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読字困難を持つ中国の子どもたちへの音韻・形態トレーニングの効果

· 12 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事は、発達障害や関連する学術研究の最新知見を紹介しています。具体的には、ADHDを持つ子どもが不安を発症する仕組み、読字困難を持つ中国の子どもたちへの音韻・形態トレーニングの効果、自閉スペクトラム症(ASD)の感覚処理と不安の関係、ASD児における「相互的なタクト」の指導法、さらにASD成人の動作実行および観察における脳活動の特徴に関する研究を取り上げています。

学術研究関連アップデート

Important Mechanisms in the Development of Anxiety in Children with ADHD: The Role of Associated Features of ADHD and Interpersonal Functioning

この論文は、注意欠如・多動症(ADHD)の子どもの約4分の1が同時に不安障害を抱えているという現状を踏まえ、ADHDの子どもが不安を発症する仕組みや関連要因について検討しています。具体的には、ADHDの特徴である努力的制御の低さ感情調整の困難さといった内面的要因、そして親、教師、友人との関係の悪化といった対人関係の要因が、悪循環を生み出し、一部のADHDの子どもが不安を発症しやすくなると提案しています。この論文は、これらの要因が相互に関連し合う仕組みを示唆し、さらなる研究が必要であると述べています。これらの知見は、ADHDを持つ子どもの中でも不安を発症しやすいグループを特定し、より正確な予防や治療を行うための指針となる可能性を示しています。

The effectiveness of phonological training and morphological training in Chinese children with reading difficulty

この論文は、中国語を学ぶ読字困難(RD)を持つ子どもに対して、**音韻トレーニング(PT)形態トレーニング(MT)**が読字能力の向上にどのような効果を持つかを比較した研究です。以下が主な内容です。

研究内容

  • 対象: 中国の小学5年生で読字困難を持つ62人。
  • 介入方法:
    1. 音韻トレーニング(PT):
      • 音韻認識能力(音の意識)や文字から音への変換能力を強化。
    2. 形態トレーニング(MT):
      • 形態認識能力(単語の意味構造)や文字から意味への変換能力を強化。
    3. 対照群(BAU): 通常の授業を継続。

結果

  • 両トレーニングの効果:
    • PTとMTのどちらも、文読解速度、漢字の命名、一分間不規則漢字命名、音韻認識能力をBAUグループより改善。
  • 個別の効果:
    • PTの効果は、音韻認識能力が低い子どもほど高い傾向。
    • MTの効果は、迅速自動命名(RAN)スキルが高い子どもほど高い傾向。

結論

  • 音韻トレーニングと形態トレーニングのいずれも、中国語を学ぶ読字困難の子どもの読字能力向上に有効。
  • 子どもの特性に応じて、効果的な介入方法を選ぶことが重要。
  • この研究は、中国語の読字困難の介入に関する貴重な知見を提供しています。

Sensory Processing and Anxiety: Within and Beyond the Autism Spectrum

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)の人々における感覚処理と不安の関連性に注目し、一般人口とASDの人々の間で不安の表れ方、測定方法、治療がどのように異なるかを探っています。

主な内容

  1. 感覚処理と不安の関連:
    • 感覚処理の違いは、不安の重要な要因としてASDで特に顕著に見られる。
    • 身体内部の感覚(内受容感覚、例: 心拍や胃の不快感)の認識が、不安に大きな影響を与える。
  2. 研究概要:
    • 8~55歳の非ASD者38人とASD者43人を対象に、多様な内受容感覚測定と全体的な不安症状を評価。
    • 主成分分析により、内受容感覚の混乱(内受容信号の局在化や解釈能力の自己報告)を2つの要素に分類:
      1. 不安症状と強く関連する要素。
      2. 不安とは独立している要素。
  3. 内受容感覚の測定:
    • 実験室での課題を通じた内受容感覚の測定結果は、不安とは区別された内受容感覚の混乱と一貫した関係を示す一方で、不安症状全体との関係は複雑。

結論

  • ASDを含む個人の感覚処理の違いが、不安と深く関連していることを示唆。
  • 内受容感覚の困難は、不安に関連する要素とそうでない要素に分けられる可能性があり、それが不安のサブタイプに繋がる。
  • これらの結果は、不安と感覚処理の関連をより個別化し、個人に合わせた治療や理解を進めるための手がかりを提供しています。

この研究は、不安と感覚処理の複雑な関係性を解明し、ASDの特性をより深く理解する上で重要な一歩となっています。

Teaching Reciprocal Tacting to Children With Autism

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちに**「相互的なタクト(reciprocal tacting)」**のスキルを教える方法を調査したものです。タクトとは、物の名前や特性をラベル付けするスキルを指し、ASD児への早期介入でよく強調されるスキルですが、他者との社会的なやり取りの中でそのスキルを使う方法については十分に確立されていません。

研究の概要

  1. 目的:
    • ASDの子どもたちが、他者が発したタクトに応じて物の名前をラベル付けする「相互的なタクト」のスキルを学ぶ方法を調べる。
  2. 方法:
    • 3人のASDの子どもを対象に、**個別試行指導法(discrete trial teaching)**を使用。
    • 研究デザインとして、多重プローブ法を採用。
  3. 結果:
    • すべての参加者が訓練後に「相互的なタクト」を獲得。
    • このスキルは、新しい環境や自然な社会的状況においても汎化され、他者とのやり取りの中で適切に使えるようになった。

結論

この研究は、ASD児が相互的なタクトを学び、それを社会的な場面で活用できるようになるための効果的な教育方法を示しました。この成果は、ASDの子どもたちの社会的スキルを向上させる新たな可能性を提供しています。

Action execution and observation in autistic adults: A systematic review of fMRI studies

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)の成人における動作の実行と観察に関連する神経メカニズムを、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)の研究をレビューして明らかにしたものです。ASDでは、運動機能の困難が一般的ですが、その神経的な背景については十分には解明されていません。

主な内容

  1. 目的:
    • ASD成人が動作を実行する際や他者の動作を観察する際の脳活動の違いを、fMRI研究を通じて体系的に検討。
  2. 結果:
    • ASDの成人は、動作実行や観察の際に神経典型発達(NT)成人と同じ脳領域(前中心回、頭頂葉、下前頭回(IFG)、中側頭回(MTG)、後頭葉、小脳など)を使用しているが、活動の強度や方向性に違いがある。
    • 動作の実行:
      • 前中心回、頭頂葉、小脳、IFGなどで活動が高い場合と低い場合が混在。
    • 動作の観察:
      • IFGや右前中心回で活動が高い場合と低い場合があり、MTGでは活動が低い傾向。
    • 実行と観察の共通点:
      • IFG、MTG、前中心回、頭頂-後頭領域での活動がASD特有のパターンを示し、運動計画や予測制御に関わる領域の非典型的な動員が見られた。
  3. 意義:
    • ASDにおける動作観察時の脳活動パターンは、他者の行動や意図を理解する困難と関連している可能性を示唆。

結論:

この研究は、ASD成人における運動計画や動作理解に関わる脳活動の非典型性を明らかにし、ASDの社会的認知の特性を理解する手がかりを提供しています。この知見は、ASDの運動スキルや社会的認知の支援方法を考案する上で役立つ可能性があります。