メインコンテンツまでスキップ

高校卒業後の自閉症青年の進路予測

· 約41分
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

この記事では、発達障害(特に自閉症スペクトラム障害, ASD)や知的障害に関する最新の学術研究を幅広く紹介しています。主なテーマとして、マインドフルネス介入が発達障害児の親のメンタルヘルスに与える影響、自閉症児の社会的スキルと運動能力の関連性、MRIデータを用いたASD診断の機械学習モデル、インドで開発されたASD評価ツールのレビュー、ASD児の神経伝達物質異常、IQの違いによるASD児の社会的機能の差異、高校卒業後の自閉症青年の進路予測、不安障害を持つ香港のASD児の実態、精神病スペクトラム障害のリスク要因、発達性協調運動障害(DCD)の社会的影響、ASD児の親の愛着スタイルと羞恥心などが取り上げられています。これらの研究は、ASDや関連障害の診断・介入・支援の改善に向けた重要な知見を提供しており、今後の福祉・教育・医療分野における実践への応用が期待されます。

学術研究関連アップデート

The Effectiveness of Mindfulness-Based Interventions in Improving the Mental Health of Parents of Children with Intellectual or Developmental Disabilities: A Systematic Review and Meta-Analysis

この研究は、知的障害(IDD)や発達障害のある子どもを持つ親のメンタルヘルスを改善するために、マインドフルネスに基づく介入(Mindfulness-Based Interventions, MBI)がどの程度効果的かを検証した系統的レビューとメタ分析です。親は、子どもの育児に伴うストレスや不安、うつ症状を抱えやすいため、これらを軽減する支援方法としてMBIが注目されています。

研究の方法

  • 複数のデータベース(Web of Science、PubMed、Embaseなど)を用い、2024年12月までの関連研究を系統的に収集。
  • 15の研究(参加者1124人)を分析し、そのうち14の研究(1078人)についてメタ分析を実施。
  • ストレス、不安、うつ症状、親子関係の改善を主要な評価指標として分析。

主な結果

  1. MBIは、親のストレス(SMD = -0.26)、うつ症状(SMD = -0.37)、精神的苦痛(SMD = -0.26)、不安(SMD = -0.35)を軽減する効果があった
  2. 親子関係の改善にも一定の効果(SMD = -0.32)が見られた
  3. 特に8週間以上のプログラム(SMD = -0.41)や、親のみを対象とした介入(SMD = -0.26)は、ストレス軽減や親子関係の改善に効果的だった
  4. しかし、MBIが親のマインドフルネス能力(心を落ち着け、現在の状況を受け入れる力)を高めるかどうかは明確ではなかった

結論と意義

  • MBIは、知的・発達障害のある子どもを持つ親のストレスや不安、うつを軽減し、親子関係を改善する効果が期待できる。
  • より長期間のプログラムや、親のみを対象とした介入が効果的な可能性がある。
  • ただし、介入の実施方法やその効果を評価するために、今後は大規模なランダム化比較試験(RCT)の実施が必要。

この研究は、発達障害児を持つ親の精神的負担を軽減するための実践的な手法として、MBIの可能性を示唆しており、今後の研究や支援策の設計に役立つ知見を提供しています。

Mapping Children’s Social and Motor Skill Profiles to Autistic Traits and Behavioral Tendencies

この研究は、子どもの社会的スキルと運動能力の組み合わせが、自閉症特性や行動傾向とどのように関連するかを分析したものです。研究チームは、「個人中心のアプローチ(person-centered approach)」を用い、異なるスキルプロファイルを持つ子どものサブグループを特定し、それらが自閉症特性や診断状況とどう結びつくかを調査しました。

研究方法

  • 対象者:5〜15歳の子どもを持つ保護者538名が回答。
  • 評価項目
    • 自閉症特性(autistic traits)
    • 社会的スキル(social skills)
    • 運動能力(motor skills)
    • 行動傾向(behavioral tendencies)
  • 分析手法
    • 因子分析を用いてスキル指標を抽出し、潜在プロファイル分析(LPA)で子どもを6つのプロファイルに分類
    • 各プロファイルごとに、自閉症特性や行動傾向、診断の有無を比較

