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成人期のASD研究の重要性

· 約18分
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事では、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)に関連する最新の学術研究を紹介しています。具体的には、ヨルダンの大学生におけるASDに対する知識と偏見の実態調査、成人期のASD研究の重要性、ADHDの精神病理分類に関する症状分析、ASDの遅れた診断による課題、ストレス軽減アプリ「SAM Junior」の試験結果、ASD患者の消化器症状と遺伝的要因の関連性、ASD成人のカテゴリ学習と一般化能力の違い、そして顔認知におけるASDの知覚特性について取り上げています。

学術研究関連アップデート

Characteristics of knowledge and stigma of autism spectrum disorder among university students in Jordan: a nationwide cross-sectional study - Middle East Current Psychiatry

この研究は、ヨルダンの大学生を対象に**自閉スペクトラム症(ASD)に対する知識とスティグマ(偏見)**の実態を調査したものです。2024年6月から7月にかけて1,200人の学生が参加し、自己記入式アンケートを用いてデータが収集されました。

主な結果

  1. 知識
    • 医学部の学生や事前知識を持つ学生、都市部在住の学生はASDについての知識が高い傾向がありました。
    • 全体の平均知識スコアは中程度(44.5点)で、特に診断や治療に関する理解に差が見られました。
  2. スティグマ(偏見)
    • 学生の18.3%がASDに対する偏見を示し、非医学系の学生や地方在住者の間で偏見が強い傾向がありました。
    • 医学部の学生でも、知識が高い一方で偏見が残る結果となり、共感を基盤とした教育の必要性が示唆されました。

結論

ヨルダンの大学生はASDに関する知識にばらつきがあり、偏見も依然として存在しています。特に医学教育においては、知識を深めるだけでなく、共感的な理解を育む教育の重要性が強調されました。

Autism at 30: Conceptualizations for adult research and clinical practice

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)の成人期における生活と経験を理解するため、幼少期(2~3歳)にASDと診断され、その後30年間追跡された115人の参加者のデータを基にレビューを行いました。参加者の背景は比較的多様で、20%が黒人または混血、13%が女性、43%が地方在住、37%が大学卒ではない保護者を持っています。また、50人は平均的な認知能力(平均IQ=98.8)を持ち言語流暢性がある一方、65人は知的障害(平均IQ=28.5)または最小限の言語能力を持っています。

主な内容

  1. 成人期の経験の特徴:
    • 一般人口とは異なる生活の課題がある一方で、特に生活の質に関連して、共通点も認められました。
  2. 社会的意義:
    • ASDの成人数が増加し続ける中、彼らのニーズを満たすための高品質な研究や臨床サービスが必要であることが強調されています。

結論

ASDは生涯にわたり影響を及ぼすため、成人期に焦点を当てた研究や支援体制の整備が重要であり、心理学の研究と実践における優先課題とすべきであるとしています。

Where does attention-deficit/hyperactivity disorder fit in the psychopathology hierarchy? A symptom-focused analysis

この論文は、注意欠如・多動症(ADHD) が精神病理の分類システムにおいて「外在化症状群」か「神経発達症群」のどちらに属するかを明確にするため、ADHDの症状を詳しく分析しました。

主な内容

  • ADHDの症状は3つの領域(外在化症状、神経発達症状、内在化症状)と関連していることが分かりました。
    • 外在化: 衝動性、学業不振、忍耐力の低さが強く関連。
    • 神経発達: 認知的な離脱(例: ぼんやりする、空想する)や未熟さが関連。
    • 内在化: 認知的な離脱は内在化症状(不安や抑うつ)とも関連。

結論

ADHDは単一の疾患として捉えるべきではなく、特定の症状が異なる領域と関連しているため、外在化症状神経発達症状のどちらかに限定して分類するのは不適切です。症状ごとに焦点を当てたアプローチが、現代の精神病理分類や治療の向上に役立つと提案しています。

