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プロンプトとは?成功体験は多く、失敗体験は少ないトレーニング方法!【プロンプト設計編】【応用行動分析学・ABA】

· 約30分
Tomohiro Hiratsuka

本記事は前回のプロンプト基礎知識編に続き、プロンプトを用いたトレーニングの設計方法に関してステップごとにご紹介します。

はじめに

本記事は前回のプロンプト基礎知識編に続き、プロンプトを用いたトレーニングの設計方法に関してステップごとにご紹介します。

前回の記事を読んだ後の方がより理解しやすいので、まだ読まれていない方はこちらからぜひご参照ください。

https://www.easpe.com/blog/article/15

それでは早速、必要なステップごとに見ていきましょう!

対象行動の特定とタスクの分類

まずは、プロンプトを使用する対象になる行動やスキルを定義します。基本的には目標の行動を客観的に計測できる形でまとめ、目標行動の頻度や発生する条件に関して現状のデータを集めるという流れになります。

対象行動の特定や定義の仕方に関してのより具体的な方法に関しては下記の記事を参照してください。

https://www.easpe.com/blog/article/4

目標行動に関して定義、ベースライン調査が完了した後で次に目標行動が個別タスク連鎖タスクか判別します。

個別タスクとは

短い時間に一つの反応を返すようなタスク(行動)です。

指示された時に、「特定の物を指差す」。 回答を求められたときに、「答える」。 先行刺激に対して、1つの反応を返すようなタスク

連鎖タスク

時系列に沿っていくつかの個別タスクを含んでいる、複雑なタスクです。

【手洗い】洗面所に行く 水を出す 手に石鹸をつける こする 洗い流す 水を止める 手を拭く 上から順番に個別タスクを実施する必要のあるタスク

目標とする行動が連鎖タスクの場合には基本的な行動の定義、データ収集に加え、対象行動やスキルをしっかり特定する為に追加で以下のような調査が必要です。

連鎖タスクに含まれる全ての個別タスクを漏れなく把握する

連鎖タスクがどのような個別タスクによって構成されているのか把握するために、個別タスクをリストアップします。

児童の行動を調査した結果やカリキュラムから、連鎖タスクに含まれるそれぞれの個別タスクを時系列に沿った順番で書き出す。 連鎖タスクが完了する時点までの全てのタスクに関して書き出す。

連鎖タスクを行っているのを観察しながら、ステップを書き出す。

連鎖タスクに含まれる個別タスクの終了条件を明確にする

連鎖タスクに含まれる個別タスクが、どのように区切られているのか明確に把握するためにそれぞれの個別タスクの終了条件を明確にします。

手洗いの1つのステップである「水を出す」ステップの終了条件は蛇口を捻ることではなく、蛇口をひねって水が出ること等

上記の調査で、連鎖タスクの構成要素それぞれに関して明確に把握できたら、最後に連鎖タスクを一度に教えることができるか、または個別タスクごとにトレーニングが必要かチェックします。個別にトレーニングが必要と判断される場合には、連鎖タスクとしてトレーニングする前に、個別タスクとしてトレーニングを開始していくという流れになります。

アプローチを選択する

目標行動に関する定義やベースライン調査が完了したら次に使用するアプローチを選択します。

前回の記事で紹介したプロンプトを用いたトレーニング方法から、どのアプローチを用いるか選択します。

トレーニング方法の決め方に関しては、簡単なフローチャートを作成しましたのでこちらを参照してみてください。

トレーニング方法の決め方

最小ー最大プロンプトを用いる場面 ・児童が対象行動やスキルを使用することができるが頻度が低いとき

・児童が学習した対象行動やスキルが、頻度や時間、クオリティの面で後退している 時段階的ガイダンスを用いる場面 ・対象行動やスキルが既存のルーティンや活動に含まれている ・瞬間、瞬間でプロンプトをいつ使用するかまた使用しないかを判断しなければならないような場合 同時プロンプトを用いる場面 ・新しく学習を始める時

先行刺激を特定する

どのアプローチを選択しても、対象となる行動やスキルを使用するきっかけとなる刺激(先行刺激)を特定する必要があります。

というのは、いずれプロンプトを使用せずとも対象行動やスキルを使用できることを目標としているため、あらかじめどのような先行刺激の後に目標行動を使用するのか特定しておく必要がある為です。

