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感覚・運動特性と自閉症の関係

· 40 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事では、発達障害や知的障害を持つ子どもや成人に関する最新の学術研究を紹介し、特に介護者の負担、言語発達の評価、筋力と身体機能の関連、自閉症児の兄弟関係の影響、機械学習を用いた自閉症行動の解析、ADHDに対する運動の効果、メチルフェニデートの眼への影響、嗅覚刺激への生理的反応、感覚・運動特性と自閉症の関係、性別による自閉症特性と精神的健康の変化など、多岐にわたるトピックを取り上げている。各研究は、発達障害を持つ個人への理解を深め、より適切な支援策を検討するための重要な知見を提供しており、介護者や教育者、医療従事者にとって有益な情報が満載である。

学術研究関連アップデート

Caregiver burden and familial impact in Down Syndrome Regression Disorder - Orphanet Journal of Rare Diseases

この研究は、ダウン症退行障害(Down Syndrome Regression Disorder, DSRD)を持つ人の介護者が、どのような負担を抱えているかを調査したものです。DSRDは、ダウン症(DS)のある人が突然、認知能力や日常生活のスキル、社会性を失う病態で、介護の必要性が急激に増します。研究では、DSRDの介護者と、一般的なダウン症や他の神経疾患(DSN)を持つ人の介護者を比較し、負担の違いを分析しました。

研究の方法

  • 対象者:DSRDの介護者228名、DSNの介護者137名。
  • 調査方法:病院の神経科クリニックやDSRDのオンライン支援グループを通じて、標準化された質問票(生活の質・介護負担・抑うつレベル)を実施。
  • 分析:両グループのデータを統計的に比較。

主な結果

  1. DSRDの介護者は、DSNの介護者よりも負担が大きかった
    • 経済的負担が増加(p = 0.003)
    • 住居環境の変化を余儀なくされるケースが多い(p = 0.02)
    • 睡眠が大幅に乱れる(p < 0.001)
    • 社会的なつながりが減少(p < 0.001)
    • 精神的な健康状態が悪化(p < 0.001)
  2. DSRDの介護者は、介護負担(ZCBスコア)や抑うつ症状(GDSスコア)が有意に高かった
    • 介護負担のスコアがDSN介護者より8.3ポイント高い(95% CI: 6.3–9.7)。
    • 抑うつ症状が2ポイント高い(95% CI: 0.7–3.4)。
  3. 生活の質(QoL)の低下が顕著だった
    • QoLスコアはDSN介護者より27.9ポイント低い(95% CI: -30.2, -25.5)。
  4. DSRDの介護者は、臨床的なうつ病の基準を満たす確率が4.7倍高かった(OR: 4.7, 95% CI: 2.9–7.7)。

結論と意義

  • DSRDの介護者は、一般的なダウン症の介護者よりもはるかに大きな負担を抱えており、生活の質が大幅に低下している
  • 特に、経済的負担、睡眠障害、社会的孤立、精神的健康への悪影響が顕著
  • 介護者のメンタルヘルスサポートが不可欠であり、包括的な支援プログラムの必要性が示唆される

この研究は、DSRDの介護が非常に困難であり、介護者への心理的・経済的支援の充実が求められることを明らかにした重要な研究です。

Development of a caregiver-administered screening tool for language, speech, and attention in preschool Arabic-speaking children - The Egyptian Journal of Otolaryngology

この研究は、アラビア語を話す幼児(1.5~4歳)の言語、発話、注意力の遅れを保護者が簡単に評価できるスクリーニングツール(SLSA: Simple Language, Speech, and Attention screening tool)を開発し、その有効性を検証したものです。

研究の背景と目的

  • 言語発達は2~5歳の間に最も急速に進むが、多くの保護者は子どもの言語遅れに気づいていない
  • 言語発達の遅れに早期に気づき、適切な専門医(言語聴覚士)への受診を促すことが重要。
  • 保護者自身が簡単に使用できるスクリーニングツールを開発し、その信頼性と妥当性を検証することが本研究の目的。

研究方法

  • 対象者:言語発達の遅れが疑われるエジプトのアラビア語話者100名(1.5~4歳)
  • 方法
    1. PLS-4(Preschool Language Scale-4)を用いた専門家による評価(基準となる言語評価)。
    2. 新たに開発したSLSAスクリーニングツールを専門家と保護者がそれぞれ実施
    3. 2週間後に保護者による再テストを行い、評価の安定性を確認(この間、言語療法は実施せず)。

