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ASD児の象徴的遊びスキル向上を目的としたAR/VR+演劇トレーニングの効果

· 66 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事では、自閉症(ASD)、ADHD、ディスレクシア(読字障害)などの発達障害に関連する最新の学術研究を幅広く紹介しています。具体的には、ASD児の象徴的遊びスキル向上を目的としたAR/VR+演劇トレーニングの効果、ADHD児の脳機能異常をVRタスクで分析した研究、ディスレクシア児の視覚機能の特徴、ダウン症児の二重課題による移動能力への影響、OCD(強迫性障害)と発達の遅れの関係、ゲームを活用した介入(GBI)の効果、発達障害児のメンタルヘルス研究における測定の課題、親の社会的サポートとレジリエンスの関係、そしてディスレクシア研究の資金配分と当事者のニーズのギャップ など、多岐にわたるテーマが含まれています。これらの研究を通じて、発達障害に関する支援や教育、診断・介入方法の改善に向けた示唆を提供しています。

社会関連アップデート

Opinion | Explaining the Autism Surge

自閉症の診断数の増加において、以前紹介したコラムに対する意見が紹介されています。それは診断数の増加要因の一つとしてDSM-5におけるアスペルガーと自閉症が統合された点です。投稿者はアスペルガーはむしろADHD寄りの特性を示すことがあると指摘しましたが、それがDSM-5作成の際には受け入れられず、ASDの方へ統合されたことが増加の要因の一つとして考えられるのではと指摘しています。詳しくは記事をご覧ください。

学術研究関連アップデート

Applying theatre-based role-playing combined with AR and VR game strategies to enhance imagination and symbolic play skills in children with autism spectrum disorder

この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)のある子どもたちが、想像力や象徴的な遊び(symbolic play)を向上させるために、演劇的なロールプレイとAR/VRゲームを組み合わせたトレーニングを実施 したものです。特に、「オズの魔法使い」の物語を活用したインタラクティブなゲームを用いることで、社会的認知能力の向上を目指しました


研究の背景

  • ASDの子どもは、想像力が弱く、象徴的な遊びが苦手な傾向がある
    • 例:ごっこ遊びや物語を作ることが難しい。
  • 象徴的な遊びが苦手だと、他者の感情や暗示的な言葉を理解しにくくなり、社会的コミュニケーションが難しくなる
  • 演劇(ロールプレイ)やゲームを使うことで、社会的スキルを向上させることができるのではないか? という仮説のもと、研究を実施。

研究方法

  • 対象者:7〜9歳のASD児(高機能自閉症)4名
  • 実験デザイン:複数ベースラインデザイン(複数の段階で比較)
    • ベースライン期(介入前の能力を測定)
    • 介入期(演劇+AR/VRゲームを導入)
    • 維持期(トレーニング終了後の効果を測定)
  • 使用した手法
    • 「オズの魔法使い」のストーリーを活用
    • 演劇ロールプレイ(役になりきる活動)
    • AR/VRゲーム(視覚的・体験的に社会的スキルを学ぶ)

研究結果

  1. 全員の象徴的な遊びスキルが大幅に向上
    • 介入前の平均スコア:23.04%
    • 介入後の平均スコア:59.38%
    • 維持期の平均スコア:69.33%(トレーニング終了後も効果が続いた)
  2. 「社会的行動評価尺度(Social Behavior Rating Scale)」での評価
    • 5つのスキルすべてが向上
      • 演劇ロールプレイのスキル
      • 象徴的な遊びスキル
      • ゲームへの持続性
      • 双方向の社会的やり取りスキル
      • 言葉での表現能力
    • 最も向上したのは「象徴的な遊びスキル」

研究の結論

  • 演劇ロールプレイとAR/VRゲームを組み合わせることで、ASD児の象徴的な遊びスキルが大幅に向上することが確認された
  • 象徴的な遊びスキルの向上は、社会的な相互作用の改善にもつながった
  • ゲーム形式の学習法は、楽しみながら社会的スキルを身につける有効な方法となる可能性がある

ポイント(簡単なまとめ)

ASD児は想像力や象徴的な遊びが苦手 → AR/VR+演劇で改善可能!

「オズの魔法使い」を活用したゲームで、象徴的な遊びと社会的認知能力が向上

介入前は23%のスコアだったが、介入後は59% → 維持期には69%に上昇

社会的なスキル(双方向のやり取り、表現力など)も向上した

AR/VRを使った学習は、楽しく効果的なトレーニング手法として有望!

この研究は、ゲームや演劇を活用することで、ASD児が楽しみながら社会的スキルを伸ばせる可能性を示した 重要な研究です。

Measurement issues in longitudinal studies of mental health problems in children with neurodevelopmental disorders

この研究は、神経発達症(NDD)のある子どもたちのメンタルヘルスの変化を追跡する研究(縦断研究)が抱える測定上の問題点を明らかにし、バイアス(偏り)のリスクを評価する方法を開発・検証 したものです。特に、メンタルヘルス問題を正しく測定するために、どのような課題があるのかを分析しました。


研究の背景

  • 神経発達症(NDD)(自閉症スペクトラム障害、ADHD、学習障害など)を持つ子どもたちは、メンタルヘルスの問題(不安、うつなど)を抱えやすい。
  • しかし、長期間のメンタルヘルスの変化を追跡する研究(縦断研究)には測定上の問題が多く、結果に偏りが生じる可能性がある
  • そこで、この研究では、縦断研究のバイアスを評価するための4つの主要な課題を特定し、研究の質を評価する新しい基準を作成

