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成人のASD・ADHDにおける食事の問題

· 51 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

この記事では、発達障害や精神疾患に関連する最新の学術研究を紹介しています。内容は、自閉症スペクトラム障害(ASD)における反復行動を改善する経頭蓋直流電気刺激(HD-tDCS)の研究、ADHDの幼児向け行動療法に睡眠介入を加えた新手法の検証、スウェーデンでの精神疾患の発症率の変化ASDの脳ネットワーク発達の異常いじめと友人関係の影響成人のASD・ADHDにおける食事の問題腸内細菌と白質の関係結節性硬化症(TSC)とASDの関連ディスレクシアの新しい定義の確立、そしてADHDの子どもにおけるビタミンD不足と睡眠障害の関係など、多岐にわたる研究を取り上げています。これらの研究は、発達障害の診断・治療・支援の改善に向けた新たな視点を提供しており、今後の医療や教育、福祉における実践に貢献する可能性があります

学術研究関連アップデート

Understanding and targeting repetitive behaviors and restricted interests in autism spectrum disorder via high-definition transcranial direct current stimulation: a study-protocol - BMC Psychiatry

「自閉症スペクトラム障害における反復行動と限定的関心をHD-tDCSで改善する試み:研究プロトコル」

背景

  • *自閉症スペクトラム障害(ASD)**は、社会的なやり取りの困難さや、反復行動(RBs)と限定的な興味を特徴とする発達障害
  • これまでの研究で、反復行動の神経学的な仕組みはある程度わかってきたが、それを直接ターゲットとした治療はあまり研究されていない
  • 本研究は、高精度経頭蓋直流電気刺激(HD-tDCS)を使って、自閉症の子どもの反復行動を改善できるかを検証する

研究の目的

  1. HD-tDCS(高精度経頭蓋直流電気刺激)が自閉症児の反復行動を減らせるかを評価
  2. 刺激する脳領域によって「低次の反復行動(単純な動きの繰り返し)」と「高次の反復行動(こだわり行動)」に違った影響が出るかを調べる

研究方法

  • 対象者:**8〜13歳の自閉症児(IQ70以上)**を対象に実施。
  • 10回のHD-tDCSセッションを実施
  • ランダムに3つのグループに分ける
    1. 前補足運動野(pre-SMA)を刺激するグループ(低次の反復行動に関与する領域)
    2. 背外側前頭前野(dlPFC)を刺激するグループ(高次の反復行動に関与する領域)
    3. 偽治療(プラセボ)グループ(電極をつけるが実際には刺激しない)
  • 実験の流れ
    • HD-tDCSは0.5mAの微弱な電流を20分間流す(初めと終わりの30秒は徐々に強度を変化)。
    • すべての参加者が同じ手順でセッションを受けるが、プラセボグループは最初の30秒だけ電流を流す(それ以降は刺激なし)。
    • 評価は以下の3回実施
      1. 開始前(T0)
      2. 介入終了直後(T1)
      3. 3か月後のフォローアップ(T2)
  • 主な評価項目
    • 反復行動尺度改訂版(RBS-R)の合計スコア(反復行動がどの程度改善されたかを測定)。
  • 副次的な評価項目
    • 自閉症の症状全般
    • 感覚処理の特徴
    • 感情・行動の問題
    • 睡眠の状態
    • 親のストレス
    • 神経心理学的な特性
    • 高密度EEG(脳の電気活動の測定)による脳の変化

仮説

  • HD-tDCSを受けたグループは、プラセボグループと比べて反復行動が有意に減少すると予測
  • 刺激する脳の部位によって、低次の反復行動と高次の反復行動への影響が異なる可能性がある

考察と期待される効果

  • HD-tDCSは、簡単に実施できる時間効率の良い治療法であり、既存の療育と組み合わせることで、より効果的な介入が可能になるかもしれない
  • 現状では反復行動を直接的に改善する治療法が限られているため、tDCSが新たな治療の選択肢となる可能性がある

結論

  • HD-tDCSが自閉症の反復行動を減らす効果を持つかどうかを検証するための、厳密な臨床試験のプロトコルを設定した研究
  • もし効果が確認されれば、従来の行動療法や薬物療法に加え、新しい治療アプローチとして活用できる可能性がある