主な結果

  1. SLSAスクリーニングのスコアは年齢が上がるほど高くなり、発達段階を適切に反映していた
  2. 83%の保護者が「簡単に実施でき、短時間で終わる」と評価
  3. SLSAによる評価は、専門家によるPLS-4の結果と高い相関を示し、信頼性が確認された
  4. 保護者による評価は全体的に専門家の評価よりもやや高くなる傾向があったが、発音の評価だけはほぼ一致していた

結論と意義

  • SLSAスクリーニングツールは、保護者が簡単に実施でき、幼児の言語発達遅れを早期に検出できる有望なツールである
  • 専門的な評価と高い一致を示し、早期発見・早期介入を促進するのに役立つ可能性がある
  • 保護者自身が子どもの言語発達に関心を持ち、適切な支援を受けるための意識向上にもつながる

この研究は、アラビア語を話す幼児の言語発達の遅れを、保護者自身が簡単にチェックできる方法を開発した点で意義があり、今後、他言語への応用やさらなる検証が期待される重要な研究です。

Association Between the Skeletal Muscle Mass Index and Physical Function in Adolescents with Intellectual and Developmental Disabilities

この研究は、知的・発達障害(IDD)のある思春期の若者(12~18歳)における骨格筋量と身体機能の関係を調査したものです。一般的に、IDDのある子どもや青年は身体機能の低下が見られやすいですが、その低下が四肢の筋肉量の減少とどのように関連しているのかは明確になっていません。本研究では、特別支援学校に通うIDDのある若者を対象に、筋肉量と身体能力の指標の関連を分析しました。

研究方法

  • 対象者:神戸市の地域スポーツ教室に参加した12~18歳のIDDのある青少年53名
  • 評価内容
    1. 体組成分析(骨格筋量指数:SMI)
    2. 身体能力テスト
      • 握力
      • 立ち幅跳び
      • 腹筋(シットアップ)
      • 前屈(座位体前屈)
      • 6分間歩行テスト
      • 肺機能テスト
    3. 身体活動レベルのアンケートを実施。
  • 検査の信頼性を確認するため、4週間後に再測定を実施

主な結果

  1. SMI(骨格筋量指数)が高いほど、握力や立ち幅跳びの成績が良かった(統計的に有意な正の相関)。
  2. 4週間後の再測定でも、身体能力テストの結果は安定していた(高い再現性)。
  3. 多重回帰分析(年齢・性別・BMI・身体活動レベルを考慮)でも、SMIと握力・立ち幅跳びの関連が有意

結論と意義

  • IDDのある若者の筋肉量(SMI)は、握力や立ち幅跳びの成績と関連しているため、これらの測定は四肢の筋肉発達を評価するのに有用な指標となる可能性がある
  • 特に、握力や立ち幅跳びが筋力や身体能力の発達状態を示す簡単なスクリーニング手法として活用できる
  • 今後、筋力トレーニングや身体活動プログラムを通じて、IDDのある若者の筋肉量と身体機能を向上させるための介入が求められる

この研究は、知的・発達障害のある若者の筋力と身体機能の評価・支援に役立つ知見を提供し、健康増進のための運動プログラム設計に貢献する可能性がある重要な研究です。

Teachers’ perceptions of children with autism spectrum disorder: a comparison between special education and preschool teachers

この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)に対する特別支援教育の教師と幼稚園教師の認識の違いを、メタファー(比喩)を用いて分析したものです。ASDの子どもを指導する教師の考え方や態度は、教育方法や支援の在り方に影響を与えるため、教師がどのようにASDを捉えているかを理解することは重要です。

研究方法

  • 対象者:ASDを指導する幼稚園教師と特別支援教育の教師90名(自発的に参加)。
  • データ収集
    • 自閉症は○○のようなものです。なぜなら○○だからです。」というメタファー(比喩)を記述する形で回答を集めた
  • データ分析
    • 内容分析法を用いて、教師が自閉症をどのように捉えているかをカテゴリー化。

主な結果

  1. 特別支援教育の教師は、ASDを「発見の過程」のように捉え、個々の子どもの特性を理解しながら成長を支援する視点を持っていた
  2. 幼稚園教師は、ASDを「希望と不確実性」の両面を持つものとして捉える傾向があり、支援方法に対する迷いや手探りの状態が見られた
  3. ASDに対する認識の違いは、教育方針や支援方法の違いにも影響していることが示唆された。