研究の方法

  • 過去の研究(システマティックレビュー)をもとに、新しい評価基準を作成
  • 過去に発表された49件のNDD児に関する縦断研究を、この基準に基づいて分析し、バイアスのリスクを評価。

分析した4つのバイアス要因

  1. メンタルヘルス問題とNDDの診断基準の概念的な重なり → 例:ADHDの「衝動性」と「問題行動」を混同して評価していないか?
  2. 一人の情報提供者(主に親)に依存しすぎている → 例:親の報告のみで子どものメンタルヘルスを評価していないか?
  3. 子どもの視点が考慮されていない → 例:子ども自身の意見が反映されていない測定方法ではないか?
  4. NDDの子どもに適した測定ツールを使用していない → 例:一般的なメンタルヘルス評価ツールをそのまま使用し、NDDの特性を考慮していない。

研究結果

  • 49の研究のうち、57.1%が高いバイアスのリスクを持つと評価された
  • 最も大きな問題は「NDDの子どもに適した測定ツールが使われていないこと」(87.8%の研究が該当)
  • 子どもの視点が考慮されていないケースは比較的少なく(24.5%)、他のバイアスよりも問題は軽度だった。

研究の結論

  • NDD児のメンタルヘルスを正しく評価するには、以下の点が重要
    1. メンタルヘルス問題とNDDの診断基準を明確に区別する
    2. 複数の情報提供者(親・教師・子ども本人)からのデータを活用する
    3. 子ども自身が回答できる「認知的にわかりやすい自己評価ツール」を活用する
    4. NDDの特性に適した評価尺度を選択する

この研究は、NDDの子どものメンタルヘルス研究の精度を向上させるための重要な指針を提供しており、今後の研究の質を高めるための具体的な改善策を提示 しています。


ポイント(簡単なまとめ)

NDD児のメンタルヘルスを評価する縦断研究には、測定上のバイアスのリスクがある

49件の研究のうち、57.1%が高いバイアスのリスクを持つと判定

最大の問題点は「NDD児に適した評価ツールを使用していない」点(87.8%の研究)

「親の報告だけに依存しない」「子どもの視点を取り入れる」「適切な評価尺度を使用する」ことが重要

今後の研究の質向上のため、認知的にわかりやすい自己評価ツールの開発・活用が求められる

この研究は、NDDの子どもたちのメンタルヘルスを正確に把握し、より適切な支援を提供するために、研究方法の改善が必要であることを示しています

How Do Social Support and Resilience Interact in Parents of Children with ASD? A Cross-Lagged Mediation and Moderation Analysis from the COR Perspective

この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもを育てる親の「社会的サポート」と「レジリエンス(回復力)」がどのように影響し合うのかを長期的に分析したもの です。特に、「アクティブ・コーピング(積極的な対処)」がこの関係をどのように仲介するのか、また子どもの年齢(未就学児 vs. 学齢期)が影響を与えるのかを調査しました。


研究の背景

  • ASD児の親は、精神的・身体的な負担が大きく、ストレスにさらされやすい。
  • 親が周囲からの社会的サポートを受けることで、ストレスを乗り越えるレジリエンス(回復力)が高まる可能性がある。
  • しかし、この関係は単純なものではなく、「レジリエンスが高い親ほど、より積極的に社会的サポートを得ることができるのではないか?」という双方向の影響が考えられる。
  • また、「アクティブ・コーピング(積極的に問題解決に取り組む対処方法)」が、この相互作用を仲介しているのではないか? という仮説を検証。

研究方法

  • 対象者:3〜15歳のASD児の親 436人(中国)
  • 調査時期:2回(T1: 調査開始時、T2: 6ヶ月後)
  • 使用した評価尺度
    1. 社会的サポートの測定(Social Support Questionnaire)
    2. レジリエンス(回復力)の測定(Connor-Davidson Resilience Scale)
    3. コーピング(対処法)の測定(Coping Strategies Inventory)
  • 分析方法縦断的クロスラグ構造方程式モデリング(longitudinal cross-lagged structural equation modeling)
    • 時間の経過とともに、社会的サポートとレジリエンスがどのように影響し合うのかを分析
    • アクティブ・コーピングがどのように関係を仲介するかも調査
    • 子どもの年齢別(未就学児 vs. 学齢期)に影響の違いを比較

研究結果

  1. 社会的サポートとレジリエンスは、双方向に影響し合う関係がある
    • T1時点での社会的サポートが高いと、T2時点でのレジリエンスが高まる。
    • 逆に、T1時点でのレジリエンスが高いと、T2時点でより多くの社会的サポートを得られる傾向がある。
    • つまり、社会的サポートとレジリエンスは互いに強化し合う「好循環」を生む可能性がある。
  2. 「アクティブ・コーピング」がこの相互作用を仲介
    • 積極的に問題を解決しようとする親ほど、社会的サポートを活用しやすく、それがレジリエンスの向上につながる。
    • また、レジリエンスが高い親ほど、積極的にコーピングを実践しやすくなる。
  3. 子どもの年齢による違い
    • 全体的なモデルに大きな違いはなかったが、「T1時点のレジリエンスがT2時点の社会的サポートに与える影響」は、学齢期の子どもを持つ親の方が顕著だった。
    • つまり、子どもが成長するにつれて、親のレジリエンスが社会的サポートの獲得により大きな影響を与えるようになる可能性がある。

