このブログ記事では、発達障害や自閉スペクトラム障害(ASD)を持つ子どもや成人、またそれを支える家族や介護者に関する最新の学術研究を紹介しています。自閉症児の親を対象としたマインドフルネス介入や、ヨルダンにおけるADHD児の親が直面する困難、ASD高齢者が抱える医療サポートの課題、ブラジルでのCBCLツールの有効性、アバターを用いたPECSシステムの導入など、様々な研究が取り上げられています。
学術研究関連アップデート
Mindfulness Meditation–Based Interventions in Parents of Autistic Children: a Systematic Review of Effects on Children
この論文は、自閉症児の親に対するマインドフルネス瞑想ベースの介入(MBIs)が、間接的に自閉症児に与える効果を調査した系統的レビューです。親がMBIに参加することで、直接的な介入では難しい自閉症児の問題行動が減少し、家族全体の生活の質(QoL)の向上が確認されまし た。対象とされた14件の研究の結果、自閉症児に対する挑戦的行動の減少が見られ、親を対象としたMBIが自閉症家族のQoLを向上させる有効な手段となる可能性が示唆されています。
The Right to Effective Behavioral Treatment Revisited: Ethical Expectations for Behavior Analysts Today
この論文は、1988年にVan Houtenらが提唱した「効果的な行動介入を受ける権利」の原則について、その現代的な意義と重要性を再検討したものです。当時の原則は、行動上の課題を持つ個人への倫理的かつ効果的な治療を保証するもので、今日でもクライアントとその介護者の福祉を守るために不可欠であるとされています。本論文は、現代の治療アプローチや社会的な変化に応じて、行動分析家がこれらの権利を再確認し、倫理的で効果的な治療の提供に努める必要性を強調しています。また、現代の実践における課題や障壁を取り上げ、クライアントや介護者が直面するジレンマを共有し、解決策を探るための対話を促しています。この論文は、行動分析分野においてクライアントの尊厳と福祉を確保するために、これらの権利への再コミットメントを呼びかけるものです。
Early Predictors of Patterns of Disability Support Service Receipt in Elementary School
この研究は、特別支援教育計画(IEP)やリハビリテーション法504条に基づく支援(504プラン)を受ける児童に影響を与える要因を明らかにすることを目的としています。ボルチモア市の学校に在籍する11,405人の児童(男性51%、アフリカ系アメリカ人85%、低所得83%)のデータを用い、幼稚園から3年生までの支援サービス受給パターンを調査しました。分析の結果、毎年支援を受ける「常時受給者」(9.2%)、2年生から支援を受け始める「遅期受給者」(6.5%)、および支援を受けない「非受給者」(84.2%)の3つのグループが確認されました。これらのグループは、性別、人種/民族、英語学習者(ELL)かどうか、幼児教育(preK)の参加、社会的行動準備の評価などで異なることが分かりました。特に、幼稚園で社会的行動の準備が整っていない男子児童は、他のグループと比較して支援サービスを受けやすいことが示されました。この研究は、幼児教育や幼稚園での準備評価が早期の支援ニーズ特定に役立つ可能性を示しています。
Assessment of the Audiological Profile and Related Risk Factors for Sensorineural Hearing Loss in Children with Speech and Language Delay
この研究は、6か月から5歳の子どもを対象に、聴覚障害の重症度と音声・言語発達の遅れとの関連性を調べ、感音性難聴のリスク要因を特定することを目的としています。研究結果によると、聴覚障害の程度と深刻な音声・言語の遅れ(LESTスケールで3項目以上の遅れ)には強い相関があり、相関係数はr=0.78でした。リスク要因としては、家族に小児期からの聴覚障害がある場合や、新生児集中治療室(NICU)に5日以上入院した経験がある場合、それぞれ7.11倍と6.93倍の確率で聴覚障害が発生しやすいことが分かりました。研究は、軽度や片側の聴覚障害でも言語発達に悪影響を与えることを示し、早期発見の重要性とリスク要因に基づいた予防策や介入プログラムの必要性を強調しています。
