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泣き声や図形描画をAIで解析してASDのスクリーニングに活用する試み

· 約37分
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

この記事では、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などの発達障害に関連する最新の学術研究を多数紹介しています。具体的には、泣き声や図形描画をAIで解析してASDのスクリーニングに活用する試み、父親の子育て支援への関与の少なさに関する実態調査、ASD当事者向けアプリ開発を共創的に行う仕組み、血液型とASDリスクの関係、インクルーシブ教育を進める上でのリーダーの課題と提案、患者視点を取り入れた診療ガイドライン作成の重要性、ADHDの子どもにおける自己愛と攻撃性の関係、オンライン親支援(e-コーチング)の有効性、ADHD管理用モバイルアプリの開発計画、親の感情支援が子どもの情緒安定に与える影響、そしてADHDの長期的な影響としてのアルコール問題リスクなどが取り上げられています。さらに、統合失調症における治療抵抗性と自閉傾向の関係についても注目しており、福祉・教育・医療の現場での支援のあり方に示唆を与える研究が網羅されています。

学術研究関連アップデート

Automatic Cry Analysis: Deep Learning for Screening of Autism Spectrum Disorder in Early Childhood

この研究は、赤ちゃんや幼児の泣き声をAI(ディープラーニング)で分析することで、自閉スペクトラム症(ASD)の早期発見に役立てられるかを調べたものです。


🎯 研究の目的

ASDのある子どもは、泣き声の特徴が発達的に定型の子どもと異なる可能性があるとされてきました。

そこで、泣き声の音響的な特徴をAIで分析し、ASDかどうかを分類できるかを検証しました。


🔍 実験の内容

  • 対象:生後18〜54か月の子ども62人(ASD児31人+定型発達児31人)
  • 分析した泣き声の特徴
    • ジッター(声の揺れ具合)
    • シマー(声の強さの変動)
    • ハーモニクス・ノイズ比(HNR)(声の澄み具合)
  • AIモデル:R-CNN(再帰型畳み込みニューラルネットワーク)を使って、ASDと定型を分類

📊 主な結果

  • ASD児の泣き声は、ジッターとシマーが高く、HNRが低かった → 声が不安定でノイズっぽい傾向
  • AIによる分類の正解率は90.28% → 高精度でASDの可能性を判別できることが示されました

✅ 結論と意義

  • 泣き声という自然な行動を使って、ASDの早期スクリーニングが可能になるかもしれない
  • 非侵襲的(体に負担がない)かつ自動化できるAIツールとして、将来的な活用に期待
  • 早期発見によって、より早い支援や療育のスタートにつながる可能性があります

この研究は、“泣き声”という身近な行動から発達の違いを見つけ出す新しいアプローチを提示しており、ASDの早期発見の選択肢を広げる重要な一歩となる内容です。

The Inclusion of Fathers in Parent Coaching Interventions for Young Autistic Children: A Systematic Review

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある幼い子ども(6歳未満)を対象にした「親支援型コーチング(親への指導)」プログラムに、父親がどれくらい参加しているのかを調べた総合レビュー(システマティックレビュー)です。


🎯 研究の目的

ASDのある子どもへの支援では、親が日常の中で子どもをサポートする力を育てる「親コーチング」が重要とされています。

しかし、こうした支援において、父親の関与がほとんど研究されていないことが課題でした。


🔍 方法と対象

  • 過去の研究をPRISMAガイドラインに沿って系統的にレビュー
  • 対象は、6歳未満のASD児とその親を対象とした親コーチング研究
  • 最終的に条件を満たした研究はわずか5件
  • 合計94組の親子が含まれていたが、父親はわずか2名のみだった

📊 主な結果

  • 父親が参加していた研究は2件のみ
  • その2件でも、父親に対するコーチングは実施可能で、効果も示されていた
  • 他の研究でも、「母親中心」で構成されている傾向が強かった