研究の結論

  • 社会的サポートとレジリエンスは相互に強化し合う関係にあり、アクティブ・コーピングがその中心的な役割を果たす。
  • 学齢期の子どもを持つ親では、レジリエンスが社会的サポートの獲得により大きく影響する。
  • 親への支援策として、「社会的サポートの充実」と「アクティブ・コーピングの促進」が重要なポイントになる。

ポイント(簡単なまとめ)

「社会的サポート」と「レジリエンス(回復力)」は双方向に影響し合う

「アクティブ・コーピング(積極的な問題解決)」がこの関係を仲介

学齢期の子どもの親では、レジリエンスが社会的サポートの獲得により大きな影響を与える

親の支援には、社会的サポートの充実と、積極的な問題対処スキルの向上が重要

この研究は、ASD児の親のストレス対処法や支援のあり方を改善するための貴重な知見 を提供しており、年齢別に適したサポートの重要性を示しています

Family Navigation for Children with Autism: A Scoping Review of Quantitative and Qualitative Evidence

この研究は、「ファミリー・ナビゲーション(Family Navigation, FN)」が自閉症児とその家族にどのような効果をもたらすのかを、既存の研究を整理・分析することで明らかにしようとしたもの です。FNは、自閉症児を持つ家庭が必要な支援やサービスにスムーズにアクセスできるよう、専門家や経験者がサポートするプログラム であり、近年注目されています。


研究の目的

  1. 自閉症児向けのFNに関する研究の全体像を把握する(どのような研究があるのか?)
  2. FNの具体的なモデル(支援の仕組み)とその効果を整理する(どのように機能し、どんな影響を与えるのか?)
  3. まだ明らかになっていない点(研究の課題)を特定し、今後の研究の方向性を示す

研究の方法

  • スコーピング・レビュー(研究の全体像を広く把握するためのレビュー方法)を採用。
  • データ収集元:PubMed, CINAHL, Embase, Social Services Abstracts, Web of Science などの学術データベース。
  • 308件の論文を調査し、最終的に17件の研究を対象に分析

研究の結果

  1. FNの研究は17件のみで、まだ発展途上の分野である
  2. FNの具体的な支援モデルは以下の3タイプ
    • 専門家(プロフェッショナル)ナビゲーターによる支援(7件の研究)
    • 経験者(ピア・ナビゲーター)による支援(7件の研究)
    • FNを支援するツール(アプリやオンラインシステム)の開発(3件の研究)
  3. FNの主な効果
    • 家族のアクティベーション(支援を積極的に活用する力の向上)
    • 家族の心理的な負担の軽減
    • 自閉症に関する知識の向上
    • 必要な医療・福祉サービスへのアクセス向上
    • サービスの利用率の増加
    • 一方で、子どもの発達や行動への影響を検証した研究はなかった

研究の結論

  • FNは、自閉症児の家庭にとって有望な支援手段であることが示唆された。
  • 特に、家族の心理的な負担を減らし、適切な支援につなげる上で有効である可能性が高い。
  • しかし、子どもの発達や行動への具体的な影響については、まだ研究が不足している。
  • 今後の研究では、FNの「最も効果的な実施方法(ベストプラクティス)」を確立し、子どもと家族の両方にとっての長期的な成果を測る必要がある。

ポイント(簡単なまとめ)

ファミリー・ナビゲーション(FN)は、自閉症児の家族の支援を強化し、サービスの利用を促進する手法。

専門家や経験者(ピア)がナビゲーターとなり、家族が必要なサポートを受けられるよう手助けする。

家族のストレス軽減・知識向上・支援へのアクセス改善に効果があることが確認された。

ただし、子どもの発達や行動への具体的な影響を測定した研究はまだほとんどない。

今後はFNの効果的な実施方法を確立し、家族・子ども双方の長期的な影響を検証することが求められる。

この研究は、FNが自閉症児の家族にとって有効な支援方法である可能性を示唆しており、より効果的な活用方法を探るための重要な知見 を提供しています。

Effects of dual task on functional mobility in individuals with Down syndrome: a case–control study - Bulletin of Faculty of Physical Therapy

この研究は、ダウン症(DS)のある人が「二重課題(デュアルタスク)」を行うと、移動能力(歩行や動作)がどの程度影響を受けるのか を調査したものです。特に、認知的な作業(例:動物の名前を言う)やスマートフォンの操作(例:会話やタイピング)をしながら移動する際の影響 を比較しました。


研究の背景

  • ダウン症(DS)のある人は、移動能力(歩行・バランス・運動の協調)が一般的に低下しやすい
  • 日常生活では、移動しながら会話をしたり、スマートフォンを操作するなど、複数の作業(デュアルタスク)を同時に行う場面が多い
  • ダウン症のある人がこうしたデュアルタスクを行うと、移動能力にどのような影響があるのかを明らかにするため、実験を実施

研究方法

  • 対象者
    • ダウン症のある人 9名
    • 年齢・性別を合わせた健常者 9名(コントロール群, CG)
  • 評価方法
    • Timed Up and Go(TUG)テスト(椅子から立ち上がり、歩いて戻るまでの時間を測定)
    • 4つのデュアルタスク条件でTUGテストを実施
      1. 認知課題(動物の名前を言いながら歩く)
      2. 運動課題(物を持つなどの簡単な動作をしながら歩く)
      3. 会話課題(歩きながら会話する)
      4. スマートフォンのタイピング(歩きながらスマホで文字を入力)
    • デュアルタスクの影響を「インターフェレンス・インデックス(干渉指数)」で測定
    • 統計解析(ANOVA・t検定)を用いて、ダウン症のある人と健常者を比較