ポイントまとめ

HD-tDCS(高精度経頭蓋直流電気刺激)が自閉症の反復行動を改善できるかを検証

前補足運動野(pre-SMA)と背外側前頭前野(dlPFC)の刺激効果を比較

10回のセッション後、反復行動の変化を3回の時点で評価

HD-tDCSは時間効率の良い治療法として、既存の療育と組み合わせられる可能性

もし効果が確認されれば、自閉症の治療の新たな選択肢になるかもしれない

この研究は、非侵襲的な脳刺激(HD-tDCS)を用いた新しい治療法が、自閉症の反復行動にどのように影響を与えるかを明らかにするための臨床試験のプロトコルであり、今後の発展が期待されます。

Optimizing Attention and Sleep Intervention Study (OASIS): a protocol for a pilot randomized controlled trial to compare parent behavioral interventions with and without sleep strategies delivered in pediatric primary care for preschool-aged children at risk of childhood ADHD - Pilot and Feasibility Studies

「OASIS研究:幼児期のADHDリスクを持つ子どもへの睡眠介入を組み込んだ親向け行動療法の試験プロトコル」

背景

  • *注意欠如・多動症(ADHD)**は、幼児期(3〜5歳)から症状が現れ、注意力の低下や多動性が、社会性や学習の発達を妨げる
  • 現在、ADHDに対する有効な治療法として**親向け行動介入(PBI)**が存在するが、長期的な症状の改善には十分な効果を示していない
  • 睡眠の問題はADHDの症状を悪化させる要因として知られており、特に幼児では行動的な睡眠問題が多く、PBIによって改善可能
  • しかし、従来のPBIには睡眠戦略が含まれておらず、ADHD症状への影響を検証した研究もない

研究の目的

  • PBIに睡眠介入(Sleep-Focused PBI, SF-PBI)を組み込むことで、ADHD症状をより効果的に改善できるかを検証
  • 小児科のプライマリ・ケア(かかりつけ医)に行動療法士を配置し、よりアクセスしやすい介入方法を確立
  • この新しい介入方法の受容性・実現可能性・適切性を評価し、将来的な大規模試験の基盤を作る

研究方法

  • 対象:3〜5歳のADHD症状が高く、行動的な睡眠問題を抱える子ども50人とその家族。
  • 実施場所5つの小児科クリニック(行動療法士が常駐)。
  • ランダム化試験(RCT)を実施
    • 標準的なPBIを受けるグループ
    • 睡眠介入を組み込んだSF-PBIを受けるグループ
  • 6回のセッションを実施し、親が子どもの行動をどのように管理するかを学ぶ。
  • 介入終了後の評価
    • 行動療法士や親の報告をもとに、プログラムの受容性・実行可能性・適切性を評価

期待される効果

  • SF-PBIが、ADHD症状の軽減に役立つかどうかを検証
  • プライマリ・ケアを通じて、より多くの家族が早期介入を受けられる方法を確立
  • ADHDの予防や症状の悪化を防ぐための、新たな介入戦略としての可能性を探る

結論

  • 幼児期のADHDリスクを持つ子どもに対して、親向け行動療法に睡眠介入を加えることで、より効果的な介入が可能かを調査する試験プロトコル
  • 睡眠の問題を早期に解決することで、ADHDの症状や関連する問題の軽減が期待される
  • 今後、大規模な臨床試験につなげるための基礎データを収集

ポイントまとめ

ADHDリスクを持つ幼児の治療に、親向け行動療法(PBI)が使われる

従来のPBIには「睡眠戦略」が含まれていなかった

睡眠介入を追加した新しいPBI(SF-PBI)が、ADHD症状の改善に有効かを検証

50家族を対象に、小児科のプライマリ・ケアで試験を実施

介入の受容性・実行可能性・適切性を評価し、将来の大規模試験の準備を行う

この研究は、ADHDの早期介入において、睡眠の改善が有効なアプローチとなる可能性を探る重要な試験です。

「スウェーデンにおける精神疾患の発症率の推移(2004–2019年):性別・教育レベル・移民ステータスによる違い」

研究の目的

  • 2004年から2019年の間にスウェーデンで精神疾患の発症率(ASIR)がどのように変化したかを調査。
  • *性別(男性・女性)、教育レベル(低・中・高)、移民ステータス(第一世代・第二世代・現地生まれ)**ごとに、発症率の変化を分析。

