題(コア・ディフィシット)で説明できるものではない。
  • 運動機能の遅れは、ASDの特性の一部として有効な指標となる可能性があるが、それがASDの本質ではない。
  • ASDの症状は、発達のさまざまな側面が関係しており、一つの要因に絞るのではなく、多面的に理解する必要がある。

ポイント(簡単なまとめ)

ASDの子どもには運動機能の遅れが見られることが多いが、それが唯一の「中核的な問題」ではない。

ASDは、複数の要因が絡み合った発達障害であり、単一の欠陥では説明できない。

診断や支援では、一つの側面に偏るのではなく、多面的な視点でアプローチすることが重要。

この研究は、ASDの理解において「単一の原因に絞らず、多様な要因を考慮するべき」ことを示唆しており、個別化された支援の必要性を強調しています。

How Educators’ Self-Construal Shapes Teacher Training: Navigating from Autism Awareness to Stigma

この研究は、教師の「自己の捉え方(セルフ・コンストラクト)」が、自閉症の認識や偏見にどのような影響を与えるのか を調査したものです。特に、自閉症に関する知識(オーティズム・アウェアネス)と偏見(スティグマ)の関係において、文化的要因である「自己の捉え方」がどのように関与するのか を分析しました。


研究の目的

  • 教育者の自己認識(セルフ・コンストラクト)が、自閉症の認識や偏見にどのような影響を与えるのかを調べる
  • 自閉症に関する知識が増えても、自己認識のタイプによっては偏見がなくならない可能性があるのかを検証する

研究方法

  • 対象者:将来的にASDの生徒と関わる可能性のある1031人の教育者の卵(実際の指導経験なし)
  • 調査項目
    • 自閉症認識尺度(Autism Awareness Scale):自閉症についてどれだけ理解しているか
    • 自己認識尺度(Self-Construal Scale):自分自身をどう捉えているか
    • 偏見尺度(Stigma Scale):自閉症に対する偏見の程度
  • 分析手法:自己認識(セルフ・コンストラクト)が、自閉症認識と偏見の関係をどのように媒介するかを分析。

研究結果

  1. 自己の捉え方(セルフ・コンストラクト)が、自閉症の認識や偏見に影響を与える
    • 「独立的自己観」(自分を他人と独立した存在と考える人): → 自閉症についての知識が高いほど、偏見が少ない傾向
    • 「関係的自己観」(自分を社会的なつながりの中で捉える人): → 自閉症についての知識があっても、必ずしも偏見が少なくなるとは限らない
  2. 自己の捉え方(セルフ・コンストラクト)は、自閉症認識と偏見の間の媒介役となる
    • 単に知識があるだけでは偏見は減らず、自己の捉え方によって受け止め方が変わる
    • 文化的要因(自己の捉え方)を考慮しないと、教育の効果が限定的になる可能性がある

研究の結論

  • 教師の文化的要因(自己の捉え方)が、自閉症に対する認識や偏見の形成に影響を与える。
  • 教育者の自閉症に関する知識を増やすだけでは不十分で、文化的背景や個々の自己認識を考慮した研修が必要。
  • 教師養成プログラムには、知識だけでなく、文化的要素(自己の捉え方)を組み込むべき。

ポイント(簡単なまとめ)

教師の「自己の捉え方」が、自閉症に対する偏見や理解の仕方を大きく左右する。

「自閉症について知っている=偏見がない」とは限らない。

自閉症教育の効果を高めるためには、教師の文化的背景や自己認識を考慮した研修が必要。

この研究は、単に自閉症の知識を増やすだけでなく、教育者の文化的要因を考慮したアプローチが、より効果的な偏見の解消につながることを示唆しています。

Effects of I-Connect to Increase Communication Initiations of Elementary Students on the Autism Spectrum

この研究は、自閉症スペクトラム(ASD)で話すことが難しい(非発話または最小限の発話)小学生が、自分からコミュニケーションを始める回数を増やすために、「I-Connect」という自己モニタリングアプリを活用する効果 を検証したものです。コミュニケーションの「開始(イニシエーション)」は、基本的な対人スキルを伸ばすために重要な要素ですが、このスキルを向上させる方法についての研究は限られています。