研究結果

  1. すべての条件で、ダウン症のある人は健常者よりも移動能力が低下
    • 単独の移動タスク(シングルタスク)でも、ダウン症のある人は健常者より時間がかかった。
    • デュアルタスク(複数の作業を同時に行う)では、さらに悪化する傾向があった。
  2. デュアルタスクの影響が最も大きかったのは「認知課題」
    • 動物の名前を言いながら歩くタスクでは、移動能力の低下が最も顕著だった。
  3. スマートフォンのタイピングも大きな影響を与えた
    • スマホの画面を見ながら文字を入力すると、移動速度が著しく低下。
    • ダウン症のある人では、健常者と比べて影響がさらに大きかった。
  4. デュアルタスクの負荷は、運動課題や会話課題よりも、認知やスマホ操作の方が大きかった
    • 簡単な運動(物を持つなど)や会話の影響は比較的軽微だった。
    • 一方、考えながら話すタスク(認知課題)やスマホ操作は、移動能力を大幅に低下させた。

研究の結論

  • ダウン症のある人は、デュアルタスク(特に認知課題やスマホ操作)によって、移動能力が大幅に低下する ことが確認された。
  • 現代社会では、歩きながら会話やスマホ操作をすることが一般的になっているため、ダウン症のある人にとって移動中のリスクが高まる可能性がある。
  • リハビリや運動トレーニングに「デュアルタスク」を組み込むことで、移動能力を向上させる可能性がある。
  • 今後の研究では、より実践的なトレーニング方法の開発や、日常生活での安全性向上に焦点を当てることが重要。

ポイント(簡単なまとめ)

ダウン症のある人は、移動しながら他の作業をすると、移動能力が低下しやすい。

特に「認知課題(動物の名前を言う)」や「スマホ操作(タイピング)」が大きな影響を与える。

運動課題や会話課題は比較的影響が少ない。

移動中の安全確保のため、リハビリに「デュアルタスクトレーニング」を取り入れることが有効かもしれない。

今後の研究では、日常生活での実用的な対策やトレーニング方法の開発が求められる。

この研究は、ダウン症のある人の移動能力をより安全に改善するための重要な知見 を提供しており、リハビリや日常生活のサポートに役立つ可能性が高い ことを示しています。

Visual function deficits in dyslexic children: a case-control study - BMC Ophthalmology

この研究は、読字障害(ディスレクシア)のある子どもが、視覚機能(目の働き)にどのような違いを持っているのかを調べたもの です。特に、視力だけでなく、コントラスト感度(ぼんやりした文字を識別する力)や両目の立体視(奥行きを感じる力)に焦点を当てて分析 しました。


研究の目的

  • ディスレクシアのある子ども(7〜10歳)と、ない子どもを比較し、視覚機能に違いがあるかを調べる
  • 特に、「コントラスト感度」や「立体視」に注目し、ディスレクシアの視覚的な特徴を明らかにする

研究の方法

  • 対象者
    • ディスレクシア児(32人)
    • 健常児(32人, コントロール群)
    • 7〜10歳の男女(平均8.1歳)
  • 実施した視力検査
    1. 遠くを見る力(矯正視力)
    2. 屈折異常(近視・遠視・乱視などの有無)
    3. 目のずれ(斜視の程度)
    4. 立体視(両目で奥行きを感じる力)
    5. 近見調節力(近くのものにピントを合わせる力)
    6. コントラスト感度(明るさの差を識別する力)

研究結果

  1. 一般的な視力(遠くを見る力)は、ディスレクシア児と健常児の間で大きな違いはなかった(P > 0.05)。
  2. ディスレクシア児は、コントラスト感度(CS)が低かった
    • ぼんやりした文字を識別する能力が低下している 可能性がある。
    • 平均スコア:
      • ディスレクシア児:115.8 ± 40.6(cycle per degree)
      • 健常児:175.6 ± 44.3
      • (P < 0.001, 有意な差)
  3. ディスレクシア児は、立体視(Stereoacuity)が劣っていた
    • 奥行きを正確に感じる力が低下している 可能性がある。
    • 平均スコア:
      • ディスレクシア児:94.2 ± 73.6(秒角, s/arc)
      • 健常児:60.94 ± 12.01
      • (P = 0.017, 有意な差)

研究の結論

  • ディスレクシア児は、一般的な視力には問題がないが、「コントラスト感度」と「立体視」に課題を抱えている可能性がある
  • これは、視覚情報を処理する「マグノセルラー系(大細胞系)」の機能低下と関連している可能性がある
    • マグノセルラー系:視覚の動きやコントラストを処理する脳の神経回路
  • ディスレクシア児の読字困難の一因として、視覚情報処理の問題が関係している可能性があるため、さらなる研究が必要

ポイント(簡単なまとめ)

ディスレクシア児の一般的な視力は正常だが、「コントラスト感度」と「立体視」に課題がある

ぼんやりした文字を識別する能力が低く、奥行きを正確に感じる力が低下している可能性がある

これらの視覚機能の問題は、ディスレクシアの読字困難と関係している可能性がある

視覚処理の問題がディスレクシアの一因となっているかを解明するため、さらなる研究が必要

この研究は、ディスレクシアの視覚的な側面に焦点を当て、読字困難の原因の一つとして視覚情報処理の問題を示唆 しています。今後の教育や支援において、視覚機能の検査やトレーニングの重要性が高まる可能性があります

Childhood obsessive-compulsive disorder, epigenetics, and heterochrony: An evolutionary and developmental approach