Frontiers | The challenge of a late diagnosis of Autism Spectrum Disorder: co-occurring trajectories and camouflage tendencies. A case-report of a young female with Autism and Avoidant Restrictive Food Intake Disorder

この論文は、**自閉スペクトラム症(ASD)**の遅れた診断がもたらす課題と、**回避・制限性食物摂取症(ARFID)**との共存の影響をケーススタディとして検討したものです。特に、認知の硬直性や感覚の敏感さという両疾患の共通点が、診断や治療を複雑にしていることに注目しています。

主な内容

  • 対象: ASDの診断が遅れた若い女性(Lさん)を対象とし、診断遅延が引き起こした抑うつ症状ARFIDを含む精神的併存症について検討。
  • ASDとARFIDの共通特徴:
    • 認知の硬直性感覚過敏が診断を難しくし、両疾患が悪化する原因となり得る。
  • 診断と治療:
    • ASD診断後、併存症を評価し、効果的な治療計画を立案。
    • 認知行動療法(CBT)と薬物療法を組み合わせた治療を実施。
  • カモフラージュ現象:
    • ASDの特徴を隠すための行動(カモフラージュ)が診断遅延の一因となり、機能の違いが悪化したと指摘。

結論

  • ASD女性の診断遅延は、併存症の悪化やカモフラージュ現象の増加を引き起こす可能性がある。
  • 個別化された評価統合的治療計画(CBTと薬物療法の組み合わせ)が重要である。
  • ASDと関連する精神的併存症の進行を継続的にモニタリングする必要性を強調。

このケーススタディは、ASD女性の特性や診断遅延の影響についての理解を深め、適切な診断と治療の重要性を示しています。

Frontiers | Effectiveness of the Mobile Stress Autism Mate (SAM) Junior Application in Reducing Stress and Improving Quality of Life in Adolescents with Autism: A Pilot Study

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の青年のストレスを軽減し、生活の質を向上させるために設計されたモバイルアプリ**「Stress Autism Mate (SAM) Junior」**の効果を検証したものです。既に成人向けアプリ「SAM」が効果を示している中で、青年版の有効性を確認するため、オランダのASDの青年24人(うち16人が全研究フェーズを完了)を対象に、4つの時点(コントロール、事前テスト、事後テスト、フォローアップ)で評価を行いました。

結果

  • アプリ使用後、以下の4つの指標(ストレスの軽減、適応的対処法の増加、不適応的対処法の減少、生活の質の向上)について有意な効果は見られませんでした。
  • フォローアップ時点でも同様に効果は確認されませんでした。

考察

  • アプリを専門家のサポートなしで使用することが、ASDの青年にとって複雑すぎた可能性が示唆されます。
  • 今後の研究では、専門家のサポートを伴う利用や、デザインや機能を改良したアプリの効果を再検証する必要があるとされています。

結論

現段階では、SAM JuniorアプリがASDの青年のストレス軽減や生活の質向上に有効であるとは言えず、さらなる研究と改良が必要です。

Exploring congenital sucrase‐isomaltase deficiency in autism spectrum disorder patients with irritable bowel syndrome symptoms: A prospective SI gene sequencing study

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)を持つ過敏性腸症候群(IBS)様の消化器症状を示す患者における**先天性スクラーゼ-イソマルターゼ欠損症(CSID)**の有病率を調査したものです。CSIDは遺伝性の代謝疾患で、未治療の場合、慢性的な消化器症状や栄養失調を引き起こしますが、多くの場合診断が遅れるか、見逃される傾向があります。

研究内容

  • 対象: IBS様の消化器症状を持つ98人のASD患者。
  • 方法: Rome IV基準を用いて症状を評価し、SI遺伝子の配列解析を実施。臨床データや食事データも収集。
  • 結果:
    • 7人(7%)がSI遺伝子変異に基づきCSIDと診断。
    • 診断された7人のうち、6人が異なる変異を持ち、そのうち4つは新規の変異。
    • 主な症状: 下痢、腹痛、腹部膨満感、2人は成長遅延も認められた。
    • 誤診例: 食物アレルギーや乳糖不耐症と誤診された例が2件。