Advancing STEM Learning Opportunities for Students with Autism Spectrum Disorder Through an Informal Robotics and Coding Program: A Feasibility Study for an After-School Enrichment Program
この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ児童向けのロボット・コーディングプログラムの有効性を評価するもので、ASD児がSTEM(科学、技術、工学、数学)学習機会にアクセスできるようにすることを目的としています。対象はASDと診断された小学生12名で、7週間にわたり放課後プログラムでロボットやコーディング活動に取り組みました。プログラムの進行に伴い、ASD診断マーカーが減少し、児童の活動参加が増加したことが確認されました。また、ADHD症状や挑戦的行動、感覚過敏といった背景変数は結果に大きな影響を与えず、ASD児向けのロボット・コーディングプログラム設計においてこれらの要因は必須ではないと示唆されました。
Prevalence, incidence, and characteristics of autism spectrum disorder among children in Beijing, China
この研究は、中国の北京市における自閉スペクトラム障害(ASD)の有病率、発生率、および併存疾患について、初めて幼児を対象に調査したものです。ASDの有病率と発生率は過去数十年間で増加しており、世界的に重要な社会的関心事となっています。本研究では、ICD-10コード(F84.0、F84.5、F84.9)に基づき、4~6歳の4457人のASD児が特定されました。2021年には、6歳児で95 人に1人、5歳児で115人に1人、4歳児で130人に1人がASDと推定され、発生率は2019年の0.11%から2021年には0.18%に増加しました。大都市での早期診断の重要性が強調されています。
'It's designed for someone who is not me': A reflexive thematic analysis of the unmet healthcare support needs in UK autistic adults aged 65 years and over
この研究は、イギリス在住の65歳以上の自閉スペクトラム障害(ASD)を持つ高齢者19名へのインタビューを通じて、彼らが抱える未解決の医療サポートニーズを明らかにしたものです。主なテーマとして、(1) 生涯にわたる誤解、(2) 支援の空白、(3) 晩年のASD診断の受容、(4) サービス不足とリソースの制約、(5) 継続的なケアや共感の欠如、(6) 不安、アレキシサイミア(感情認識の困難)と感覚過負荷、(7) 社会的支援の低下と将来への懸念が挙げられました。これらのテーマから、ASD高齢者が直面する医療アクセスの課題は、彼らの社会的孤立の経験が反映されていない医療サービスに起因していることが示唆されています。年齢による衰えと社会的支援の減少も加わり、必要な支援を得ることがさらに困難になるとの声がありました。この課題に対処するため、医療サービスは高齢のASD者に対してより的確なサポートを提供し、政策や資金の一貫性を確保し、医療従事者に対する研修を強化することが求められています。また、ASD高齢者が自身のケアについて積極的に発言できるよう支援することが重要です。
Validating the Child Behavior Checklist 1.5-5 as a screening tool for autism spectrum disorder
この研究は、**自閉スペクトラム障害(ASD)**の早期発見を目的として、ブラジルの3~5歳の子ども1292名と1~5歳のASDの子ども70名を対象に、Child Behavior Checklist 1.5-5(CBCL 1.5-5)をスクリーニングツールとして評価しました。低・中所得国では資源が限られているため、ASDの早期発見が重要です。CBCL 1.5-5は特定の行動パターンに基づきASDを見つける支援ツールとして使用されていますが、これまで低・中所得国での有効性は十分に検証されていませんでした。本研究の結果、CBCL 1.5-5はASDの識別において高い信頼性と一貫性を示し、ブラジルの子どもたちに対するスクリーニングツールとして有効であることが確認されました。特定の項目でのパフォーマンスが弱い部分もありましたが、全体としては効果的でした。この結果から、CBCL 1.5-5は低・中所得国におけるASDの早期発見に有用であることが示され、今後は異なる地域での追加検証が求められています。
Avatar-Based Picture Exchange Communication System Enhancing Joint Attention Training for Children With Autism
