この記事では、自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ子どもや青年への支援をテーマにした3つの研究を紹介しています。1つ目は、偶発教授法を用いて青年に「いつ?」と尋ねる情報要求スキルを教える手法が効果的であることを示した研究です。2つ目は、社会的動機づけについて自閉症の男性当事者の視点を探り、社会的接触の重要性と課題の間での葛藤が動機づけの低下に繋がる可能性を示唆しています。3つ目は、知能ロボットとKinectセンサーを活用してASD児のボディランゲージスキル向上を目指した研究で、特定の動作の理解と実行能力を効果的に高められることが確認されました。
学術研究関連アップデート
Using Incidental Teaching to Teach Adolescents with Autism to Mand Using “When?”
この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ青年に対して、「いつ?」と質問する**情報要求のマンド(mand for information)**スキルを教えるために、**偶発教授法(incidental teaching)**の効果を検証しました。対象者は、好ましい刺激が現在利用できないと伝えられた際に「いつ?」と尋ねる方法を学び、その後、実験者がその刺激が利用可能になるタイミング(例: 習得済みのタスクを完了した後)を伝えるという手順を実施しました。結果として、すべての参加者が12回以内のセッションで「いつ?」と尋ねるスキルを習得し、その後の維持検査でもそのスキルを継続して使用できました。この研究は、これまで評価されていなかったASD青年を対象に、情報要求スキルを教える方法の有効性を示し、学術的貢献を拡張するものとなっています。
“I Know it’s Good to Do it”: A Qualitative Study Exploring the Perspective of Autistic Men on Social Motivation
この研究は、自閉スペクトラム症(ASC)を持つ男性11名を対象に、**社会的動機づけ(social motivation)**についての本人の視点を探るため、半構造化インタビューを実施しました。社会的動機づけ仮説は、ASCの人々が社会的重要性のある物事への注意の優先度が低く、社会的報酬が少なく、関係を維持・強化する欲求が低いとしていますが、ASC当事者自身の視点はあまり研究されていません。
主な結果
- 解釈現象学的分析(IPA)により、以下の5つのテーマが特定されました:
- 社会的ネットワーク:どのように人間関係を構築・維持しているか。
- 社会的接触の重要性:社会的つながりの価値をどう感じているか。
- 社会的接触の課題:社会的相互作用での困難。
- 社会的接触の条件性:接触を行うための条件や前提。
- 重要性、課題、条件性の間の葛藤:社会的つながりを大切に感じつつ、課題や条件性との間で葛藤する様子。
- 社会的動機づけは個人や状況によって変動する動的な概念であることが明らかになりました。
- 多くの参加者が、社会的接触を重要だと感じつつ、それを実現する際の困難や条件性との間で葛藤していることが、動機づけの低下につながっていると報告しました。
結論
この研究は、社会的動機づけ仮説の一部を支持しつつ、ASCを持つ男性にとって社会的動機づけが単純ではなく、個人の価値観や状況による影響を大きく受け ることを示唆しています。さらなる研究が必要ですが、社会的動機づけの多様性を考慮した支援の重要性を示しています。
Using intelligent robots to detect body language and improve social development in children with autism spectrum disorder
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)を持つ子どもたちの社会的発達を支援するために、知能ロボットを活用してボディランゲージの理解と使用を向上させる取り組みを行いました。特にASDの子どもたちは、ボディランゲージの理解に困難を抱えることが多く、これが社会的孤立につながる場合があります。
研究内容
- システム設計: 知能ロボット(NAO-RBI)にKinectセンサーを組み合わせて、ボディランゲージを認識・模倣するシステムを開発。
- 対象動作: 手を挙げる、ハイタッチ、握手、「ください」、「おいで」、「腰に手を当て怒る」、「お願いします」といった7種類のボディランゲージ。
- 評価方法: 複数プローブデザインを用いて、ASD児3名のボディランゲージのスキル向上を追跡。Kinectセンサーで取得した骨格データを標準的な骨格座標と比較し、スコアリングモジュールで成果を記録。
主な結果
- NAO-RBIシステムは、7種類のボディランゲージを正確に認識し実演することができました。
- ASD児の対象動作の理解と実行能力が向上し、ロボットを活用した練習が有益であることが確認されました。
- Kinect技術を用いた骨格データの活用は、動作認識とモジュールの効果的な実行に役立つことが示されました。
結論
この研究は、**社会的支援ロボティクス(SAR)**がASD児のボディランゲージスキル向上に寄与する可能性を示しています。特に、Kinectセンサーと組み合わせたロボット支援が、社会的相互作用を強化する効果的なツールとなることを強調しています。今後の研究では、ロボットの機能をさらに最適化し、より高い効果を目指す必要があります。