主な結果

研究の結果、子どもの社会的スキルと運動能力の組み合わせに基づいて6つの異なるプロファイルが存在することが判明しました。

  1. プロファイル1(弱い運動能力 + 平均的な社会性)
  2. プロファイル2(社会性・運動能力ともに低い)
  3. プロファイル3(社会性が高く、運動能力も強い)
  4. プロファイル4(社会性・運動能力ともに平均)
  5. プロファイル5(社会性が強く、運動能力もやや高い)
  6. プロファイル6(社会性・運動能力ともに非常に高い)
  • 自閉症診断の割合はプロファイルごとに異なり、特に社会性・運動能力が弱いプロファイル(1・2)で高かった
  • 社会性と運動能力のバランスが取れている子ども(プロファイル4)と比較して、スキルの偏りがある子どもは行動上の困難が多い傾向があった

結論と意義

  • 社会的スキルと運動能力は、相互に関連しながら子どもの発達に影響を与える可能性がある
  • 自閉症特性のある子どもは、社会的スキルや運動能力の発達パターンが異なり、適切な支援にはこれらの個別のプロファイルを考慮する必要がある
  • この研究の結果は、発達支援や介入プログラムを個々のスキルプロファイルに合わせて最適化することの重要性を示している

この研究は、「社会性と運動能力の組み合わせ」に注目することで、自閉症の子どもたちに適した支援のあり方をより深く理解するための新しい視点を提供しています。

Classification and Feature Selection of Autism Spectrum Disorder Using MRI Data: A Machine Learning Approach

この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断において、MRI(磁気共鳴画像)データを用いた機械学習(ML)モデルの分類精度を比較したものです。これまでの研究では、ASDの人と定型発達(CTL)の人では脳の構造に違いがあることが示されていましたが、機械学習を活用することでより正確な診断モデルを構築できる可能性があります。

研究方法

  • 対象データABIDE(Autism Brain Imaging Data Exchange)リポジトリから取得したMRIデータ(合計740名、ASD344名、CTL396名)。
  • 使用した機械学習アルゴリズム
    • ブースティング(Boosting):複数の弱い学習器を組み合わせて強力なモデルを作る手法。
    • バギング(Bagging):異なる学習器の結果を統合して予測精度を向上させる手法。
    • ニューラルネットワーク(Neural Networks):脳の神経回路を模した多層構造の学習モデル。
  • 評価方法
    • トレーニング段階:受信者動作特性曲線(ROC)を用いたモデルの性能評価。
    • テスト段階:分類の正確性をバランス精度(Balanced Accuracy)で比較。

主な結果

  • 最も精度が高かったアルゴリズム
    • SGBM(Stochastic Gradient Boosting Machine):バランス精度 78.87%
    • ランダムフォレスト(RF):第2位
    • 平均化ニューラルネットワーク(Av_NNET):第3位
  • ASDとCTLを区別する上で重要な脳領域
    • 右Heschl回(Heschl gyrus)(聴覚処理に関連)
    • 左帯状回・傍帯状回(median cingulate and paracingulate gyri)(感情・注意制御に関連)
    • 左下後頭回(inferior occipital gyrus)(視覚処理に関連)
    • 右縁上回(supramarginal gyrus)(言語と感覚処理に関連)
    • 左後帯状回(posterior cingulate gyrus)(自己認識や記憶に関連)

結論と意義

  • SGBM(勾配ブースティング法)がASDの分類に最も有効な機械学習アルゴリズムであることが示された
  • 重要な脳領域の選定により、ASDの診断精度を高める手がかりが得られた
  • 今後、異なる種類の脳画像データ(マルチモーダル)を活用すれば、より高精度な診断モデルを構築できる可能性がある

