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療育で活用できるデータを集める方法4選【応用行動分析学・ABA】

· 28 min read
Tomohiro Hiratsuka

児童の成長をモニタリングして行く上でデータ分析は欠かせません。

療育のデータ分析してますか?

児童の成長をモニタリングして行く上でデータ分析は欠かせません。

個別支援計画の更新時などに、保護者の方へのインタビューやアセスメントなどを使用してデータを集め、現在の状態を可視化するという作業はみなさん実施されているかと思います。

しかし、より短い期間でデータを集めて分析して行く方法となるとなかなか難しいと感じられているのではないでしょうか?良質な支援を提供していくには、日々実施している支援の効果をしっかりと確認していく必要があります。

行動を科学する学問である応用行動分析学では、療育効果を比較的短い期間で計測する方法がいくつも確立されています。

この記事では療育において主に使用されるデータ収集方法に関して概要と実践方法をご紹介します。

基本的な考え方

応用行動分析学は行動を科学する学問と簡単にご紹介しましたが、データ収集・分析をする上でも前提となる基本的な事項があります。

効果測定に関して

療育の効果測定と聞くと、発達段階やその他指数を思い浮かべがちです。しかしながらそれらの基準は個々のスキル獲得の度合いに関しては計測できません。個々のスキル獲得においてより重要なのは、学習中のスキルが出来るようになりつつあるのか否かという点です。この点に関して応用行動分析学では、行動の回数、頻度、時間、発生割合、前後関係などさまざまな側面から学習状況を分析します。

誰が見てもわかる形で行動を定義する

データ分析をするにあたって基本的には、行動の回数や時間などを計測することになります。その際にまずは、行動を客観的に計測でき、かつ誰が見てもわかるような形で定義する事が必要です。

これは計測したい行動のみを適切に計測し、かつ観察者が違っても同一のデータを収集できるようにするためです。

悪い例 教室で小休憩中に癇癪を起こす

良い例 教室で小休憩中に、大きな声を出しながら、机や椅子を叩く行動が5秒以上続く。

以後紹介するそれぞれの記録方法も、計測する行動の定義が定まっていることを前提としていますので、こちらを念頭に記事を読み進めていただければと思います。

時間記録の実施方法

**時間記録(タイミング)**は主に、行動の持続時間を計測する方法です。ストップウォッチや腕時計、スマホなどを使用して、目標行動がどの程度の時間持続しているのか計測します。

使い所としては、目標行動の持続時間が増加しているのか、問題行動の持続時間がどの程度減少しているのかなど行動の持続時間自体が重要な場合に使用します。(反応潜時や反応間時間に関しては玄人向け記事で紹介します。)

時間記録の例

単純に持続時間等を比較するだけでも、変化を見つけることは可能ですが、注意すべきは条件が一致しているかどうかという点です。例えば、観察時間に関して言えば、10分だけ観察した場合と、1時間観察した場合では持続時間の合計は観察時間の長い方が大きくなりがちです。このような場合には常に観察時間を統一した上で比較する、割合に直して比較していくなどの方法でより分析しやすくなりますが条件が違うのでデータの質が落ちてしまいます。

観察時間以外にも、観察する場所や観察する際の周囲の環境など、児童の行動に差が生じてしまう要因がある場合がある為、条件を可能な限り一致させるか、観察条件に違いがある場合には、事前に児童の行動に差が生じるかどうか検証してから記録を開始する方が望ましいです。

イベント記録の実施方法

**イベント記録(事象記録)**は行動の生起に注目して計測する方法です。要は計測したい行動が起きた回数を数える方法ということもできます。使い所としては、行動の回数や正反応の割合が重要になるような行動などです。

イベント記録の対象行動の例 縄跳びの回数 算数の正解数 ひらがなの書き取り

行動を計測する際には、限りなくシンプルに標的行動が起きた数を数えるところから、反応の種類別に計測する、反応の種類に加え結果まで記録する方法などがあります。

計測するにあたって特別に必要なものはありません。身近にあるメモ用紙にチェックを入れて数えてもいいですし、スマホのカウンターアプリを使っても可能です。

反応有無のみを計測するケース

行動が発生した際に数えます。

反応有無のみ収集した事象記録例

反応種類別に計測するケース

計測する行動に関して、正反応、無反応、不適切反応、近似反応の種類別に数えます。

  • 正反応:定義した行動
  • 無反応:行動なし
  • 近似反応:正反応とは言えないが、限りなく近い行動
  • 不適切反応:正反応でも近似反応でもない行動

反応種類別の事象記録例

イベント記録(事象記録)を使用する際に**注意すべきなのは、行動の開始と終了が明確でない行動や、非常に高率で発生する行動、長い時間持続するような行動には使用しにくい(しない方がいい)**という点です。

明確に回数を数えていくためには、そもそも行動が区切れるものである必要があり、また区切れる行動であっても短い期間でたくさん発生するものでは計測の難易度が上がります。さらに長い時間持続するような行動では時間記録等を使用した方がより適切なデータを集める事ができるでしょう。