この研究は、子どもの強迫性障害(OCD)がどのように発生し、発達していくのかを進化的・発達的な観点から考察したもの です。特に、OCDが「本来は幼児期に自然に減少するはずの行動パターンが、何らかの要因で長引いてしまうことで生じるのではないか?」という仮説 を提案しています。


研究の背景

  • OCDは、7歳頃までの子どもに見られる「繰り返し行動」や「こだわり」と似た特徴を持つ。
    • 例:「特定の順番で物を並べる」「同じ行動を何度も繰り返す」
  • しかし、通常は成長とともにこうした行動は減少するはずなのに、OCDでは続いてしまう。
  • OCDは、発症年齢によって併発しやすい疾患が異なる。
    • 幼少期発症のOCD → 自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)と共に現れることが多い。
    • 成人期に発展すると → 統合失調症などの精神疾患リスクが上がる。
  • また、OCDには「感覚に関する特性(例:特定の触感や音への過敏さ)」が関与している可能性がある。

研究の仮説

  • OCDの特徴的な行動パターンは、本来は幼児期に消えていくはずの行動が長引いてしまった結果かもしれない(「発達の遅れ=異時性発達(ヘテロクロニー)」の影響)。
  • この発達の遅れは、遺伝だけでなく「エピジェネティックな変化(環境による遺伝子の発現変化)」によっても引き起こされる可能性がある。
    • 例:感覚のバランスの乱れ(例:過敏症や鈍感さ)が、脳の発達に影響を与え、強迫行動の減少を妨げるかもしれない。
  • OCDの行動パターンは進化的にも見られるものであり、「不確実な状況に対する適応的な行動(=安心感を得るため)」として発生する可能性がある。

研究の結論

  • OCDは「成長とともに消えるはずの行動が、発達の遅れによって長引くことで生じる」可能性がある。
  • 感覚のバランスの乱れが発達に影響を与え、OCDの症状を引き起こすかもしれない。
  • OCDの症状は、発達の異常を示す「バイオマーカー(早期発見の手がかり)」として活用できる可能性がある。

ポイント(簡単なまとめ)

OCDは本来、幼少期に自然に減少するはずの繰り返し行動が長引くことで発生する可能性がある。

発達の遅れ(異時性発達)が、OCDの持続に関与しているかもしれない。

感覚の過敏さなどが、脳の発達に影響を与え、強迫行動の減少を妨げる可能性がある。

OCDの症状は「発達の異常のサイン」として、早期診断の手がかりになるかもしれない。

この研究は、OCDが単なる精神疾患ではなく、「発達の遅れ」として捉えることができる可能性を示唆しており、治療や早期発見の新しい視点を提供しています

Real-world goal-directed behavior reveals aberrant functional brain connectivity in children with ADHD

この研究は、ADHDのある子どもたちの脳の機能的なつながり(機能的結合)にどのような違いがあるのか を調べたものです。特に、実際の行動を伴うVR(仮想現実)タスクを使い、目標達成型の行動(goal-directed behavior)と脳活動の関連を分析 しました。


研究の背景

  • ADHD(注意欠陥・多動性障害)は、脳のネットワーク(神経回路)の異常が関係している可能性がある
  • これまでの研究では、「安静時(何もしていない状態)」の脳の活動を調べる方法が主流 だったが、これは実際の行動や症状と直接関連しにくい という問題があった。
  • そこで、本研究では**「自然な状況下での脳活動(ナチュラリスティック・ニューロサイエンス)」**に注目し、VRタスクを活用してADHDの脳の働きをより現実的な状況で分析 した。

研究方法

  • 対象者
    • ADHDの子ども 39人
    • 定型発達(TD)の子ども 37人
  • 実験条件(3種類のfMRI計測):
    1. VRタスク(アクティブ):目標達成のための行動を実行するタスク
    2. 動画視聴(パッシブ):自然な映像を視聴するタスク
    3. 安静状態(レスト):何もしない状態での脳活動を測定
  • データ解析
    • ネットワークベース統計(NBS)グラフ理論解析 を用いて、脳の機能的結合の違いを分析。

研究結果

  1. VRタスク中、ADHD群は定型発達群よりもタスクの成績が低かった(目標達成能力の低下)。
  2. VRタスク中、ADHD群は脳の機能的結合が異常に強かった(特に「大脳基底核」などのサブコーティカル領域での過剰なつながりが見られた)。
  3. 動画視聴タスク中も、ADHD群は定型発達群と異なる脳の結合パターンを示したが、VRタスクほど顕著ではなかった
  4. 安静状態(レスト)では、ADHD群と定型発達群の間に明確な機能的結合の違いは見られなかった
  5. VRタスクや動画視聴中の機能的結合は、定型発達群ではタスクの成績と関連していたが、ADHD群ではそうではなかった
  6. 安静状態での脳の活動は、定型発達群において6ヶ月間のADHD症状と関連していた

研究の結論

  • ADHDの子どもは、目標達成型の行動を伴う状況で、脳の異常な過剰結合(特に大脳基底核の過活動)が見られる
  • 脳の異常なつながりは、実際のタスク遂行時に顕著に現れ、何もしていない状態(安静時)では明確な違いは見られなかった
  • ADHDの診断や研究では、「安静時」の脳活動だけを見るのではなく、実際の行動と脳の働きを同時に測る「ナチュラリスティック・パラダイム(自然な状況での脳活動測定)」が重要 である。

ポイント(簡単なまとめ)

