前回のFBA準備編においては、実施の前にやっておくべきことに関して簡単にご紹介しましたが、いよいよ実践編です。どのようにして行動の機能分析を行い改善につなげていくのかご紹介していきます。
はじめに
前回のFBA準備編においては、実施の前にやっておくべきことに関して簡単にご紹介しましたが、いよいよ実践編です。どのようにして行動の機能分析を行い改善につなげていくのかご紹介していきます。
Step1データ収集
準備編で選択したいくつかのアセスメントツールや、ヒアリングシートを活用してデータ収集を行います。 行動観察から、問題行動の発生状況や、機能を分析するにはABC分析が有効です。また、行動パターンを分析するにはデータテーブルを活用することができます。
Step2データ分析
データ収集を行い必要十分と考えられるデータが得られた場合に次に行うのは、データの分析です。
対象行動がいつどんなときになぜ発生するのかということに関して集めた材料をもとに明らかにします。
データ分析の進め方の例としては、下記の質問に回答していく形で整理していくと実施しやすいです。
質問リスト
-
どのくらいの期間(時間)に渡り、その問題行動は児童の成長や学習を妨げていますか?
-
その問題行動は攻撃や所有物への損害を引き起こしていますか?
-
どんなシチュエーションで問題行動が起きますか?
-
問題行動が起きるとき、児童はどのような活動に取り組んでいますか?
-
問題行動が起きるとき、周囲の人(先生、児童、支援者)はどんな行動をしますか?
-
問題行動が起きるとき、周囲の人と児童の距離的な近さはどの程度ですか?
-
問題行動が起きるとき、周囲の騒音具合はどの程度ですか?
-
問題行動が発生したとき、大人や他の児童は何名、同時にその場にいますか?
-
問題行動が起きるとき、光や温度等の環境要因はどんなものがありますか?
-
その問題行動は、児童がまだ出来ないタスクを行うように指示されたことによって引き起こされますか?
-
その問題行動が起きる直前に児童が行う行動はありますか?
-
問題行動の直後に発生する結果は何ですか?
(例)質問への回答とまとめ方 1.発生期間 2020/05/01 - 2020/7/01(2ヶ月) 2.行動の程度 他害を含む 3.シチュエーション お絵描きの時間 4.活動内容 クレヨンで画用紙に丸を描く 5.周囲の人の活動状況 児童:クレヨンで画用紙に丸を書く 先生:教室を周り生徒の様子を観察 6.周囲の人との距離児童:1m 先生:2m 7.周囲の環境(音) 騒音:特になし 8.周囲の人員 児童:5名 先生:2名 9.周囲の環境(温度、光量) 室温:25℃ 光量:蛍光灯、太陽光 10.取り組む活動の難易度 習得済み 11.前兆行動 上半身を座ったまま前後に揺する 12.対象行動の直後に発生する出来事 先生が近くにかけより、声を掛けながら手で動きを止める
また行動の機能も特定します。行動の機能は大きく2つのカテゴリに分けることができます。
行動の機能
行動の機能の捉え方は、行動した結果から読み取ることができます。
(例)行動の機能 問題行動→先生から注意されクラスから注目される→獲得・注目 問題行動→別の活動に取り組むよう指示される→元の活動からの逃避
Step3対象行動の再定義と検証
実際にデータを収集し分析した結果、 さまざまな情報が新たに明らかになったタイミングで、問題行動に関して再定義を行います。
収集した事実に基づいて、どんな時に、どんな先行刺激で、どんな問題行動が発生し、結果何が起きたのか、この時問題行動の機能は何か、整理してチームメンバーが理解できる形で記述します。
(例)問題行動の再定義 個別指導の時間に一人で、プリントを解くようたかしに告げると、たかしは叫び声をあげ、「やだ!!!」と言います。なぜならたかしにとって自分一人でプリントを解くのはまだ難しいからです。先生はたかしをセーフスポットに連れていき、お気に入りのおもちゃを渡し落ち着くまで遊ばせます。 【ABC分析】 A:一人で、プリントを解くようたかしに告げる B:「やだ!!!」と言う C:教室のすみのセーフスポットに連れられ、お気に入りのおもちゃで遊ぶ
【状況】個別指導の時間
【行動の機能】獲得
問題行動に関して再定義を行なったあとで、その仮説が正しいかチェックする事が必要です。この時点で簡単にチェックする事で誤った仮説のまま支援を行い時間を無駄にしてしまう、児童にとって辛い時間が増えるなどのリスクを減らす事が出来ます。検証の方法は行動によって様々ですが簡単な例を紹介します。
(例)問題行動の定義の検証 たかしの問題行動は、難易度が高い課題からの逃避か、自分の好きなおもちゃで一人で遊べるという獲得であると考ることができます。行動の機能を検証する方法として、以下の変更を加えてみました。 1.課題に取り組む際に大人が手助けをする(取り組む活動の難易度を下げる) 2.たか しがセーフスポットに行く際に行う活動を彼があまり好きではない読書に変更する(獲得物の変更) 結果、難易度を低くしたのにも関わらず、問題行動が発生し、さらに読書をするように言った時にも問題行動が生じました。 この結果から問題行動の機能はやはり獲得(好きなおもちゃで遊ぶ)であると確認する事が出来ました。
