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知的・発達障害を持つ人々のための個別化された参加型ケア計画のプロセスと効果

· 28 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事では、発達障害や特別支援教育に関連する最新の学術研究を幅広く紹介しています。具体的には、自閉スペクトラム症(ASD)の診断や治療における新たなアプローチ(リチウム治療、深層学習による運動分析)、特別支援教育の進展(インクルーシブ教育やLEGO®ロボティクスセラピー)、および早期介入を促進する栄養学や認知の柔軟性に関する知見が含まれています。また、不安や心理的課題を持つ発達障害児への支援方法、社会的スキル向上のための介入、そして特別支援を必要とする子どもの教育政策に関する提言が強調されています。

学術研究関連アップデート

Acceptability of midazolam and melatonin as premedications for anxious children undergoing general anaesthesia: a qualitative interview study with children, caregivers and health professionals participating in the MAGIC trial - Trials

この研究は、全身麻酔(GA)を受ける子どもの不安を軽減するためのミダゾラム(標準的な鎮静薬)とメラトニン(ホルモン)の受容性を、子ども、保護者、および医療従事者の視点から評価しました。MAGIC試験に参加した37人(医療従事者23人、保護者10人、子ども4人)が半構造化インタビューに答え、その結果をフレームワーク分析で整理しました。

主な結果

  1. ミダゾラムの効果:
    • 不安軽減に効果的だが、副作用(眠気、記憶喪失など)が懸念される。
  2. メラトニンの特徴:
    • 副作用は少ないが、不安軽減効果がミダゾラムよりも低いと報告。
  3. 受容性に影響する要因:
    • 効果、投与方法、回復時の経験、過去の使用経験、信頼性、選択肢の幅が重要。
  4. トレードオフの認識:
    • 副作用が少ない薬を求める一方で、効果の違いや状況に応じた選択肢の必要性が強調された。

結論

メラトニンはミダゾラムの代替として注目されるが、不安軽減効果が十分ではないため、新たな選択肢が必要です。鎮静薬の選択は、効果、副作用、使用状況などの複数の要素を考慮する必要があります。

Plasma vitamin levels and pathway analysis in boys with autism spectrum disorders

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の男児における血漿中のビタミン濃度を調査し、それがASDの症状とどのように関連しているかを分析しました。

主な結果

  1. 対象者:
    • ASD男児45名(平均年齢3.25歳)と定型発達(TD)男児45名(平均年齢3.33歳)を比較。
  2. ビタミン濃度の測定:
    • ビタミンB1、ニコチンアミド、ピリドキサミン塩酸塩、ビタミンEがASD男児で有意に高いことが判明。
    • これらのビタミンの濃度は、ASDの発達評価スコア(GDSスコア)と負の相関があり、濃度が高いほど発達レベルが低い傾向が示された。
  3. 代謝経路の比較:
    • ASD群とTD群の間でビタミン代謝経路に大きな違いは見られなかった。
  4. 栄養補給の必要性:
    • ASD男児の血漿中ビタミン濃度は不足しておらず、栄養補助剤の必要性は明確ではない。

結論

ASD男児は一部のビタミン濃度が高いが、それが発達や症状にどのように影響を与えるかはさらなる研究が必要です。ビタミンサプリメントがASDの子どもに必要かどうかを判断するには、追加の調査が求められます。

この研究は、DYRK1A遺伝子の変異が自閉スペクトラム症(ASD)や知的障害(ID)を含む神経発達障害に関連していることを背景に、ASD患者で見られる特定のDYRK1A変異(Ile48LysfsX2)を持つマウスモデル(Dyrk1a-I48Kマウス)を作成し、その特性を調査しました。

主な結果

  1. Dyrk1a-I48Kマウスの特徴:
    • 重度の小頭症(脳のサイズの縮小)
    • 社会性や認知の欠陥
    • 樹状突起の縮小
    • 興奮性シナプスの欠損
    • シナプス関連タンパク質やシグナル伝達経路の異常なリン酸化パターン
  2. リチウム治療の効果:
    • 新生児期にリチウム治療を継続的に行うと、以下の異常が回復:
      • 脳のサイズ
      • 行動特性(社会性や認知能力)
      • 樹状突起やシナプスの構造
      • シグナル伝達およびシナプスの機能
  3. 結論:
    • Dyrk1a-I48Kマウスに見られる異常は、シグナル伝達やシナプスの変化によるものである可能性が高い。
    • 早期のリチウム治療は、長期的にこれらの異常を防ぎ、神経発達障害の改善に寄与する可能性がある。