この研究は、MRIデータと機械学習を組み合わせることで、ASDの診断精度を向上させる可能性を示し、今後のAIを活用した診断支援の発展に貢献する知見を提供しています。

Assessment Tools for Autism Spectrum Disorder (ASD) Developed in India: A Scoping Review

この研究は、インドで開発された自閉症スペクトラム障害(ASD)の評価ツールを包括的に整理し、その特徴を明らかにすることを目的としたスコーピングレビューです。これまでのASD評価ツールのレビューでは、国際的に使用されるツールが中心であり、インド国内で開発されたツールが十分に取り上げられてこなかったという課題を指摘しています。

研究の背景と意義

  • 文化的に適応した評価ツールが、ASDの正確な診断と識別に不可欠である。
  • インドは多言語・多文化社会であり、欧米の評価ツールをそのまま使用するのではなく、地域に適したものが必要
  • 既存の研究では、インド国内のASD評価ツールについての包括的なレビューがなかったため、この研究がそのギャップを埋める

研究方法

  • 2000年から2024年までの期間に発表された、インドで開発されたASD評価ツールに関する26の研究を分析
  • ASDの診断やスクリーニング(早期発見)に使用される15の評価ツールを特定

主な評価ツール(例)

  • SIASDEC
  • Concern-9
  • ISAA(Indian Scale for Assessment of Autism)
  • INDT-ASD
  • AIIMS-Modified-INDT-ASD
  • CASI
  • IASQ
  • Regression Screening Tool
  • TABC
  • RBSK-ASQ
  • NASI
  • NSERQ
  • SERA
  • Screening Checklist for Problem Behaviors in Children with Communication Disorders
  • Development Assessment Chart Incorporated Immunization Card

主な結果と意義

  • インド国内で開発されたASD評価ツールは、現地の言語・文化に適したものが多く、診断の正確性を高める可能性がある
  • これらのツールの多くは、優れた心理測定特性(信頼性・妥当性)を示しており、臨床現場や研究での活用が期待される
  • 今後の課題として、これらの評価ツールの全国的な普及や、さらなる検証が必要

結論

この研究は、インドで開発されたASD評価ツールの現状を整理し、文化的に適した診断方法の重要性を強調しています。ASDの早期発見や正確な評価のために、各国の文化的背景に合ったツールを活用することが不可欠であることを示唆しており、今後の研究や臨床応用の基盤となる重要な知見を提供しています。

Gamma-aminobutyric acid and glutamate system dysregulation in a small population of Egyptian children with autism spectrum disorder

この研究は、エジプトの自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもにおいて、神経伝達物質「GABA(ガンマアミノ酪酸)」と「グルタミン酸」のバランスが崩れている可能性を調査したものです。GABAは**神経の興奮を抑える(抑制性)神経伝達物質であり、グルタミン酸は神経を活性化する(興奮性)**神経伝達物質です。過去の研究では、ASDの症状(反復行動やコミュニケーション障害)にこれらの異常が関与している可能性が示唆されていました。

研究の目的

  • ASDの子どもと定型発達(NT)の子どもを比較し、GABA受容体(GABAA、GABAB)とグルタミン酸の血中濃度を測定
  • ミネラル(カリウム、カルシウム、亜鉛)の血中濃度も調査し、それらがASDの症状と関連しているかを分析

研究方法

  • 対象者
    • ASD児40名(診断はCARSおよびADI-Rに基づく)。
    • 定型発達(NT)児40名(年齢・性別をマッチング)。
  • 測定項目
    • GABAA受容体、GABAB受容体の血中濃度。
    • グルタミン酸の血中濃度。
    • 3つのミネラル(カリウム、カルシウム、亜鉛)の血中濃度。

