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教員養成課程におけるディスレクシア教育の改善に向けた課題

· 16 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事では、発達障害や特別支援教育、行動支援に関連する最新の研究を取り上げています。幼児期の行動介入を効果的に実施するための戦略、発達性計算障害に対するそろばんトレーニングの効果、自閉スペクトラム症や知的障害を持つ子どもとその家族が災害や日々の感情の影響にどう対応しているかを調査した研究が紹介されています。また、遺伝子変異がADHDや合併症に及ぼす影響や、教員養成課程におけるディスレクシア教育の改善に向けた課題についても触れ、発達障害や教育現場における支援の可能性を広げるための多角的な知見を提供しています。

学術研究関連アップデート

How Can Implementation Science Advance Behavioral Interventions in Preschool? A Scoping Review and Recommendations

この研究は、幼稚園で行われる行動介入が、行動支援を必要とする子どもたちに役立つ一方で、教師が介入を実施する際に多くの障壁に直面していることを指摘し、その解決策を探るためのレビューです。研究では、行動介入を実施する際の障壁と促進要因(決定因子)や、それらを解決するための効果的な戦略を調査しました。

主な結果:

  1. 決定因子(障壁と促進要因):
    • 実施を妨げる要因や促進する要因についての研究は少なく、共通する課題についての一致がほとんど見られませんでした。
    • 例として、リソースの不足や教師のスキルに関する課題が挙げられました。
  2. 効果的な実施戦略:
    • すべての研究で何らかの実施戦略が用いられており、特に教師のトレーニング質のモニタリングが中心的な取り組みとして注目されました。

結論と提言: 研究は、行動介入を成功させるためには、教師が直面する具体的な障壁をより深く理解し、それに応じた支援を行う必要があることを強調しています。また、効果的なトレーニングプログラムや介入の質を継続的に評価する仕組みを取り入れることで、幼稚園での行動介入の実施を支援できるとしています。この研究は、教育現場と研究の間にある「実践のギャップ」を埋めるための重要な視点を提供しています。

The effect of a 2-month abacus training on students with developmental dyscalculia

この研究は、数学の学習障害である**発達性計算障害(DD)**を持つ子どもに対して、2か月間のそろばんトレーニングがどのような効果をもたらすかを調査したものです。DDは、数感覚や計算能力、脳の数処理に関わる部分の発達に特徴的な問題を抱える障害です。

主な結果:

  1. そろばんトレーニングを受けたDDの子どもたちは、数感覚計算能力持続的注意力のスコアが、トレーニングを受けていない対照群よりも高くなりました。
  2. そろばんグループの子どもの方が、DDスクリーニングタスクでの改善を示す割合が高いことが分かりました。

結論: そろばんトレーニングは、DDの介入手段として有望であることが示されました。そろばんを使った学習は、数の処理能力や集中力を向上させ、数学的な課題を克服するための効果的なツールとなる可能性があります。

The experience of parents of children with intellectual disabilities/autism who experienced the Kahramanmaraş earthquake in Türkiye

この研究は、2023年2月6日に発生したトルコ・カフラマンマラシュ地震が、自閉スペクトラム症(ASD)や知的障害(ID)のある子どもとその家族に与えた影響を調査したものです。ASDまたはIDを持つ子どもを育てる15人の親へのインタビューを基に、地震の影響を分析しました。

主なテーマと結果:

  1. 子どもへの影響
    • 地震により子どもたちは深刻な身体的・心理的被害を受け、学習環境にも悪影響が及びました。
    • トラウマによる行動問題が増加したと報告されました。
  2. 親への影響
    • 親たちも精神的ストレスや感情的負担を抱え、子どもを支援する中で困難を感じました。
  3. 経験した困難
    • 子どものケア、教育の中断、適切な支援やリソースの不足が挙げられました。
  4. 必要な支援
    • 親たちは、子どもの心理的ケアや学習環境の再構築、特別支援を受けるためのリソースが必要だと訴えました。

結論: 地震はASDやIDのある子どもたちとその家族に重大な影響を与えました。研究は、災害時に特別なニーズを持つ家庭に対して、包括的で継続的な支援が不可欠であることを強調しています。

The Impact of Emotion Network Density on Psychological Distress in Chinese Parents of Children with Autism: A Daily Diary Study

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもを持つ親が日常生活で抱える感情の動き(感情ネットワーク)と心理的なストレスとの関係を調査したものです。76人の中国人の親(大半が母親)を対象に、14日間にわたり日々の感情を記録してもらい、感情のネットワーク密度が心理的苦痛に与える影響を分析しました。

主な結果:

  1. 感情ネットワーク密度の影響
    • 全体的な感情ネットワーク密度や、ネガティブな感情ネットワーク密度が高い親ほど、ストレス、不安、抑うつ症状が強いことが確認されました。
  2. ネガティブな感情の影響
    • 恐怖罪悪感が他の感情から影響を受けやすい場合(「in-strength」)や、怒り罪悪感が他の感情に影響を与えやすい場合(「out-strength」)は、心理的苦痛と関連が強いことが分かりました。
  3. ポジティブな感情の影響
    • ポジティブな感情ネットワークの密度やその個別の要素は、心理的苦痛と明確な関連を示しませんでした。