イベント記録が向いてない行動の例 おもちゃに夢中になって遊んでいる 物を叩く 離席

インターバル記録

**インターバル記録(タイムサンプリング)**は観察期間を時間インターバルに分割してそれぞれのインターバルで行動が発生しているかいないかを計測する方法です。

行動の発生有無を決める基準別に3種類のインターバル記録があります。

全インターバル記録

全インターバル記録は、行動の開始と終了が明確でなく、かつ高率で起こる行動(鼻歌、体を揺するなど)を計測したい場合に使用します。

全インターバル記録は、該当インターバル中ずっと行動が発生していた場合にのみ発生としてカウントする方法です。

Step1インターバル設定

計測するにあたりまずは時間インターバルを定めます。インターバルはあまりに長いと実際の行動の生起を低く見積もってしまうため注意して決める必要がありますが、5~10秒程度のインターバルが一般的です。

Step2記録シート作成

インターバルが定まったら次に記録シートを作成します。記載事項としては最低限、インターバルの数とそれぞれのインターバルで反応が発生したかどうかチェックする欄が必要です。追加情報として、児童名や観察日時、観察場所、対象行動、記録方法なども記載するとなお良いです。

インターバル時間10秒の記録シート例

インターバル番号YesNo
1
2
3
29
30

また記録シートの作成と同時に、それぞれのインターバルの開始と終了がわかるように時間を計測できるものも準備します。

Step3記録作成

準備ができたら実際に計測しますが、全インターバル記録は個々のインターバルの終了時に該当インターバル中ずっと対象行動が発生していた場合、発生としてカウントしそれ以外の場合には発生していないとしてカウントする、という形で記録します。

途中で行動が止まったりした場合には発生としてカウントしません。インターバル全体において行動が発生した場合にのみ発生としてカウントします。

また記録は連続してインターバルごとに記録していく必要があります。これは、今どこのインターバルを記録しているのかよりわかりやすくするためです。

インターバル記録記入例

インターバル番号YesNo
1✔️
2✔️
3✔️
✔️
29✔️
30✔️

Step4発生インターバルの割合

全インターバル記録が取れたら、最後に全体のインターバル数で発生インターバル数を割り算し、発生インターバルの割合を求めます。

発生インターバル数/全体インターバル数=発生割合

また全インターバルの場合にはおおよその全体持続時間を推定することも可能です。

インターバル時間10秒 発生インターバル数5 全体持続時間(推定)  = 50秒

全体インターバル記録の例

全インターバル記録で注意すべきは計測の性質上、実際の発生割合を過小評価するという点です。例えばあるインターバルにおいてインターバル時間10秒のうち9秒行動が発生していたとしても、そのインターバルは行動が発生していなかったとカウントします。

発生割合から全体の持続時間などを求める際に、全体インターバルでは上記の例でいくと9秒ロスした形で計算されてしまいます。そのため全体インターバルを使用する行動としてそもそもの発生が少ないような行動の計測には向きません。

部分インターバル記録

部分インターバル記録は、行動の発生回数や持続時間よりも行動が起きたことそれ自体を問題にしたい場合に使用する計測方法です。

部分インターバル記録では該当インターバル中にわずかでも対象行動が発生すれば該当インターバルを発生としてカウントします。

Step1インターバル設定

計測するにあたり全インターバル記録と同様まずは時間インターバルを定めます。

Step2記録シート作成

インターバルが定まったら次に記録シートを作成します。記載事項としては最低限、インターバルの数とそれぞれのインターバルで反応が発生したかどうかチェックする欄が必要です。追加情報として、児童名や観察日時、観察場所、対象行動、記録方法なども記載するとなお良いです。さらに全体インターバルとは異なり部分インターバルでは行動が起きた瞬間に該当インターバルにチェックする事ができるので、複数の反応を同時に計測することも可能です。

シンプルに対象行動だけを計測したい場合には、全体インターバルと同じ形式のシートを利用する事ができます。

複数行動を同時に計測する記録シート例

インターバル番号標的行動問題行動無反応常同行動
1
2
3
29
30

Step3記録作成

部分インターバル記録では、インターバル中いずれかの時点で行動が発生した際に該当インターバルを発生としてカウントします。

連続して記録していくという点は全インターバルと同様です。

複数行動を同時に計測する記録シート記入例

インターバル番号標的行動問題行動無反応常同行動
1✔️
2✔️✔️
3✔️
✔️
29✔️✔️
30✔️✔️

Step4発生インターバルの割合

インターバルの割合の計算方法も全インターバル記録と同様です。

ただし、**部分インターバルは全インターバル記録と異なり、全体の持続時間の推定はできません。**これは部分インターバルでは行動の持続時間に関わらず発生した瞬間に該当インターバルを発生としてカウントするためです。