結論

  • ASD患者のIBS様症状には、CSIDを鑑別診断に含めるべき。
  • SI遺伝子変異の早期スクリーニングは、診断と治療を早め、予後を改善する可能性がある。
  • ヘテロ接合型の変異でも典型的なCSID症状を示すことがあり、注意が必要

この研究は、ASDとIBS様症状を持つ患者のCSIDの見逃されがちなリスクを強調し、遺伝子スクリーニングの重要性を提唱しています。

Altered category learning and reduced generalization in autistic adults

この研究は、自閉スペクトラム症(ASC)を持つ成人が、カテゴリ学習と一般化においてどのような違いを示すかを行動と神経レベルで調査したものです。研究対象は、自閉スペクトラム症の成人38名と神経発達的に典型的な成人(NT)38名です。

主な内容と結果

  1. カテゴリ学習のプロセス:
    • ASCの参加者はカテゴリ学習が遅いことが確認されたが、学習の戦略自体はNTの参加者と同じ。
    • EEG(脳波計測)による分析では、刺激提示後の右後頭側頭皮質のN1成分がASCの参加者で減少しており、カテゴリ化の熟達度における非典型性を示唆。
  2. フィードバック処理の違い:
    • ASCの参加者は、負のフィードバック後に前頭部の活動が遅れ、かつ高まる傾向が見られた。
    • これは、フィードバックの明示的な処理が増えるか、予測誤差の重要性が増す可能性を示唆。
  3. 一般化の精度:
    • 訓練後、ASCとNTの参加者は、拡張された刺激空間内でのカテゴリ学習を一般化することができた。
    • しかし、新しい形状セットに対する一般化では、ASCの参加者の精度が有意に低かった。
    • 一般化の低下は、不確実性への耐性の低さと関連。

結論

  • ASCの成人は、カテゴリ学習が遅く、一般化能力が低い傾向があり、これらは不確実性への不耐性や、神経的な反応パターンの違い(刺激処理やフィードバック処理)と関連している可能性がある。
  • この研究は、自閉スペクトラム症の臨床症状に関連する行動と神経の違いを示し、学習や適応支援の新たな方向性を示唆しています。

Disentangling the perceptual underpinnings of autism: Evidence from a face aftereffects experiment

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)を持つ男性青年の顔認知における知覚処理の特徴を調べ、特に「顔の性別に基づく適応効果(顔後効果)」に注目したものです。従来の研究では、自閉スペクトラム症の人々が「適応効果」の減少を示すことが報告されてきましたが、その背後にあるメカニズム(例:曖昧な事前情報や感覚精度の向上)は明確ではありません。

研究の方法と結果

  1. 対象:
    • ASDの男性青年29名と、神経発達的に典型的な(NT)男性青年39名が参加。
  2. 方法:
    • 「性別顔後効果」を測定するための行動選択実験を実施。
    • 分析にはモデルフリー(頻度統計)とモデルベース(階層的ドリフト拡散モデル)アプローチを採用。
  3. 結果:
    • 初期仮説(ASDの参加者は曖昧な事前情報や感覚精度の向上を示す)は支持されず。
    • 代わりに、ASDの参加者では「男性顔」に対するドリフト率(刺激に対する反応速度と一貫性)が低下していることが判明。
    • 「自分と同じ性別の顔に対するバイアス(own-gender bias)」が欠如していることを示唆。

結論

  • 自閉スペクトラム症の人々は、事前情報や感覚精度に異常を示すという従来の仮説を支持する結果は得られず、顔認知における課題は別のメカニズムによる可能性が示唆されました。
  • 特に、男性顔に対する反応の低下(own-gender biasの欠如)は、自閉スペクトラム症における顔処理の特徴を理解する手がかりとなる重要な発見です。
  • この研究は、ASDの知覚処理における複雑さを明らかにし、さらなる精緻な分析の必要性を強調しています。