研究の目的

  • ASD児が「I-Connect」というアプリを使って自己モニタリングすることで、コミュニケーションを始める回数が増えるかを検証。
  • 過去の研究で使われた「トークン(物理的なご褒美)を使う自己モニタリング」との比較を行う。

研究方法

  • 対象者:ASDの小学生3人(8〜11歳)、非発話または最小限の発話の児童、特別支援教育の評価対象者。
  • 介入方法
    • I-Connectアプリを活用し、児童が自分のコミュニケーション開始回数をモニタリング。
    • 以前の研究では、物理的なトークン(ご褒美)を使っていたが、今回はデジタルツールを使用。
  • 研究デザイン
    • 複数ベースラインデザインを採用(各参加者の変化を時間差で観察)。

研究結果

  • すべての参加者が、アプリを使うことで自分からコミュニケーションを始める回数が増加。
  • 以前のトークンを使う研究と同等の成果が得られた。
  • 統計的解析(Tau-U分析)でも、有意な効果が確認された。
  • 事前・事後の評価では、機能的な言語スキルと社会的な相互作用の向上が確認された。

研究の結論

  • I-Connectのようなデジタル自己モニタリングツールは、非発話または最小限の発話のASD児にとって、コミュニケーション開始のスキルを伸ばすのに有効である可能性がある。
  • これまでのトークンを使う方法と同等の成果が得られたことから、より柔軟で個別対応しやすいデジタル介入が期待される。
  • ただし、介入の個別化が不足していた点や、固定された時間間隔での介入が予測可能になりすぎる可能性などの課題も指摘された。

ポイント(簡単なまとめ)

ASD児が「I-Connect」アプリを使うことで、自分からコミュニケーションを始める回数が増加。

従来のトークン(ご褒美)を使った方法と同じくらいの効果が確認された。

事前・事後の評価で、言語スキルや社会的相互作用の向上も確認。

個別対応の不足や、介入の予測可能性などの課題もあり、さらなる研究が必要。

この研究は、テクノロジーを活用した自己モニタリングが、自閉症の子どもたちのコミュニケーション能力向上に役立つ可能性を示した 重要な研究です。

A Preliminary Evaluation of Dyslexie’s Influence on Adult Dyslexic Reading Performance

この研究は、ディスレクシア(読字障害)のある成人が「Dyslexieフォント」(ディスレクシア向けにデザインされた特殊なフォント)を使うことで、読みやすさや読解速度が向上するのかを検証 したものです。Dyslexieフォントは、文字の形状を工夫し、文字の混同を減らすことを目的としていますが、その効果については専門家の間でも意見が分かれています。


研究の目的

  • Dyslexieフォントが成人のディスレクシアの読みの正確さや効率を向上させるのかを評価。
  • 他のフォントと比較し、Dyslexieフォントが本当に有効なのかを検証。
  • 読みやすさに関する主観的な満足度や好み(ユーザー体験)も調査。

研究方法

  • 対象者:ディスレクシアのある成人
  • 評価項目
    1. 読みの正確さ(誤読の少なさ)
    2. 読みの効率(読む速さ)
    3. 主観的な満足度(どのフォントが読みやすいと感じるか)
  • 比較したフォント
    • Dyslexieフォント
    • 標準的なフォント(例:Times New Romanなど)

研究結果

  • Dyslexieフォントは、他のフォントと比べて「読みの正確さ」や「読みの速さ」に統計的な差はなかった。
  • ただし、参加者の好みにはばらつきがあり、一部の人はDyslexieフォントを好む傾向が見られた。
  • フォントの違いによる実際の読解能力向上は確認されなかったが、使用者の満足度には影響を与える可能性がある。

研究の結論

  • Dyslexieフォントは、ディスレクシアのある成人の読解能力を向上させる決定的な証拠はない。
  • しかし、フォントの選択は「読みやすさの主観的な満足度」に影響を与える可能性があり、個々の好みに合わせた選択が重要。
  • ディスレクシア支援には、フォントだけでなく、音韻認識トレーニングなどの科学的に裏付けられた介入方法を重視すべき。
  • Dyslexieフォントの効果についてはさらなる研究が必要。