きっかけとなる刺激は次の3つに分類されます。

自然発生する刺激

意図的に発生させる必要がない刺激です。

喉が乾く →飲み物を要求する先行刺激 気温が上がり体温が上昇する →衣類を脱ぐ先行刺激

出来事が終了するという刺激

活動や出来事が終了したこと自体が刺激となります。

問題文を読み終わる →問題に回答する先行刺激 プリントを解き終わる →次のプリントに取り組む先行刺激

外的刺激

意図的に外側から加えられる刺激です。

質問に回答するよう指名される →質問に回答する先行刺激 チャイム →次の教室に移動する先行刺激

目標行動を促す合図や手引きを決める

刺激を特定した後で、対象行動やスキルの使用を促す合図やサインを決定します。

この合図やサインを使用して、どんな刺激が起きたときに、どんな行動をすればいいのか児童がより理解しやすくなるようにします。

そのため合図やサインは簡潔でわかりやすく特定しやすいもので、また児童の持つスキルや興味関心に合ったものである必要があります。

実際に利用できるものとしては下記のようなものがあります。

ものや環境の利用

児童が課題に取り組む前に、すでに必要なものや状況をセッティングしておきます。

お昼ご飯の時間の前に、あらかじめテーブルをご飯の配置にしたりランチボックスを置いておく。

手順を指示する

音声または視覚でもって、どのようにタスクを進めればいいのか教えます。

コートを脱いで、ハンガーにかけてねと声かけをする。 手洗いのステップをイラストで示す

自然発生する出来事の利用

自然に起きる出来事を合図として利用します。

バスが到着する チャイムがなる

手順を指示する音声または視覚支援

最小ー最大プロンプトのアプローチを使用する際にはどのタイミングで合図やサインを出すのかあらかじめ決めておく必要があります。タイミングは以下の2パターンです。

トレーニングに使用する強化子を選択する

合図やサインが決まったら、今度はトレーニングに用いる強化子を選択します。

強化子の選び方としては、目標行動の難易度と強化子の強さが同じになるように選択します。

具体的な強化子の設定の仕方等に関してはこちらの記事を参照してください。

https://www.easpe.com/blog/article/13

さて、ここまででプロンプトを用いたトレーニングの準備が整いました、ここから先はそれぞれのトレーニング方法に関してご紹介します。

最小ー最大プロンプトを用いたトレーニング設計

1.プロンプトレベルの設定

最小ー最大プロンプトのアプローチを採用する場合には、最低でも3つのレベルのプロンプトが必要になります。

どれだけレベルを増やしても最小のレベルは、必ず自立してできる(プロンプトなし)と定義し、また最大は必ず児童が対象とする行動や、スキルを使用できるようなプロンプトと定義します。

最小と最大の間は好きな個数設定することができますが大抵の場合5個以上増えることはありません。プロンプトのレベル数を決めるときに考慮すべき事項としては以下のようなことが挙げられます。

タスクの性質 対象となるタスクが簡単な場合にはより少ないレベル数で、逆に対象となるタスクが難しい場合にはより多いレベル数と、必要なレベル数と難易度は比例しています。

児童の性格 レベル数が多い場合には、児童がなるほどそういうことか!と理解するまでに多くの時間がかかってしまう場合があります。このような場合には後になって提供するレベルの高いプロンプト(介入度の強い)であってもあまり注意を向けてくれなかったり、また問題行動が発生してしまうことなどがあります。 そのためずっとタスクに取り組み続けることが苦手な場合には多くのレベル数を使用するのは適切ではないと言えます。一方でタスクが完了するまでにたくさんの手助けが必要な児童に関しては複数のレベルがある方が適切だと言えます。

時間的制約 レベル数が多い場合にはより長く、レベル数が少ない場合にはより短くタスクを終えるまでの時間が変動します。そのため限られたセッションの中に収める形で提供するには、どの程度の時間をかけても良いのか考えることが必要です。

