ASDを持つ高齢者への偏見について、また自己開示、エンパワーメントの重要性
このブログ記事では、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、およびその他の神経発達症に関連する最新の学術研究を取り上げています。ソーシャルスキルプログラムや性教育の効果に関する検討では、評価方法や介入の質に課題が指摘され、改 善の必要性が示されました。また、ASDの子どもに対するソーシャルストーリー™の効果や、感情調整の困難さが自傷行為の維持に関連する点も議論されています。ADHDの子どもの微細運動スキルの評価や、バーチャルリアリティ(VR)を活用したリハビリ介入は、認知や社会的スキル改善の新たな可能性を示しました。
学術研究関連アップデート
A Systematic Review of Implicit Versus Explicit Social Skills Group Programs in Different Settings for School-Aged Autistic Children and Adolescents
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の学齢期の子どもと青年(6~18歳)を対象に、**ソーシャルスキルグループプログラム(SSGPs)**の効果を評価した系統的レビューおよびメタ分析です。65件の研究を分析し、そのうち49件がメタ分析に含まれました。
主な結果
- 全体的な効果: SSGPsは、ASDの子どもや青年の社会的スキルに全体的な効果は示されませんでした。
- 報告者による違い: 自己報告、親の評価、研究者の評価では小さな効果が認められました。
- 教え方や設定の影響: 教え方やプログラムの実施場所は、SSGPsの効果に有意な影響を与えませんでした。
- 出版バイアス: 分析では出版バイアスの可能性が示され、調整が必要でした。
結論
SSGPsの効果を評価するための測定基準や方法に改善が必要であり、社会的スキルの向上を正確に捉える仕組みが求められています。
Systematic Integrative Review: Sex Education for People with Autism Spectrum Disorder
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の人々に向けた性教育プログラムの現状と効果を分析した系統的統合レビューです。健康的な性的発達には、適切な知識や態度を身につける生涯学習が重要である一方、ASDの人々向けの性教育に関する研究は不足していることが指摘されています。
主な内容
- 対象データ:7つのデータベースから20件の研究(無作為化試験1件、混合法7件、非無作為化試験12件)を抽出。
- 結果:
- プログラムの効果:研究の質が低いため、性教育プログラムが知識向上に効果があるとは断定できませんでした。
- ポジティブな傾向:多くの研究で、参加者がトレーニングから一定の利益を得たことが示唆されました。
- 課題と提言:
- 研究の質向上が必要(例: 無作為化試験の増加)。
- 実践的で効果的な性教育プログラムの設計・評価が求められます。
結論
ASDの人々に向けた性教育は重要ですが、現存する研究の質やプログラムの評価方法に改善の余地があり、今後の取り組みが必要とされています。
Autism Spectrum Social Stories in Schools Trial 2 (ASSSIST-2): a pragmatic randomised controlled trial of the Social Stories™ intervention to address the social and emotional health of autistic children in UK primary schools
この研究は、イギリスの小学校に通う自閉スペクトラム症(ASD)の子どもを対象に、**「ソーシャルストーリー™」**と呼ばれる個別にカスタマイズされた短い物語の効果を評価したものです。ソーシャルストーリー™は、子どもが社会的状況や感情を理解しやすくするための介入方法です。
研究内容
- 対象:4~11歳のASDの子ども249人(87校を対象に無作為化比較試験を実施)。
- 方法:
- 44校(129人)で「ソーシャルストーリー™」介入を実施し、残りの学校では通常のケアのみを実施。
- 効果は社会的応答性スケール-2(SRS-2)や、子どもが設定した個別の社会的・感情的目標の達成度などで評価。
結果
- 個別目標の達成:介入を受けた子どもたちは、通常のケアのみの子どもより個別の社会的・感情的目標を達成する割合が高いことが確認されました。
- 社会的応答性の変化:6か月後のSRS-2スコアにわずかな改善が見られたものの、統計的に有意な結果ではありませんでした(1.61点の改善、p = 0.220)。
- 追加効果:6回以上のセッションに参加した子どもでは 、SRS-2スコアの有意な改善が見られました(3.37点の改善、p = 0.043)。
- 他の評価項目(不安、うつ病、親のストレス、健康状態):有意な改善は確認されませんでした。
結論
「ソーシャルストーリー™」は、低コストで負担が少ない介入方法であり、個別の社会的・感情的目標の達成に効果があることが示されました。しかし、社会的な応答性や不安、うつ病など全体的な改善効果は限定的でした。
Toward improved understanding and treatment of self-injurious behaviors in autistic individuals with profound intellectual disability
この論文は、**自閉スペクトラム症(ASD)と中等度~重度の知的障害(ID)を持つ人々における自傷行為(SIB)**の理解と治療改善を目指したものです。
主な内容
- 自傷行為(SIB)の特徴:
- 頭を壁に打ちつける、硬い物に体をぶつけるなど、多様な形態の自己傷害が見られる。
- ASDの人々でSIBは高頻度に見られるが、その心理的要因や維持メカニズムはあまり研究されていない。
- 重要な要因:
- *感情調整の困難(ER)**がSIBの発現と関連しており、強い感情をうまく管理できないことが引き金となる。
- *内在化症状(不安や抑うつなど)**がSIBの維持に関わっている可能性が高い。
- 提案された枠組み:
- きっかけとなる刺激が強い感情を引き起こし、適切な感情調整が行えない場合にSIBが発現する。
- 感情調整戦略の不足や内在化症状が、SIBを悪化させたり維持させる要因となる。
- 今後の方向性:
- 縦断的研究や測定方法の開発を進める必要がある。
- SIBの治療には、感情調整スキルの向上や内在化症状の管理を取り入れたアプローチが有望。
結論
感情調整の困難や内在化症状がASDと重度の知的障害を持つ人々の自傷行為の発現と維持に重要な役割を果たすことが示唆されました。今後、これらの要因に注目した治療や支援が求められています。
Evaluating a screening-to-intervention model with caregiver training for response to name among children with autism
この研究は、**自閉スペクトラム症(ASD)**の子どもにおける「名前を呼ばれた際の反応(RTN)」を向上させるためのモデルを評価しました。RTNは、言語・コミュニケーションの重要な発達指標であり、ASDの早期診断にも用いられます。
研究の概要
- 研究1:
- RTN向上のための行動的スクリーニングから介入へのモデルを検証。
- 結果: 以前の研究と比較して、RTNの習得にかかる試行回数が減少し、効率的であることが示されました。
- 研究2:
- 介護者がRTNの介入を子どもに実施するためのトレーニング効果を検証。
- 介護者のトレーニング後、臨床設定で成功した介入が家庭でも実施され、子どものRTNが改善することがありましたが、強化がないと維持が困難でした。
- その後、追加の行動スキルトレーニングにより、子どものRTNと介護者の介入の正確さ(忠実度)が向上しました。