研究方法

  • 対象者:1958〜1994年生まれのスウェーデン在住者 5,051,875人(研究期間中に死亡・移住した場合はその時点で除外)。
  • 追跡期間:合計56〜58百万(5,600〜5,800万)人年分のデータを分析。
  • 診断データ:精神疾患と診断されたケースを、入院・専門外来の記録から取得
  • 統計分析
    • 各精神疾患の**年齢調整発症率(ASIR)**を計算。
    • Joinpoint回帰分析を用いて、**年間平均変化率(AAPC)**を推定。

研究結果

  1. 第一世代移民は、第二世代および現地生まれの人々よりも精神疾患の発症率が低い傾向があった。
    • 特に低学歴層や女性でこの差が顕著だった。
  2. 全体的な発症率の変化
    • ASD(自閉症スペクトラム)やADHDの発症率は大幅に増加
      • ASDの年間平均増加率(AAPC):11.8%
      • ADHD・行動障害のAAPC:18.8%
    • 一方で、他の精神疾患は横ばいか減少傾向
      • 薬物乱用障害のAAPC:0%(変化なし)
      • 統合失調症や急性精神病のAAPC:-5.7%(減少)
  3. 移民ステータスごとの変化
    • 第一世代移民は、精神疾患全般の発症率の上昇が比較的少なく、発症率の低下が多かった
    • この傾向は特に低学歴層で顕著だった。

結論

  • 2004〜2019年の間に、精神疾患の発症率は全体的に減少傾向にあったが、ASDやADHDの診断は増加
  • 第一世代移民は、現地生まれや第二世代移民と比べ、精神疾患の発症率が低く、増加率も小さい傾向
  • 低学歴層では、移民ステータスによる違いがより顕著だった

考察と社会的意義

  • ADHDやASDの発症率の上昇は、診断基準の変化や社会的認識の向上による影響も考えられる
  • 移民ステータスによる精神疾患の発症率の違いは、文化的背景、社会的支援の違い、医療機関の利用状況などが関係している可能性がある
  • 低学歴の移民の精神疾患リスクが低い理由として、家族のサポートや社会的結びつきの強さが影響している可能性がある

ポイントまとめ

2004〜2019年の間に、全体的な精神疾患の発症率は減少傾向にあった

自閉症(ASD)とADHDの発症率は大幅に増加(ASD:年間+11.8%、ADHD:+18.8%)

第一世代移民は、精神疾患の発症率が全体的に低く、増加率も小さい

低学歴層では、移民ステータスによる違いがより顕著

精神疾患の発症率の変化は、診断基準の変化や社会的要因の影響を受けている可能性がある

この研究は、スウェーデンにおける精神疾患の発症率の長期的な推移を分析し、社会的背景や移民ステータスが精神疾患のリスクにどのように影響するかを明らかにする重要な知見を提供しています。

「自閉症スペクトラム障害(ASD)における感覚運動関連ネットワークの発達パターンの異常:BrainAGEを用いた安静時fMRI研究」

研究の背景

  • 自閉症スペクトラム障害(ASD)は、脳の発達が典型的なパターンと異なることが知られている
  • これまでのBrainAGE研究(脳の年齢を推定する手法)では、ASDの人々の脳機能の発達が加速または遅延することが示唆されていた
  • しかし、この異常な発達パターンが脳全体で起こるのか、それとも特定の機能ネットワークに限定されるのかは不明だった。
  • 本研究では、安静時fMRI(機能的MRI)を用いて、ASDの人々の脳の発達パターンを詳細に分析

研究方法

  • 対象者:5歳〜40歳のASDの人 127名 と健常者 135名
  • データ収集:安静時fMRIを使用し、ALFF(局所的な脳活動の強さ)マップを作成
  • 分析方法
    • 脳の10のサブネットワーク(機能的に関連する脳領域のグループ)に分けて発達パターンを分析
    • 機械学習手法(ILWMLP回帰)を用いて、BrainAGE解析を実施(個人の脳機能の発達が年齢に対してどの程度遅れているか、または進んでいるかを測定)。

