早期療育の場面では、最初は単一の反応を形成することから始めることが多いかと思いますが、より実生活に即したスキルの学習を開始すると、それぞれのスキルはさまざまな反応が組み合わさったものになり学習の難易度が高くなります。
はじめに
早期療育の場面では、最初は単一の反応を形成することから始めることが多いかと思いますが、より実生活に即したスキルの学習を開始すると、それぞれのスキルはさまざまな反応が組み合わさったものになり学習の難易度が高くなります。
プロンプト編で簡単にご紹介した個別タスク、連鎖タスクのうち今回は連鎖タスクに注目して、タスク分析(TA)を用いて複雑なタスクのトレーニングをする方法に関してご紹介します。
タスク分析(TA)とは?
連鎖スキルや連鎖タスクを小さなステップに分割し、それぞれの達成に必要な要素は何か分析してシステマチックに連鎖スキルの獲得を達成するための手法です。
TAは自閉症児が連鎖スキルを習得する上で非常に効果的です。という のは、複雑な連鎖スキルを小さな個別タスクにすることで、刺激に対してどんな行動をすれば良いかより理解しやすくすることができるからです。
またTA単体では特段必要となるものもないためすぐに実践することができます。(組み合わせるトレーニング方法によってはやや準備に時間がかかります)
TAには3つのアプローチがあります。
前進的連鎖 タスクのもつステップの時系列順(1番目、2番目、、、5番目)にそって教えていき、各ステップができるようになったタイミングで次のステップの学習に移行する手法です。
手洗いを教えるときに、まず「蛇口をひねる」を最初に教え強化します。次のステップである「手に水をつける」の学習が開始されるのは、1つ前のスキルである「蛇口をひねる」が習得されたあとです。
**後進的連鎖 **連鎖タスクの一番最後のステップから教えていく方法です。後ろから順番に習得していき、各ステップができるようになったタイミングで次のステップに移行します。(5番目、4番目、、、、1番目)
手洗いを教えるときに、「手を乾かす」タスクから学習を開始し、次に「水を止める」ステップを学習します。それぞれのステップが強化されまた習得していることが次のステップに移行する条件です。
**全体タスク **連鎖スキルの各ステップに強化子を用い、一度に連鎖スキルを学習する方法です。それぞれのステップに強化子を使用しますが、最後のステップに用いる強化子は児童にとって一番強力な強化子を使用します。
手洗いを教えると きに、「蛇口をひねる」から「手を乾かす」までの全てのステップをプロンプトと強化子を用いて教え、最終ステップである「手を乾かす」ができた場合に一番強力な強化子を提供します。
これらのアプローチの中に強化やプロンプトが出てくるようにTAは左記の2つのトレーニング方法や他の方法と一緒に用いられることが多い手法になります。
強化やプロンプトの内容をさらいしたい場合にはこちらから参照してください。
https://www.easpe.com/blog/article/15
https://www.easpe.com/blog/article/13
それでは早速タスク分析を実施するにあたって必要なステップを順番にご紹介します。
1.学習の前提条件を確認する
対象とした連鎖スキルや行動を実行する上で前提になるスキルを児童が持っているかどうか確認します。確認方法はベースライン調査やこれまでの記録から関連するスキルの情報を確認することができます。
https://www.easpe.com/blog/article/4
もし連鎖スキルを学習する上で前提となるスキルに未習得のものがある場合には、対象となる連鎖タスクの中に組み込んで教えていくか、または連鎖スキルの学習以前に、未習得のスキル獲得を最初に行います。
2.連鎖タスクの要素を特定する
前提条件を確認した上で行うのは、対象となる連鎖タスク・スキルを小さなステップに分割していく作業です。
分割する方法としては、連鎖タスクを個別タスクとして成立するよう分割するということです。
つまり、各ステップは1つの刺激に対して1つの短い反応であるよう分割します。このようにステップを個別タスクに分割することで刺激と反応を組み合わせたトレーニングが実施可能になります。
実際に分割していく上でやりやすい方法としては以下の3つがあります。
人にやってもらい観察する 対象となる連鎖スキルやタスクに取り組んでいる様子や完了した状態を観察して、それぞれのステップを自分でノートに書き写す。
対象行動に詳しい人に頼む 以前自閉症児に対して、手洗いをTAを用いて教えたことのある方が身近にいれば、その人に手洗いのステップを教えてもらう。
自分でやって自分で記録する 対象行動を自分で実施して、それぞれのステップを記録する
3.正しく分割できているか確認する
対象となる連鎖タスクやスキルが分割できたタイミングで、その分割が適切かどうかチェックします。
チェックする項目は下記の通りです。それぞれ分割したタスクが条件を満たしているのか確認します。
- 各ステップが個別タスクとなっているか
- 各ステップは児童が対応可能か(前提条件にあるスキルを保有しているか)
- 各ステップは児童の学習ニーズを満たしているか
また実際に記述したステップだけを順番に自分で実行してみてタスクが進むか、完了するか確認すると過不足がないかより確認しやすいです。
4.アプローチを選択する
しっかりとステップに分割されていることが確認できたら用いるアプローチを選択します。前進的連鎖、後進的連鎖、全体タスクのいずれを用いればいいのかの判断する際にはそれぞれのアプローチのメリットを参考に選ぶことができます。
アプローチ自体に大きな効果の差はありません。状況やニーズに応じて利用するアプローチを選択することができます。
前進的連鎖 始まりから終わりまでどのように行動すればいいのか学習することができる 連鎖タスクの全体の流れを掴むことが重要な場合に利用するなど。
後進的連鎖 連鎖タスクができるとどのような利益が得られるのか最初に学習することができる 連鎖タスクの結果を理解することが重要な場合に利用するなど。
全体タスク 一度に全てのスキルを学習することができる ステップ数がそこまで多くなく行動自体も複雑でない場合に利用するなど。
5.組み合わせるトレーニング方法の選択
実際に個別のタスクを教えていく上で必要になる他のトレーニング方法を選択します。よく使用されるのは、プロンプト、時間遅延、強化が用いられます。またビデオモデリング、視覚支援、社会的ストーリーもタスクの手順や行動を理解する助けとなるため使用されます。
6.必要なものの準備
選択したトレーニング方法にそって児童に教えていく上で必要になるものを準備します。読むことができる児童にはテキスト、視覚支援を用いる場合には絵カードなどそれぞれ手法に適した要素の準備を事前にします。
まとめ
以上が必要な準備になります。TAはそこまで複雑ではありませんが他の方法と組み合わせて使うことが多いため組み合わせる物によっては準備にやや時間がかかります。
重要なのは児童に合った形でかつ理解できる形で連鎖スキル・タスクを学習する準備を整えるということです。
連鎖タスクのステップを分割した後に本当にそのステップで必要十分かという点と、教えていく上で順番に教えていけそうなら前進的連鎖、どういう結果に繋がるか理解しないことには学習を進めていくことが難しいという場合には後進的連鎖などと使い分け、複雑なスキルの学習を進めていくことができます。