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DLD児の言語発達に最も重要なのは「応答性」と「ターンテイク」

· 24 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事では、発達障害や神経発達に関する最新の学術研究やビジネス動向を紹介しています。具体的には、自閉症スペクトラム障害(ASD)と生殖健康の関係、成人期の自閉症者の生活の質向上を目指す支援策、運動介入の効果、触覚の違い、発達性言語障害(DLD)と親の関わりや実行機能との関連性など、多岐にわたる研究を取り上げています。また、LITALICOの介護事業売却など、発達障害支援に関するビジネスの最新動向も紹介されており、福祉・医療・教育・ビジネスの観点から発達障害を取り巻く環境の変化を総合的に把握できる内容となっています。

ビジネス関連アップデート

就労支援のLITALICO、介護子会社売却 8億円で

LITALICO(リタリコ)通所介護や訪問入浴事業などを手掛ける子会社のnCSをイー・ライフ・グループ(東京・豊島)へ、8億円で売却予定。

学術研究関連アップデート

この研究は、2000年から2024年までの女性の生殖健康の指標と自閉症スペクトラム障害(ASD)の有病率との関連を調査したものです。研究では、統計解析と機械学習(ランダムフォレスト)を用いて、母親の年齢やホルモン値などの生殖指標とASDの発生率の関係を分析しました。

主な結果

  1. 母親の年齢が高いほど、ASDの有病率が上昇する傾向があった(正の相関)。
  2. 卵胞数(AFC)、抗ミュラー管ホルモン(AMH)レベル、出生率が高いほど、ASDの有病率は低かった(負の相関)。
  3. ランダムフォレストモデルが最も正確で、ASDの発生率の96.9%を説明できると判定。
  4. 母親の年齢が最も重要な予測因子であり、モデルの予測力の約75%を占めた。
  5. エストラジオールや卵胞刺激ホルモン(FSH)は、ASDの発生率に対する影響が比較的小さい

結論と意義

  • 本研究は、ASDの増加と母親の高齢出産との間に統計的な関連がある可能性を示唆
  • ただし、因果関係を証明したわけではなく、他の要因(環境要因や遺伝的要素)の影響も考慮する必要がある
  • 今後の研究では、これらの関連が実際に生物学的なメカニズムに基づくものかを解明する必要がある

この研究は、ASDの有病率の増加と生殖健康の変化の関係を探る新たな視点を提供し、今後の医学・生殖研究の方向性に影響を与える可能性があります

Psychosocial Interventions and Quality of Life in Autistic Young Adults: A Systematic Review

この系統的レビューは、自閉症の若年成人(18~30歳)の生活の質(QoL)を向上させる心理社会的介入の効果を調査したものです。自閉症の若者は、子ども向けの支援サービスの終了や、成人生活の複雑な課題(就職、生活管理、人間関係など)への適応が難しいという問題を抱えています。そのため、QoLを向上させる効果的な介入方法を明らかにすることが重要とされています。

主な結果

  • QoLを向上させたと報告された介入はわずか4つ
    1. 職業支援プログラム(2件):就職サポートや職場での適応支援を行うプログラム。
    2. 移行支援プログラム(1件):児童期から成人期への移行を支援するプログラム。
    3. 心理療法(1件):精神的なストレスや社会的課題に対応するためのカウンセリングや認知行動療法。
  • しかし、これらの研究は全体的に質が低く、サンプルサイズも限られていたため、どの介入が効果的かについて確実な結論は出せない
  • QoL向上に有効な介入方法を明確にするためには、より質の高い研究が必要

結論と意義

  • 自閉症の若年成人は、成人生活への移行期に特有の困難を抱えており、QoLの向上を目指した介入が必要
  • 現時点では、効果が実証された介入は少なく、科学的なエビデンスが不十分
  • 今後の研究では、より大規模で質の高い研究を行い、自閉症の若者に最適な支援方法を確立する必要がある

この研究は、自閉症の若年成人のQoL向上のために、より効果的な支援策の確立が急務であることを示唆しています

Exercise Interventions for Autistic People: An Integrative Review of Evidence from Clinical Trials

このレビュー論文は、自閉症の人々に対する運動プログラムの効果について、無作為化比較試験(RCT)の最新研究を統合的に分析したものです。近年、運動が自閉症児・青年の社会性や認知機能、睡眠の質などに良い影響を与える可能性が示唆されており、本研究ではそのエビデンスを整理しました。