✅ 結論と意義

  • 現在の親支援プログラムの研究は圧倒的に母親中心で、父親の視点や効果はほとんど検証されていない
  • しかし、わずかながら父親に対しても有効な支援ができる可能性が示されている
  • 今後は、父親のニーズや経験にも注目し、参加しやすい形での支援設計が求められる

このレビューは、発達障害支援における父親の「不在」という見落とされがちな視点に光を当て、より包括的な家族支援の必要性を示しています。

MultiTEA: A model-driven framework for the co-design and automatic generation of applications for ASD users

この研究は、**自閉スペクトラム症(ASD)のある人向けの支援アプリを、専門家や家族と一緒に設計し、自動的に作れる仕組み「MultiTEA」**を開発したという内容です。


🎯 研究の背景と目的

ASDのある人を支援するアプリは増えてきていますが、その開発は専門知識が必要で手間がかかるという課題があります。

特に開発者がASDの特性をよく知らない場合、ユーザーにとって本当に使いやすいものを作るのが難しいという問題があります。

この研究では、開発者ではない人(療育の専門家・家族・当事者)も一緒に設計に参加できて、さらにアプリを自動で生成できる仕組みを提案しています。


🛠️ MultiTEAの特徴

  • モデル駆動型開発(Model-Driven Development): アプリの設計図(モデル)をベースに、自動でアプリを生成する方式
  • 共創デザイン(co-design): ASDの専門家・家族・当事者本人が一緒に設計に関わることができる
  • 対応領域(現時点):
    • スケジュールや計画立て支援(プランニング)
    • 感情認識の支援(emotion recognition)

✅ 初期評価と今後の展望

  • ASD支援の専門家や療育者による初期評価では「有望」との評価
  • 将来的には、より多くの種類の支援アプリ(学習、コミュニケーションなど)への展開が可能

この研究は、ASD支援アプリの「開発のしやすさ」と「ユーザー視点の反映」を両立させる画期的な枠組みを提案しており、今後の教育・福祉現場での活用が期待されます。

Correlations between blood group and Rh factor in families and autism spectrum disorder: A comprehensive analysis

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)と血液型・Rh因子の関係について調べた、イラクの多地域から集めた大規模データ(2,390人分)を使った初の分析です。


🎯 研究の目的

ASDの原因には遺伝や免疫など様々な要因が関わると考えられています。

この研究では、血液型(A, B, AB, O)やRh因子(+/−)がASDと関係しているかを調べました。


👥 参加者構成

  • ASDのある子ども
  • その他の発達障害のある子ども
  • 発達が定型の子ども
  • それぞれの親

🔍 分析方法

  • カイ二乗検定とロジスティック回帰分析で血液型との関係を統計的に評価
  • 機械学習アルゴリズムも用いてパターンの発見を支援

📊 主な結果

  • O型Rh+が最も多かった(すべてのグループにおいて)
  • AB型Rh+の人はASDのリスクが有意に低かった → 「保護因子の可能性」が示唆される
  • その他の血液型・Rh因子との間に明確な関連は見られなかった
  • ASD・他の発達障害・定型発達の子どもたちの間で、血液型の分布に大きな違いはなかった

✅ 結論と意義

  • AB型Rh+の血液型がASDに対して保護的な影響を持つ可能性
  • 今後、免疫や遺伝、環境要因との関連をさらに詳しく調べる必要がある
  • 診断や予防の新たな手がかりとなる可能性もあり、より多地域・多民族での追試が求められる

この研究は、これまで注目されてこなかった「血液型とASDの関連性」という視点から、ASDの理解に新たなヒントを与える試みとなっています。

Building Inclusive Pathways for Children with Disabilities in Chinese Preschools: An Inclusive School Leadership Perspective

この研究は、中国の保育園において障害のある子どものインクルーシブ教育(IE)をどう実現していくかについて、園長やリーダーたちの視点から課題と解決策を探ったものです。


🎯 研究の目的

  • 中国の5つの省から選ばれた15人の保育園リーダーへのインタビューを通じて、
    • インクルーシブ教育に対する考え方

    • 実施の際の課題

    • 改善のための提案

      を明らかにし、保育園現場のリアルな声を可視化することを目的としています。


🔍 主な発見(3つのテーマ)