結論と意義

  • 特別支援教育の教師は、ASDの子どもとの関わりを「成長と発見のプロセス」としてポジティブに捉えやすい
  • 幼稚園教師は、ASDに対する希望を持ちながらも、支援方法の確信が持てないため、不安や戸惑いが生じやすい
  • この違いを踏まえ、幼稚園教師向けのASD支援研修を強化することが望まれる

この研究は、教師のASDに対する認識が教育実践に影響を与えることを示しており、特に幼稚園教師への研修や支援体制の強化が重要であることを示唆するものです。

Semi-Automated Multi-Label Classification of Autistic Mannerisms by Machine Learning on Post Hoc Skeletal Tracking

この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもに見られる「マナリズム(独特な繰り返し動作)」を、機械学習(ML)を活用して自動的に分類する方法を開発したものです。マナリズムには、手をパタパタさせる(flapping)やジャンプする(jumping)などの動作が含まれ、ASDの特徴的な行動(制限された反復行動, RRBs)の初期指標とされています。しかし、こうした動作を人間の観察だけで正確に評価するのは難しく、訓練を受けた専門家であっても評価にばらつきが生じることが課題となっています。

研究の方法

  1. マナリズムの分類基準を作成し、ASDの子どもの行動観察映像(早期介入研究のデータ)に適用
  2. 「OpenPose」アルゴリズムを用いて、映像から子どもの体の動きを自動抽出(スケルトントラッキング技術を使用)。
  3. LSTM(長短期記憶)ニューラルネットワークを用いて、動きの特徴を分類するモデルを作成
    • マナリズムなし
    • 手のパタパタ(flapping)
    • ジャンプ(jumping)
    • 手のパタパタ+ジャンプ(flapping + jumping)
  4. 交差検証(nested cross-validation)により、モデルの精度を評価

主な結果

  • 機械学習モデルの分類精度は70.2%(F1スコア: 31.8%)で、一定の成功を収めた
  • 従来の研究よりも進歩した点として、異なる子どもを訓練データとテストデータに分けて評価を行い、臨床的な適用可能性を高めた
  • 開発したLSTMモデルは公開されており、他の映像データセットでも利用可能

結論と意義

  • 機械学習を活用することで、マナリズムの客観的な評価が可能になり、ASDの診断支援ツールとして活用できる可能性がある
  • 専門家による観察の限界を補い、より正確で一貫した評価を提供する手法の開発につながる
  • 今後の課題として、分類精度の向上や、より多様なマナリズムの識別が求められる

この研究は、ASDの診断プロセスに機械学習を活用し、客観的な行動評価を可能にする新たなアプローチを提示しており、今後の自動診断技術の発展に貢献する重要な知見を提供しています。

The impact of physical activity on inhibitory control of adult ADHD: a systematic review and meta-analysis

この研究は、成人の注意欠如・多動症(ADHD)に対する運動の効果を検証し、特に「抑制制御(inhibitory control)」の向上にどの程度役立つかを調査した系統的レビューとメタ分析です。抑制制御とは、衝動的な行動を抑えたり、不適切な反応を制御したりする能力であり、ADHDの人にとって大きな課題となる認知機能の一つです。

研究方法

  • 対象となるランダム化比較試験(RCT)を、PubMed、Web of Science、CNKI、Wanfang から収集
  • 8つの論文、14の研究、計373人のADHD成人を対象にメタ分析を実施
  • 急性(短時間の運動)と慢性(長期間の運動)の効果を比較

主な結果

  1. 運動はADHD成人の抑制制御を向上させることが示された
    • 短時間の運動(急性運動):抑制制御を改善(SMD = -0.65, P = 0.005)。
    • 長期間の運動(慢性運動):より大きな改善効果(SMD = -1.77, P = 0.0001)。
  2. 運動の種類による効果の違い
    • ピラティス(SMD = -2.22, P < 0.0001)と太極拳(SMD = -2.20, P = 0.25)が特に大きな効果を示した
    • サイクリング(SMD = -0.67, P = 0.03)や振動トレーニング(SMD = -0.67, P = 0.07)も効果があった
    • ヨガ(SMD = 0.01, P = 0.97)は抑制制御への効果が確認されなかった

結論と意義

  • 運動は成人ADHDの抑制制御を向上させる有効な手段である可能性が高い
  • 特に慢性的な運動習慣はより大きな効果をもたらす
  • 異なる種類の運動による効果の違いがあり、特にピラティスや太極拳が効果的と考えられる
  • 今後は、運動の種類や実施方法、運動強度と効果の関係についてさらなる研究が必要

