成人期のASD研究の重要性
このブログ記事では、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)に関連する最新の学術研究を紹介しています。具体的には、ヨルダンの大学生におけるASDに対する知識と偏見の実態調査、成人期のASD研究の重要性、ADHDの精神病理分類に関する症状分析、ASDの遅れた診断に よる課題、ストレス軽減アプリ「SAM Junior」の試験結果、ASD患者の消化器症状と遺伝的要因の関連性、ASD成人のカテゴリ学習と一般化能力の違い、そして顔認知におけるASDの知覚特性について取り上げています。
学術研究関連アップデート
Characteristics of knowledge and stigma of autism spectrum disorder among university students in Jordan: a nationwide cross-sectional study - Middle East Current Psychiatry
この研究は、ヨルダンの大学生を対象に**自閉スペクトラム症(ASD)に対する知識とスティグマ(偏見)**の実態を調査したものです。2024年6月から7月にかけて1,200人の学生が参加し、自己記入式アンケートを用いてデータが収集されました。
主な結果
- 知識:
- 医学部の学生や事前知識を持つ学生、都市部在住の学生はASDについての知識が高い傾向がありました。
- 全体の平均知識スコアは中程度(44.5点)で、特に診断や治療に関する理解に差が見られました。
- スティグマ(偏見):
- 学生の18.3%がASDに対する偏見を示し、非医学系の学生や地方在住者の間で偏見が強い傾向がありました。
- 医学部の学生でも、知識が高い一方で偏見が残る結果となり、共感を基盤とした教育の必要性が示唆されました。
結論
ヨルダンの大学生はASDに関する知識にばらつきがあり、偏見も依然として存在しています。特に医学教育においては、知識を深めるだけでなく、共感的な理解を育む教育の重要性が強調されました。
Autism at 30: Conceptualizations for adult research and clinical practice
この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)の成人期における生活と経験を理解するため、幼少期(2~3歳)にASDと診断され、その後30年間追跡された115人の参加者のデータを基にレビューを行いました。参加者の背景は比較的多様で、20%が黒人または混血、13%が女性、43%が地方在住、37%が大学卒ではない保護者を持っています。また、50人は平均的な認知能力(平均IQ=98.8)を持ち言語流暢性がある一方、65人は知的障害(平均IQ=28.5)または最小限の言語能力を持っています。
主な内容
- 成人期の経験の特徴:
- 一般人口とは異なる生活の課題がある一方で、特に生活の質に関連して、共通点も認められました。
- 社会的意義:
- ASDの成人数が増加し続ける中、彼らのニーズを満たすための高品質な研究や臨床サービスが必要であることが強調されています。
結論
ASDは生涯にわたり影響を及ぼすため、成人期に焦点を当てた研究や支援体制の整備が重要であり、心理学の研究と実践における優先課題とすべきであるとしています。
Where does attention-deficit/hyperactivity disorder fit in the psychopathology hierarchy? A symptom-focused analysis
この論文は、注意欠如・多動症(ADHD) が精神病理の分類システムにおいて「外在化症状群」か「神経発達症群」のどちらに属するかを明確にするため、ADHDの症状を詳しく分析しました。
主な内容
- ADHDの症状は3つの領域(外在化症状、神経発達症状、内在化症状)と関連していることが分かりました。
- 外在化: 衝動性、学業不振、忍耐力の低さが強く関連。
- 神経発達: 認知的な離脱(例: ぼんやりする、空想する)や未熟さが関連。
- 内在化: 認知的な離脱は内在化症状(不安や抑うつ)とも関連。
結論
ADHDは単一の疾患として捉えるべきではなく、特定の症状が異なる領域と関連しているため、外在化症状か神経発達症状のどちらかに限定して分類するのは不適切です。症状ごとに焦点を当てたアプローチが、現代の精神病理分類や治療の向上に役立つと提案しています。
Frontiers | The challenge of a late diagnosis of Autism Spectrum Disorder: co-occurring trajectories and camouflage tendencies. A case-report of a young female with Autism and Avoidant Restrictive Food Intake Disorder
この論文は、**自閉スペクトラム症(ASD)**の遅れた診断がもたらす課題と、**回避・制限性食物摂取症(ARFID)**との共存の影響をケーススタディとして検討したものです。特に、認知の硬直性や感覚の敏感さという両疾患の共通点が、診断や治療を複雑にしていることに注目しています。
主な内容
- 対象: ASDの診断が遅れた若い女性(Lさん)を対象とし、診断遅延が引き起こした抑うつ症状やARFIDを含む精神的併存症について検討。
- ASDとARFIDの共通特徴:
- 認知の硬直性や感覚過敏が診断を難しくし、両疾患が悪化する原因となり得る。
- 診断と治療:
- ASD診断後、併存症を評価し、効果的な治療計画を立案。
- 認知行動療法(CBT)と薬物療法を組み合わせた治療を実施。
- カモフラージュ現象:
- ASDの特徴を隠すための行動(カモフラージュ)が診断遅延の一因となり、機能の違いが悪化したと指摘。