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ASDを持つ高齢者への偏見について、また自己開示、エンパワーメントの重要性

· 約19分
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事では、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、およびその他の神経発達症に関連する最新の学術研究を取り上げています。ソーシャルスキルプログラム性教育の効果に関する検討では、評価方法や介入の質に課題が指摘され、改善の必要性が示されました。また、ASDの子どもに対するソーシャルストーリー™の効果や、感情調整の困難さが自傷行為の維持に関連する点も議論されています。ADHDの子どもの微細運動スキルの評価や、バーチャルリアリティ(VR)を活用したリハビリ介入は、認知や社会的スキル改善の新たな可能性を示しました。

学術研究関連アップデート

A Systematic Review of Implicit Versus Explicit Social Skills Group Programs in Different Settings for School-Aged Autistic Children and Adolescents

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の学齢期の子どもと青年(6~18歳)を対象に、**ソーシャルスキルグループプログラム(SSGPs)**の効果を評価した系統的レビューおよびメタ分析です。65件の研究を分析し、そのうち49件がメタ分析に含まれました。

主な結果

  1. 全体的な効果: SSGPsは、ASDの子どもや青年の社会的スキルに全体的な効果は示されませんでした
  2. 報告者による違い: 自己報告、親の評価、研究者の評価では小さな効果が認められました。
  3. 教え方や設定の影響: 教え方やプログラムの実施場所は、SSGPsの効果に有意な影響を与えませんでした。
  4. 出版バイアス: 分析では出版バイアスの可能性が示され、調整が必要でした。

結論

SSGPsの効果を評価するための測定基準や方法に改善が必要であり、社会的スキルの向上を正確に捉える仕組みが求められています。

Systematic Integrative Review: Sex Education for People with Autism Spectrum Disorder

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の人々に向けた性教育プログラムの現状と効果を分析した系統的統合レビューです。健康的な性的発達には、適切な知識や態度を身につける生涯学習が重要である一方、ASDの人々向けの性教育に関する研究は不足していることが指摘されています。

主な内容

  • 対象データ:7つのデータベースから20件の研究(無作為化試験1件、混合法7件、非無作為化試験12件)を抽出。
  • 結果
    • プログラムの効果:研究の質が低いため、性教育プログラムが知識向上に効果があるとは断定できませんでした。
    • ポジティブな傾向:多くの研究で、参加者がトレーニングから一定の利益を得たことが示唆されました。
  • 課題と提言
    • 研究の質向上が必要(例: 無作為化試験の増加)。
    • 実践的で効果的な性教育プログラムの設計・評価が求められます。

結論

ASDの人々に向けた性教育は重要ですが、現存する研究の質やプログラムの評価方法に改善の余地があり、今後の取り組みが必要とされています。

Autism Spectrum Social Stories in Schools Trial 2 (ASSSIST-2): a pragmatic randomised controlled trial of the Social Stories™ intervention to address the social and emotional health of autistic children in UK primary schools

この研究は、イギリスの小学校に通う自閉スペクトラム症(ASD)の子どもを対象に、**「ソーシャルストーリー™」**と呼ばれる個別にカスタマイズされた短い物語の効果を評価したものです。ソーシャルストーリー™は、子どもが社会的状況や感情を理解しやすくするための介入方法です。

研究内容

  • 対象:4~11歳のASDの子ども249人(87校を対象に無作為化比較試験を実施)。
  • 方法
    • 44校(129人)で「ソーシャルストーリー™」介入を実施し、残りの学校では通常のケアのみを実施。
    • 効果は社会的応答性スケール-2(SRS-2)や、子どもが設定した個別の社会的・感情的目標の達成度などで評価。