2.使用するプロンプトの種類を決める

それぞれのプロンプトレベルにおいてどのような種類のプロンプトを用いるかまた組み合わせて使うのかを決める必要があります。

前回の準備編でもあったように反応プロンプトの種類は、ジェスター、音声、視覚、モデル、身体プロンプトの5種類です。

これらの活用方法を決めるときには、児童が今あるスキルや性格に沿って決めるとより効果的です。

例えば、模倣は苦手だけれど音声指示の場合にはきちんと理解することができる児童の場合には、使用するプロンプトはモデルではなく、音声プロンプトの方が適切だ、と考えることができます。

3.レベル順が適切か確認する

最小レベルから最大レベルにちゃんと強度が上がっていくように使用するプロンプトのレベル順を決めます。この順番を決めるときにより考えやすくするには、以下のような観点で考えてみることが有効です。

・児童が新しいスキルを獲得するときに、これまでどのような種類のプロンプトをしようしてきたか? ・似たような種類のスキルをこれまでに学習したことがあるか、それとも全く別のスキルを学習してきたか? ・様々なスキルを学習してきたときに有効だったプロンプトの種類は何か? ・これまでで一番よく使われたプロンプトの種類は何か? ・他の児童が今回対象となっている行動を学習するときに使用されたプロンプトのレベルはどのような形になっていたか? ・それぞれのプロンプトが個別に用いられたときに、児童は正しい反応をするか?

プロンプトレベルの例

4.反応時間を決める

****プロンプトレベルを上げるかどうか判断するには児童が正しく反応するかどうか確認しなければなりません。

プロンプトを利用して適切に行動できた場合であってもそれが10分後、20分後では実際に児童がそのスキルを使用する時に困った状況になってしまいます。

そのため行動の適切さに加えて適切な反応時間を決める必要があります。

多くの場合刺激の提示から3〜5秒の反応時間があれば十分でしょう。

この時間内に行動が起きない、スキルを使用しないのであれば次のプロンプトレベルに移行します。

また反応までの時間と同様に、終了までの時間も考慮することが必要な場合があります(手洗いなど)。

このような場合には、どの程度で他の児童は終えることができるのかなどを参考に、妥当な完了時間を決めておくことが大切です。

5.学習機会として活用するシチュエーションの特定

****対象とする行動やスキルによっては1日の中で何回も学習することができるようなケースがあります(挨拶する等)。

そのため、事前に児童の日常生活の中でどんな出来事やシチュエーションが学びの機会として活用できるのかあらかじめ特定しておくとよりたくさんの学習機会と効果が見込めます。

またあらかじめシチュエーションを特定しておくことで、どのタイミングで誰がプロンプトを実施することができるのかも明確になるためより実行しやすくなります。

6.合図サインに関して

最小ー最大プロンプトのアプローチを使用する際にはどのタイミングで合図やサインを出すのかあらかじめ決めておく必要があります。タイミングは以下の2パターンです。

一番最初のプロンプトレベルの時のみ使用

合図やサインが繰り返し提示されることはなく一回のみ使用する。

児童が外から帰ってきたときに、コートを脱いでね、と声を掛けるがそれ以上指示を繰り返すことはない

すべてのプロンプトレベルにおいて使用

どのプロンプトレベルにおいてもつど合図やサインを使用する。

児童が外から帰ってきたときに上着を脱いでねと言う。 反応がない場合には上着を指差しながら、上着を脱いでねと言う。 それでも反応がない場合には児童の手を掴んで上着に触れさせながら、上着を脱いでねと言う。

段階的ガイダンスを用いたトレーニング設計

1.コントロールプロンプトを特定する

****段階的ガイダンスを使用する際に用いられるプロンプトの多くは身体プロンプトになります。

そのためあらかじめ、児童が必ず行動を達成できるプロンプト(コントロールプロンプト)を定義しておくことが必要です。

また身体プロンプトを提供する時には、2点注意することがあります。

1点はより自然に学習することができるように身体プロンプトを提供する時には児童の後ろに立って行うと効果的であるということと、もう一点は身体プロンプトは強制的に何かをさせたり、傷つけたりしないように細心の注意を払う必要があるということです。

児童によっては身体プロンプトに抵抗する場合もありますのであらかじめ抵抗が生じた時にどのように対処するか決めておくとリスクヘッジができます。主な対処法は以下のようなものです。