研究結果

  • ASDの人々の脳の発達パターンは、感覚運動関連ネットワーク(聴覚、運動、感覚運動ネットワーク)で特に異常が見られた
  • 各ネットワークにおける発達パターンの特徴
    1. 聴覚ネットワーク & 感覚運動ネットワーク:発達の遅れが見られ、特に年齢が高くなるほど遅れが顕著に。
    2. 運動ネットワーク:幼少期では発達が加速しているが、年齢が上がると遅延が見られた。

結論

  • ASDでは、感覚や運動に関わる脳ネットワークの発達が通常とは異なるパターンを示す
  • この発達の異常は、年齢によって異なり、年齢が高くなるほど遅れが顕著になる場合が多い
  • 特に、聴覚ネットワークと感覚運動ネットワークの発達遅延は、ASDの特徴的な感覚処理の問題と関連している可能性がある

考察と今後の展望

  • ASDの感覚処理の異常(例:音に過敏・鈍感、運動のぎこちなさなど)は、こうした神経ネットワークの発達の遅れと関係している可能性がある
  • 発達の早い段階では運動ネットワークが過剰に発達し、その後発達が遅れるというパターンが見られるため、年齢に応じた介入が必要になるかもしれない
  • 今後の研究で、これらの発達パターンがどのように症状に影響するのかをより詳しく調べる必要がある

ポイントまとめ

ASDの人々は、感覚運動関連ネットワーク(聴覚・運動・感覚運動)の発達に異常がある

聴覚・感覚運動ネットワークは、特に年齢が上がると発達の遅れが顕著になる

運動ネットワークは、幼少期では発達が速すぎるが、年齢とともに遅れが生じる

ASDの感覚処理や運動の問題は、こうした脳の発達の異常と関係している可能性がある

年齢ごとに適した介入方法を考えることが、より効果的な支援につながるかもしれない

この研究は、ASDの人々の脳の発達パターンをより詳細に理解することで、年齢ごとに適した支援や治療法の開発につながる可能性があることを示しています。

Satisfaction with friendship support protects autistic youth from the negative effects of peer victimization

「友人関係の満足度が自閉症の若者をいじめの悪影響から守る」

背景

  • 自閉症の若者は、非自閉症の若者と比べて、いじめ(peer victimization)を受けるリスクが高いことが知られている。
  • いじめに遭うと、一般的に精神的な健康が悪化(例:うつ症状の増加)する
  • しかし、良好な友人関係があれば、いじめの悪影響を和らげる可能性があると一般の若者では示されている。
  • これまで、自閉症の若者において、友人関係がいじめの影響をどう緩和するかについては研究されてこなかった

研究の目的

  • 自閉症の若者がいじめを経験した際に、友人関係の満足度が精神的健康(うつ症状)に与える影響を調査

研究方法

  • 自閉症の若者を対象に、アンケート調査を実施
  • 調査項目
    1. どのくらいの頻度でいじめを受けたか
    2. 友人からのサポートにどれくらい満足しているか
    3. どの程度うつ症状を経験しているか
  • 参加者を「友人関係の満足度が高い人」と「低い人」に分けて、いじめと精神的健康(うつ症状)の関連を分析

研究結果

  1. 友人関係の満足度が高いか低いかによって、全体的なうつ症状の違いは見られなかった
  2. いじめを頻繁に受けている場合、友人関係の満足度が高い若者は、満足度が低い若者よりもうつ症状が少なかった

結論

  • いじめの悪影響(うつ症状)は、友人関係の満足度によって軽減される可能性がある
  • 自閉症の若者がポジティブな友人関係を持つことは、精神的健康を守る重要な要素となる
  • いじめの防止対策とともに、友人関係を築きやすくする支援が必要

考察と今後の課題

  • いじめ自体を減らすことが最も重要な対策だが、すぐに改善するのは難しい。
  • 友人関係を良好に保つことが、いじめを受けた際の精神的なダメージを減らす手助けになる可能性がある
  • 今後の研究では、友人関係の質や、どのような支援が効果的かをさらに詳しく調べることが必要