ポイント(簡単なまとめ)

Dyslexieフォントを使っても、読みの正確さや速さには大きな違いはなかった。

ただし、一部の人はDyslexieフォントを好む傾向があり、個々の満足度には影響を与える可能性がある。

フォント選びは重要だが、ディスレクシア支援には、音韻認識トレーニングなどの実証済みの介入方法も考慮すべき。

Dyslexieフォントの効果について、今後さらなる研究が求められる。

この研究は、ディスレクシア向けのフォントの有効性について、単なる主観的な満足度だけでなく、実際の読解能力向上という観点から再評価する重要な知見 を提供しています。

この研究は、全般的発達遅滞(Global Developmental Delay, GDD)のある子ども(2〜12歳)の自傷行動(Self-Injurious Behavior, SIB)が、年齢とともにどのように変化するのかを追跡調査したもの です。特に、知的障害(Intellectual Disability, ID)の程度による違いにも注目しています。


研究の背景

  • 自傷行動(SIB)は、知的・発達障害(IDD)のある人によく見られる行動で、生活の質に大きな影響を与える。
  • 過去の研究では、「SIBは年齢とともに増加する可能性がある」と言われているが、これまでの研究の多くは「断面研究(一時点でのデータ比較)」に基づいていた。
  • 本研究では、「長期間にわたる追跡調査(縦断研究)」を行い、SIBの発達的な変化を詳細に分析。

研究方法

  • 対象者:発達遅滞(GDD)のある子ども 110人(2〜12歳, 70%が男児)
  • 追跡期間2〜4年間
  • 評価方法保護者が毎年SIBの評価アンケート(RBS-EC SIBサブスケール)を記入
    • 合計317回の評価データを収集。
    • SIBの頻度・影響度・具体的な行動タイプ(例:頭を打つ、手を噛むなど)を分析。
  • 分析手法:年齢によるSIBの変化を解析し、知的障害の程度(軽度以下 vs. 中等度以上)で比較。

研究結果

  1. SIBの総スコア(全体的な頻度)
    • 年齢とともに増加する傾向が見られたが、変化のパターンは知的障害の程度によって異なった。
  2. SIBの影響度(生活への支障)
    • 中等度〜重度の知的障害がある子どもは、年齢を通じて一貫してSIBの影響が高かった。
    • 軽度または知的障害なしの子どもは、年齢とともにSIBの影響が増加する傾向があった。
  3. 具体的なSIBの種類(行動パターン)
    • SIBの表れ方(例:頭を打つ、皮膚を引っ掻くなど)は、年齢によって変化し、一定のパターンが見られた。

研究の結論

  • SIBの発達的な変化は単純ではなく、年齢や知的障害の程度によって異なるパターンを示した。
  • 知的障害が中等度以上の子どもは、SIBの影響が一貫して高いままだったが、軽度または知的障害がない子どもでは、成長とともに影響が強くなる傾向があった。
  • 思春期に近づくにつれ、SIBの頻度や影響が増加する可能性があり、継続的な支援が必要である。
  • 今後は、さらに長期間の追跡研究を行い、SIBの長期的な発達パターンや有効な介入方法を明らかにすることが求められる。

ポイント(簡単なまとめ)

発達遅滞のある子どものSIBは、年齢とともに増加する傾向があるが、知的障害の程度によって異なるパターンを示す。

重度の知的障害がある子どもは、年齢を通じてSIBの影響が高いままだが、軽度の子どもは成長とともに影響が強くなる傾向がある。

思春期に向けてSIBが悪化する可能性があり、早期介入や継続的な支援が重要。

今後の研究では、SIBの長期的な発達パターンをより詳細に調査し、効果的な介入策を明らかにすることが求められる。

この研究は、発達遅滞のある子どもの自傷行動がどのように変化し、それが生活にどのような影響を与えるのかを理解する上で貴重な知見 を提供しています。

Is There a Core Deficit in Autism Spectrum Disorder? An Analysis of CPEP-3 Assessment Data from 543 Children With Autism