主な結果

  1. GABA受容体の減少
    • ASD児は、GABAA(0.6)とGABAB(2.03)の受容体濃度が有意に低かった(P < 0.001)
    • これは、神経の抑制機能が弱まり、脳の興奮が過剰になりやすいことを示唆
  2. グルタミン酸の増加
    • ASD児のグルタミン酸濃度(102)は、NT児に比べて有意に高かった(P < 0.001)
    • 興奮性の神経伝達が過剰になっている可能性がある。
  3. ミネラル(カリウム、カルシウム、亜鉛)の減少
    • ASD児の血中ミネラル濃度がすべて低下
      • カリウム(3.8 vs. 4.6)
      • カルシウム(9.0 vs. 9.7)
      • 亜鉛(57.0 vs. 92.0)
    • *特に亜鉛は反復行動と強い負の相関(rho = -0.488, P = 0.001)**を示し、亜鉛不足がASD症状と関連している可能性

結論と意義

  • ASDの子どもは、GABAの機能が低下し、グルタミン酸が過剰な状態になっている可能性
  • ミネラル(特に亜鉛)が不足しており、それが反復行動などの症状に関連している可能性
  • 今後、GABAやミネラルを調整することで、ASDの症状を改善できるかどうかを研究することが重要

この研究は、ASDの神経伝達物質とミネラルバランスの異常を示し、今後の治療法開発に役立つ可能性のある知見を提供しています。

Social Functioning in Autistic Children with Below-Average vs. Average IQ: Limited Behavioral and Neural Evidence of Group Differences

この研究は、知的能力(IQ)が自閉症児の社会的機能にどのような影響を与えるかを、行動評価と神経測定(脳の反応)を用いて調査したものです。一般的に、自閉症スペクトラム障害(ASD)と知的障害(ID)は高い割合で併存しますが、これまでの研究や臨床試験ではIQが低い自閉症児が除外されることが多く、その影響についての理解が不足していました

研究方法

  • 対象者
    • *知的障害(ID)を伴う自閉症児(IQが平均以下)**41名
    • IQが平均レベルの自閉症児41名
    • ※両グループとも年齢・性別・自閉症の症状の重さを一致させた
  • 評価方法
    1. 保護者の報告:日常生活での社会的なやりとりや行動を評価。
    2. 標準化された行動テスト
      • 顔認識の記憶(NEPSY Memory for Faces delayed)
      • 心の理論(Theory of Mind)
      • 初対面の友好的な相手との社会的なやりとり
    3. 脳の反応測定(事象関連電位, ERP)
      • 社会的情報(顔や人の画像)と非社会的情報(物体の画像)に対する反応速度や脳活動を記録

主な結果

  1. 日常生活での社会的機能(保護者の報告)にはIQの影響がなかった
  2. IQが平均レベルの自閉症児は、以下の点で優れていた
    • 顔認識の記憶(顔を覚える能力)
    • 心の理論(他者の視点を理解する能力)
    • 初対面の相手との社会的なやりとり
  3. 脳の反応の違いは限定的だった
    • IQが低い自閉症児は、視覚刺激の処理速度がわずかに遅かった
    • 社会的な画像と非社会的な画像の違いを感じ取る脳の反応の大きさが若干異なった
    • ただし、画像の記憶能力にはIQの影響がなかった
  4. 性別による影響は見られなかった

結論と意義

  • IQの違いは、一部の社会的認知(顔の記憶や他者の視点の理解)や社会的行動に影響を与えるが、日常生活での社会的機能には大きな影響を及ぼさない可能性がある
  • 脳の反応の違いもごくわずかであり、IQが低い自閉症児を研究に含めることは十分可能である
  • 今後の研究や臨床試験では、より広範なIQの自閉症児を対象にすることで、より包括的な理解が得られる可能性がある

この研究は、自閉症児の知的能力が社会的機能に与える影響を明確にし、低IQの自閉症児を研究や支援プログラムに積極的に含める重要性を示唆しています。

Assessment Tools for Autism Spectrum Disorder (ASD) Developed in India: A Scoping Review