主な研究結果

  • 子ども・青年(RCT研究が多い対象)
    • 社会的コミュニケーションスキルの向上:運動を取り入れたプログラムが、対人関係のスキルを向上させる効果がある。
    • 実行機能(計画や注意力)の改善:特にADHD傾向のある自閉症児で、運動が集中力や問題解決能力の向上に役立つ。
    • 睡眠の質の向上:定期的な運動が、寝つきや睡眠の持続時間を改善する可能性がある。
    • 身体的健康の向上:肥満リスクの低減、筋力・持久力の向上など、一般的な健康改善にも貢献。
  • 研究が不足している分野
    • 成人の自閉症者への運動の効果:子ども・青年を対象とした研究が多く、成人のエビデンスはほとんどない。
    • 自閉症の女性や知的障害を伴う人々への影響:研究の対象が主に男性であり、女性や知的障害のある人への運動の効果は不明。
    • 精神的健康(不安・うつ症状の改善):運動が精神的な健康にどのように影響するかは、RCT研究がほとんど行われていない。

結論と意義

  • 運動は、自閉症の子どもや青年の社会性や認知機能、睡眠の改善に有望なアプローチであることが示唆されている
  • しかし、成人や女性、知的障害を持つ人々への効果は十分に研究されておらず、今後の研究が必要
  • メンタルヘルスへの影響を調べるRCT研究が少ないため、運動が不安やうつを軽減できるかについてもさらなる検証が求められる

この研究は、自閉症児・青年に対する運動の効果に関する強いエビデンスを示しつつ、今後の研究の方向性として、成人やメンタルヘルスへの影響に関する調査の必要性を指摘しています

Atypical tactile preferences in autism spectrum disorder: Reduced pleasantness responses to soft objects resembling human body parts

この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の成人が、柔らかい物体(特に人間の体に似た感触のもの)に対してどのような感覚的な好みを持っているかを調査したものです。ASDの人々は、社会的な接触(スキンシップ)を苦手とすることが多いですが、これが単に対人関係の問題なのか、それとも物理的な触覚の好みの違いによるものなのかは十分に解明されていません。本研究では、ASDの人々が柔らかさをどのように感じ、どの程度心地よいと評価するかを実験的に調べました。

研究方法

  • 対象者:ASDの成人36名と定型発達(TD)の成人36名。
  • 実験
    • 指でウレタンゴムを押しながら、柔らかさ(softness)と心地よさ(pleasantness)を数値評価
    • ウレタンゴムの硬さ(コンプライアンス)を変え、異なる柔らかさのものを試す(人間の皮膚のように柔らかいものも含む)。

主な結果

  1. 柔らかさの感じ方(softness)
    • ASD群とTD群の間に差はなく、どちらのグループも柔らかさを同じように認識していた。
  2. 心地よさの感じ方(pleasantness)
    • 定型発達の人々は、柔らかい物体ほど「心地よい」と感じた
    • ASDの人々は、柔らかくても心地よさをあまり感じなかった(特に、人間の皮膚のような柔らかさの物体で顕著)。

結論と意義

  • ASDの人々は、物理的な「柔らかさ」は適切に認識できるが、「心地よさ」としては感じにくいことが示された
  • 人間の体に似た感触のものを不快に感じる傾向があり、これが対人接触を避ける理由の一因かもしれない
  • ASDの触覚特性をより深く理解することで、感覚調整の支援や、人との関わり方を考える上での手がかりになる可能性がある

この研究は、ASDの人が社会的な触れ合いを避ける理由の一つとして、身体接触に近い感触を「快適」と感じにくいことが影響している可能性を示唆しており、今後の感覚支援やコミュニケーションの理解に役立つ重要な知見を提供しています。

The Progression of Developmental Language Disorder Terminology: A Scoping Review of American Speech-Language-Hearing Association Journals

この研究は、発達性言語障害(Developmental Language Disorder, DLD)の用語が、2017年以降のアメリカ言語聴覚協会(ASHA)発行の学術誌において、どの程度採用・実装されているかを調査したものです。DLDは、特定の病気や障害に起因しない言語の発達の遅れや困難を指す用語であり、2017年のCATALISEプロジェクトによって国際的な標準として推奨されました。しかし、DLDという名称が研究や臨床の現場でどのように使われているのかは不明でした。

研究方法

  • 対象論文:2017年から2024年の間にASHAの学術誌に掲載された、言語に関する問題を扱った265本の論文を調査。
  • 分析項目
    • 使用されている用語(DLD、特異的言語障害(SLI)、言語障害(LI)など)
    • 研究の目的(DLDの特徴の理解、介入の評価、診断ツールの開発など)
    • 診断に考慮された発達領域(認知、社会性、感覚など)

主な結果

  1. 「DLD」の用語使用率は58%と最も多かったが、22%は「特異的言語障害(SLI)」、12%は「言語障害(LI)」、8%はその他の用語を使用していた。
  2. DLDの研究目的は、主に3つに分類
    • DLDの特徴やプロファイルの理解
    • 言語介入の効果検証
    • 診断・評価ツールの開発
  3. DLDの診断基準にはばらつきがあり、研究ごとに考慮する発達領域(認知、社会性、感覚など)が異なっていた。