ポイントまとめ

自閉症の若者は、いじめを受けるリスクが高い

友人関係の満足度が高いと、いじめによるうつ症状の悪化を防ぐ効果がある

いじめ対策だけでなく、ポジティブな友人関係を築く支援も重要

学校や社会が、いじめ防止と友情形成をサポートする仕組みを整える必要がある

この研究は、自閉症の若者のメンタルヘルスを守るためには、いじめ対策とともに「友人関係を築くサポート」が重要であることを示しています

Food selectivity and eating difficulties in adults with autism and/or ADHD

「自閉症やADHDの成人における食の選り好みや食事の困難」

背景

  • 食べ物の好き嫌いが激しい(食の選り好み)食べるスピードが極端に速い・遅い食べる量の調整が難しい などの食事に関する問題は、自閉症(ASD)やADHDの子どもに多いことが知られている。
  • しかし、成人における食事の問題は十分に研究されていない
  • 本研究は、自閉症、ADHD、または両方を持つ成人の食事の困難さが、どのような違いを持つのかを調査することを目的とした。

研究方法

  • 対象者:以下の4つのグループを比較。
    1. 自閉症の成人
    2. ADHDの成人
    3. 自閉症+ADHDの成人
    4. どちらの診断もない成人(比較対象)
  • 調査内容
    • 食事の選り好み(特定の食べ物を避ける・受け入れにくい)
    • 食事に関する困難さ(食事のペースや量の調整、食べこぼし、空腹や満腹の感覚)
    • 食感や味への敏感さ
    • 日常生活における「変化へのこだわり」との関係

研究結果

  1. 自閉症の成人は、最も食事に関する問題が多い
    • 食の選り好みが強く、特定の食感や味を受け入れにくい
    • 食べる量をコントロールするのが難しく、空腹や満腹の感覚が分かりにくい
    • 食べこぼしが多い
  2. ADHDの成人も、比較対象(どちらの診断もない成人)より食事に関する問題が多いが、自閉症ほどではない
  3. 「変化へのこだわり」が強いほど、食事の困難さが増す傾向があった。
    • これまで食事の困難さと「変化へのこだわり」はあまり関係がないと考えられていたが、本研究では関連が示唆された。

結論

  • 自閉症やADHDの成人は、食事に関して特有の困難を抱えているため、医療・福祉のサポートが必要になる可能性がある
  • 特に、自閉症の成人は食事の選り好みや、食事量の調整が難しいことが多いため、日常生活での支援が求められる。
  • 「変化へのこだわり」が食事の困難さに関連している可能性があるため、環境調整や行動支援の工夫が役立つかもしれない
  • 今後は、こうした食事の問題に対する具体的な支援方法について研究が必要

考察と今後の課題

  • 医療機関や支援者は、成人の自閉症・ADHDの食事の問題にもっと注目し、適切な対応を考える必要がある
  • 食事の困難さには「味や食感の敏感さ」「食べるペース」「食べこぼし」「空腹・満腹感のコントロール」など様々な要素が関係しており、個別対応が重要
  • 「変化へのこだわり」が食事の困難と関連している点について、今後の研究でより詳細に検討する必要がある

ポイントまとめ

自閉症の成人は、食の選り好みや食事の調整が特に困難

ADHDの成人も食事の問題を抱えやすいが、自閉症の人ほどではない

味や食感への敏感さ、食べこぼし、空腹・満腹の感覚の鈍さが共通の特徴

「変化へのこだわり」が食事の困難さと関係している可能性がある

成人の食事の問題に対する具体的な支援策の開発が今後の課題

この研究は、自閉症やADHDの成人が抱える食事の困難を明らかにし、医療や支援の現場で適切なサポートが必要であることを示唆しています

Microbiome's Effect on White Matter in Autism

「自閉症における腸内細菌と白質の関係」

背景

  • 自閉症スペクトラム障害(ASD)は、社会的コミュニケーションの困難や繰り返しの行動パターンを特徴とする発達障害。
  • *脳の白質(ホワイトマター)**は、神経細胞をつなぎ、情報伝達を助ける重要な役割を持つが、ASDの人では白質の発達に異常があることが報告されている
    • 幼少期には**白質の過剰なミエリン化(白質の保護膜が過剰に形成される)**が見られる。
    • 成長とともに、ミエリン化が減少し、通常よりも低くなることが多い。
  • *腸内細菌(マイクロバイオーム)**は、脳の発達や機能に影響を与える可能性があり、ASDの症状と関連があることが示唆されている