ADHDの子どもは、VRタスク中に目標達成能力が低下し、脳の異常な過剰結合(特にサブコーティカル領域)が見られた

動画視聴中にも脳のつながりの違いはあったが、VRタスクほど顕著ではなかった

安静時(何もしていない状態)では、ADHD群と定型発達群の間に明確な脳の結合の違いはなかった

ADHDの診断や研究では、「安静時」だけでなく、「実際の行動中の脳の働き」を測定することが重要である

この研究は、ADHDの特性をより正確に理解するためには、VRなどの現実的なタスクを用いて脳の活動を測ることが重要である ことを示唆しています。今後、ADHDの診断や治療の新しいアプローチに応用できる可能性があります

Evaluating the CELF-5 Screening Test and Vineland-3 for Identifying Language Difficulties in Autism and Attention Deficit Hyperactivity Disorder

この研究は、自閉症(ASD)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)のある子どもたちの言語障害を特定するためのスクリーニングツール の有効性を検証したものです。特に、「CELF-5 Screening Test」(言語能力の簡易評価テスト)と**「Vineland-3」**(適応行動を評価するスケール)が、これらの子どもたちの言語の問題を正確に識別できるかどうかを調べました。


研究の背景

  • ASDやADHDの子どもは、一般的な発達の子どもに比べて言語の発達に課題を抱えることが多い
  • スクリーニングテスト(簡易検査)は、早期に言語の問題を発見するために重要なツール だが、ASDやADHDの子どもに対してどの程度正確に機能するかは明らかになっていなかった。
  • この研究では、CELF-5 ScreenerとVineland-3が、本当に有効なスクリーニングツールなのかを検証 した。

研究方法

  • 対象者
    • ASDのみ(25人)
    • ADHDのみ(29人)
    • ASD + ADHDの両方を持つ子ども(78人)
    • 合計132人(平均年齢9.6歳、59%が男子)
  • 比較した評価ツール
    1. CELF-5 Screener(簡易版の言語評価)
    2. Vineland-3(適応行動尺度)
    3. ゴールドスタンダード(臨床医が実施する詳細な言語評価:CELF-5本体)
  • 評価項目
    • 感覚言語(Receptive Language):聞いたり読んだりした言葉の理解力
    • 表現言語(Expressive Language):話したり書いたりする言語の能力
  • 分析方法
    • 感度(Sensitivity):問題のある子どもを正しく識別できるか
    • 特異度(Specificity):問題のない子どもを正しく識別できるか
    • ROC分析とYouden’s J統計 を用いて、スクリーニングの正確性を評価

研究結果

  1. CELF-5 Screener(簡易版の言語評価テスト)
    • 感覚言語の識別精度
      • 感度(Sensitivity):35.6%(低い)
      • 特異度(Specificity):95.3%(高い)
      • 本当に言語の問題がある子どもの65%を見逃してしまうが、正常な子どもは正確に識別できる
    • 表現言語の識別精度
      • 感度:37.9%(低い)
      • 特異度:91.1%(高い)
      • 問題がある子どもの約60%を見逃すが、問題のない子どもはほぼ正確に判別可能
  2. Vineland-3(適応行動評価)
    • 感覚言語の識別精度
      • 感度:80.9%(比較的高い)
      • 特異度:22.4%(低い)
      • 問題のある子どもを識別できるが、正常な子どもも「問題あり」と誤判定する可能性が高い
    • 表現言語の識別精度
      • 感度:93.3%(非常に高い)
      • 特異度:48.0%(低い)
      • 問題のある子どもはほぼ正確に判別できるが、正常な子どもも「問題あり」と誤判定しやすい

研究の結論

  • CELF-5 Screenerは、言語の問題がある子どもの多くを見逃してしまう可能性が高い(感度が低い)ため、ASDやADHDのスクリーニングにはあまり適していない。
  • Vineland-3は、感度は高いが特異度が低く、問題のない子どもも「問題あり」と誤判定するリスクがある。
  • どちらのツールも、ASDやADHDのある子どもに対しては慎重に使用するべきであり、臨床的な詳細評価(CELF-5本体)と組み合わせて使うべき。
  • ASDやADHDの子どもは一般的な言語発達のパターンと異なるため、標準的なスクリーニングツールだけでは十分に評価できない可能性がある。

ポイント(簡単なまとめ)

CELF-5 Screenerは、ASDやADHDの子どもの言語問題を見逃しやすい(感度が低い)

Vineland-3は、言語の問題を見つけやすいが、正常な子どもも誤って「問題あり」と判断するリスクがある

ASDやADHDの子どもに対しては、スクリーニングツール単体ではなく、より詳細な臨床評価が必要

神経発達症のある子どもは一般的な言語発達とは異なるため、評価ツールの使い方に注意が必要

この研究は、ASDやADHDの子どもの言語能力を正確に評価するためには、スクリーニングツールの限界を理解し、複数の方法を組み合わせることが重要である ことを示しています。今後、より神経発達症に特化したスクリーニングツールの開発が求められるかもしれません

Co-Occurrence and Causality Among ADHD, Dyslexia, and Dyscalculia

この研究は、ADHD(注意欠陥・多動性障害)、読字障害(ディスレクシア)、算数障害(ディスカルキュリア)がどのように同時に現れるのか、その原因は何か を調べたものです。具体的には、オランダの双子登録データを用いて、7歳と10歳の子どもたちのこれらの障害の共起(同時発現)のパターンや、各特性間の因果関係、さらには共通の遺伝的・環境的要因がどの程度影響しているのかを解析しました。