この研究は、インドで開発された自閉症スペクトラム障害(ASD)評価ツールを体系的に整理し、その特性を明らかにするスコーピングレビューです。多くのASD評価ツールは欧米で開発されており、文化的背景の異なる国々での適用には限界があります。特に、多様な言語・文化を持つインドにおいて、現地に適応した評価ツールの必要性が高まっていることを背景に、この研究が行われました。

研究の概要

  • 対象:2000年から2024年に発表された、インドで開発されたASD評価ツールを扱う26本の研究。
  • 目的
    1. インドで開発されたASD評価ツールの特定と分類
    2. それらのツールが持つ文化的適応性や心理測定特性(信頼性・妥当性)を明らかにする

主な結果

  • インド独自のASD評価ツール15種類を特定
    • SIASDEC, Concern-9, ISAA, INDT-ASD, AIIMS-Modified-INDT-ASD, CASI, IASQ, Regression Screening Tool, TABC, RBSK-ASQ, NASI, NSERQ, SERA, Screening Checklist for Problem Behaviors in Children with Communication Disorders, Development Assessment Chart Incorporated Immunization Card など。
  • これらのツールは、インドの文化・言語に適応されており、欧米のツールと比較してより正確な診断が可能
  • 多くのツールが有望な心理測定特性(信頼性・妥当性)を示しており、臨床や研究での活用が期待される

結論と意義

  • インド独自のASD評価ツールは、より正確な診断を可能にし、適切な支援につながる重要な資源である
  • 既存のASD評価において、文化的・言語的な適応が不足している問題を補完できる可能性がある
  • 今後は、これらのツールのさらなる標準化や国際比較を進めることで、より精度の高い評価システムを構築することが求められる

この研究は、インドの多様な文化・言語に適応したASD評価ツールの重要性を強調し、現地の医療・研究者に向けた実用的なリソースを提供するものです。

Predicting Post-School Outcomes in Autistic Young Adults One Year after High School Graduation

この研究は、高校卒業後1年の時点での自閉症の若者の進路(就職・社会生活・自立度)を予測する要因を、高校最終学年時のデータから分析したものです。また、うつ症状が他の要因と進路の関係を媒介するかどうかも調査しました。

研究の概要

  • 対象:高校最終学年の自閉症の若者32名とその親。
  • データ収集時期
    • T1(高校最終学年):社会的コミュニケーション能力、実行機能(計画・自己管理能力)、日常生活の責任感、うつ症状を評価。
    • T2(高校卒業1年後):仕事や進学、社会的な幸福度、自立度を測定。
  • 分析:T1の要因がT2の進路結果にどの程度影響を与えるかを統計的に検証。

主な結果

  1. 高校時点の「実行機能」「日常生活の責任感」「うつ症状」は、1年後の進路に強く関連
  2. 社会的コミュニケーション能力は、進路との明確な関連は見られなかった
  3. 進路の40.2%のばらつきは、高校時点の「実行機能」「日常生活の責任感」「うつ症状」によって予測可能
  4. 特に「うつ症状」が最も強い影響を持ち、実行機能の影響も「うつ症状」を通じて間接的に進路に関わっていた(媒介効果)。

結論と意義

  • 高校時代の「うつ症状」が、卒業後の進路に大きな影響を及ぼす可能性が高く、精神的なケアが重要
  • 実行機能や日常生活の責任感を高める支援は、うつの軽減を通じて卒業後の適応を向上させる可能性がある
  • 認知行動療法(CBT)などを活用し、実行機能や精神的健康を総合的に支援するアプローチが有望

この研究は、自閉症の高校生に対するメンタルヘルス支援が、卒業後の社会適応や進路成功につながる重要な要素であることを示しており、教育や福祉の現場での支援の方向性を示唆するものです。

Prevalence of anxiety disorders in a clinical sample of Chinese children with autism spectrum disorder in Hong Kong

この研究は、香港に住む漢民族の自閉症スペクトラム障害(ASD)児における不安障害の有病率を調査し、介入可能な関連要因を特定することを目的としています。ASDの子どもは不安を感じやすいものの、その症状がASDの一部として見過ごされることが多く、実態を明らかにすることが重要です。