Step4ーEBPsから適切な介入方法を選択する
FBAは主に深刻な問題行動の特定と分析に関して機能し、実際の介入あたっては、FBAによって明らかになった状況に応じて他のEBPs(科学的根拠のある介入方法)を用い介入します。行動の機能別にふさわしいと考えられている主な介入方法は下記になります。 ** 注目**
-
機能的コミュニケーショントレーニング/FCT(Functional Communication Training)
-
消去/EXT(Extinction)
-
代替行動分化強化/DRA(Differential Reinforcement of Alternative Behavior)
逃避
-
先行刺激ベース介入/ABI(Antecedent-based intervention)
-
反応中断・修正/RIR(Response Interruption/redirection)
-
機能的コミュニケーショントレーニング/FCT(Functional Communication Training)
-
消去/EXT(Extinction)
-
代替行動分化強化/DRA(Differential Reinforcement of Alternative Behavior)
****自己刺激(感覚刺激でかつそれ自体強化子として機能しているもの)
-
先行刺激ベース介入/ABI(Antecedent-based intervention)
-
反応中断・修正/RIR(Response Interruption/redirection)
-
機能的コミュニケーショントレーニング/FCT(Functional Communication Training)
-
消去/EXT(Extinction)
-
代替行動分化強化/DRA(Differential Reinforcement of Alternative Behavior)
****獲得
-
消去/EXT(Extinction)
-
機能的コミュニケーショントレーニング/FCT(Functional Communication Training)
Step5介入計画の作成
具体的な介入方法を選択し作成したのち、どのように介入していくかプランニングします。最低限含む情報としては、問題行動の発生を抑制する戦略、問題行動の代わりになる行動を教えたり増加させる戦略、学習機会や社会参加を向上する戦略。これらが必要です。
Step6計画実行と測定
計画を実行し、介入結果の効果測定を行います。効果測定を行う時には、計画時に作成したものに準拠して行いますが、特に問題行動の発生頻度、発生時間の合計、代替行動(問題行動の代わりに行う適切な行動)の頻度を計測する必要があります。
頻度測定方法 の例 Whole interval sampling/全体インターバル記録
(例)9:00-9:30の区間を5分刻みに分割し、その5分間の間ずっと行動に従事している場合にチェックする
Partial interval sampling /部分インターバル記録
(例)9:00-9:30の区間を5分刻みに分割し、その5分間の間一回でも行動に従事している場合にチェックする
Momentary time sampling/瞬間時間記録
(例)9:00-9:30の区間を5分刻みに分割し、ちょうど五分のタイミングで行動に従事している場合チェックする。
Event sampling/イベント記録
(例)学校にいる時間にどれだけ問題行動が発生したか記録する。 9/14 5回 9/16 4回
Momentary time sampling/瞬間時間記録の例
Event sampling/イベント記録の例
長さや程度の測定方法 Duration data/時間記録
(例)時間記録特定の日や期間の間に合計してどれだけの時間、問題行動が発生していたか計測する。 8/14 33分 8/15 30分 8/16 26分
行動対応の効果測定 問題行動が発生する活動に取り組む際に事前に介入し問題行動を減少させる方法と、問題行動が発生した後の対応を変化させて問題行動を減少させる方法の効果を測定するにはあらかじめチェックフォームを用意して置くことが有効です。 以下の例のように実際に方針通りに介入した回数と、その介入によって行動の変化等が見られた回数の差分がわかります。
まとめ
以上が実 際にFBAを用いて問題行動を減少していくための方法になります。しつこいくらい念入りに、仮説を立て検証し介入しているように感じられるかもしれませんが、ここで仮説立てや分析、検証を行うことで支援がうまくいかない時間を限りなく短くできると考えると、メリットはかなり大きいのではないでしょうか。