この研究は、成人ADHDの治療法として運動療法の可能性を示し、どのような運動が最も効果的かを探るための重要な知見を提供しています。

An examination of the ocular effects of methylphenidate used in children and adolescents diagnosed with attention-deficit hyperactivity disorder

この研究は、ADHD(注意欠如・多動症)の子どもや青年がメチルフェニデート(リタリンなど)を使用した場合に、目(眼球)にどのような影響があるのかを調査したものです。メチルフェニデートはADHDの治療薬として広く使われていますが、眼に及ぼす影響については十分に研究されていません。本研究では、ADHDと診断された子どもを対象に、角膜(黒目の表面)、脈絡膜(網膜を支える層)、網膜神経層などの構造を詳細に分析しました。


研究方法

  • 対象者
    • グループ1(ADHD+メチルフェニデート使用):治療を1年以上継続している子ども30名
    • グループ2(ADHD+未治療):新たにADHDと診断され、薬をまだ使用していない子ども32名
    • グループ3(健常児):ADHDの診断がない健康な子ども35名
  • 測定項目
    • 角膜内皮細胞の数と形状
    • 角膜の厚み
    • 脈絡膜の厚み(CT)
    • 網膜の厚み(RT)
    • 網膜神経層(RNFL)
    • 神経節細胞層(GCL)

主な結果

  1. メチルフェニデートを使用している子ども(グループ1)は、未治療の子ども(グループ2)よりも角膜内皮細胞の数が少なかった(p = 0.041)。
    • 角膜内皮細胞は、角膜の透明性を維持する重要な細胞であり、その減少は角膜の健康に影響を与える可能性がある。
  2. 神経節細胞層(GCL)の厚みは、未治療のADHD児(グループ2)で最も低かった(p = 0.0001)。
    • つまり、ADHDの子どもは、未治療のままだと網膜の神経細胞層が薄くなる可能性があり、メチルフェニデートを使用することでその影響が軽減されるかもしれない。
  3. 角膜の厚み、脈絡膜の厚み、網膜神経層(RNFL)の厚みに関しては、3グループ間で有意な差はなかった(p > 0.05)。
    • つまり、メチルフェニデートはこれらの眼の構造には影響を与えていない可能性が高い。

結論と意義

  • メチルフェニデートの使用により、角膜内皮細胞の減少が見られたが、網膜神経層の厚みに関してはADHDの症状悪化を防ぐ可能性がある。
  • ADHDと診断された子どもが未治療のままだと、網膜の神経節細胞層(GCL)が薄くなりやすいが、メチルフェニデート使用によってこの影響が緩和される可能性がある。
  • 角膜内皮細胞の減少がどの程度視力に影響を与えるかは不明なため、長期的な追跡調査が必要。

この研究は、メチルフェニデートのADHD治療における眼の健康への影響を示唆し、特に角膜と網膜の神経細胞層に対する影響を明らかにしたものです。今後は、より長期的な視点での研究が求められ、眼科検診の必要性も考慮されるべきと考えられます。

Frontiers | Electrodermal Response to Olfactory Stimuli in Children with Autism Spectrum Disorder: A Systematic Review of Emotional and Cognitive Regulation

この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもが、におい(嗅覚刺激)に対してどのような生理的反応を示すかを調査した系統的レビューです。これまでの研究では、ASDの人々の視覚や聴覚への反応は多く研究されてきましたが、嗅覚に対する反応の研究は少なく、その影響が十分に理解されていません。本研究では、**電気皮膚活動(Electrodermal Activity, EDA)**という生理的指標を用いて、ASDの人々の感情や認知の調整機能を探ることを目的としました。


研究方法

  • 調査対象:2000年から2024年に発表された研究をScopusやWeb of Scienceなどのデータベースから収集。
  • 選定された論文数:20本。
  • 測定方法:EDA(電気皮膚活動)を用い、ASD児と定型発達児の嗅覚刺激に対する反応を比較。

主な結果

  1. ASDの子どもは、においに対する電気皮膚反応が定型発達児と異なるパターンを示した
  2. 特に「強いにおい」や「感情的に強く訴えかけるにおい」に対して、反応が大きくなる傾向があった
    • これは、ASDの子どもが嗅覚刺激に対して感覚過敏(または鈍感)を示しやすいことを示唆している。
  3. EDAは、ASDの子どもの感情や認知調整機能の評価に役立つ可能性がある
    • たとえば、においに過剰に反応する子どもは、感情調整が難しくなりやすい可能性がある。