この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)における「コア・ディフィシット(中核的な欠陥)」が存在するのかを検証 したものです。コア・ディフィシットとは、ASDのすべての症状の根本的な原因となる中心的な障害を指します。


研究の目的

  • 発達障害の早期発見と介入のために、「ASDに特定の中核的な欠陥があるのか」を調べる。
  • 運動機能(Motor)、言語(Language)、社会性(Social Skills)などの領域の中で、どれか一つがASDの主な原因なのか、それとも多様な要因が関係しているのかを分析。

研究方法

  • 対象者:ASDの診断を受けた 543人の子ども(中国)
  • 評価ツールCPEP-3(Psychoeducational Profile-Third Edition, 中国版)
    • 発達の各領域(運動、認知、社会性など)を評価する標準的なツール
  • 分析手法構造方程式モデリング(SEM)
    • 単一要因モデル(シングルファクターモデル) → 「運動機能がASDの中核的な欠陥である」など、1つの要因が主要な問題だと仮定。
    • 多要因モデル(マルチファクターモデル) → 「ASDは複数の要因によって成り立っている」と仮定。

研究結果

  1. 「運動機能の障害」がASDの中核的な要因である可能性が最も高い
    • 運動機能をコア・ディフィシットと仮定した単一要因モデルは、他の単一要因モデルよりも適合度が良かった(CFI = 0.86)。
    • しかし、それでもASDの多様な症状をすべて説明するには不十分だった。
  2. 多要因モデルのほうがより適切
    • ASDは「運動機能」だけでなく、「社会性」「適応能力」なども関係する、多様な発達の遅れや適応課題を伴う障害である。
    • 「ASDの症状は、1つの要因だけでは説明できず、複数の発達領域が絡み合っている」という結論に至った。

研究の結論

  • ASDに特定の「中核的な欠陥」は存在しない可能性が高い(少なくとも1つの単独要因だけで説明できるものではない)。
  • 運動機能の問題はASDの良い予測因子にはなるが、それだけが原因とは言えない。
  • ASDの症状は「多くの異なる要因が複雑に組み合わさって生じている」と考えるのが妥当。
  • 今後の研究では、「発達の多様な側面を総合的に評価し、個々の子どもに合わせた支援を行うこと」が重要である。

ポイント(簡単なまとめ)

ASDには特定の「中核的な欠陥」はなく、多様な要因が関係している。

運動機能の障害がASDの予測因子にはなるが、それだけで説明するのは不十分。

ASDの支援・介入には、単一の原因を探すのではなく、複数の要因を総合的に評価することが必要。

この研究は、ASDの診断や介入を考える際に、「1つの原因に絞るのではなく、子どもごとに異なる要素を考慮する必要がある」ことを示唆する重要な知見 を提供しています。

The Role of Story Mode in the Narrative Skills of Children in Arabic Diglossia: Comparing Children With Typical Language Development and Developmental Language Disorder

この研究は、アラビア語を話す幼児(5~6歳)の「語りの能力(ナラティブスキル)」が、発達性言語障害(DLD)の有無や、物語の語り方(モード)によってどのように異なるのか を調査したものです。特に、話し言葉のアラビア語(SpA)で物語を作る場合と、書き言葉の標準アラビア語(StA)で聞いた物語を再話する場合 を比較しました。


研究の方法

  • 対象者
    • DLD(発達性言語障害)のある子ども:18人(平均年齢5.6歳)
    • 通常の言語発達(TLD)の子ども:19人(平均年齢5.7歳)
  • 実験内容
    • SpA(話し言葉)の物語作り:「自由に物語を作る(ストーリーテリング)」
    • StA(書き言葉)の物語再話:「標準アラビア語で聞いた話を思い出して語る(ストーリーリテリング)」
  • 分析項目
    • マクロ構造(物語の大まかな流れ)
      • 登場人物、目的、行動、結果が整理されているか
    • ミクロ構造(細かい言語の特徴)
      • 言葉の多様性(語彙の種類)、文法の正確さ(性・数の一致など)

