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ASDのある幼児の保護者を対象とした不安対処プログラムCLK-CUES

· 約9分
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事では、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもに関する最新の学術研究として、2つの重要なテーマを紹介しています。1つ目は、ASDのある幼児の保護者を対象とした不安対処プログラム「CLK-CUES」が、子どもが小学校入学後に感じる分離不安や登校しぶりを軽減し、学校への適応を高める効果があることを示した研究です。2つ目は、中国語を母語とするASD児と非ASD児の間で、文中の音の強調(プロソディ)が「〜だけ」という暗示的な意味の理解に与える影響を比較したもので、ASD児はプロソディへの感受性が低く、文の意味理解に活かしにくいことが明らかになりました。これらの研究は、早期介入と言語支援の個別化の重要性を示しており、家庭や教育現場での実践に直結する知見を提供しています。

学術研究関連アップデート

Brief Report: School Anxiety, School Attendance and School Refusal/Distress Following an Autism-Specific Parent-Mediated Intervention for Anxiety in Preschoolers

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある幼児を対象にした不安対処の親向けプログラムが、小学校入学後の「学校への不安」や「登校しぶり(school refusal)」にどのような影響を与えるかを調べたものです。


🎯 研究の目的

自閉スペクトラム症の子どもは、幼児期から強い不安を感じやすく、小学校入学時に登校不安や不登校になりやすいことが知られています。この研究では、幼児期に不安対処を目的とした**親向けプログラム「CLK-CUES」**を受けたことで、後の「学校への不安」や「欠席」にどのような効果があるかを検証しました。


🔍 実施内容

  • 対象:就学前のASDのある子どもとその保護者
  • 介入:親向けの不安対応プログラム「CLK-CUES」グループ(15名)と、比較グループ(13名)
  • 評価時期:介入前・介入後・1年後(子どもが就学してから)
  • 評価項目
    • 学校での分離不安(teacher report)
    • *欠席日数(parent report)**と、その理由(特に登校しぶり・登校時の不安による欠席)

📊 主な結果

  • CLK-CUESを受けた子どもは、学校での分離不安が低く、欠席日数も少なかった
  • 特に「登校しぶりや情緒的な理由による欠席」が明らかに少なかった
  • 通常の体調不良やその他の理由による欠席には差がなかった

✅ 結論と意義

  • 就学前の段階で保護者が子どもの不安に適切に対応するスキルを学ぶことは、学校生活の安定につながる可能性が高い
  • このプログラムは、ASD児の就学後の適応支援にも効果がある有望な介入法と考えられる
  • 今後は、より大規模で長期的な追跡調査が求められる

この研究は、早期の不安支援が学校不適応の予防につながることを示しており、家庭と学校の両方をつなぐ支援の重要性を再認識させてくれる内容です。

Prosodic Focus Effects on Covert “Only” Reading of Scalar Quantifiers in Autistic and Non-autistic Children Under Tonal Language Background

この研究は、中国語(声調言語)を話す自閉スペクトラム症(ASD)の子どもと非自閉の子どもが、「音の強調(プロソディ焦点)」によって文の意味をどう理解するかを調べたものです。特に、「**only(〜だけ)」という意味を含んだ推論(暗黙的な理解)**に注目しています。


🎯 研究の目的

  • 非自閉の子どもが文の中でどの言葉が強調されているか(プロソディ)によって、意味をどのように推論するかは、これまであいまいな結果が多くありました。
  • ASDの子どもについては、そもそもプロソディの理解が難しい可能性があるものの、詳しく研究されてきませんでした。
  • 本研究では、中国語を話す3〜8歳の子どもを対象に、「〜だけ」が暗示されるような文の理解において、プロソディが影響するかを検証しました。

🔍 実験内容と方法

  • 方法
    • 絵と文のマッチ判断タスクと、選択タスクの2種類を使用(PCベース)
  • 参加者
    • ASD児:約25人、非ASD児:約29人(タスクにより人数は異なる)
  • 比較ポイント
    • 文中のプロソディ(音の強調)を変えることで、「〜だけ」の意味を感じ取れるかどうか
    • 併せて**語彙力、心の理論(ToM)、実行機能(EF)**も評価

📊 主な結果

  • 非ASDの子どもは:
    • プロソディによって意味の理解が補助されやすくなっていた(ただし完全に「〜だけ」と推論できたわけではない)
    • ToMやEF(推論や他者理解の能力)があるとよりうまく理解できた
  • ASDの子どもは:
    • プロソディの違いにほとんど反応しなかった
    • ToMやEFがあっても、音の強調による意味の変化にはあまり影響を受けなかった

✅ 結論と意義

  • 非ASD児の理解の難しさは、「only(〜だけ)」という単語そのものよりも、認知的な処理能力の未熟さに起因している可能性がある
  • ASD児は、音の強調(プロソディ)を意味理解に活かす力が弱い傾向があり、これは情報統合の困難や社会的動機づけの低さに関係していると考えられる
  • 今後の言語支援では、音の使い方に敏感でないことを前提にした支援設計が必要かもしれません

この研究は、自閉症のある子どもと言語理解(特に暗示された意味や音の強調)との関係を深く掘り下げた貴重な研究であり、教育や支援のあり方を考える上で重要な知見を提供しています。