研究方法

  • 対象:165名のASD診断を受けた香港在住の漢民族の子ども。
  • 診断確認
    • ASD診断:中国語版Developmental, Dimensional and Diagnostic Interview(3Di)
    • 不安障害の診断:中国語版Diagnostic Interview Schedule for Children-Version Four(DISC-IV)(保護者へのインタビュー)。

主な結果

  1. 不安障害の合併率は52.1%と高かった
  2. 各不安障害の有病率
    • 特定の恐怖症(例:高所恐怖症、動物恐怖症など):44.8%(最も多い)
    • 分離不安障害:11.5%
    • 社交不安障害:9.1%
    • 広場恐怖症:0.6%
    • 選択性緘黙(場面によって話せなくなる症状):0.6%
    • パニック障害と全般性不安障害:0%(該当者なし)
  3. 不安障害と関連する要因
    • 自閉症の診断タイプや**3Diスコア(ASD症状の重さ)**が高い子どもほど、不安障害のリスクが高かった。
    • 世帯収入が高い家庭の子どもは、不安障害のリスクが低かった(保護的要因)。

結論と意義

  • 香港のASD児における不安障害の合併率は非常に高く、特に特定の恐怖症が最も多い
  • ASDの症状が重いほど、不安障害を併発しやすいため、重症ASD児への特別なサポートが必要。
  • 経済的に恵まれた家庭の子どもは、不安障害のリスクが低いことから、家庭環境や支援の充実が精神的健康に影響を与える可能性。
  • 早期介入が重要であり、不安障害の症状をASDの一部として見逃さず、適切な評価・治療を行うことが求められる

この研究は、ASD児の半数以上が不安障害を持つ可能性があり、適切な診断と早期介入が不可欠であることを示唆しています。

Testing syndemic models along pathways to psychotic spectrum disorder: implications for population-level preventive interventions

この研究は、精神病スペクトラム障害(PSD)の予防戦略を検討するために、子ども時代の逆境(CA)と成人期のトラウマ的出来事が、暴力・犯罪(VC)、性的行動(SH)、薬物乱用(SM)のシンデミック(相互に影響を及ぼし合う複数の健康問題の集合体)を通じてPSDの発症にどのように関連するかを分析したものです。

研究方法

  • 対象:イギリスの男性7461人を5つの人口サブグループに分けて調査。
  • 分析手法
    1. シンデミック(VC・SH・SM)の相互作用を統計的に検証(加法モデルと乗法モデルの両方を使用)。
    2. CAからPSDへの影響経路を調べるための媒介分析
    3. パスモデリング(構造方程式モデリングの一種)を用いて、どの因子が直接PSDに影響するかを解析

主な結果

  1. VC・SH・SMの相互作用は、CAを経験し、成人期にもトラウマを持つ男性で特に強くみられた
  2. シンデミック全体としてはPSDの発症リスクと関連していたが、個別にみると、CAからPSDへの影響を媒介していたのは薬物乱用(SM)のみだった。
  3. パスモデリングでは、成人期のトラウマ的出来事は、シンデミックを通じてPSDに影響を及ぼし、直接的な影響はみられなかった
  4. PSDの発症リスクが高い人の特徴
    • シンデミックスコアが高い(VC・SH・SMの影響が強い)。
    • 社会的に不利な環境(貧困地域)で暮らしている。

結論と意義

  • PSDの発症要因には、生物学的・内在的な要因によるものと、社会的決定要因によるものの2種類がある
  • CAを経験した人では、VC・SH・SMのシンデミックが発症リスクを高める可能性があるため、PSD予防にはCAの影響を軽減することが重要
  • 特に、思春期や青年期の薬物乱用(SM)がPSD発症の引き金となる可能性があるため、薬物予防を中心とした介入が効果的な可能性
  • この知見を他の人口グループ(特にシンデミックの影響を受ける人々)に適用できるかどうかを、今後の研究で検証する必要がある