研究の結果

  1. 通常発達(TLD)の子どもは、DLDの子どもより語りのスキルが高い
    • マクロ構造(物語の流れ)も、ミクロ構造(語彙・文法の正確さ)もTLDが優れていた
    • 特にDLDの子どもは、主語と動詞の性の一致(例:「彼は行く」→「彼は行った」の正確さ)でエラーが多かった
  2. 「物語を聞いて再話する(リテリング)」ほうが、「自由に話す(ストーリーテリング)」より、語りの構成がしっかりしていた
    • どちらのグループも「リテリング」のほうが、物語の流れが整理され、語彙の多様性(使われる単語の種類)が豊富だった
    • 一方で、自由に話す(ストーリーテリング)のほうが、全体の言葉の量は多かった
  3. 標準アラビア語(StA)での再話でも、子どもたちはしっかり語ることができた
    • 標準アラビア語(StA)は、子どもにとって馴染みが薄いが、それでもリテリングの効果は見られた

研究の結論

  • DLDの子どもは、物語を語るスキルがTLDの子どもより低いが、物語の再話(リテリング)がそのサポートになる可能性がある
  • リテリングは、物語の構造を明確にし、より多様な語彙を使うのに役立つため、言語教育や評価に有効な手法と考えられる
  • 言語発達支援の際には、子どもに自由に話させるだけでなく、一度聞いた物語を再話させる活動を取り入れると、語彙や構成力を伸ばすのに効果的かもしれない。

ポイント(簡単なまとめ)

DLDの子どもは、物語の語りが苦手で、特に文法の誤りが多い。

物語を「自由に語る(ストーリーテリング)」よりも、「聞いた話を再話する(リテリング)」ほうが、構成が整理され、語彙の多様性も増す。

標準アラビア語(StA)でのリテリングも効果があり、言語支援のツールとして有望。

言語発達を促すには、「自由に話す」だけでなく、「リテリング」も組み合わせるのが効果的。

この研究は、言語発達支援や教育現場で、物語の語り方を工夫することでDLDの子どもの言語能力を伸ばす手助けができる可能性を示しています。

Perceived Stress and Depressive Symptoms Among Mothers of Children with ASD After the Recent Earthquakes in Türkiye: The Mediating Role of Perceived Social Support

この研究は、トルコで発生した大地震後、ASD(自閉症スペクトラム障害)の子どもを持つ母親がどれほどのストレスやうつ症状を抱え、社会的サポートがどのように影響しているのかを調査 したものです。また、社会的サポートがストレスとうつ症状の関係を和らげる役割を果たすかどうか も分析しました。


研究の方法

  • 対象者
    • ASD児の母親 77人
    • 一般的な発達の子ども(TD)の母親 122人
  • データ収集期間:2023年4月~9月
  • 評価方法
    • ストレス測定:「PSS-14(知覚ストレス尺度)」
    • うつ症状測定:「BDI(ベックうつ病尺度)」
    • 社会的サポート測定:「MSPSS(多次元社会的サポート尺度)」
    • 統計分析:SPSSとProcess Macroを使用

研究の結果

  1. ASD児の母親は、TD児の母親よりもストレスが高く、うつ症状も強い
    • ASD児の母親は、地震後の心理的負担がより大きいことが示された。
  2. ASD児の母親は、TD児の母親に比べて社会的サポートが少ない
    • 例:家族、友人、地域社会からのサポートが不足している。
  3. ストレスが強いほど、社会的サポートを少ないと感じる
    • ストレスの29%は社会的サポートの低さと関係 していると分析された。
  4. ストレスとうつ症状の関係に、社会的サポートが介在している
    • ストレスが強いと、うつ症状も強まるが、社会的サポートが高いとその影響が和らぐ
    • ストレスとうつ症状の56.6%の関連性は、社会的サポートの影響を考慮すると説明できる

研究の結論

  • ASD児の母親は、災害後により大きな心理的負担を抱えやすい
  • ストレスを軽減し、うつ症状を防ぐためには、社会的サポートが重要な役割を果たす
  • 家族、友人、地域社会によるサポートを増やすことで、ASD児の母親の心理的健康を改善できる可能性がある