身体プロンプトへの抵抗の主な対処例

・行動を強制させるのではなく、児童の手をぎゅっと握る。 ・抵抗が収まるタイミングを見計らって、プロンプトを継続する。 ・チームメンバー間で事前に身体プロンプトの性質とその目的を明確にして、強制的に動かしたり、傷つけてしまわないように対処の仕方を共通認識化する。

2.反応時間を決める

これは、先ほどの最小ー最大アプローチと同じで、対象刺激や、合図、タスクの手順等のきっかけが与えられた後に、児童が自分で行動するまでの時間をあらかじめ決めます。

決め方も、同じように児童がどの程度の時間をかければ対象行動を開始することができるのか、同じタスクの時に他の児童はどの程度時間がかかるか、タスク完了までどの程度の時間が必要か、と先ほどのアプローチと変わりません。

3.フェードアウトの設計

児童が対象行動やスキルを使用できるようになってきたら、今度はその際に使用していたプロンプトを弱めていく必要があります。

段階的ガイダンスを用いる場合には、連鎖スキルの中でどう弱めていくのかという判断を複合的に判断する必要がありますが、あらかじめどのような戦略で弱めていくか計画立てておくことが重要です。

主なアプローチは下記の3種類になります。

プロンプトの強度を下げる 提供するプロンプトの総量を減少させるアプローチです。

全体身体プロンプトを使用していたところから部分的身体プロンプトに変更する。

プロンプトの種類を変更する

使用するプロンプトの種類をより介入度の低いものに変更するアプローチです。

身体プロンプトを使用していたところから音声プロンプトに変更する。

プロンプトを取り除く

児童が対象行動やスキルを使用し始めたその瞬間にすぐに使用していたプロンプトを取り除きます。

4.学習機会の特定

段階的ガイダンスは連鎖スキルに対して使用されるアプローチです。

そのため1日の中で自然に学習できる機会があるかまず探します。もしなければ、対象の行動やスキルを使用できる連鎖タスクを設定します。

同時プロンプトを用いたトレーニング設計

1.コントロールプロンプトの特定

このアプローチの場合も同様に、コントロールプロンプトを特定します。

少し違うのはコントロールプロンプトの中で一番介入度が低いものを選択する必要があるということです。

部分身体プロンプトを使用した場合の児童のタスク成功確率が95%、全体身体プロンプトの場合にも95%出会った場合に、コントロールプロンプトとして使用するのは前者のより介入度の低い部分身体プロンプトになります。

2.反応時間を決める

これも同様に決める必要がありますが、他の二つと違うのはこのアプローチが、2つのセッションを持っているということです。そのため2つのセッションにおいて反応時間を考える必要があります。

導入セッションの時の反応時間

導入セッションの時は②の刺激の提示の後に児童が自分で反応する時間は与えません。

4番目は全体身体プロンプトを使用する場合には、それで反応が完結するためいりません。

児童が対象行動やスキルを使用できた場合には強化子を提供し、使用できなかった場合には反応しない、もしくは行動を正して次の試行に移ります。

確認セッションの時の反応時間

確認セッションの時は、③で児童が反応するまでの時間をあらかじめ決めておく必要があります。大抵3〜5秒あれば十分です。

導入セッションや確認セッションで反応時間を決めるときには、他のアプローチと同様のことを考慮し決めます。

3.学習機会を特定する

これもまた他のアプローチと同様に日常生活の中や療育中で活用できる、学習機会を特定します。

少し違うのはこのアプローチの場合、導入と確認2種類のセッションが必要になるためそれぞれのセッションを十分な数確保する必要があります。

導入セッションに関しては少なくとも5回の試行が必要です。連鎖スキルの場合には繋がっている全てのタスクを合算して1回と数えます。

まとめ

本記事ではプロンプトを用いたトレーニングを設計するにあたって基本的な事項に関してご紹介しました。

行動を特定ベースライン調査を行い、先行刺激の特定、使用するプロンプトの特定、強化子の特定は共通ですが、それ以外の部分に関しては、それぞれのアプローチで差異があります。

プロンプトを使えば、あの学習機会も活かせるかも?や、これまでトレーニングできていなかったあの項目もトレーニング可能かもなど、新たな気づきにつながれば幸いです。