この研究は、精神病の予防において、単なる個別の介入ではなく、子ども時代の逆境、成人期のトラウマ、社会環境を包括的に考慮する必要があることを示唆しています。

Biopsychosocial factors and participation in adults with developmental coordination disorder: A structural equation modelling analysis

この研究は、発達性協調運動障害(DCD)のある成人が、日常生活にどのような影響を受けるのかを、生物・心理・社会的(バイオサイコソーシャル)な要因を通じて分析したものです。DCDの影響は、単に運動の問題だけではなく、自己評価の低さや社会的支援の不足、実行機能の課題など、複数の要因によって生活の質が左右される可能性があります。

研究方法

  • 対象:DCDのある若年成人55名(平均年齢27歳7か月)と、DCDのない同世代の成人66名(平均年齢27歳3か月)。
  • 分析手法:構造方程式モデリング(SEM)を用いて、DCDが**自己評価(自尊心)、社会的支援、実行機能(計画力や注意制御)**にどのような影響を与え、それが日常活動への参加(パフォーマンスのレベル、楽しさ、補助の必要性)にどう関連するかを解析。

主な結果

  1. DCDのある成人は、DCDのない成人に比べて以下の点で不利な影響を受けていた
    • 自己評価(自尊心)が低い
    • 社会的支援が少ない
    • 実行機能に課題がある
    • 日常生活のタスクで補助を必要とすることが多い
    • タスクの遂行レベルが低い
  2. 心理・社会的要因(自尊心と社会的支援)は、DCDのある人の生活全般に影響を与えていた
  3. 実行機能の問題は、特にパフォーマンスレベルと職業経験の質に影響していた

結論と意義

  • DCDによる生活上の困難は、単なる運動機能の問題だけでなく、心理的・社会的な要因によっても悪化する可能性がある
  • 支援策を考える際には、運動トレーニングだけでなく、自尊心の向上や社会的支援の確保、実行機能の強化を含めた多角的なアプローチが必要
  • 日常生活の参加を促進するために、DCDのある人々を対象とした個別対応の支援プログラムが求められる

この研究は、DCDの影響を総合的に捉え、運動能力だけでなく心理・社会的要因にも注目した支援の必要性を示唆している重要な研究です。

Frontiers | Representations of adult attachment and shame in parents of children on the autism spectrum

この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもを持つ親の愛着スタイルと羞恥心の関連性を初めて調査したものです。ASDの子どもは、社会的コミュニケーションの困難を抱えることが多く、親にとって育児の負担が大きくなる可能性があるため、親の心理状態を理解することが重要です。

研究方法

  • 対象:自閉症の診断を受けた子ども(平均年齢5.17歳)を持つ37名の親(中~高所得層)
  • 評価方法
    • Adult Attachment Projective Picture Systemを使用し、親の愛着パターンを測定。
    • 羞恥心の程度や種類も評価。

主な結果

  1. 親のほとんどが不安定な愛着スタイルを持っていた(37人中34人)。
  2. 45.9%の親は「未解決の愛着(過去のトラウマや喪失を整理できていない状態)」に分類された。
  3. すべての親が「恥ずかしさ(羞恥心)」を感じる自己イメージを持っていた
  4. 「深い羞恥心(過去の愛着トラウマに関連する)」が、通常の羞恥心よりも一般的であった
  5. 愛着スタイル(安定 vs. 未解決)による羞恥心の違いは統計的に有意ではなかった

結論と意義

  • ASD児の親は、過去の愛着関係やトラウマに起因する「未解決の愛着」や「深い羞恥心」を持つ傾向が強い
  • このような心理状態が、子どもとの関わり方や育児ストレスに影響を与える可能性がある
  • 医療・福祉関係者は、ASD児を持つ親の心理的サポートに「羞恥心」や「愛着の問題」を考慮するべきである

この研究は、ASD児の親に見られる心理的な課題を明らかにし、愛着や羞恥心を考慮した親向けの支援が必要であることを示唆しています。