この記事では、ADHDおよび自閉症スペクトラム障害（ASD）に関する最新の学術研究を紹介しています。ADHDに関しては、健康リテラシーの向上を目的とした脳の発達・機能・認知プロセスに関する総合的なレビューや、人工知能（AI）とディープラーニングを活用した高精度なADHD診断システムの開発が報告されました。一方、ASDに関しては、親が介入する早期療育プログラムにおけるコーチングの変化の理論（Theory of Change）を分析した研究が紹介されています。これらの研究は、発達障害の診断や介入方法の改善、より効果的な支援の実現に向けた新たな知見を提供しており、臨床や教育、福祉の分野での応用が期待される内容となっています。

学術研究関連アップデート

Increasing Health Literacy on ADHD: A Cross-Disciplinary Integrative Review Examining the Impact of ADHD on Brain Maturation, Composition and Function and Cognitive Processes Across the Life Course

この研究は、ADHDに関する健康リテラシー（正しい知識）の向上を目的とした総合的なレビューです。ADHDが脳の発達や構造・機能、認知プロセスにどのような影響を与えるかを、子どもから大人までのライフスパンを通して整理しています。主な発見として、①大脳皮質の成熟が遅れ、成人になっても完全には解消されない可能性がある、②脳の機能が一般的な発達パターンとは異なる、③作業記憶・抑制制御・注意の持続・報酬処理・計画力・問題解決能力など、幅広い認知機能に影響を及ぼすことが挙げられます。研究の最終目標は、ADHDを持つ人が直面する課題を明確にし、親・当事者・医療者向けのチェックリストを開発することです。また、この情報をもとに科学的根拠に基づいたADHD教育プログラムを構築し、正しい知識を広めることを目指しています。

Early attention-deficit/hyperactivity disorder (ADHD) with NeuroDCT-ICA and rhinofish optimization (RFO) algorithm based optimized ADHD-AttentionNet

この研究は、人工知能（AI）とディープラーニング（DL）を活用して、ADHD（注意欠如・多動症）の早期検出をより正確かつ効率的に行う方法を開発したものです。従来のADHD診断方法（行動評価やアンケート、脳波（EEG）データの分析など）は、データ処理の精度が低かったり、計算に時間がかかるという課題がありました。そこで、本研究では 「NeuroDCT-ICA」 という新しい前処理技術を導入し、EEGデータから不要なノイズを除去し、ADHDに関連する特徴を抽出しました。また、「RhinoFish Optimization（RFO）」という新しいアルゴリズムを使って、より効果的なデータの選別を行い、処理の安定性を向上させました。さらに、AIモデル 「ADHD-AttentionNet」 を開発し、ADHDの特徴を高精度で識別できるようにしました。このシステムの精度は 98.52%（Fスコア：98.26%、特異度：98.16%）と非常に高く、従来の方法よりも優れたADHD検出が可能であることが示されました。つまり、AIを活用することで、より迅速かつ正確なADHDの診断支援ができる可能性があることを示した研究です。

Theory of Change of Caregiver Coaching for an Early Parent-Mediated Autism Intervention

この研究は、親が介入する自閉症療育プログラム（親主導の早期介入）のコーチングの仕組みを体系的に整理し、どのようなプロセスで親や家族に影響を与えるのかを明らかにすることを目的としています。具体的には、**「Project ImPACT」**という自閉症の幼児向けの社会的コミュニケーション支援プログラムに焦点を当て、専門家（10人）、地域の支援者（22人）、親（12人）へのインタビューを実施しました。分析の結果、親が介入を実践するためには、「学習プロセス」と「動機づけのプロセス」の2つの要素が重要であることが分かりました。また、これらのプロセスを通じて、療育の継続、生活の質の向上、親の権利擁護（アドボカシー）能力の向上、期待や目標の設定などの広範な効果が得られることが示されました。さらに、各家庭の状況に合わせた支援の必要性や、サービスの適応性も重要な要素として特定されました。この研究は、親主導の療育プログラムがどのように効果をもたらすのかを体系化し、今後の実証研究や実践的な介入の改善に役立つ知見を提供しています。