研究の目的

  • 腸内細菌のバランスとASDの白質の発達異常に関係があるのかを調査
  • 腸内細菌がどのようなメカニズムで白質の発達に影響を与えるのかを探る

研究方法

  • 過去の神経画像研究(脳の白質を測るMRIデータ)と、腸内細菌の研究データを統合して分析
  • 拡散テンソル画像法(DTI)を用いて白質の発達異常を測定
  • 腸内細菌の多様性や、特定の有益な細菌(ビフィズス菌・ラクトバチルス菌)の量とASDの症状との関連を調査

研究結果

  1. 白質の発達異常とASDの症状の関連
    • ASDの人は、社会的スキル・言語習得・運動能力・感覚処理の問題が白質の異常と関連している
    • 成長するにつれて白質のミエリン化が減少し、情報伝達がうまくいかなくなる可能性がある
  2. 腸内細菌の減少とASDの症状の関連
    • ASDの人は、腸内細菌の多様性が低く、特に有益な細菌(ビフィズス菌・ラクトバチルス菌)が減少している
    • 腸内細菌のバランスが悪いほど、ASDの症状が重い傾向がある
  3. 腸内細菌が白質の発達に影響を与える可能性
    • 腸内細菌が作る短鎖脂肪酸(SCFAs)が、白質の形成に関わるオリゴデンドロサイト(ミエリンを作る細胞)に影響を与える
    • 腸内細菌が神経の炎症を調整し、それが白質の発達に影響を及ぼす可能性がある

結論

  • ASDの人は白質の発達異常があり、その症状と腸内細菌のバランスが関連している可能性がある
  • 腸内細菌が作る物質(短鎖脂肪酸など)が、脳の白質の発達に影響を与えることが示唆された
  • 腸内細菌のバランスを整えることが、ASDの治療の新たなターゲットとなる可能性がある

考察と今後の課題

  • 腸内細菌を調整することで、白質の発達異常を改善できるのかをさらに研究する必要がある
  • プロバイオティクス(善玉菌を補うサプリメント)や食事療法が、ASDの症状にどのような影響を与えるかを詳しく調査することが求められる

ポイントまとめ

ASDの人は白質の発達異常(幼少期の過剰なミエリン化 → 成長とともにミエリン化の減少)がある

腸内細菌の多様性が低く、ビフィズス菌・ラクトバチルス菌が減少している

腸内細菌が作る短鎖脂肪酸(SCFAs)が白質の発達を調整する可能性がある

腸内環境を改善することで、ASDの治療に新たな可能性が生まれるかもしれない

この研究は、腸と脳の関係(腸-脳軸)を通じて、腸内環境が自閉症の脳の発達に影響を与える可能性を示し、将来的な治療法の開発につながる可能性があることを示唆しています

The clinical interface of tuberous sclerosis complex and autism spectrum disorder: insights and future directions

「結節性硬化症(TSC)と自閉症スペクトラム障害(ASD)の関連:診断と治療の展望」

背景

  • *結節性硬化症(TSC)**は、遺伝性の疾患で、TSC1またはTSC2遺伝子の変異によって、体のさまざまな臓器に腫瘍ができる病気
  • TSCの症状には、てんかん発作、発達の遅れ、皮膚の異常などが含まれる。
  • TSCの患者の約30~50%が、自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断基準を満たすと報告されており、両者の関連が注目されている。
  • ASDの特徴を持つTSCの患者の割合は17~63%と幅があるが、特に乳児期のけいれん(点頭てんかん)や早期発症のてんかんがある場合、ASDの診断率が高い

研究の目的

  • TSCとASDがどのように関連しているのかを明らかにし、より正確な診断と適切な治療の方法を探る
  • TSCとASDは症状が重なるため、どのように鑑別診断(見分けること)を行うべきかを検討する

