自閉スペクトラム症(ASD)の子どもへのアートセラピーの効果
このブログ記事では、発達障害や知的障害に関連する最新の学術研究を紹介しています。具体的には、ADHDや攻撃性の遺伝的要因と幼児期の行動問題との関係、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもへのアートセラピーの効果、VRを活 用した社会的スキルトレーニング、ASDの母親の注意バイアス、幼児期ASD児の歯磨き習慣、ASDに関連する新生児の脳構造の違いなど、多岐にわたる研究を取り上げています。また、COVID-19のロックダウンが発達障害のある子どもたちの医療アクセスに与えた影響にも焦点を当て、医療格差の拡大と慢性疾患管理の課題を指摘しています。これらの研究は、発達障害児とその家族に対するより適切な支援や介入の方向性を示唆しており、教育・福祉・医療分野における今後の実践に重要な示唆を与えています。
学術研究関連アップデート
Association between aggression and ADHD polygenic scores and school-age aggression: the mediating role of preschool externalizing behaviors and adverse experiences
この研究は、攻撃性(PA: Physical Aggression)がどのように遺伝的要因(ポリジェニックスコア: PGS)や幼児期の行動問題・不利な経験と関連し、学齢期の攻撃性に影響を与えるのかを調査したものです。カナダのケベック幼児発達縦断研究(Quebec Longitudinal Study of Child Development) のデータを用い、721名(45%男子)の遺伝情報と行動データを分析しました。
主な研究のポイント
- 攻撃性(PA)やADHD(注意欠如・多動症)の遺伝的リスクを示すポリジェニックスコア(PGSAGG, PGSADHD)が学齢期の攻撃性と関連しているかを検証
- 幼児期(3.5〜5歳)の外在化行動問題(EXT: Hyperactivity, Opposition, PA)や不利な経験(仲間関係の問題、厳しい養育)が、遺伝的リスクと学齢期の攻撃性の関係を媒介するかを分析
- 6〜13歳の学齢期における攻撃性を教師が報告し、幼児期の行動問題・経験は母親が報告
研究結果
✅ 遺伝的リスク(PGSAGG, PGSADHD)は、学齢期の攻撃性を予測する要因となる
✅ 攻撃性のポリジェニックスコア(PGSAGG)は、学齢期の攻撃性と直接的に関連しており、幼児期の行動問題や不利な経験はその媒介にはならなかった
✅ 一方、ADHDのポリジェニックスコア(PGSADHD)は、学齢期の攻撃性と関連しており、この関係は幼児期の「多動(Hyperactivity)」や「反抗(Opposition)」によって部分的に媒介された
✅ 特に、多動(Hyperactivity)が学齢期の攻撃性との関連において重要な媒介因子であることが確認された
結論
- 攻撃性の遺伝的リスク(PGSAGG)は、幼児期の経験や行動問題に関係なく、学齢期の攻撃性を直接予測する
- 一方、ADHDの遺伝的リスク(PGSADHD)は、幼児期の「多動」や「反抗」を介して、学齢期の攻撃性を予測する
- 特に、多動(Hyperactivity)が最も重要な媒介因子であるため、ADHDの遺伝的リスクを持つ子どもへの早期介入が、後の攻撃性の抑制に役立つ可能性がある
実生活への応用
- 幼児期の多動性が学齢期の攻撃性と関連しているため、ADHDリスクのある子どもに対する早期の行動介入が重要
- 攻撃性の遺伝的リスクが直接的に影響するケースもあるため、遺伝的要因を考慮しながら個別の支援プログラムを検討することが望ましい
- 親や教師は、特に多動傾向のある幼児に対し、適切な行動管理や社会的スキルを伸ばすサポートを行うことで、後の攻撃的行動の予防につなげることができる
この研究は、攻撃性とADHDの遺伝的リスクの違いを明確にし、それがどのように幼児期の行動問題を介して学齢期の攻撃性につながるのかを示す貴重な知見を提供しています。
The Impact of Art-Based Interventions on Emotional Regulation in Chinese Children with Autism: A Drawing Therapy Approach
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちの「感情のコントロール(情動調整)」と「社会的な反応性」を向上させるために、アートを活用した介入(特に絵を描くセラピー)が有効かどうかを調査したものです。ASDの子どもは、感情を適切に調整し、社会的なやりとりに対応することが難しいことが多いため、こうした介入の効果を明らかにすることは重要です。
研究の方法
- 対象: 幼児(就学前)のASD児
- グループ分け:
- 実験グループ: 6か月間の**絵を描くセラピー(Drawing Therapy)**を実施
- 対照グループ: 特に介入を受けず、通常の生活を継続
- 評価方法: 社会的な反応性(Social Responsiveness Scale, SRS)を用いた事前・事後テスト
- ASD児の社会的な関わりや感情調整の変化を数値化