結果

  • 個別目標の達成:介入を受けた子どもたちは、通常のケアのみの子どもより個別の社会的・感情的目標を達成する割合が高いことが確認されました。
  • 社会的応答性の変化:6か月後のSRS-2スコアにわずかな改善が見られたものの、統計的に有意な結果ではありませんでした(1.61点の改善、p = 0.220)。
  • 追加効果:6回以上のセッションに参加した子どもでは、SRS-2スコアの有意な改善が見られました(3.37点の改善、p = 0.043)。
  • 他の評価項目(不安、うつ病、親のストレス、健康状態):有意な改善は確認されませんでした。

結論

「ソーシャルストーリー™」は、低コストで負担が少ない介入方法であり、個別の社会的・感情的目標の達成に効果があることが示されました。しかし、社会的な応答性や不安、うつ病など全体的な改善効果は限定的でした。

Toward improved understanding and treatment of self-injurious behaviors in autistic individuals with profound intellectual disability

この論文は、**自閉スペクトラム症(ASD)中等度~重度の知的障害(ID)を持つ人々における自傷行為(SIB)**の理解と治療改善を目指したものです。

主な内容

  1. 自傷行為(SIB)の特徴
    • 頭を壁に打ちつける、硬い物に体をぶつけるなど、多様な形態の自己傷害が見られる。
    • ASDの人々でSIBは高頻度に見られるが、その心理的要因や維持メカニズムはあまり研究されていない。
  2. 重要な要因
    • *感情調整の困難(ER)**がSIBの発現と関連しており、強い感情をうまく管理できないことが引き金となる。
    • *内在化症状(不安や抑うつなど)**がSIBの維持に関わっている可能性が高い。
  3. 提案された枠組み
    • きっかけとなる刺激が強い感情を引き起こし、適切な感情調整が行えない場合にSIBが発現する。
    • 感情調整戦略の不足や内在化症状が、SIBを悪化させたり維持させる要因となる。
  4. 今後の方向性
    • 縦断的研究測定方法の開発を進める必要がある。
    • SIBの治療には、感情調整スキルの向上や内在化症状の管理を取り入れたアプローチが有望。

結論

感情調整の困難や内在化症状がASDと重度の知的障害を持つ人々の自傷行為の発現と維持に重要な役割を果たすことが示唆されました。今後、これらの要因に注目した治療や支援が求められています。

Evaluating a screening-to-intervention model with caregiver training for response to name among children with autism

この研究は、**自閉スペクトラム症(ASD)**の子どもにおける「名前を呼ばれた際の反応(RTN)」を向上させるためのモデルを評価しました。RTNは、言語・コミュニケーションの重要な発達指標であり、ASDの早期診断にも用いられます。

研究の概要

  1. 研究1:
    • RTN向上のための行動的スクリーニングから介入へのモデルを検証。
    • 結果: 以前の研究と比較して、RTNの習得にかかる試行回数が減少し、効率的であることが示されました。
  2. 研究2:
    • 介護者がRTNの介入を子どもに実施するためのトレーニング効果を検証。
    • 介護者のトレーニング後、臨床設定で成功した介入が家庭でも実施され、子どものRTNが改善することがありましたが、強化がないと維持が困難でした。
    • その後、追加の行動スキルトレーニングにより、子どものRTNと介護者の介入の正確さ(忠実度)が向上しました。

結論

この研究は、ASDの子どもにおけるRTNを向上させるための効果的なモデルと、介護者が介入を正しく実施するためのトレーニングの重要性を示しました。特に、継続的な強化とトレーニングがRTNの維持に必要であることが分かりました。

Stigma, Stereotypes, and Self-Disclosure: Disability and Empowerment in Older Adults on the Autism Spectrum

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)を持つ高齢者に焦点を当て、スティグマ(偏見)や自己開示、そしてエンパワーメントの重要性を探っています。

主なポイント

  • 自己開示の難しさ: ASDの高齢者は、支援や配慮を受けるために自身の障害を開示する必要がありますが、社会的な偏見や弱みをさらすリスクが障壁となります。
  • 社会的文脈の認識: ASDの人々は適切な状況で自己開示を行うための社会的手がかりの読み取りが難しく、誤解や偏見を強めることがあります。
  • 高齢者とASDの混同: 医療現場では「加齢による障害」と「ASDの特性」が混同されやすく、適切なサポートが受けられない場合があります。

