求職時のASD開示と企業の神経多様性トレーニングの影響
このブログ記事では、発達障害(ASD、ADHD、LD)に関する最新の学術研究を紹介し、それぞれの研究の目的、方法、主な結果、実生活への応用について分かりやすく解説しています。具体的には、ASDとADHDを併発する子どもの脳のネットワーク異常、ASD成人の感覚過敏を測定するツールの検証、ASD 児の注意の切り替え困難、求職時のASD開示と企業の神経多様性トレーニングの影響、ASDと機能性神経障害(FND)の関連、ASD幼児の不安症状の早期発見、音楽を活用したテコンドー訓練の効果、そしてADHD・LDと視力異常の関係など、多岐にわたる研究を取り上げています。これらの研究を通じて、ASDやADHDの理解を深め、より適切な支援や治療方法を検討するための最新知見を提供しています。
学術研究関連アップデート
Developmental functional brain network abnormalities in autism spectrum disorder comorbid with attention deficit hyperactivity disorder
発達障害のある子どもの脳のネットワークはどう違う?
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)の両方を持つ子ども(ASD+ADHD)の脳のネットワークが、ASD単独の子ども(ASD-alone)とどう違うのかを調べたものです。ASDとADHDはよく併存(共存)することが知られていますが、そ れぞれの脳の特徴がどう異なり、またどう重なるのかはまだ明確ではありません。
研究の目的
- ASD+ADHDの子どもとASD単独の子どもでは、脳の働きにどんな違いがあるのか?
- 年齢(発達段階)によって脳の特徴はどう変化するのか?
- ASD+ADHDの脳は、ADHDの影響を受けているのか、それともASDの脳の特徴に独自の違いがあるのか?
研究方法
- 対象者: ASDのある子ども 171名、健常な子ども(対照群) 111名 を対象
- 年齢グループ: 子ども(12歳以下) と 思春期(12~18歳) に分けて比較
- データ: 脳のMRI(磁気共鳴画像) を用いて、脳のネットワークの働き(機能的結合: FC)を解析
- グループ分け:
- ASD+ADHD(両方を持つ子ども)
- ASD-alone(ASDのみの子ども)
- TD(通常発達の子ども)
主な研究結果
✅ 共通する異常(ASD+ADHD & ASD-alone)
- ASD+ADHDとASD単独の両方で、「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」という脳のネットワークの働きが通常とは異なっていることが判明。
- DMNとは? → 何もしていないとき(ぼーっとしているとき)に働く脳のネットワーク。 → 自己認識や他者の気持ちを理解する機能に関係。 → ASDではこのネットワークの働きに異常が見られることが多い。
✅ ASD+ADHD特有の違い
- ASD+ADHDの子どもは、ASD単独の子どもとは異なる脳の結びつきを持つことが判明。
- ASD単独とは異なり、ADHDの影響を受けたと考えられる脳の活動パターンが見られた。
✅ 発達による変化
- 脳の異常のパターンは年齢によって変化することが分かった。
- ASD+ADHDの子どもは、思春期になると脳のネットワークの変化がより顕著に表れる。
研究の結論
- ASD+ADHDとASD単独は、脳のネットワークの働きに共通点もあれば、独自の違いもある。
- ASD+ADHDは、ASDとADHDの両方の特徴を持っているが、単なる「足し算」ではなく、独自の脳の働きを示す。
- 年齢によって脳の働きが変わるため、発達の段階に応じた治療や支援が必要。
実生活への応用
- ASD+ADHDの子どもは、ASD単独の子どもとは異なる対応が必要な可能性がある。
- 思春期では脳のネットワークの変化が大きいため、治療や支援を年齢ごとに見直すことが重要。
- ASD+ADHDの子どもに対する治療アプローチを、ADHDの視点も含めて考える必要がある。
まとめ
この研究は、ASD+ADHDの子どもの脳が、ASD単独の子どもとは異なる発達をすることを明らかにしました。特に、脳のネットワークの働き方(機能的結合)が異なり、年齢によっても変化するため、発達段階に応じた支援が重要であることが示唆されています。この知見は、将来的にASD+ADHDの子どもに対するより適切な支援方法を考える上で役立つでしょう。
Validation of the German Glasgow Sensory Questionnaire in autistic adults - BMC Psychiatry
