ASDのある子どもは、胎児期からすでに「糖質代謝」に特徴がある可能性
このブログ記事では、発達障害に関する最新の学術研究を紹介しており、主に自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)に関連する早期発見の指標(気質や代謝異常)、性別による症状の違い(セロトニンの影響)、補完的支援(マインドフルネス・栄養)、およびリスク要因(物質使用障害の併存)などをテーマにした複数の研究を解説しています。これにより、発達障害のある人々へのより早く・個別的な支援の可能性や社会的課題への理解が深まる内容となっています。
学術研究関連アップデート
Temperament Profiles at Age 18 Months as Distinctive Predictors of Elevated ASD- and ADHD-Trait Scores and Their Co-Occurrence at Age 8–9: HBC Study
この研究は、1歳半の子どもの「気質(性格の傾向)」が、8〜9歳になったときの自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)の傾向とどう関係しているかを調べたものです。特に、「ASD傾向のみ」「ADHD傾向のみ」「ASDとADHDの両方の傾向がある子ども(併存)」「どちらもない子ども」の違いに注目しています。
🔍 研究のポイント
- 対象:日本の出生コホートの子ども814人
- 18か月時点での「気質」を測定(3つの領域):
- 外向性・活動性(SE)
- ネガティブな感情傾向(NA)
- 努力的な自己制御(EC)
- 8〜9歳時点でASDとADHDの傾向を評価
- ASD:社会的反応性スケール(SRS-2)
- ADHD:ADHD評価スケール
📊 主な結果
- 「ASD+ADHDの両方の傾向がある子ども」は、
- ネガティブ感情が強い(NAが高い)
- 自己制御力も高め(ECが高い)
- これは、ASDだけ、ADHDだけの子どもとは異なる特徴。
- つまり、「ネガティブ感情の強さ × 自制心の強さ」の組み合わせが、両方の特性を併せ持つ子どもに特有のパターンと考えられる。
✅ やさしいまとめ
✔ 1歳半の時点での「気質」を見ることで、後のASD・ADHDの傾向があるかどうかを早期に予測できる可能性がある。
✔ 特に、「ネガティブな気持ちになりやすいけど、自分を抑える力もある」というタイプの子は、ASDとADHDの両方の傾向を将来的に示すリスクがある。
✔ ASDやADHDの傾向が重なる子は支援のニーズが高いため、早めの見極めが重要。
📝 一言まとめ
1歳半の「気質」から、将来ASDやADHDの傾向が併存する子どもを見つける手がかりが得られる可能性がある――ということを示した、早期発見に役立つ重要な研究です。
Gender specific influence of serotonin on core symptoms and neurodevelopment of autism spectrum disorders: A multicenter study in China - Child and Adolescent Psychiatry and Mental Health
この研究は、中国の13都市で実施された大規模調査で、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもに見られる「血中セロトニン(5-HT)」の量が、性別によって症状や発達にどのように影響しているかを調べたものです。
🔍 研究の背景と目的
- セロトニン(5-HT)は、ASDにおいて最も再現性が高いバイオマーカー(生物学的指標)として知られています。
- ただし、その影響が男女でどう異なるのかはよく分かっていませんでした。
- そこでこの研究では、ASDの男の子と女の子で、セロトニン量と症状・発達の関係に違いがあるかを調査しました。
🧪 研究の方法
- 対象:
- ASDの子ども:1,457人
- 定型発達の子ども(比較対象):1,305人
- 年齢:2〜7歳
- 評価方法:
- ASD症状:SRS(社会的反応性尺度)、CARS(自閉症評価尺度)
- 発達水準:CNBS-R2016(中国版発達検査)
- 血中セロトニン:質量分析による正確な測定
📊 主な結果
- ASDの男の子は、血中セロトニン濃度が高いほど…:
- ASDの症状が強く出る(SRS・CARSスコアが高い)
- 言語・運動・社会性などの発達スコアが低くなる
- ASDの女の子では、このような明確な関連は見られなかった
✅ わかりやすくまとめると
✔ ASDの 男の子はセロトニンの値が高くなりやすく、それが症状の重さや発達の遅れと関係している可能性がある。
✔ 一方で、女の子ではセロトニン量とASD症状や発達との関係が確認されなかった。
✔ この違いは、ASDが男の子に多く見られる理由の一端を示している可能性がある。
📝 一言まとめ
ASDの男の子では、セロトニンの量が多いほど症状が重く、発達が遅れがちになる傾向があることがわかりました。一方、女の子ではその関連が見られず、ASDにおける性別による違いがセロトニンを通じて示唆された重要な研究です。
Disrupted fetal carbohydrate metabolism in children with autism spectrum disorder - Journal of Neurodevelopmental Disorders
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもが胎児期にすでに「糖質代謝」に異常を持っている可能性があることを示唆した、非常に重要なバイオマーカー研究です。特に、「出生直後のへその緒(臍帯血)の成分を分析して、将来ASDになるかを予測できるか?」という視点で行われています。
🔍 背景と目的
- ASDは早期発見・早期支援が重要ですが、現時点では**決定的な早期バイオマーカー(生物学的な兆候)**がありません。
