自閉症のある女性やその家族の声から見える支援の文化的・構造的障壁
本記事では、発達障害・知的障害に関連する最新の学術研究を紹介しています。中国における約74,000人を対象とした調査から明らかになったADHDの有病率と併存症の実態、ICU看護師が知的障害のある患者に向き合う際の倫理的ジレンマと教育的課題、自閉症のある女性やその家族の声から見える支援の文化的・構造的障壁、また、知的障害のある学生が大学教育に参加することで生まれる相互理解と学びの深化に関する国際的な取り組みなど、多角的な視点から個別化支援・文化的配慮・制度整備の重要性を浮き彫りにする研究が取り上げられています。共通するのは、「声を聞くこと」と「共に学ぶこと」の価値であり、支援のあり方や教育の未来に向けた具体的なヒントが詰まった内容となっています。
学術研究関連アップデート
Prevalence and comorbidity of attention deficit hyperactivity disorder in Chinese school-attending students aged 6–16: a national survey - Annals of General Psychiatry
この研究は、中国国内で6~16歳の学校に通う子ども約7万4千人を対象に、**ADHD(注意欠如・多動症)の有病率と、併存する精神的な問題(併存症)**について全国規模で調査した初の大規模研究です。
🎯 研究の目的
ADHDは子どもの発達に関わる代表的な障害のひとつですが、中国ではこれまで全国規模で実態を把握した研究がありませんでした。この研究は、ADHDの頻度や、併発しやすい他の精神疾患との関係を明らかにすることを目的としています。
🔍 実施内容と方法
- 対象者:全国の6〜16歳の子ども 73,992人
- 診断方法:行動チェックリスト(CBCL)、子ども用精神疾患面接(MINI-KID)、DSM-IV診断基準に基づき評価
- ADHDのタイプ分類:
- ADHD-I(不注意型):集中が続かない、忘れっぽいなど
- ADHD-C(混合型):不注意+多動・衝動の両方
- ADHD-H(多動・衝動型)
📊 主な結果
- 全体のADHD有病率:6.4%
- ADHD-I(不注意型):3.9%
- ADHD-C(混合型):1.7%
- ADHD-H(多動型):0.9%
- 男児・低年齢の方が有病率が高い
- ADHDの子どもの53%に何らかの精神疾患が併存
- ADHD-C・ADHD-Hでは、反抗挑戦性障害/行為障害(ODD/CD)が58%で最多
- ADHD-Iでは、不安障害が17%で最多
- その他の傾向:
- チック障害は年少男子に多い
- 気分障害・薬物使用障害は年長男子に多い
- 不安障害は年長児や女子に多い
✅ 結論と意義
この研究は、ADHDが中国の子どもにも広く存在しており、しかも多くの場合ほかの問題も抱えていることを明らかにしました。
また、ADHDのタイプや子どもの年齢・性別によって、併存する障害が大きく異なることから、一律の支援ではなく、個々に応じた対応(個別化支援)が重要であることが示唆されました。
この研究は、中国の教育や医療現場におけるADHD支援体制の整備にとって基盤となる知見であり、今後の政策・介入設計に大きく貢献する可能性があります。
Nursing lived experience: Critical care ethics and intellectual developmental disabilities
この研究は、知的発達障害(IDD)のある患者をICU(集中治療室)でケアする看護師たちがどのような体験をしているのか("ナースの生の声")を明らかにした質的研究です。
🎯 研究の目的
ICUにおいては、重篤な状態の患者に迅速かつ専門的な対応が求められますが、知的発達障害のある患者に対しては、より個別的な理解と配慮が必要です。
しかし、多くのICU看護師は、そのようなケアに対する訓練や支援が不十分であると感じており、ジレンマやストレスを抱えています。
この研究では、ICU看護師20人へのインタビューを通じて、その“声”を深く掘り下げることを目的としています。