ポイント(簡単なまとめ)

ASD児の母親は、地震後に強いストレスとうつ症状を抱えやすい

TD児の母親に比べ、社会的サポートが少ない

ストレスが高いほど、社会的サポートを低く感じる

社会的サポートが多いほど、ストレスによるうつ症状を和らげる効果がある

母親へのサポートを増やすことが、心理的負担の軽減につながる可能性がある

この研究は、災害後の支援策として、ASD児の母親への社会的サポートを強化することの重要性を示唆しており、福祉政策や支援プログラムの改善に役立つ知見を提供しています

Life project: a scoping review of assessment tools for persons with autism spectrum disorder

この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)のある人が思春期から成人期へ移行する際に直面する課題を支援するための「ライフプロジェクト(Life Project, LP)」の評価ツールを調査 したものです。ライフプロジェクトとは、個々のニーズに基づいた長期的な支援計画 を指し、ASDの人々の自立や社会参加を促すために重要とされています。


研究の目的

  • ASDの人々のライフプロジェクト(LP)を構築する際に使われる評価ツールや方法を明らかにする
  • 現時点でどのようなツールが存在し、どのような点が不足しているのかを分析する

研究の方法

  • PRISMA(システマティックレビュー・メタアナリシスの報告基準)に基づき、スコーピングレビュー(概観的調査)を実施
  • Embase、Scopus、Web of Science、PubMed、CINAHL、PsycINFOなどのデータベースから文献を検索
  • 899件の研究を精査し、最終的に8件の研究をレビュー対象として選定

研究の結果

  1. ライフプロジェクトを作成する上で、「個人の好みの評価(Preference assessment)」と「環境とのバランス(Ecological balance)」が重要な要素であることが明らかになった
    • 個人の好みの評価:ASDの人がどのような活動や環境を好むかを特定し、適切な支援を設計する。
    • 環境とのバランス:個人の特性やニーズに合った環境を整えることが、ライフプロジェクトの成功に不可欠。
  2. ライフプロジェクトに特化した評価ツールは、まだ十分に確立されていない
    • ASDの支援に活用できる評価ツールはいくつか存在するものの、ライフプロジェクトの全体像を捉えるために開発された包括的なツールは不足している

研究の結論

  • ASDの人のライフプロジェクトを設計するには、個人の好みやニーズを正確に把握し、環境との適切なバランスを考慮することが不可欠
  • しかし、ASDの人向けに特化したライフプロジェクトの評価ツールはまだ不十分であり、今後の研究と開発が必要

ポイント(簡単なまとめ)

ASDの人が成人期へ移行する際の「ライフプロジェクト(LP)」の評価ツールを調査

「個人の好みの評価」と「環境とのバランス」が重要な要素として浮上

ライフプロジェクトに特化した評価ツールはまだ十分に開発されていない

ASDの人に適した包括的な支援計画を作るために、より実用的なツールの開発が求められる

この研究は、ASDの人々がより良い生活を送るための支援計画を作成する際に、どのような評価方法が適切かを明らかにし、今後の課題を提起する重要な研究 です。

Protocol for socioecological study of autism, suicide risk, and mental health care: Integrating machine learning and community consultation for suicide prevention

この研究は、自閉症の人が自殺リスクを抱えやすい理由や、適切なメンタルヘルスケアを受ける要因を多角的に分析するためのプロトコル を紹介しています。自閉症の人は一般人口よりも自殺念慮(SI)や自殺未遂(SA)のリスクが高い ことが知られていますが、なぜそうなるのか、また適切な支援を受けるための障壁が何かについては十分に解明されていません。本研究では、社会生態学的要因(個人・地域・政策レベルの影響)を分析し、リスク要因と支援の促進・阻害要因を明らかにする ことを目的としています。