研究方法

  • 行動・発達検査を用いてASDの症状を評価
  • fMRI(機能的MRI)やPETスキャンを用いて脳の異常を特定
  • 遺伝子解析でTSC1/TSC2の変異を調べる

研究結果

  1. TSC患者の約90%がTSC関連神経精神疾患(TAND)を持つ
    • そのうち30~50%がASDの診断基準を満たす
    • ASDの特徴を持つTSC患者は、特に乳児期の点頭てんかんや早期のてんかん発症が多い
  2. TSCとASDは診断が難しい
    • 両者には共通する症状(てんかん、知的障害など)が多く、診断が難しい
    • ASDとして診断される患者の中に、実はTSCが基礎にあるケースも存在する可能性がある。
  3. 治療は個別対応が必要
    • 行動療法(ABAなど):ASDの特性を持つTSC患者に有効。
    • *エベロリムス(Everolimus)**などのmTOR阻害剤:TSCの病態に効果が期待される。
    • 高度な脳画像診断(fMRIやPET)を活用し、患者ごとに適切な治療計画を立てるべき

結論

  • TSCとASDは多くの共通点があるため、専門的な診断と多職種(医師、心理士、遺伝専門家など)の連携が必要
  • TSC患者のASDの診断と治療には、行動療法・薬物療法・高度な画像診断を組み合わせた個別対応が重要
  • 今後の研究では、バイオマーカー(診断の目安となる生体指標)や分子標的治療の開発が期待される

考察と今後の課題

  • TSCの早期診断が、ASDのリスク評価にもつながる可能性があるため、出生後のスクリーニングを強化することが望ましい
  • TSCの治療に使われるmTOR阻害剤が、ASDの症状にも効果を持つかどうかをさらに研究する必要がある
  • TSC患者の中で、どのような特徴を持つ人がASDを発症しやすいのかを特定することで、より効果的な予防と治療が可能になるかもしれない

ポイントまとめ

TSCの患者の30~50%がASDの診断基準を満たす

TSCとASDは、てんかんや知的障害など共通の症状が多く、診断が難しい

TSC患者のASD症状には、行動療法・mTOR阻害剤・高度な脳画像診断を組み合わせた治療が有効

今後の研究では、バイオマーカーや分子標的治療の開発が期待される

この研究は、TSCとASDの関連性を明らかにし、より正確な診断と個別化された治療の重要性を示しており、今後の治療法の進展に大きな影響を与える可能性があります

Toward a consensus on dyslexia: findings from a Delphi study

「ディスレクシア(読字障害)の定義に関するコンセンサスの確立:デルファイ法による研究」

背景

  • ディスレクシア(読字障害)は、最も一般的な神経発達障害の1つだが、その定義には長年にわたり多くの議論がある。
  • 明確な定義がないことで、教育や支援の現場で混乱や誤解が生じることが問題視されている
  • 本研究は、多くの専門家の意見を統合し、ディスレクシアの定義について共通の認識(コンセンサス)を得ることを目的とする

研究方法

  • ディスレクシアの専門家(研究者、特別支援教育の教師、教育心理学者、ディスレクシアの当事者)を対象にデルファイ法を用いた。
    • デルファイ法(Delphi method)**:複数の専門家の意見を集め、合意に達するまで繰り返しフィードバックを行う調査手法。
  • 2回のアンケート調査を実施し、80%以上の専門家が同意したステートメント(定義や特徴に関する記述)を確定
  • 意見が割れた項目については、専門家グループ内でさらに議論し、最終的な合意を形成

研究結果

  1. ディスレクシアの定義に関する42のステートメントが確定
  2. 専門家の間で高い合意が得られた主なポイント
    • ディスレクシアは、読字(読み)と綴字(書き)の困難を伴う障害である
    • ディスレクシアの原因は多様であり、単一の要因では説明できない
    • ディスレクシアは他の発達障害(ADHDなど)と併存することが多い
    • 年齢や言語に関係なく、読みの流暢さ(スムーズに読めるか)や綴字の困難が、ディスレクシアの主要な特徴である