部分インターバルを使用する際に注意すべき点は、計測の性質上行動の発生割合を過大評価してしまうという点です。先程の全インターバルとは対照的に、インターバル時間に対して発生した時間が多かろうが少なかろうがインターバルを発生としてカウントしてしまうためです。

ただし高頻度行動に関しては過小評価してしまう可能性があります。というのは、例えば計測したい行動が「発声」である場合に該当インターバル中に何音発声したとしても記録上は該当インターバルに発声があったとして記録されるに止まるためです。そのためより精緻に高頻度行動を計測したい場合にはイベント記録(事象記録)を使用する方が望ましいです。

瞬間タイムサンプリング

瞬間タイムサンプリングは****課題従事などの継続的活動を計測する際に使用する方法です。

この方法においては、インターバルの終了時点で行動が発生している場合にのみ発生としてカウントします。

Step1インターバル設定

計測するにあたり全インターバル記録と同様まずは時間インターバルを定めます。瞬間タイムサンプリングにおいては継続的活動を計測する際に用いるためインターバルは比較的長く設定されます。(数分)

Step2記録シート作成

使用する記録シートは全インターバル記録で使用したシートと同じ形式で記録する事が可能です。

Step3記録作成

瞬間タイムサンプリングでは、インターバルの終了時点で行動が発生している場合に該当インターバルを発生としてカウントして、それ以外の場合には発生していないとしてカウントします。

連続して記録していくという点は全インターバルと同様です。

瞬間タイムサンプリングはインターバル終了時点のみ観察すればいいので他のインターバル記録とは異なりインターバル中にずっと観察している必要がありません。

Step4発生インターバルの割合

インターバルの割合の計算方法も全インターバル記録と同様です。

**瞬間タイムサンプリングは行動をずっと観察していないにも関わらず、時間記録で計測する場合のデータに限りなく近い持続時間の推定値を得る事ができます。**設定したインターバルの時間が2分を超える場合には過大評価となってしまう事が多いですが、2分未満である場合には限りなく近い値を得る事ができます。(Gunter et  al., 2003)

瞬間タイムサンプリングを使用する上での注意すべき点は、低頻度で短い生起時間となるような行動を測定するには向かないという点です、このような行動を計測する場合には部分インターバル記録の方が向いているでしょう。

ABC記録

ABC記録は、どの行動に介入すべきか判断するために行動の候補を集める際や、介入にあたって行動の定義に必要な情報収集をする際、行動の機能を推定する際に用いる記録方法です。

やり方は非常に簡単で、時系列に沿って行動の直前の事象(先行事象)、行動、行動の後の事象(結果事象)の3つを記載するだけです。

ABC記録シートの例

観察時刻先行事象行動結果事象
13:00先生が自席でひらがなの書き取りドリルに取り組むよう支持するドリルを開かず、隣の生徒に声をかける先生が「ドリルを開いてくださいねー」と声をかける
13:05先生が教室を見回るドリルに取り組む先生が「できてるね」と声をかける
13:10先生は過去プリントの採点をし、周りのクラスメイトは静かに課題に取り組んでいる隣の生徒に「ねえねえ」と声をかける先生が「話しかけないで、ドリルやってね」と声をかける

ABC記録実施しさまざまな行動を収集する事でことで、児童の実生活上で、自身の学習を妨げている行動は何か、特に重大な問題行動は何かなど、介入すべき行動の優先度づけができます。

また、行動の前後状況を事実に沿って記載することでその行動が果たしている機能を推定する事ができます。上記の記載例で言えば、いずれの行動も先生からの注目を獲得するという機能が推定できます。

ABC記録を実施するにあたり注意すべき点は下記の通りです。

  1. 観察者を別に用意する必要がある場合がある
  2. 記録の際には事実のみを記載し解釈は記載しない
  3. 必ず行動の前後事象を記録する
  4. 観察による影響を考慮する

セラピストや教師が活動している際に記録する場合には本人だけでは記録できない事があります、このような場合には観察者を用意し観察してもらう方が望ましいでしょう。新たに観察者を用意し観察してもらう場合には、観察者がいるという状況が児童の行動に影響を及ぼす可能性があります。このような場合には、記録開始直後の記録は観察者の存在が影響している可能性を考慮し、また観察者はなるべき自身の存在が児童の行動に影響しないように、児童の名につかないように記録するなど工夫が必要です。

また記録を分析していく際には解釈が発生しますが、記録する際には、その場で起きた事実のみ記載するようにします。

まとめ

今回の記事では、応用行動分析学を元に児童の行動に関するデータを収集する方法をご紹介しました。

イベント記録、時間記録、インターバル記録、ABC記録、それぞれ記録方法や得られるデータの性質に違いがあります。分析したい行動や設定している目標に対してマッチした計測方法を使用することで、児童の成長の客観的評価が可能になります。インターバル記録など実施にあたり少し複雑な記録方法もありますが、イベント記録など明日からでもできそうな記録方法もあるのでぜひお試しください!