研究の方法

  1. 多層的なデータの統合
    • 医療データ(IBM MarketScan, Medicaid)から、12~64歳の自閉症の人の医療情報を収集。
    • 公的データベース(地域の社会経済的要因や政策情報)を統合し、個人・地域・政策レベルの情報を組み合わせたデータセットを作成
  2. 機械学習を活用した分析
    • データの次元を減らすために機械学習を使用。
    • その後、統計モデルを用いて、自殺リスクの高い要因やメンタルヘルスケアの受診を妨げる要因を特定
  3. 自閉症の当事者や政策アドバイザーとの連携
    • 自閉症の当事者グループと協力し、研究が実際のニーズに沿ったものになるよう調整
    • 政策立案者や医療従事者とも協力し、研究結果を実践的な提言につなげる

研究の仮説

  • 自閉症の人の自殺リスクは、個人(併存疾患、年齢、性別)、地域(医療アクセス、社会的弱者への支援)、政策(精神医療政策、メディケイド拡大の有無)といった複数の要因が影響している と考えられる。
  • 適切なメンタルヘルスケアを受けられるかどうかも、これらの多層的な要因に依存している 可能性が高い。

研究の意義

  • 自閉症の人の自殺リスクを減らすために、どのような要因が関係しているのかを包括的に理解することができる
  • メンタルヘルスケアの受診状況を分析し、支援を阻害する要因を特定することで、より効果的な支援策を提案できる
  • 研究結果を自閉症当事者や政策立案者と共有し、実際に役立つ政策や支援策を立案するための基盤を作る

ポイント(簡単なまとめ)

自閉症の人の自殺リスクやメンタルヘルスケア受診の要因を分析するため、医療・地域・政策データを統合して調査する

機械学習を活用し、多層的なリスク要因の特定を目指す

自閉症の当事者や政策アドバイザーと連携し、実践的な提言につなげる

自閉症の人が適切な支援を受けやすくなるための新たな知見を提供することを目的とする

この研究は、自閉症の人のメンタルヘルスをより深く理解し、実際に役立つ支援策を生み出すための重要なステップ となるでしょう。

A randomized controlled trial of the effects of dog-assisted versus robot dog-assisted therapy for children with autism or Down syndrome

この研究は、犬を使った動物介在療法(Dog-Assisted Therapy, DAT)とロボット犬を使った療法(Robot Dog-Assisted Therapy, RDAT)が、自閉症(ASD)またはダウン症(DS)のある子どもにどのような影響を与えるかを比較したランダム化比較試験(RCT) です。


研究の目的

  • これまでの動物介在療法の研究では、比較対象が「無治療」や「通常の治療」のみであることが多く、本当に効果があるのか不明確な点があった。
  • そこで、本研究では、「犬を使った療法(DAT)」と「ロボット犬を使った療法(RDAT)」を直接比較 し、その効果を検証することを目的とした。

研究方法

  • 対象:7~16歳のASDまたはDSのある子ども 65人
    • DATグループ(犬を使用):24人(女性9人)
    • RDATグループ(ロボット犬を使用):21人(女性8人)
    • 無治療グループ(比較のため何もしない):20人(女性8人)
  • 介入:すべての子どもが5回のセッション を受けた(DATとRDAT)。
  • 評価項目
    • 社会的スキル(会話能力、社会的認識、社会的動機)
    • 感情面のスキル(感情の調整、共感力)
  • 評価方法
    • 親のアンケートによる評価(介入前・介入後・4~6週間後のフォローアップ)

研究結果

  1. 感情面のスキル(共感力・感情調整)
    • 犬を使った療法(DAT)を受けた子どもは、他の2つのグループよりも有意に向上 した。
  2. 社会的スキル(社会的自信、会話の調整、社会的認識、社会的動機)
    • グループ間で有意な差は見られなかった
  3. 効果の持続性
    • 介入後4~6週間のフォローアップでは、変化の持続は明確ではなかった
  4. 個人レベルでの変化
    • 「最も大きな改善」を示した子どもの多くが、犬を使った療法(DAT)グループにいた
    • 逆に、最も変化が少なかった子どもの多くがロボット犬グループ(RDAT)にいた