この研究は、自閉スペクトラム障害(ASD)を持つ子ども向けの社会的コミュニケーション支援として、**アバターを用いたPicture Exchange Communication System(PECS)**の活用を提案しています。ASDの子どもは、社会的な交流場面でのコミュニケーションに困難を感じ、セラピストとのやり取りで不安を感じやすい傾向がありますが、従来のPECSだけではこの不安を十分に軽減できません。そこで、本研究は仮想アバターを使ったPECS訓練を行い、子どもたちの集中力と行動応答性が向上することを確認しました。また、自然な環境下での視線推定の精度を向上させるため、**三チャネル視線ネットワーク(TCG-Net)という新しい視線推定アルゴリズムを開発しました。このアルゴリズムは、双眼画像を使用して視線の方向を精緻にし、子どもの注視する対象を推測するものです。MPIIGaze、EyeDiap、RT-Geneの各データセットで高精度な結果を示し、自然な環境下での注視の追跡精度を向上させ、ASDの子どもたちの共同注意(Joint Attention, JA)**の評価や改善に貢献することが確認されました。
Parenting a child with attention deficit hyperactivity disorder: Jordanian's perspectives
この研究は、ヨルダンにおいて**注意欠陥多動性障害(ADHD)**の子どもを育てる親が直面する課題について調査したものです。4~14歳のADHD診断を受けた子どもを持つ12人のヨルダン人親を対象に、半構造化インタビューを実施し、3つの主要なテーマが明らかになりました。まず、「ADHDとの道のり」として、親が子どもの異常行動を認識し、診断や治療において不確実性を経験したことが挙げられました。次に、「生活の一部としての病気」として、ADHDが家族関係や日常生活に影響を及ぼし、社会的孤立を招くことが報告されました。最後に、「ケアの負担」として、身体的・精神的な疲労や経済的負担が強調されました。このような課題から、ADHDを抱える家族へのサポートと、文化的に配慮された支援体制の必要性が示唆されています。
Frontiers | Profile and development of adaptive behavior in adults with autism spectrum disorder and severe intellectual disability
この研究は、自閉スペクトラム障害(ASD)および重度の知的障害(ID)を持つ成人の適応行動発達のプロファイルを調査し、各適応領域と自閉症症状の重症度との関係を検討したものです。平均年齢約39歳(男性)と36歳(女性)の成人71名を対象とし、適応発達はVineland-IIツール、ASDの診断はPDD-MRSとCARS、知的障害のレベルはDSM-5基準に基づき評価されました。結果、適応発達プロファイルは不均一で、日常生活スキルが最も発達している一方で、表出言語、対人関係、遊び/レジャーは発達が低いことが確認されました。また、自閉症の重症度とコミュニケーションおよび日常生活スキルの発達には有意な負の関係が見られましたが、社会化には関係が認められませんでした。研究は、改善すべき適応領域を特定し、最も発達している領域と課題を明確にすることを目的としています。
An Exploratory Study on the Suicidal Behaviours of People With Intellectual Disability or Autism: Examining Their Understanding of Suicide and Death, and the Perceptions of Their Direct Support Staff
この研究は、知的障害または自閉症を持つ人々の自殺行動について、彼らの自殺や死への理解と、それに対する直接支援スタッフの認識を探るものです。自殺リスクは一般人口と同等かそれ以上であるにもかかわらず、これらの人々のリスク要因についてはほとんど知られていません。研究では、23名の自殺傾向のある参加者とその支援スタッフに対する半構造化インタビューを質的に分析し、共通するテーマを抽出し、比較しました。
結果として、自殺行動には多様な表れがあり、自殺傾向のある参加者は、そうでない参加者よりも死と自殺についてより深い理解を示していました。支援スタッフは、クライアントと死について話し合ったことがないことが多い一方で、多くは彼らが死を正確に理解していると考えていました。結論として、死の概念と自殺行動の間には相互作用がある可能性があり、臨床現場で死と自殺についての議論が必要であることが示唆されています。今後の研究および臨床実践への示唆が議論されています。