結論と意義

  • EDAを用いた嗅覚刺激の研究は、ASDの客観的な診断指標として有望である
  • 教育現場では、ASDの子どもがにおいに対してどのような反応を示すかを考慮し、学習環境を調整することが重要
    • 例:教室のにおい(香水、給食のにおいなど)を適切に管理することで、感覚過敏を持つASD児が学習しやすくなる可能性がある。

この研究は、ASDの子どもの嗅覚への反応が感情や認知の調整と関連している可能性を示し、教育や診断の場面で活用できる新たな指標を提案する重要な知見を提供しています。今後の研究では、EDAを活用して、より効果的な教育戦略や支援方法を開発することが期待されます

Frontiers | The Older Sibling Effect: Comparing Social Functioning Outcomes for Autistic Children with Typically Developing Siblings, No Siblings, and Autistic Siblings

この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもにとって、兄や姉(年上の兄弟姉妹)がいることが社会的スキルの発達にどのような影響を与えるかを調査したものです。特に、定型発達の兄姉(TD兄姉)がいる場合と、自閉症の兄姉(ASD兄姉)がいる場合で違いがあるのかを比較しました。


研究の背景

  • これまでの研究では、ASDの子どもが年上の定型発達の兄弟姉妹を持つと、社会的スキルが向上することが示されていました。
    • 理由:兄姉を「モデル(お手本)」とし、社会的なやりとりを練習する機会が増えるため。
  • しかし、年上の兄姉も自閉症だった場合、同じような効果があるのか、それとも逆に影響が少ないのかは分かっていませんでした。

研究方法

  • 対象者:イスラエルのAzrieli National Center for Autism and Neurodevelopment Researchのデータベースから、**ADOS-2(自閉症診断観察スケール)**を受けたASD児(1,100名)を調査。
  • グループ分け
    1. 兄姉がいないグループ(No-Sib):146名
    2. 定型発達の兄姉がいるグループ(Older-TD-Sib):300名
    3. 自閉症の兄姉がいるグループ(Older-Autistic-Sib):40名
  • 各グループの子どもたちを、年齢・性別・認知スコアが同じになるようにマッチングし、29の三つ組(合計87名)を作成
  • ADOS-2の「社会的影響(Social Affect)」スコアを比較(スコアが低いほど、社会性が高い)。

主な結果

  1. 定型発達の兄姉がいるグループ(Older-TD-Sib)は、兄姉がいないグループ(No-Sib)よりも社会的スキルが優れていた(p=.002)
  2. 自閉症の兄姉がいるグループ(Older-Autistic-Sib)も、兄姉がいないグループ(No-Sib)よりわずかに社会的スキルが高かったが、その差は統計的に有意ではなかった(p=.082)
  3. 定型発達の兄姉がいるグループ(Older-TD-Sib)と、自閉症の兄姉がいるグループ(Older-Autistic-Sib)の間には、大きな違いはなかった(p=.647)

結論と意義

  • 年上の定型発達の兄姉がいると、ASD児の社会的スキルの発達が促進される可能性が高い
  • 年上の兄姉もASDだった場合、社会的スキルの向上効果はやや小さいが、兄姉がいないよりは良い影響がある可能性がある
  • この結果の背景には、兄姉からの「模倣の機会」や、親の育児経験(ASD児を育てるスキルの向上)などが影響している可能性がある

今後の課題

  • なぜASDの兄姉がいると、社会的スキルの向上効果が小さいのかを詳しく調べる必要がある
    • ASDの兄姉も社会的スキルに課題を抱えているため、モデリングの効果が限定的なのか?
    • それとも、親が既にASD児の育児経験を持っているため、家庭内の環境がより適応的になっているのか?
  • 将来的には、兄弟姉妹間の関係がASD児の発達にどのように影響するのかをさらに研究し、より適切な支援方法を考える必要がある

この研究は、兄弟姉妹の存在がASD児の社会的スキルの発達に与える影響を明らかにし、家庭内でのサポートの重要性を示唆するものです。兄弟姉妹の特性を考慮した支援が今後の教育や介入プログラムに活かされる可能性があります。

Frontiers | Sensory-Movement Underpinnings of Lifelong Neurodivergence: Getting a Grip on Autism

この論文は、自閉症スペクトラム障害(ASD)を単なる「社会的コミュニケーションの欠陥」と捉えるのではなく、根本的には「感覚と運動の違い」によって説明できるという新しい視点を提唱しています。