結論と今後の課題

  • 犬を使った療法(DAT)は、特に感情の共感力や感情調整の向上に効果がある可能性がある
  • 社会的スキルの向上には、DATもRDATも明確な効果は見られなかった
  • ロボット犬による療法(RDAT)は、一部の子どもには効果があるかもしれないが、全体的にはDATよりも効果が低い 可能性がある。
  • 効果の個人差が大きいため、今後はより個別化されたアプローチが必要

ポイント(簡単なまとめ)

犬を使った療法(DAT)は、子どもの共感力や感情の調整力を向上させる可能性が高い

ロボット犬を使った療法(RDAT)は、個人差が大きく、全体的にはDATほどの効果は見られなかった

社会的スキルの向上には、どちらの方法も明確な効果は確認できなかった

効果には個人差があり、今後は個々の子どもに適した療法の選択が重要

この研究は、動物介在療法が自閉症やダウン症のある子どもにとってどのように有効かをより明確にするための重要な知見 を提供しています。

The Role of Perceived Social Support in the Association Between Stress and Creativity Self-Efficacy Among Adolescents With Attention Deficit Hyperactivity Disorder

この研究は、ADHD(注意欠陥・多動性障害)のある思春期の生徒がストレスを受けると創造的な自信(Creativity Self-Efficacy, CSE)が低下しやすいが、社会的サポートがその影響を和らげる役割を果たすのか を調査したものです。


研究の目的

  • ADHDのある思春期の生徒は、ストレスや注意力の問題、衝動性の影響で創造的な自信が低くなりがち
  • しかし、家族や友人、教師などからの社会的サポートがあれば、ストレスの悪影響を和らげ、創造性の自信を高める可能性がある。
  • 本研究では、ストレス・社会的サポート・創造的自信の関係を分析し、社会的サポートがどのように影響するのかを明らかにすることを目的とした。

研究方法

  • 対象:ADHDの診断を受けた305人の中学生(6つの学校から選出)
  • 評価ツール
    • 思春期ストレス尺度(Adolescence Stress Scale) → ストレスレベルを測定
    • 創造的自己効力感尺度(Creative Self-Efficacy Scale, CSE) → 自分の創造力への自信を測定
    • 多次元社会的サポート尺度(Multidimensional Scale of Perceived Social Support, MSPSS) → 家族・友人・周囲からのサポートの度合いを測定
  • 分析方法
    • ピアソン相関分析(変数間の関係を見る)
    • 媒介分析(Mediation Analysis)(社会的サポートがストレスと創造的自信の関係にどう影響するかを検証)

研究結果

  1. ストレスが高いほど、創造的自信は低くなる(r = -0.791, p < 0.001)。
    • ADHDの生徒は、ストレスを感じると自分の創造力に自信を持ちにくくなる。
  2. 社会的サポートが高いほど、創造的自信が高まる(r = 0.548, p < 0.001)。
    • 家族や友人、教師の支援があると、創造的な自信が高まる傾向がある。
  3. 社会的サポートは、ストレスと創造的自信の関係を緩和する
    • ストレスが創造的自信を低下させる影響(B = -0.149, t = 7.987, p < 0.001)を、社会的サポートが和らげることが確認された。

結論

  • ADHDのある思春期の生徒は、ストレスが高まると創造的な自信を失いやすいが、社会的サポート(家族・友人・教師などの支援)があれば、その悪影響を軽減できる
  • ストレスの影響を受けにくくし、創造性を伸ばすためには、家族や学校が積極的にサポートすることが重要
  • 教育現場や医療・福祉の支援策として、ADHDの生徒に対する社会的サポートを強化することが推奨される

実践への示唆

ADHDの生徒には、家庭・学校・地域社会でのサポートを充実させることが重要

社会的サポートがあれば、ストレスが創造的自信に与える悪影響を減らせる

教師や親が、生徒の創造性を伸ばせるように積極的にサポートすることが必要

ADHD支援プログラムには、ストレス管理と社会的サポートの強化を組み込むべき

この研究は、ADHDの生徒の創造性を高めるために「社会的サポートの強化」が重要であることを示し、教育や支援策の見直しに役立つ知見 を提供しています。