研究の背景と目的

  • ADHD、ディスレクシア、ディスカルキュリアは、しばしば同時に現れることが知られていますが、それぞれが直接他の障害を引き起こすのか、あるいは共通のリスク要因(遺伝や環境)があるのかは明らかではありません。
  • 本研究では、これらの障害が同時に現れる理由を、「因果関係」と「共通のリスク要因」 の両面から検証することを目的としました。

研究方法

  • 対象:オランダの双子登録データを用い、7歳および10歳時点での評価データ(最大19,125組の双子と2,150組の兄弟)を解析。
  • 解析手法
    • 横断的および縦断的なデータ解析を行い、各障害の発現頻度や共起の確率を評価。
    • *交差遅延モデル(cross-lagged modeling)**を用いて、異なる特性間の因果関係の有無を検討。

研究結果

  • 共起のリスク
    • ある障害を持つ子どもは、持たない子どもに比べて、別の障害を持つリスクが2.1~3.1倍高かった。
    • しかし、実際には、ADHD、ディスレクシア、ディスカルキュリアのいずれかを持つ子どもの大多数(77.3%)は、ひとつの障害だけであることがわかった。
  • 因果関係の検証
    • 読みの能力が、スペリング(綴り)の能力に対して因果的な影響(β = 0.44)があることが示された。
    • その他の特性間では、因果的な影響はあまり見られず、これらの特性の相関は、すべての特性に共通する遺伝的要因によるものと考えられる。

研究の結論

  • ADHD、ディスレクシア、ディスカルキュリアは、主に共通の遺伝的リスク要因によって同時に現れる傾向がある
  • それぞれの障害が直接的に他の障害を引き起こすという因果関係は、今回の分析ではほとんど見られなかった。
  • 読みとスペリングの間には、因果的な影響が認められたが、他の組み合わせでは、相関関係は共通の遺伝的背景に起因していると結論付けられた。

ポイント(簡単なまとめ)

ADHD、読字障害、算数障害は、共通の遺伝的リスクによって同時に現れることが多い

読みの能力は、綴りの能力に直接影響を与える

それ以外の特性間の関連は、因果ではなく共通の遺伝的要因によるもの

この研究は、これらの神経発達障害の共起を理解する上で、因果関係よりも共通のリスク要因が大きな役割を果たしている ことを示しており、将来的な診断や治療アプローチの発展に寄与する可能性があります。

Frontiers | The effect of game-based interventions on children and adolescents with autism spectrum disorder:A systematic review and meta-analysis

この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもや青年に対する「ゲームを活用した介入(Game-Based Interventions, GBI)」の効果 を調べたメタ分析(複数の研究を統合して総合的な結論を導き出す研究)です。特に、ASDの社会性・行動・認知機能などに対する影響を評価しました。


研究の目的

  • ASDの子どもや青年に対する「ゲームを活用した介入(GBI)」が、社会性や認知能力の向上に効果があるのか? を検証。
  • 過去のランダム化比較試験(RCT)の結果を統合し、GBIの有効性を評価する。

研究の方法

  • 対象の研究:2023年7月までに発表された**24のRCT(ランダム化比較試験)**を分析(合計1,801人のASDの子ども・青年)。
  • 分析した要素
    • 社会スキル(対人関係を築く能力)
    • 社会的行動(他者と適切に交流する能力)
    • 認知機能(記憶力や問題解決能力)
    • 言語表現(話す能力)
    • 不安症状
    • 親のストレス

研究結果

  • ポジティブな効果があった項目
    • 社会スキル(g = -0.59, p = 0.004) → 向上!
    • 社会的行動(g = 0.45, p < 0.001) → 向上!
    • 認知機能(g = 0.57, p < 0.001) → 向上!
    • → これらの結果は**統計的に有意(効果が確実にあるといえるレベル)**だった。
  • 効果が小さかった、または不明確な項目
    • 言語表現(g = 0.15) → ほぼ影響なし
    • 不安症状(g = -0.13) → 改善効果なし
    • 親のストレス(g = -0.51) → 改善効果なし
    • → これらの結果は統計的に有意ではなく、効果があるとは断言できない

研究の結論

  • GBIはASDの子ども・青年の「社会スキル」「社会的行動」「認知機能」の向上に有効 である可能性が高い。
  • 言語の向上や不安の軽減、親のストレス軽減には効果が見られなかった
  • ただし、対象となった研究の数が少なく、研究の質にもばらつきがあるため、今後の大規模で高品質な研究が必要

ポイント(簡単なまとめ)

ゲームを活用した介入(GBI)は、ASDの子ども・青年の「社会スキル」「社会的行動」「認知機能」の向上に役立つ

言語の発達や不安の軽減、親のストレスには効果が見られなかった

より大規模で質の高い研究が必要

この研究は、ASDの支援において「ゲームを活用すること」が一定の効果を持つ可能性があることを示しており、今後の発展が期待される分野 です。

Understanding Autistic Young Adults' Perceptions and Experiences of Traumatic and Stressful Events

自閉症の若年成人がストレスやトラウマをどのように経験し、対処するのか?