研究の主張

  • 自閉症の特徴は、出生時から存在する感覚・運動の違いに由来する
  • これらの違いが、行動やコミュニケーションの発達に影響を及ぼし、最終的にASDの診断基準とされる特徴的な行動につながる
  • 自閉症の「退行(regression)」という概念に異議を唱え、本来の感覚・運動特性が誤解されている可能性がある

感覚・運動の違いが行動や発達に与える影響

  • 幼少期から、感覚の処理や運動の学習が通常とは異なるため、行動やコミュニケーションの発達に影響を及ぼす
    • 自動的な模倣が難しい(例えば、他者の動きを直感的に真似することが困難)。
    • アイコンタクトや感覚刺激の受け取り方が異なる(過敏性や鈍感さ)。
    • 周囲の環境から情報を「細かく拾う」処理スタイル(ボトムアップ処理)が強い
    • 感覚情報の統合が難しく、脳の小脳が関与している可能性

社会的影響と生活の質への影響

  • 感覚処理の違いは「社会的な誤解」を生みやすい
    • 例えば、感覚過敏によって特定の刺激を避ける行動が、「無関心」と誤解されることがある。
  • 従来の「共感が乏しい」という見方に反論し、むしろ過小評価されている可能性がある
  • 「自閉症が治る」という考え方は、実際にはリスクの高いカモフラージュ(周囲に適応するための無理な努力)によるものであり、真の変化ではない

今後の課題と提言

  • 自閉症をより包括的に捉え、感覚・運動の視点を重視した支援を行うべき
  • 感覚に配慮した学習環境の整備や、個々の特性に合わせたサポートが必要
  • この理論は特に以下の人々に適用される可能性が高い
    • 自閉症の女性や女児
    • 発話の特性が異なる自閉症者
    • ADHDを併存する自閉症者
    • 感覚・運動に関わる他の神経多様性を持つ人々

結論

この論文は、自閉症の本質を「感覚と運動の特性」に焦点を当てて再評価し、従来の社会的コミュニケーションの問題としてのみ捉える考え方に異議を唱えている。これにより、より適切な診断・支援が可能になり、自閉症の人々が無理に適応するのではなく、本来の特性を尊重される社会の実現につながる可能性がある

Sex‐Differential Trajectories of Domain‐Specific Associations Between Autistic Traits and Co‐Occurring Emotional‐Behavioral Concerns in Autistic Children

この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもにおいて、自閉症の特性と不安、気分の問題、注意欠如・多動(ADHD)、反抗的な行動などの精神的・行動的な問題(EBCs)が、成長とともにどのように関連していくのかを男女別に分析しました。


研究の目的と方法

  • 対象:2〜5歳でASDと診断された**389人(84%が男児)**を、12歳まで追跡調査。
  • 評価ツール
    • 社会応答尺度(SRS):自閉症特性を測定。
    • 子どもの行動チェックリスト(CBCL):不安や注意の問題などの精神的・行動的な問題を測定。
  • 分析
    • SRSのスコアに年齢や共存する症状による偏り(バイアス)がないかを調整。
    • 男女の違いを考慮しながら、自閉症特性とEBCsの関連が年齢とともにどう変化するかを統計的に分析

主な結果

  1. SRSのスコアは、子どもの年齢や共存する症状(特に不安やADHD)によって偏る可能性がある
  2. 7〜9歳の男児では、自閉症特性(特に社会的コミュニケーションの困難)とEBCsの強い関連がみられたが、その後減少する傾向があった
  3. 一方、女児ではこの関連が年齢とともに安定または強まり、特に不安との関連が9歳以降に顕著になった
  4. 自閉症特性と精神的・行動的な問題の関連は、成長に応じて変化し、男女で異なるパターンを示す

結論と意義

  • 男児と女児では、自閉症の特性とEBCsの関係が時間とともに異なるため、成長段階ごとの個別の支援が重要
  • 7〜9歳の男児には、社会的な困難と関連する問題を早期にサポートすることが重要
  • 9歳以降の女児には、不安の増加に注意し、継続的なメンタルヘルスのサポートを行う必要がある
  • 評価ツールのスコアは、子どもの年齢や他の症状の影響を受けるため、慎重な解釈が必要

この研究は、ASDの子どもたちの精神的な健康をより適切にサポートするために、個々の成長段階や性別を考慮した長期的なモニタリングと支援の重要性を示している