  1. インクルーシブ教育に対する理解と政策へのまなざし
    • リーダーたちはIEの理念には共感しているが、政策の内容があいまいであると感じている
  2. 現場での実施における課題
    • 人手や専門的知識が足りない
    • 教職員が障害のある子どもに対応する準備ができていない
    • 設備や教材、サポート体制の不足
  3. 改善に向けた提案
    • 教職員向けの研修や専門知識の強化
    • 十分な予算や人材の確保
    • より明確な政策ガイドラインの整備

🧩 概念モデルの提示

研究では、インクルーシブ教育を実現するための**「インクルーシブな園リーダーシップの枠組み」**も提案されており、リーダー自身が積極的に変化を牽引する重要性が強調されています。


✅ 結論と意義

  • インクルーシブ教育の実現には、現場のリーダーの理解と行動がカギ
  • ただし、それを支えるには政策・人材・資源の3つが不可欠
  • 本研究は、中国の幼児教育現場におけるインクルーシブ教育の現状と今後の道筋を示す貴重な実践的知見です

この論文は、「誰もがともに学べる保育園」づくりのために、現場の声とリーダーシップの役割に注目した重要な研究です。

‘We are the engine’: a focus group study on clinical practice guideline development with European patient advocates for rare congenital malformations and/or intellectual disability - Orphanet Journal of Rare Diseases

この研究は、まれな先天性疾患や知的障害をもつ人々のための医療ガイドライン(CPG:診療ガイドライン)づくりに、患者や家族の声をどう活かすかを、ヨーロッパの患者アドボケート(当事者や家族の代表)とのグループインタビューを通じて探ったものです。


🎯 研究の背景と目的

  • まれな疾患や知的障害のある人々は、適切な医療にアクセスしづらい課題を抱えています。
  • 医療ガイドライン(CPG)は、エビデンスに基づいた一貫した支援を提供する重要な手段ですが、患者や家族の視点が反映されづらいのが現状です。
  • 本研究では、ヨーロッパの「ITHACAネットワーク」に所属する患者アドボケートの意見を通じて、ガイドラインのあるべき姿を明らかにしようとしました。

🗣️ 参加者の主な意見(要点)

  • CPGは、情報や支援のニーズを満たし、アドボカシー活動(制度改善など)の武器にもなると評価
  • 良いガイドラインには次のような特徴が求められる:
    • 症状や人の多様性を反映していること(個別性の尊重)
    • 「病気」だけでなく、生活や支援を含む包括的な視点
    • 家族でもわかる表現・使いやすさ
    • 情報の信頼性

⚙️ ガイドライン作成における課題

  • 作成には時間とプロセスが必要だが、当事者には情報を「すぐに」知りたいというニーズもある(このギャップが課題)
  • 医師・研究者・患者アドボケートの協力関係が必要不可欠だが、その調整が難しい
  • 科学的な知識と、当事者の実感や経験(異なる種類の知識)をどう統合するかも大きなテーマ

✅ 結論

  • 患者や家族の視点を取り入れた診療ガイドラインの開発は、質の高いケアの実現に不可欠
  • 今後は、多様な知識の統合、プロセスの柔軟性、共創的な関係づくりがカギとなる

この研究は、まれな障害や疾患のある人々に対する本当に役立つ医療情報と支援体制づくりに向けて、当事者の声を中心に据える必要性を力強く示しています。

Examining Narcissistic Traits in Relation To Reactive and Proactive Aggression in Children At-Risk for Attention Deficit/Hyperactivity Disorder

この研究は、ADHDのリスクがある子どもたちにおいて、「自己愛的傾向(ナルシシズム)」がどのような攻撃的行動と関係しているかを調べたものです。


🎯 研究の目的

攻撃行動には2つのタイプがあります:

  • 反応的攻撃性:怒りや恐怖など、感情に反応して起こる攻撃
  • 計画的(能動的)攻撃性:目的のために意図的に行う攻撃

この研究では、「自己愛的傾向のある子どもは、どちらのタイプの攻撃性と関係があるのか?」を検証しました。


🧪 方法

  • 対象:ADHDの評価を受けるために来院した7~13歳の子ども110人
  • 評価
    • 自己愛的傾向:保護者によるアンケート(Antisocial Process Screening Device)
    • 攻撃性:保護者と教師が、それぞれ反応的/計画的攻撃について評価
  • 統計処理:ADHDや反抗挑戦性障害の症状の影響をコントロールした上で分析

📊 主な結果

  • 自己愛的傾向が高い子どもほど、計画的な攻撃行動(Proactive Aggression)が多かった
  • 一方、反応的な攻撃行動(Reactive Aggression)との関連は見られなかった

✅ 結論と意義

  • ADHDリスクのある子どもにおいて、自己愛傾向は「目的のために攻撃する傾向」と特に関係している
  • 今後、自己愛的傾向を早期に見つけ、行動介入の対象とすることが、攻撃性の予防や改善に役立つ可能性がある

この研究は、ADHD支援において「自己愛特性」という視点を取り入れることの重要性を示しており、よりきめ細かな行動理解と支援戦略の構築に貢献する知見を提供しています。

E-coaching for parents of children with autism spectrum disorder: Protocol for a randomized controlled trial

この研究は、**自閉スペクトラム症(ASD)の幼児を育てる親に対して、オンラインで子育て支援を行う「e-コーチング(電子型親支援プログラム)」の効果を検証する臨床試験(ランダム化比較試験)**の計画(プロトコル)を紹介するものです。


🎯 研究の目的

ASDのある子どもには、**親が日常の関わりの中で社会的なコミュニケーションを促す「親媒介型介入(PMI)」**が有効だとされていますが、対面での支援はアクセスや実施に課題が多く、届きにくい家庭も少なくありません。

この研究では、オンライン学習+個別のフィードバック(デブリーフィング)を組み合わせた「e-コーチング」が、親子の関係や子どもの発達、親の満足度にどのような効果をもたらすかを調べます。


🧪 実施内容

  • 対象:ASDの診断を受けた未就学児とその家族99組
  • グループ分け
    1. e-コーチング群:オンラインで育児スキルを学び、定期的に専門家と振り返り
    2. 従来型PMI群:標準的な「小児自閉症コミュニケーション療法」
    3. 介入なし群:特別なPMIなし(通常の地域支援は全群共通)

📊 測定項目

  • 主な評価:親子のやりとりの質(標準化された遊びセッション中に、目線の動きを同時に測定する先進的な手法を使用)
  • その他の評価:子どもの発達レベル、親の心理的健康・満足度など

✅ 意義と期待される効果

  • e-コーチングが有効であれば、支援が届きにくい家庭にも広く普及可能
  • 親の育児ストレスの軽減や、子どもの発達支援につながる可能性あり
  • ICT(情報通信技術)を活用した持続可能な親支援の新しい形として注目される研究です

この研究は、技術を活用してより多くの家族に早期支援を届ける方法を探る試みであり、将来的な子育て支援の在り方に重要なヒントを与える内容となっています。

Development of a Mobile-Based Personal Health Record for Pediatric Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder Management: Protocol for a Study Based on Action Research Design

この研究は、**小児のADHD(注意欠如・多動症)を日常的に管理・記録できるスマートフォンアプリ(個人健康記録:PHR)を開発することを目的としたプロジェクトの計画(プロトコル)**を紹介しています。


🎯 研究の目的

ADHDは子どもの間でよく見られる発達特性のひとつで、症状の変化を日常的に把握・管理することが大切です。

しかし、記録や報告を手書きや記憶に頼るのは負担が大きく、スマートフォンアプリとしていつでも使えるPHRの開発が求められています


🔍 実施方法とプロセス

この研究は、実際の関係者と一緒に進める「アクションリサーチ」という方法を使っています。4つのステップで進められます:

  1. ニーズの把握(診断)

