PECSを用いた重複障害児のスキル発達
このブログ記事は、自閉スペクトラム症(ASD)、発達性言語障害(DLD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、および重複障害など、発達障害や神経疾患に関連する最新の学術研究を網羅的に紹介しています。ASDとスクリーンタイムの関連性、宗教的要素を組み込んだ死への不安評価尺度の開発、自閉スペクトラム特性に基づく社会的注意の違い、テレヘルスによるアートセラピーの効果、PECSを用いた重複障害児のスキル発達、ADHD特性が高い成人の注意特性、DLDコミュニティ向けの平易な研究要約作成ガイドラインの開発など、多岐にわたる研究が含まれています。
学術研究関連アップデート
Screen Time and Autism Spectrum Disorder: A Comprehensive Systematic Review of Risk, Usage, and Addiction
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)とスクリーンタイム(ST)の関係を包括的に調査した系統的レビューです。2006年から2024年に発表された30件の研究(参加者数356,666人)を分析し、以下の結果を得ました:
- 幼児期のスクリーン曝露:
- 幼児期の長時間のスクリーンタイムは、ASD診断の可能性を高めることと関連。
- ASDとスクリーン使用の傾向:
- ASDの人々は、非自閉症の人々よりも1日のスクリーン使用時間が長く、スクリーン依存のリスクが高い。
- スクリーンタイムの制限の重要性:
- 特に幼児やASDの人々に対して、スクリーンタイムを制限することの重要性を強調。
ただし、エビデンスレベルは低く、因果関係を確立するためには、交絡因子の調整や客観的測定が必要です。将来的な研究では、スクリーンの使用スタイル(能動的または受動的)、使用パターン(デバイスの種類やコンテンツ)とASDの関係を詳しく調査する必要があると結論付けています。
Development and validation of Believers’ Death Anxiety Scale: integrating religious dimensions into death anxiety assessment
この研究は、死への不安を評価する際に、宗教的要素(来世、墓、罰など)を 統合した新しい尺度「信仰者の死への不安尺度(Believers’ Death Anxiety Scale: BDAS)」の開発と妥当性の検証を目的としています。
主な結果
- 尺度の構成:
- BDASは15項目で構成され、以下の5つのサブスケールに分類されました:
- 心配(Worry)
- 恐怖(Terror)
- 絶望(Despair)
- 回避(Avoidance)
- 思考(Thoughts)
- BDASは15項目で構成され、以下の5つのサブスケールに分類されました:
- 妥当性の確認:
- 収束的妥当性: BDASは抑うつ、不安、ストレス尺度と正の相関を示し、心理的な不安との関連を確認。
- 弁別的妥当性: BDASは生活満足度尺度と負の相関を示し、異なる心理的概念を区別できることを確認。
- 信頼性:
- Cronbachのアルファ係数、項目間相関などにより、BDASの高い信頼性と内的一貫性が確認されました。
結論
BDASは、死への不安を包括的に評価するための革新的なツールとして、宗教的次元を考慮した最初の尺度です。研究者や臨床家にとって、特に信仰を持つ人々を対象とする際に、価値のある評価ツールとしての有用性が期待されます。
Social attention in the wild - fixations to the eyes and autistic traits during a naturalistic interaction in a healthy sample
この研究は、**社会的注意(Social Attention)**が自閉スペクトラム特性(Autistic Traits)とどのように関連しているかを、自然な相互作用中の視線行動を通じて調査しました。
主な内容と結果
- 研究背景:
- 社会的刺激への注意は、社会的行動や基本的な社会スキルの発達に重要。
- 従来の研究は静的な画像や動画を用いた実験が多く、現実の社会的相互作用が持つ感覚的豊かさや相互性を反映していない。
- 方法:
- モバイルアイトラッキングと**顔検出アルゴリズム(MTCNN)**を用いて、62名の健常成人の視線行動を測定。
- 半構造化面接中の目の領域への視線固定率と、参加者の自閉スペクトラム指数(AQ)スコアとの関連を分析。
- 主な結果:
- 目の領域への視線固定率とAQ スコアには**負の相関(r = -0.14)**があり、自閉スペクトラム特性が高い人は目への注視が少ないことが示された。
- 質問のタイプ(オープンな質問 vs. クローズドな質問)によって、視線固定率の減少が特定の時間帯で顕著になる可能性が示唆された。
- 意義と将来の研究:
- 自然な社会的相互作用を再現する方法として、今回の実験パラダイムが有用であることを提案。
- 今後の研究では、さらに多様な集団や条件を対象に調査を拡大する可能性について議論。
結論
自然な相互作用中における目への注視頻度が、自閉スペクトラム特性を持つ健常成人で減少することが確認されました。この研究は、現実的な状況下で社会的注意を測定する新しい方法を示し、将来的な社会的相互作用研究の基盤を提供します。
Frontiers | Telehealth in Arts Therapies for Neurodevelopmental and Neurological Disorders: A Scoping Review
この研究は、神経発達障害(NNDs)および神経疾患を対象とした遠隔医療(テレヘルス)におけるアートセラピーの現状を調査するスコーピングレビューです。
主な内容
- 背景と目的:
- アートセラピー(音楽療法、芸術療法、演劇療法、ダンス運動療法など)は、NNDsの治療において有効性が示されています。
- テレヘルスを利用することで、移動が困難な人や遠隔地に住む人々へのアクセス向上が期待されるため、現存する研究を網羅的に整理しました。
- 方法:
- PRISMAガイドラインに従い、6つのデータベースを使用して2888件の文献をスクリーニング。
- 2009年~2024年3月に発表された17件の研究が対象。
- 対象となった疾患には、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、レット症候群、脳卒中、てんかん、脳性麻痺、認知症、アルツハイマー病、パーキンソン病などが含まれる。
- 主な結果:
- 音楽療法が最も広く研究されており、セラピー内容には歌唱や作曲、バーチャルリアリティ体験が含まれる。
- 使用されたプラットフォームは事前録画セッションや仮想環境など多岐にわたり、心理的充実感、社会的つながり、認知機能の向上、脳の変化が報告された。
- 一部では有意な効果が見られない結果や混 在した効果も報告されている。
- 結論:
- テレヘルスアートセラピーはNNDsの人々に心理的、社会的、認知的な利益を提供し、全体的な健康や日常生活の改善に寄与する可能性がある。
- 今後の研究では、高品質な質的研究や神経画像評価を通じて、これらの効果をさらに検証することが求められる。
この研究は、テレヘルスによるアートセラピーがアクセス可能性を高め、NNDsに対する治療としての可能性を示唆する重要な知見を提供しています。
Frontiers | Effectiveness of Picture Exchange Communication System in Developing Requesting Skills for Children with Multiple Disabilities
この研究は、**ピクチャーエクスチェンジコミュニケーションシステム(PECS)**が、重複障害を持つ子どもたちのリクエストスキルの発達に与える効果を評価したものです。以下が主要なポイントです:
- 対象者:
- サウジアラビアのリヤドにあるAutism Center of Excellenceで実施。
- 4.5歳から6.5歳のIQスコア40~44の3名の子どもが対象。
- 全員がインクルーシブ教育プログラムに参加している児童。
- 方法:
- PECSトレーニングプログラムを導入し、参加者の反応を記録。
- 外部観察者による観察を通じてデータを収集。
- *シングルサブジェクトデザイン(SSD)を使用し、特にマルチベースラインデザイン(MBD)**に焦点を当てた実験的アプローチを採用。
- 結果:
- PECSは、リクエストスキルの発達に有効であることが示された。
- スキルの維持と類似状況への一般化が確認された。
結論
この研究は、重複障害を持つ子どもたちに対するPECSの有効性を示し、リクエストスキルの習得とその応用可能性を高める重要な支援手法であることを明らかにしています。
Frontiers | The Attention Network Characteristics of Adults with High ADHD traits: Low Stability, Boost Accuracy by Sacrificing Response Time
この研究は、**注意欠陥多動性障害(ADHD)特性が高い成人(H-ADHD)**の注意特性を調査し、これが全体的な注意パフォーマンスにどのように影響するかを明らかにしました。以下が主要なポイントです:
主な結果
- 注意ネットワーク特性:
- H-ADHDの成人は、以下の特徴を示しました:
- 警戒ネットワーク(alerting network)の低下: 持続的注意力における困難。
- 反応のばらつき(ICV)の増加: 注意の安定性が低いことを反映。
- バランス統合スコア(BIS)の低下: 全体的な注意パフォーマンスが低い。
- H-ADHDの成人は、以下の特徴を示しました:
- 反応パターン:
- H-ADHD成人は、反応時間を犠牲にして正確性を高めるという特異な反応パターンを示しました。
- 注意ばらつきの影響:
- ADHD症状は注意のばらつきを通じて全体的な注意パフォーマンス(BIS)を悪化させる。
- *注意のばらつき(ICV)**は、警戒ネットワークよりも全体的な注意パフォーマンスへの影響が大きい。
- 精神的健康の影響:
- 不安や抑うつスコアを統制した後でも、これらの結果は一貫していた。
結論
H-ADHDの成人は、持続的注意(警戒ネットワーク)と注意の安定性(ICV)において顕著な欠陥を示し、全体的な注意パフォーマンス(BIS)が低下する傾向にあります。この研究は、警戒ネットワーク、注意のばらつき(ICV)、BISがH-ADHDの評価における臨床的価値を持つ可能性を強調しています。
How to create accessible research summaries for the developmental language disorder community
この研究は、**発達性言語障害(DLD)**を持つ人々やその家族が科学研究をより理解しやすくするために、**平易な言葉での研究要約(Plain Language Summaries: PLS)**を作成するためのガイドラインを開発しました。以下が主要なポイントです:
背景と目的
- 科学研究の85%が適切に伝達されないため、無駄になると指摘されており、これは特にコミュニケーション障害を持つ人々に影響を与える。
- 既存のPLSガイドラインを参考にしつつ、DLDコミュニティのニーズや障壁に対応するためのガイドラインを作成した。
方法
- 書面、視覚、音声、動画形式のPLSを作成するためのガイドラインを作成。
- DLD当事者、実装科学者、言語聴覚士の助言を得て、ガイドラインの妥当性を検証。
- テンプレートや例を含むガイドラインをオンラインで公開し、SNSやDLD支援団体を通じて研究成果を共有する方法を提案。
主な成果
- ガイドラインはhttps://osf.io/ydkw9で公開
- PLSは、DLD当事者が自分の診断や研究に対する理解を深め、サービス利用や共同研究の設計に関与することを支援する。
臨床的意義
- 研究者は、これらのガイドラインを活用して、DLDコミュニティに研究成果をわかりやすく伝えられる。
- これにより、DLD当事者のエンパワーメントや、より効果的な科学研究の実施が期待される。
この研究は 、研究の社会的影響を最大化し、DLDに関する理解と支援の向上に寄与する重要な取り組みを示しています。