提言

  • 高齢のASD当事者を「専門的パートナー」として研究や政策に参画させることが重要です。
  • 社会全体で「障害」を当たり前と認識し、独立性だけでなく相互依存を尊重する考え方を広めることで、偏見を減らし支援を向上させる必要があります。

この論文は、高齢ASD当事者が自己開示を通じて適切な支援を受けられる環境を整えるための社会的変革の重要性を強調しています。

Transition to Adulthood: Executive Functions and Independent Living Skills in Autistic Young Adults

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の若年成人が、独立した生活スキル実行機能(計画や問題解決の能力)において神経発達的に典型な若年成人(NT)とどのように異なるかを調査しました。

主な内容と結果

  1. 生活スキルと実行機能
    • ASDの若年成人は、独立した生活スキルと実行機能スキルが有意に低いことが確認されました(p<.001)。
    • 実行機能の課題として、ルールの遵守、戦略の利用、正確性、自己認識の低さが挙げられました。
  2. 評価方法
    • 自己報告型の実行機能評価は、独立生活スキルと強く関連。
    • 実行機能の実技テスト(Weekly Calendar Planning Activity: WCPA)では正確性が低いものの、生活スキルとの関連は弱いことが分かり、自己報告と実技評価の間に差があることが示されました。

結論

  • ASDの若年成人は、実行機能の統合が難しいことで日常生活に困難を感じやすい。
  • WCPAは、複数の実行機能スキルが日常生活に与える影響を理解するための臨床的ツールとして有望であり、支援方法の改善につながる可能性があります。

この研究は、ASDの成人における実行機能と独立生活スキルの関係を明らかにし、より効果的なサポート方法を示唆しています。

Evaluation of Motor Skills With Functional Dexterity Test in Children With ADHD and Comparison With Healthy Controls

この研究は、注意欠如・多動症(ADHD)の子どもたちと健康な子どもたちの微細運動スキルを「Functional Dexterity Test(FDT)」を使って比較したものです。対象は7~17歳のADHD児146人と、年齢・性別を合わせた健康な子ども213人です。

主な結果

  • ADHDの子どもたちは、健康な子どもたちに比べて:
    • 手の操作速度は速いが、
    • 処理エラーが多く、
    • 全体の処理時間が長い傾向がありました。

結論

ADHDの子どもは微細運動スキルの評価で速度が速い一方、エラーが増えるという特徴があります。そのため、ADHDの子どもたちを評価する際には処理エラー全体の時間を考慮することが重要だと示されています。この結果は、ADHDの運動スキル支援に役立つ可能性があります。

Frontiers | Current virtual reality-based rehabilitation interventions in neuro-developmental disorders at developmental ages

このミニレビューは、**バーチャルリアリティ(VR)**が神経発達症(ADHD、自閉スペクトラム症(ASD)、および限局性学習障害(SLD))の診断や治療にどのように活用されているかをまとめたものです。1998年から2024年までの62件の研究から対象を絞り込み、以下の内容が報告されました:

  1. ADHD(参加者8,139人, 3~19歳):
    • VRは注意力や実行機能の改善に効果的で、特に薬物治療と組み合わせた際に最適な結果が得られました。
  2. ASD(参加者458人, 4~19歳):
    • 個別化されたVRシナリオにより、社会的スキルや感情調整の向上が確認されました。
  3. SLD(参加者162人, 7~11歳):
    • 研究数が限られており、発展途上の分野とされています。

結論

VRは認知機能や社会的スキル向上に役立つ有望なツールであり、特に安全で制御された環境での効果が期待されています。技術コストやサンプル数の小ささなどの課題はあるものの、伝統的な治療法の補完として個別化された介入が可能であり、今後の研究や応用が期待される分野です。