    保護者、小児科医、作業療法士、臨床心理士、教師などにインタビューやグループ討議を行い、「どんな機能が必要か?」を明らかにします。

  2. 計画と設計

    既存のADHD支援アプリの研究も踏まえて、要望を反映させたアプリの試作品(プロトタイプ)を設計・開発します。

  3. 試験的な運用(アクション)

    開発したアプリを6週間、実際の関係者に使ってもらい、使いやすさや不具合をチェックします。

  4. 評価と改善(評価)

    アンケート(SUSやuMARS)やインタビューを通じて、アプリの使いやすさ・品質を評価し、改良を加えていきます


📅 現在の進捗

  • 2024年10月に開始
  • 2024年末までに13名の関係者が参加し、第1ステージ(ニーズ把握)が完了
  • 今後のスケジュール:
    • 2025年9月までに設計完了
    • 12月までに試用
    • 2026年2月までに最終評価完了
    • 2026年中頃に成果発表予定

✅ 意義と今後への期待

この研究は、医師だけでなく保護者や教師など現場の声を反映させてアプリを開発する点が特徴です。

最終的には、ADHDをもつ子どもたちの日々の症状管理や、支援者間での情報共有がしやすくなるツールとして、医療・教育の現場での活用が期待されています。

The protective role of parental interpersonal emotion regulation among Israeli families of children with attention-deficit/hyperactivity disorder

この研究は、**ADHDのある子どもを育てる親が、日常の中で子どもの感情をどのように支えているのか(親の対人感情調整=IER)**を調べたものです。特に、親がどんな関わり方をすると、子どもの感情の爆発(情緒の失調)を和らげられるのかを明らかにしようとしています。


🎯 研究の目的

ADHDの子どもは、怒りやイライラをうまくコントロールするのが苦手なことが多く、それが家庭内のストレスの原因にもなります。

この研究では、「親がどのように感情を調整しようとしているか」が、子どもの感情の安定にどんな影響を与えるかを実験的に調べました。


🔍 方法と対象

  • 対象:ADHDと診断されたイスラエルの子ども(平均9.37歳)とその両親58組
  • 実験内容:
    • 家族3人で「ちょっとした対立テーマ(例:宿題、ゲーム時間など)」について話し合い
    • その様子を記録・分析し、親が使った感情調整のスタイルと、子どもの情緒の乱れ具合を測定
  • 親のIERスタイルは以下に分類:
    1. 非支援的(批判、無視など)
    2. 感情フォーカス型(子の気持ちを受け止める)
    3. 解決フォーカス型(問題の解決を一緒に考える)

📊 主な結果

  • 母親の方が父親よりも感情調整の試みが多かった
  • 感情フォーカス型・解決フォーカス型の関わり方をした親ほど、子どもの感情の乱れが少なかった
  • 親が支援的なスタイルを取ったとき、**子どもの「普段の情緒の不安定さ」と、その場での情緒の乱れが結びつきにくくなる(保護効果がある)**ことも判明

✅ 結論と意義

  • 親の関わり方しだいで、ADHDのある子どもの感情の安定に良い影響を与えることができる
  • 特に、「気持ちを受け止めてあげる」「一緒に解決策を考える」関わり方が有効
  • 今後の介入プログラムや親向けトレーニングには、両親の感情調整スキルの育成を組み込むべきと示唆される研究です

この研究は、「子どもの情緒コントロールの支援における親の重要な役割」を裏付けており、ADHD支援における家族全体の関与の大切さを再確認させるものとなっています。

Pathways to alcohol use and problems in adulthood for children with attention-deficit/hyperactivity disorder (ADHD): The role of common impairments above and beyond ADHD symptom persistence

この研究は、**子どもの頃にADHD(注意欠如・多動症)と診断された人が、成人後にアルコールの問題(過剰飲酒や依存)を抱えやすいのはなぜか?**を長期追跡で調べたものです。特に、「ADHDの症状が続いているかどうか」だけでなく、学業や社会生活での困難(機能障害)が影響していないかに注目しています。