結論: ASDの子どもを持つ親の心理的健康を理解するには、日々の感情の動きをネットワークとして捉えることが重要であり、特にネガティブな感情が心理的ストレスに大きく影響を与えていることが示唆されました。この研究は、親の精神的健康を支えるために、感情の動きを考慮した介入の重要性を強調しています。

Frontiers | Gestalt, Navon and Kanizsa Illusion Processing in Children with CVI, ADHD and Dyslexia with Normal Verbal IQ

この研究は、視覚的選択注意(VSA)の能力、特に複数の視覚要素を統合して全体像を把握する能力が、脳性視覚障害(CVI)、ADHD、ディスレクシア(読字障害)の子どもたちでどのように異なるかを調査したものです。対象は6~12歳の子ども121人(CVI:20人、ADHD:30人、ディスレクシア:34人、健常発達:37人)で、全員が正常な言語IQを持っています。

主な結果:

  1. CVIの子どもたち:
    • 「Gestalt Closure(形を見て全体を認識するタスク)」で成功率が低い。
    • 「Navon刺激(小さい要素が集まって全体の形を成すタスク)」で反応時間が遅い。
    • 「Kanizsa Illusory Contours(虚像を認識するタスク)」で、言語的な回答と視線解析の両方でパフォーマンスが低下。
    • これらの結果は視力の良し悪しとは無関係でした。
  2. ADHDとディスレクシアの子どもたち:
    • すべてのタスクで健常発達の子どもと同等のパフォーマンスを示しました。

結論: CVIの子どもたちは、視覚的選択注意の全体的な欠陥を抱えており、これが日常生活での困難に関連している可能性があります。一方、ADHDやディスレクシアの子どもたちは、視覚的選択注意の能力に大きな問題は見られませんでした。また、視線解析を取り入れたタスクは、言語や運動に障害のある子どもたちにとっても有用であり、より包括的な評価を可能にしました。

意義: この研究は、CVIの診断や治療計画において視覚的選択注意の評価が重要であることを示し、個別化された支援を提供するための手がかりを提供しています。

Frontiers | Cleft Palate, Congenital Heart Disease, and Developmental Delay Involving MEIS2 Heterozygous Mutations Found in Patients with Attention Deficit Hyperactivity Disorder: A Case Report

この症例報告は、MEIS2遺伝子の変異が確認された初めての注意欠如・多動症(ADHD)患者に関するもので、特に「不注意」が顕著な症状として現れています。この患者は、ADHDに加えて口蓋裂先天性心疾患発達遅延などの特徴を持つ女児です。

治療と経過

  • メチルフェニデート(ADHD治療薬)を1日18mgから開始し、注意力の改善に応じて最大45mgに増量。
  • 並行して、身体および言語リハビリを実施。
  • 家庭では、毎日読み聞かせや物語の要約を行う取り組みを実施。
  • 2年間の治療後も中等度の注意欠如が残存。

遺伝的検査

  • 全エクソーム解析(WES)により、MEIS2遺伝子のフレームシフト変異(c.934_937del, p. Leu312Argfs*11)が確認されました。

患者の特徴

  • 他のMEIS2変異患者に共通する特徴として、口蓋裂心疾患軽度の顔の特徴(広い額、アーチ状の眉、テント状の上唇など)が見られました。
  • ADHD、学習困難、難聴、繰り返す呼吸器感染、喘息、鼻炎、夜尿症、虫歯なども報告されています。

意義: この症例は、ADHDの治療に対する反応が不十分であり、複数の合併症を伴う患者において、遺伝子検査の重要性を強調しています。また、MEIS2遺伝子変異に関連する臨床症状の範囲を拡大し、この状態をより広く理解するための新たな知見を提供しています。

Frontiers | Identifying sources of preservice teachers’ dyslexia knowledge to guide teacher education

この研究は、教員養成課程の学生(PST: Preservice Teachers)が**ディスレクシア(読字障害)**について持つ知識の出所を調査し、その結果をもとに教員教育を改善する方法を探るものです。アメリカの76人のPSTがオンライン学習モジュールを通じて回答した内容を分析しました。

主な結果:

  1. 知識の出所
    • PSTたちのディスレクシアに関する知識は、以下のような情報源から得られていました:
      • 一般的なメディア(テレビ、映画、ニュースなど)
      • 友人や知人
      • 大学の授業
      • 家族
  2. 誤解の多さ
    • これらの情報源の多くは、ディスレクシアについての誤解を広めるものであることが判明しました。

意義と提言: 研究は、PSTがディスレクシアに関する正確な理解を深めるためには、初期の知識源を特定し、それに基づく教育を強化することが重要であるとしています。また、教員養成課程では、ディスレクシアについての誤解を解消し、正しい概念を教えるための学習モジュールや教材の開発が必要であることを強調しています。この研究は、教員教育の改善を目指した基盤的な知見を提供しています。