結論と意義

  • DLDという用語の採用は進んでいるが、未だにSLIやLIなどの旧来の用語も使用されており、統一が不十分
  • DLDの診断基準や評価方法が研究間で異なっているため、今後はより一貫した基準の確立が必要
  • 研究だけでなく、臨床現場でもDLDの概念を普及させ、適切な評価・介入方法を確立することが求められる

この研究は、DLDという用語の普及状況を明らかにし、今後の研究や臨床において、より統一された診断基準や実践的な適用を進める必要性を指摘しています。

Parental Input and Its Relationship With Language Outcomes in Children With (Suspected) Developmental Language Disorder: A Systematic Review

この研究は、発達性言語障害(DLD)が疑われる、または診断された子ども(0〜6歳)の言語発達に対する親の関わり(パレンタル・インプット)の影響を調査した系統的レビューです。一般的に、親の言語的な関わりは子どもの言語発達に重要ですが、DLDのある子どもは、定型発達の子どもとは異なる影響を受ける可能性があります。本研究では、これまでの研究がどのように親の関わりを評価してきたか、どの要素が調査されてきたか、それらがDLD児の言語発達とどう関連するのかを明らかにしました。

研究方法

  • 対象:DLDが疑われる、または診断された0〜6歳の子どもを対象にした67本の研究。
  • 評価項目
    1. 親の関わりの評価方法(音声・ビデオ記録による自然な親子の遊び観察が主流)。
    2. 親の関わりの種類(Rowe & Snow, 2020の分類に基づく)。
      • インタラクティブ(相互作用):親の応答性、ターンテイク(会話の順番交代)。
      • 言語的:語彙の種類、文法の複雑さなど。
      • 概念的:会話の内容の深さ、知識の共有など。
    3. DLD児の言語発達との関連性

主な結果

  1. DLD児の言語発達に最も重要なのは、親の「応答性」と「ターンテイク」(インタラクティブな関わり)。
  2. 親が話す「言葉の量」自体は、DLD児の言語発達に強く関連しなかった(ただし、さらなる研究が必要)。
  3. 親の言葉の質(語彙の多様性や概念的な深さ)についての研究はまだ少なく、今後の研究が求められる

結論と意義

  • DLD児の言語発達を促すには、「どれだけ話しかけるか」よりも「どのように関わるか」が重要
  • 親が子どもの発話に対して適切に応答し、会話のやり取りを増やすことが、言語発達に良い影響を与える
  • DLD児に適した親の関わり方を明確にするため、今後はより多様な要素(語彙の質、会話の内容)を含む研究が必要

この研究は、DLDの子どもに対する親の関わり方の重要性を示し、子どもの発話を促す「応答性」と「ターンテイク」を意識した育児支援の必要性を提言しています

Examining Potential Mediators of the Relationship Between Developmental Language Disorder and Executive Function Performance in Preschoolers

この研究は、発達性言語障害(DLD)のある幼児が、実行機能(エグゼクティブ・ファンクション)の能力が低い理由を探るために、どの要因がその関係を媒介(仲介)しているのかを調査したものです。実行機能とは、注意の切り替えや問題解決、自己制御などの能力で、学習や社会生活において重要な役割を果たします

研究方法

  • 対象者
    • DLDの診断基準を満たす幼児80名
    • 言語能力が典型的な(定型発達の)幼児103名
  • 評価項目
    • 言語能力(受容語彙)と非言語性IQ(言葉を使わない知的能力)を標準テストで測定。
    • 実行機能を測定するために「Dimensional Change Card Sort」という課題を使用(カード分類タスク)。
    • *母親の学歴(社会経済的地位の指標)**を調査。

主な結果

  1. DLD群の子どもは、言語能力、非言語性IQ、実行機能、社会経済的地位(SES)のいずれも定型発達群より低かった
  2. 非言語性IQと受容語彙は、DLDと実行機能の関係を部分的に説明する「媒介変数」だった(つまり、言語能力が低いために実行機能も低くなる可能性)。
  3. しかし、非言語性IQや受容語彙を考慮しても、DLDと実行機能の間には直接的な関係が残った
    • これは、DLDのある子どもが実行機能の問題を抱える理由が、単にIQや語彙の影響だけでは説明できないことを示唆

結論と意義

  • DLDのある幼児は、単に言語能力が低いだけでなく、実行機能にも課題を抱えている可能性が高い
  • 言語能力(受容語彙)や非言語性IQの影響を考慮しても、DLDは実行機能の低下と直接関連しているため、DLDの影響はより広範な認知機能に及んでいる可能性がある
  • 今後の研究では、DLDと実行機能の関係をより深く理解し、DLDのある子どもが学習や日常生活で直面する困難に対処するための支援策を検討することが重要

この研究は、DLDのある子どもが、言語能力だけでなく、実行機能の発達にも影響を受けることを明らかにし、教育や支援の場面でより包括的なアプローチが必要であることを示唆しています。