🎯 研究の目的

  • ADHDの子どもが大人になるにつれて、飲酒問題に陥りやすい背景には何があるのか?
  • 単にADHD症状が続くからだけでなく、**社会的・学業的な困難も関係しているのでは?**という点を検証しました。

🔍 方法

  • 対象:子どもの頃にADHDと診断された人316人と、非ADHDの対照群223人(平均29歳)
  • 手法:子ども時代から成人後までのデータを追跡(自己・親による報告)
  • 分析:ADHDの有無 → 青年期の機能障害(学歴、社会関係、問題行動) → 成人後のアルコール使用(問題の程度、頻度)という**間接的な影響(媒介)**を統計モデルで検証

📊 主な結果

  • 社会的な不適応(友人関係や人間関係の問題)と、学業の不振(低学歴)、そしてADHD症状の持続が、

    将来的なアルコール問題に結びついていることが確認された

  • 一方、青年期の非行行動(反社会的行動)は、アルコール問題との関連が見られなかった

  • 飲酒頻度(どれだけ飲むか)そのものには、明確な媒介要因は見つからなかった


✅ 結論と意義

  • ADHDの子どもが将来的にアルコール問題を抱えるリスクは、症状の持続だけでなく、社会的・学業的な機能障害によっても高まる
  • したがって、飲酒予防や支援のためには、「症状の治療」だけでなく、「学校や対人関係の支援」も非常に重要
  • 人生の中で責任が増していく青年期から成人期に向け、生活機能全体を支援する包括的アプローチが求められる

この研究は、ADHDの長期的な影響を理解し、**より効果的な支援の方向性(症状+生活支援)**を考えるうえで、大きな示唆を与えています。

Frontiers | Exploring the Role of Autistic Traits in Treatment-Resistant and Clozapine-Resistant Schizophrenia: A Comparative Study

この研究は、「統合失調症の中でも**治療抵抗性(薬が効きにくい)やクロザピン抵抗性(最後の手段である薬すら効かない)**とされるケースに、自閉スペクトラム特性(ASDの傾向)がどのように関わっているのか」を調べたものです。


🎯 研究の目的

  • 統合失調症の治療が効かない場合、自閉的な特性が背景にあるのではないか?
  • 特に、**通常の治療が効かないTRS(治療抵抗性統合失調症)と、クロザピンも効かないCRS(クロザピン抵抗性統合失調症)**に着目し、ASD傾向との関連を比較しました。

🧪 方法

  • 統合失調症患者86人を以下の3グループに分けて比較:
    1. NRS(治療に反応する通常の統合失調症):37人
    2. TRS(治療抵抗性):26人
    3. CRS(クロザピン抵抗性):23人
  • ASD傾向を測定するために:
    • PAUSS(統合失調症の症状からASD傾向を抽出する尺度)
    • *AQ(自閉スペクトラム指数)**を使用
  • 日常生活の機能レベルも「全体的機能評価(GAF)」で評価

📊 主な結果

  • TRS・CRSの両グループとも、NRSに比べて明らかに自閉傾向が強かった(PAUSS・AQともに高スコア)
  • PAUSSスコアは、TRS・CRSのいずれの予測にも有効だったが、TRSとCRSの間には違いがなかった
  • AQスコアは、TRSとCRSの間でも有意な差があった
  • いずれのスコアも、日常生活の機能低下と関連していた(スコアが高いほど生活に支障が大きい)

✅ 結論と意義

  • 自閉的傾向が強い人ほど、統合失調症の治療が効きにくい可能性がある
  • PAUSSは、治療抵抗性を予測するツールとして有用
  • ただし、クロザピンへの反応性(CRS)には、PAUSSで測れるASD特性以外の要因も関わっている可能性がある
  • 今後の研究では、より広範なASD特性や他の精神症状も含めて検討する必要がある

この研究は、統合失調症とASDの重なりや支援の個別化に光を当てる先駆的な試みであり、治療困難なケースへの新しい理解とアプローチの手がかりを提供しています。