この研究は、自閉症の若年成人がストレスフルな出来事(トラウマ)をどのように経験し、対処するのかを探る ために行われました。また、自閉症の特性とストレス症状の関係 についても調査しています。


研究の方法

  • 第1段階(質的調査)
    • 自閉症の若年成人50人 を対象にオンラインアンケートを実施。
    • トラウマに対する考え方や、自閉症の特性がトラウマ体験にどう影響するか について質問。
    • データをテーマ別に分析(反射的テーマ分析) し、共通点を抽出。
  • 第2段階(量的調査)
    • 自閉症の若年成人150人と、非自閉症の若年成人149人 を対象にアンケートを実施。
    • 第1段階で抽出されたテーマをもとに作成した質問 を用いて、調査結果の一般化可能性を検証。
    • 自閉症の特性(SRS-2)とPTSD症状(PCL-5)の関係 を分析。

研究の結果

  • 自閉症と非自閉症の人は、トラウマの捉え方自体は似ている ことがわかった。
  • しかし、自閉症の人の方が「対人関係におけるトラウマ体験」が多く、ストレス症状も強い 傾向があった。
  • DSM-5-TRに基づくトラウマ体験がある人では、自閉症の特性がPTSD症状の16.2%を説明する ことが判明。

自閉症の人がトラウマを経験する際の特徴

自閉症の参加者は、トラウマと自閉症の相互作用が以下の4つの形で現れると述べた。

  1. 自閉症の特性がストレスフルな出来事に遭遇しやすくする(脆弱性の増加)
    • 例:感覚過敏や社会的スキルの難しさが、いじめや孤立などのリスクを高める。
  2. 自閉症がトラウマの影響を増幅させる
    • 例:感情を調整するのが苦手なため、過去の出来事を長く引きずる。
  3. 自閉症の行動が、健康的または不健康な対処法になる
    • 例:ルーチンを守ることで安心するが、過度なこだわりや回避行動が問題を引き起こすことも。
  4. 自閉症がサポートを受ける障壁を作る
    • 例:適切な支援を求めることが難しく、医療機関でも自閉症の特性が考慮されないことがある。

研究の結論

  • 「自閉症の人のトラウマ経験は、非自閉症の人とは根本的に異なる」 というテーマが浮かび上がった。
  • 自閉症とトラウマの関係を考慮した、個別対応の支援が必要である
  • 医療・福祉の専門家は、自閉症の特性がトラウマ反応にどのように影響するのかを理解し、それを踏まえた支援を行うべき

ポイント(簡単なまとめ)

自閉症の若年成人は、対人関係のトラウマが多く、ストレス反応が強い傾向がある

自閉症の特性がトラウマの影響を増幅し、対処行動やサポートの受けやすさに影響を与える

トラウマ支援において、自閉症特有の困難を考慮することが重要

この研究は、「自閉症の人がトラウマをどのように経験し、どのような支援が必要なのか」を理解する上で重要な知見を提供 しており、臨床現場での対応改善につながる可能性があります

What Are the Research Priorities for the Dyslexia Community in the United Kingdom and How Do They Align With Previous Research Funding?

英国のディスレクシア研究は本当に当事者のニーズに応えているのか?

この研究は、イギリスにおけるディスレクシア(読字障害)の研究資金が、実際のディスレクシア当事者やその家族の求める研究分野と合致しているのか を調査したものです。特に、「研究者が注目するテーマ」と「当事者が求めるテーマ」にギャップがあるのかを分析しました。


研究の背景

  • ディスレクシアに関する研究は多いものの、当事者が「本当に役に立つ」と感じる分野に十分な資金が割り当てられているのかは不明
  • 研究資金の多くが、「生物学・脳科学・認知」に偏っている可能性がある ため、当事者の意見を調査し、どの研究に資金を振り向けるべきかを明らかにする必要がある。

研究の方法

  1. 過去のディスレクシア研究の資金配分を分析
    • イギリスの研究資金の78%が「生物学・脳科学・認知」に使われていた ことを確認。
  2. ディスレクシア当事者・家族(計37人)によるフォーカスグループ(座談会)を実施
    • 実際に役立つと考える研究分野を議論 し、当事者目線での研究の優先順位を明らかに。
  3. ディスレクシア当事者・家族(計436人)を対象に調査を実施
    • どの研究テーマが最も重要かをランキング形式で評価

研究の結果

  • 過去の資金配分と当事者のニーズには大きなズレがある ことが判明。
  • 当事者が求める研究のトップ5(重要度の高い順):
    1. 教師や専門家のトレーニング(ディスレクシアに対する理解を深める)
    2. 教育的支援や介入方法の開発(実践的なサポート)
    3. メンタルヘルスと自尊心の向上(ディスレクシアによる心理的影響の研究)
    4. サービスや学習環境のインクルージョン(包括性)を高める(より多くの人が学びやすい環境の整備)
    5. 認知プロセスの理解(ディスレクシアの思考の仕組みを解明)
  • 「遺伝子研究」や「リスク因子の特定」は、当事者にとって優先度が低い ことが明らかになった。

研究の結論

  • 現在のディスレクシア研究は、当事者のニーズとは異なる方向に資金が使われている
  • 研究資金の配分を、より実用的な研究(教育支援・メンタルヘルス・インクルージョン)にシフトすべき
  • 研究者や資金提供者は、当事者の意見を尊重し、研究の方向性を調整することが重要

ポイント(簡単なまとめ)

イギリスのディスレクシア研究の78%は「生物学・脳科学・認知」に偏っていた。

当事者が求めるのは「教師の教育」「実践的な学習支援」「メンタルヘルスの向上」「インクルージョン」「認知の理解」など。

「遺伝子研究やリスク因子の特定」は、当事者にとってあまり重要ではなかった。

研究者や資金提供者は、当事者のニーズに沿った研究に資金を振り向けるべき。

この研究は、ディスレクシアの研究が実際に当事者の生活向上につながるよう、資金配分の見直しを促す重要な指摘 をしています。