自閉スペクトラム症(ASD)における感覚過敏・鈍麻を測るドイツ語版「グラスゴー感覚質問票(GSQ)」の検証研究
この研究では、感覚過敏や感覚鈍麻(刺激に対する敏感さ・鈍さ)を測定するための「グラスゴー感覚質問票(GSQ)」のドイツ語版の信頼性と有用性を検証しました。GSQは、特に自閉スペクトラム症(ASD)の成人向けに開発された自己報告式のアンケートです。
研究の目的
- GSQのドイツ語版が、信頼できる測定ツールとして使えるかを検証する。
- ASDのある成人と、ASDのない成人の感覚処理の違いを比較する。
- 感覚過敏・鈍麻の傾向を判断するための「基準値(カットオフ)」を設定し、ASDの診断や支援に活用できるか検討する。
研究方法
- 対象者:
- ASDのある成人 86名
- ASDのない成人 86名
- 使用したテスト:
- ドイツ語版GSQ(感覚過敏・鈍麻を 測定)
- AQ(自閉症スペクトラム指数)(ASDの特性を測る)
- 症状チェックリスト(SCL-90-R)(精神的健康状態を評価)
- 分析方法:
- GSQの信頼性(測定の一貫性があるか)
- 感覚特性の比較(ASDのある人とない人の違い)
- カットオフスコア(「感覚過敏が強い」と判断する基準の設定)
主な研究結果
✅ GSQは信頼性の高いテストである
→ 同じ人が何度受けても、ほぼ同じ結果になることが確認された。
✅ ASDのある人は、感覚の敏感さ・鈍さが一貫していた
→ ASDのない人よりも、「特定の感覚だけが過敏」というよりは、全体的に感覚の違いが出やすい傾向があった。
✅ ASDのある人は、GSQとAQのスコアが高い傾向
→ ASDの特性(AQが高い)ほど、感覚の違い(GSQスコア)が大きくなることが示された。
✅ 感覚過敏・鈍麻のカットオフスコアを設定
→ ASDのない人の上位5%(95パーセンタイル)を基準にすると、ASDのある人の**約3人に1人(33%)が「特に感覚過敏が強い」**と分類された。
結論
- GSQ(ドイツ語版)は、ASDの感覚特性を測る有用な自己報告式テストとして利用可能。
- ASDの診断プロセスで、感覚の敏感さ・鈍さを評価するためのツールとして使える。
- ASDのある人が、日常生活でどんな感覚支援が必要かを判断するのにも役立つ。
- 今後、さらに内部構造の詳細な分析が必要。
実生活への応用
- ASDのある人が、感覚の違いに配慮した支援を受けるためのツールとして活用可能。
- 診断時に「感覚過敏・鈍麻」の程度を客観的に評価する手段として使える。
- カットオフスコアを活用すれば、特に支援が必要な人を見つけやすくなる。
まとめ
この研究は、ASDのある成人の感覚特性を測定するための「グラスゴー感覚質問票(GSQ)」のドイツ語版が、信頼できるツールであることを証明しました。特に、ASDのある人は**「特定の感覚だけ」ではなく、全体的に感覚の過敏・鈍麻が一貫している傾向がありました。今後、このテストを活用して診断や個別支援の精度を高めることが期待されます**。
Five-year-old children with autism spectrum disorders struggle with disengaging attention
5歳の自閉スペクトラム症(ASD)児は注意の切り替えが苦手:視線の移動に関する研究
この研究では、5歳の自閉スペクトラム症(ASD)の子どもが、注意をどのように切り替えるのかを調査しました。これまでの研究では、ASDのある人は注意を移すのが苦手であることが分かっていますが、主に学齢期の子どもや大人を対象としていました。そこで、本研究では幼児の段階でこの特性がすでに見られるのか、また**「注意を向けること(エンゲージメント)」と「注意を外すこと(ディスエンゲージメント)」のどちらが苦手なのか**を詳しく調べました。
研究方法
- 対象:
- ASD児(5歳)
- 定型発達児(TD児、5歳)
- 使用した実験:
- Posnerキューイング課題(画面上の光点を使った視線誘導テスト)
- 注意の移動にかかる時間を測定
- 「注意を向ける」vs「注意を外す」のどちらが苦手なのかを検証
主な研究結果
✅ ASD児もTD児も、注意を向ける(エンゲージメント)は問題なくできた
→ 目立つものに素早く注意を向ける能力は、ASD児も健常児も同じだった。
⚠️ ASD児は、注意を外す(ディスエンゲージメント)が苦手だった
→ 一度注目したものから視線を移すのに時間がかかった(特に「抑制のリバウンド効果(IOR)」が見られなかった)。
→ これは「目をそらすことが難しい」というASDの特徴と一致している。
結論
- 5歳のASD児は、すでに「注意の切り替えが苦手」という特徴が見られる。
- 特に「一度向けた注意を外すこと(ディスエンゲージメント)」が難しい。
- 幼児期から注意の切り替えをサポートする訓練が重要。