結論

  • ディスレクシアの統一的な定義を確立することは、診断・支援の精度向上に貢献する
  • ディスレクシアは単なる「読み書きの苦手さ」ではなく、脳の情報処理の違いに起因する発達障害であることを明確にすることが重要
  • ディスレクシアの理解を広め、教育現場や社会全体での支援を強化するために、新たな定義の普及が求められる

ポイントまとめ

ディスレクシアは、読字・綴字の困難を伴う神経発達障害である

ディスレクシアの原因は単一ではなく、多くの要因が関係する

ADHDなど他の発達障害と共存することが多い

年齢や言語に関係なく、「読む速さ」と「書く能力」が主要な指標となる

統一された定義を確立し、教育・支援の精度を向上させることが重要

この研究は、ディスレクシアに関する専門家の意見を統合し、より明確な定義を提示することで、診断や支援の基盤を強化することを目的としており、今後の教育・医療現場での活用が期待される

Frontiers | Vitamin D insufficiency and Sleep Disturbances in children with ADHD: A Case-Control Study

「ADHDの子どもにおけるビタミンD不足と睡眠障害:ケースコントロール研究」

背景

  • 注意欠如・多動症(ADHD)は、睡眠の問題を伴うことが多いが、その原因の一つとしてビタミンD不足が関与している可能性がある。
  • ビタミンDは、睡眠の調整や脳の機能維持に重要な役割を果たすと考えられている。
  • これまで、ADHDの子どもにおけるビタミンD不足と睡眠問題の関係を詳しく調べた研究はなかった

研究の目的

  • ADHDの子どもにおいて、ビタミンD不足が睡眠障害を悪化させるのかを調査
  • さらに、ビタミンD不足がADHDの症状や日常生活の機能に影響を与えるかも検討

研究方法

  • 対象者:6~14歳のADHDの子ども260人
    • ビタミンD不足群(95人)
    • ビタミンDが十分な群(165人)
  • 評価方法
    • ADHD症状や機能障害の評価
      • SNAPスケール(ADHDの症状評価)
      • IVA-CPT(注意力・衝動性の評価)
      • Conners親用症状質問票(PSQ)
      • Weiss機能障害評価尺度(WFIRS-P)
    • 睡眠の評価
      • 子どもの睡眠習慣質問票(CSHQ):親が記入

研究結果

  1. ADHDの子どもは、全体的に睡眠問題が多い
    • 両グループとも、CSHQの合計スコアが41を超えており、睡眠障害が一般的に見られた
  2. ビタミンD不足の子どもは、睡眠の質がより悪い
    • 睡眠時間が短い(p<0.05)
    • 睡眠時無呼吸(睡眠中の呼吸の問題)が多い(p<0.05)
  3. ビタミンD不足はADHDの症状そのものには直接的な影響を与えない
    • ADHDのタイプ(不注意型、多動型など)や症状の重さには有意な関連は見られなかった(p>0.05)
  4. 睡眠の問題とADHDの症状や日常生活の困難さには関連がある
    • 睡眠障害が強い子どもほど、ADHD症状や機能障害が悪化する傾向が見られた

結論と提言

  • ADHDの子どもは、一般的に睡眠問題を抱えているため、睡眠の質を改善することが症状管理に役立つ可能性がある
  • ビタミンD不足は、ADHD症状そのものには直接影響しないが、睡眠の質の低下を引き起こすことが示唆された
  • ADHDの子どもの睡眠問題を管理するために、ビタミンD不足のスクリーニングや補充を検討する価値がある

ポイントまとめ

ADHDの子どもは、一般的に睡眠障害を抱えやすい

ビタミンD不足の子どもは、特に睡眠時間が短く、睡眠時無呼吸のリスクが高い

ビタミンD不足は、ADHDの症状(不注意・多動)には直接影響しない

睡眠の質が低いと、ADHDの症状や日常生活の機能に悪影響を与える可能性がある

ADHDの子どもには、ビタミンD不足のスクリーニングや適切な睡眠管理が重要

この研究は、ADHDの子どもにおける睡眠問題とビタミンDの関係を明らかにし、ビタミンD補充がADHDの管理に役立つ可能性を示唆している