空気汚染物質への曝露と自閉スペクトラム症(ASD)リスクの関連性
このブログ記事では、**多家族ナラティブ療法(MFNT)**がADHDを持つ中国の家庭に与える心理的影響と親子関係の改善効果を検証した研究と、空気汚染物質への曝露と自閉スペクトラム症(ASD)リスクの関連性を分析した系統的レビューとメタアナリシスを紹介しています。MFNTは親の心理的苦痛や親子関係の一部改善に有効である一方、ストレス軽減には課題が残り、ADHD家庭支援の新たな方向性を示しました。一方、空気汚染物質では、妊娠中および出生後の曝露がASDリスクを顕著に高めることが確認され、特に生後2年目の曝露が大きな影響を与えることから、環境改善の重要性が提言されています。
学術研究関連アップデート
Treatment Efficacy of Multiple Family Narrative Therapy for Chinese Families of Children with Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder: A Randomized Controlled Trial
この研究は、注意欠如・多動症(ADHD)を持つ子どもを育てる中国の家庭を対象に、**多家族ナラティブ療法(MFNT)**の効果を検証したものです。香港で実施されたランダム化比較試験では、治療群と待機リスト対照群に分けた61家族を対象に、介入前、介入後、3か月後のフォローアップで評価が行われました。
主な結果:
- 改善が見られた項目:
- 親の心理的苦痛が有意に減少(p = .047 )。
- 子どもが感じる親からの拒絶感が有意に減少(p = .015)。
- 父親の過保護が有意に減少(p = .001)。
- 改善が見られなかった項目:
- 親のストレスや罪悪感、親子関係に対する親の認識には有意な変化は見られなかった。
意義:
- 香港では、ADHD家庭への支援が子どもの行動改善に重点を置いている中で、MFNTは親の心理的健康や家族内の関係性に焦点を当てた新しいアプローチを提案。
- ADHDに対する親の認識を変えることで、家庭全体の心理的・社会的健康を促進する重要性を示唆しています。
結論:
この研究は、ADHDを持つ子どもの家庭への支援として、多家族ナラティブ療法が一定の効果を持つことを明らかにしましたが、親のストレスや罪悪感への影響には課題が残っています。今後は、より広範な効果を目指した改良が求められます。
Preconception and gestational versus postnatal exposure to air pollutants and risk of autism spectrum disorder: a systematic review and meta-analysis
この研究は、空気汚染物質(PM2.5、PM10、NO2、O3)への曝露と自閉スペクトラム症(ASD)のリスクとの関連を、曝露時期別に検討した系統的レビューとメタアナリシスです。
主な内容:
- 対象データ: 27の研究から369,460人の参加者を解析。そのうち47,973人がASDと診断。
- 調査手法: PRISMAガイドラインに従い、複数のデータベースから文献を検索(Scopus, PubMed/MEDLINE, Embaseなど)。
結果:
- 曝露時期別の影響:
- 妊娠前(Preconception):
- PM2.5、PM10、O3の曝露は、それぞれASDリスクを10%、5%、19%低下させる保護的傾向を示した。
- 一方で、NO2は28%のリスク増加を示した。
- 妊娠中(Gestation):
- PM2.5曝露は全体で15%のリスク増加。
- 特に妊娠初期(1期)で13%、中期(2期)で9%、後期(3期)で25%のリスク増加。
- NO2曝露も各妊娠期でリスク増加(13%、25%、10%)。
- 出生後(Postnatal):
- 1年目: PM2.5(20%)、PM10(8%)、NO2(33%)、O3(14%)のリスク増加。
- 2年目: PM2.5(179%)、PM10(60%)、NO2(12%)、O3(179%)とさらにリスク増加。
- 妊娠前(Preconception):
- 重要な発見:
- ASDリスクはPM2.5とNO2で特に顕著。
- 妊娠前の曝露は一部保護的効果がある一方、出生後の曝露、特に生後2年目でリスクが大幅に上昇。
結論:
この研究は、空気汚染物質への曝露がASDリスクと強く関連していることを示し、曝露時期がリスクに与える影響が異なることを明らかにしました。妊娠中や出生後の曝露、特に生後2年目の曝露がASDリスクを顕著に高めるため、妊娠中の環境改善や乳幼児期の汚染物質への曝露を減らす取り組みが重要であることを提言しています。