視覚追跡トレーニングによるADHDおよびASD児童の視空間ワーキングメモリーの改善
この記事では、発達障害や神経発達障害に関する最新の研究を紹介しています。自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)を持つ子供たちを対象にした研究が中心で、ASDに関連する副矢状硬膜体積と脳脊髄液の関係、ADHDの子供に対する親訓練の効果、非単語反復タスクにおける言語障害児の母音エラーの特徴、視覚追跡トレーニングによるADHDおよびASD児童の視空間ワーキングメモリーの改善、ADHDと併存するノシプラスティック痛のメカニズム解明に向けた脳血流の変化に関する研究も紹介します。
学術研究関連アップデート
Parasagittal dural volume correlates with cerebrospinal fluid volume and developmental delay in children with autism spectrum disorder
この論文は、自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ子供たちにおける副矢状静脈洞の硬膜体積(parasagittal dura)が脳脊髄液(CSF)量および発達遅延とどのように関連しているかを調査しています。副矢状硬膜は脳脊髄液の再吸収や代謝老廃物の除去に重要な役割を果たす組織です。この研究では、ASDを持つ若年の子供たちを対象に、3D-T2 FLAIR画像から硬膜体積を抽出し、CSF量や臨床的な発達遅延の指標と比較しました。その結果、副矢状硬膜体積は年齢と関係なく、脳脊髄液量や発達遅延の重症度と有意に関連していることが示されました。これにより、発達遅延の重いASDの子供たちは、脳脊髄液の動態に影響を及ぼす可能性のある硬膜の発達不良を持つ可能性があることが示唆されています。
Behavioral observation and assessment protocol for language and social-emotional development study in children aged 0–6: the Chinese baby connectome project
この論文は、中国の乳幼児の言語獲得と社会・感情的発達を調査する「中国ベビーコネクトームプロジェクト(CBCP)」の行動観察と評価プロトコルを紹介しています。このプロジェクトの目的は、0〜6歳の中国の子供たちの発達を包括的に評価するツールを開発し、環境要因の影響を調査することです。1000人以上の典型的に発達する子供を対象に、親のアンケート、行動評価、観察実験を通じて発達のマイルストーンや環境要因を測定します。評価には、知能検査や実行機能、社会認知能力、言語発達のテストが含まれます。また、AI技術を活用して、行動観察実験での自動行動分析を行い、統計モデルを使って発達の軌跡を描きます。この研究は、言語や社会・感情的スキルの理解を深め、中国の幼児発達研究に貢献することを目的としています。
Efficacy of behavioural parent training on attachment security in children with attention deficit hyperactivity disorder: a randomised controlled trial - Trials
この論文は、注意欠陥多動性障害(ADHD)を持つ子供とその母親を対象に、行動的親訓練(BPT)が子供の愛着の安全性や母親の子供に対する感情的な親密感に与える効果を調査するランダム化比較試験の研究プロトコルです。BPTは、親が子供の適切な行動に注目しながら効果的な指示を出すスキルを教える介入法です。60人のADHD児を対象に、BPT群と通常ケア群に無作為に割り当てられ、10週間の親訓練を受けるグループと比較します。主な評価指標は親のストレスの変化で、二次的評価には子供の愛着の安全性が含まれ、評価者はどのグループに属しているかを知らない状態でインタビューを行います。また、磁気共鳴画像法(MRI)を用いて、子供と母親の脳の変化も調べます。この研究は、ADHD児の愛着と母親との関係におけるBPTの効果に関する最初のランダム化試験であり、親が治療を選択する際の重要な証拠を提供することを目指しています。
Deciphering autism heterogeneity: a molecular stratification approach in four mouse models
この論文では、自閉症スペクトラム障害(ASD)の複雑さと多様性に対処するため、4つの異なるマウスモデルを用いて分子レベルでの階層化アプローチを検討しています。ASDは、社会的相互作用やコミュニケーションの障害、限定的または反復的な行動が特徴の神経発達障害です。この多様性が、効果的な薬理学的治療の開発を難しくしています。そこで本研究では、オキシトシンと即時早期遺伝子ファミリーに着目し、社会的回路に関与する5つの脳領域での分子マーカーを特定しました。
研究では、野生型と4つの異なるASDモデルを使用し、モデル固有のオキシトシンファミリーの異常や、即時早期遺伝子の広範な変化が観察されました。統合解析の結果、Egr1、Foxp1、Homer1a、Oxt、Oxtrの5つの分子マーカーが特定され、これらを用いてASDモデルを効果的に階層化できることが確認されました。さらに、この階層化は他のマウスモデルでも予測精度を示し、オキシトシン治療に反応する可能性のあるマウスのサブグループも特定できました。
この研究は、ASDの個別化医療に向けた重要な一歩であり、臨床試験の成功や患者の階層化に貢献する可能性があります。