- この研究では、「出生直後の血液(臍帯血)に含まれる代謝物(メタボライト)に違いがあるか」を調べることで、ASDの発症リスクを早期に捉える手がかりを探しました。
🧪 方法
- 対象:後にASDと診断された新生児の臍帯血サンプル16件と、同時期の定型発達の子ども36人分のサンプルを比較
- 分析手法:ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)で76種類の代謝物を測定し、ASD群と定型群の違いを統計的に解析
- 特に、糖代謝(炭水化物代謝)に関わる代謝物に注目
📊 主な結果
- ASDの子どもでは、20種類の代謝物に有意な違いがあった(うち10種類が増加、10種類が減少)
- 特にフルクトース6リン酸、D-マンノース、D-フルクトースなど、糖の代謝に関わる物質が変化していた
- 糖代謝や血糖コントロールに関わる経路が、ASD群で異常を示した
- ランダムフォレストというAI分析で、3つの代謝物のみでASD予測の精度がAUC=0.766と比較的高いスコアを記録
✅ わかりやすくまとめると
✔ ASDの子どもは、胎児の時点で「糖の使い方」に異常がある可能性があることが、出生直後の血液分析からわかった
✔ 特に、炭水化物(糖類)の代謝や血糖バランスを担う物質が大きく変化していた
✔ この研究は、ASDの「ごく初期段階=胎児期」から始まる生物学的異常を示す重要な手がかりになる
✔ 将来的には、母体の代謝との関連も調べ、ASDの発症メカニズムや予防に役立てたいという展望がある
📝 一言まとめ
自閉スペクトラム症のリスクは、すでに胎児期の「糖代謝の異常」によって現れている可能性があり、出生直後の血液からその兆候を読み取ることができるかもしれない——という新たなバイオマーカー研究の成果です。
Effect of nutritional supplements on gut microbiome in individuals with neurodevelopmental disorders: a systematic review and narrative synthesis - BMC Nutrition
この論文は、発達障害(NDD)をもつ人の「腸内環境(腸内細菌)」に栄養補助食品がどのように影響を与えるかを調べた**システマティックレビュー(過去の研究を体系的に整理したもの)**です。特に、自閉スペクトラム症(ASD)のある人に焦点を当て、腸と脳のつながり(腸脳相関)を意識したアプローチとして注目されています。
🔍 研究の背景
- 発達障害には、ASDやADHDなどさまざまなタイプがあり、原因が複雑で多面的です。
- 最近は、「腸と脳の相互作用(腸脳軸)」が行動や感情に影響しているという考えが広まり、腸内環境の調整が注目されています。
- そこで本研究では、プロバイオティクス(善玉菌)やビタミンなどの栄養補助食品が腸内環境や行動症状にどう影響するかを調べました。
🧪 方法
- PubMedやScopusなど複数の国際データベースから、2025年2月までの研究を徹底的に調査
- ランダム化比較試験(RCT)や非ランダム研究を含む
- 異なる種類の研究が多く、**メタアナリシス(統計的統合)はせず、物語的な統合(ナラティブ・シンセシス)**を採用
📊 主な結果
- 腸の不調(腹痛・便秘・下痢など)を表す指標(GISスコア)が減少 → 症状が改善
- プロバイオティクスやビタミン摂取により、腸内の「良い菌(善玉菌)」が増え、「悪い菌(悪玉菌)」が減少
- *Firmicutes/Bacteroidetes比(F/B比)**という腸内バランス指標にも変化が見られた
- 行動や発達の評価スコア(例:ATEC、ABC、CARS、PGI-2)でも改善傾向が確認された
✅ 結論(わかりやすく)
✔ 栄養補助食品(特にプロバイオティクスやビタミン)は、発達障害のある人の腸内環境を整える効果がある
✔ 腸内環境の改善が、行動や感情の安定、脳の炎症の軽減などにつながっている可能性がある
✔ 特に、腸内のF/B比の変化が、神経伝達物質や脳のはたらきに影響していると考えられる
📝 一言まとめ
発達障害のある人に対する栄養補助食品の活用は、腸内環境の改善を通じて、行動や感情の支援につながる可能性があります。「腸から心をサポートする」新たなアプローチとして、今後の研究や実践が期待されます。
Assessing willingness and preference for body scan practices in ADHD: a survey study - BMC Complementary Medicine and Therapies
この研究は、ADHD(注意欠如・多動症)のある人たちが「ボディスキャン瞑想」というマインドフルネスの一種にどれくらい関心や意欲を持っているかを調査したものです。薬物治療だけではすべての困りごとに対応できないことも多く、副作用や効果の限界から、補完的な手法としてマインドフルネスが注目されています。
🔍 研究の背景と目的
- ボディスキャン瞑想は、体の感覚に注意を向けながらリラックスを促す簡単な瞑想法。
- 通常のマインドフルネスプログラム(例:MBSR)は時間がかかるため、続かない人が多い(離脱率が高い)。
- そこでこの研究では、ADHD当事者がボディスキャンを「やってみたいか」「どのように実施したいか」などの意向をオンライン調査で確認しました。
🧪 方法
- 対象者:ADHDの診断がある157人
- 内容:オンラインアンケートにて、次の項目を調査
- 現在のマインドフルネス実践状況
- ボディスキャンへの興味・意欲
- 実施可能だと思うかどうか
- 好みの頻度や形式(自宅・教室・回数など)
- 意欲に影響する要因(症状の強さ、家のスペースなど)
📊 主な結果
- 現在マインドフルネスを実践している人は少ないが、
- 多くの人が「やってみたい」「できそう」と感じている
- 特に、
- 症状が重い人ほど意欲が高い
- 自宅に「静かなスペース」があると実施しやすい
- 好まれる形式は「専門家による指導つき」「週1〜2回の実施」