意義

この研究は、リチウム治療がASDや神経発達障害の治療法として有望であることを示しており、特にDYRK1A関連疾患の将来的な治療への洞察を提供しています。

Using deep learning to classify developmental differences in reaching and placing movements in children with and without autism spectrum disorder

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の診断プロセスを支援するために、子どもの腕の動き(リーチングと配置動作)の運動キネマティクスと深層学習(Deep Learning)を活用した手法を検討したものです。現在のASD診断は主に行動観察や面接に依存しており、客観的なスクリーニング方法が不足しています。

主な内容

  1. 対象:
    • 41名の学齢期の子ども(ASD診断を受けた子どもと典型発達(TD)の子ども)が対象。
    • 子どもたちは、リーチングと配置を繰り返す動作タスクを実施。
  2. 方法:
    • 腕に装着した慣性計測ユニット(IMU)で動作データを収集。
    • 深層学習モデル(Multilayer Perceptron, MLP)を用いてASDとTDの分類を実施。
  3. 結果:
    • ASDの子どもは、TDの子どもに比べて、次のような特徴的な運動パターンを示した:
      • 運動単位の増加(動きの分断化)。
      • オーバーシュートの増加(目標を超えて動く動作)。
      • 速度や加速度のピークまでの時間の延長
    • MLPモデルにより、ASDとTDを約78.1%の精度で分類可能であることが確認された。

結論

この研究は、腕の動きの運動キネマティクスと深層学習を用いることで、ASDの診断や早期発見を支援できる可能性を示しました。特に、子どもの目標指向の動作を分析することで、新たなバイオマーカーを発見し、将来的にはより若年層でのASD診断に役立つ可能性があります。

A study on the psychological functioning of children with specific learning difficulties and typically developing children

この研究は、ディスレクシア(読字障害)を持つ子どもと、健常発達の子どもを比較し、心理的な特徴を調査しました。ディスレクシアの子どもは、読み書きの困難から心理的な問題を抱えやすいとされています。

方法

  • 小学校の教員が、**子どもの行動チェックリスト(CBCL)状態・特性不安質問票(STAI)**を用いて評価。
  • ディスレクシアの子ども40名と健常発達の子ども50名(7〜12歳、平均年齢9.3歳)が対象。

結果

  • 行動問題: ディスレクシアの子どもは、健常発達の子どもよりも行動問題が顕著(p < 0.001)。
  • 不安: ディスレクシアの子どもは、不安レベルが有意に高い(p < 0.001)。
  • ディスレクシアの子どもは、うつ病、不安、問題行動に陥りやすい。

結論

ディスレクシアを持つ子どもの支援には、学習支援だけでなく、感情面への配慮が重要であることが示されました。学際的なアプローチで、感情的ニーズを統合した支援が必要とされています。

Individualized participatory care planning for individuals with intellectual and developmental disabilities: a qualitative descriptive study

この研究は、知的・発達障害を持つ人々のための個別化された参加型ケア計画のプロセスと効果を調査したものです。

主な内容

  1. 背景:
    • ヘルスケアと社会福祉の場で、個々の目標設定を行うことは困難。
    • 本人の希望やニーズを中心としたケア(キャリア、関係性、健康の目標など)を目指すことが重要。
  2. 方法:
    • 地域ケアスタッフ11名に対して半構造化インタビューを実施。
    • 計画の作成、実施、影響について詳細を収集。
  3. 結果:
    • 個人中心の計画は、目標、興味、能力に基づいて活動を計画するための地図として機能。
    • 本人だけでなく、家族や友人、スタッフにもポジティブな影響をもたらす。
  4. 結論:
    • 地域ケア組織は、個人中心の計画を通じてより良いサービス提供を可能にし、これが広く活用される可能性を示唆。

この研究は、本人の希望や目標に基づくケアが、本人とその周囲にどのように良い影響を与えるかを明らかにし、地域ケアの質を向上させるヒントを提供しています。

Structure and dynamics of anxiety in people with ASD and ID: A network analysis

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)と知的障害(ID)を持つ人々における不安症状とASD症状の関係を明らかにするために、ネットワーク解析を実施しました。

主な結果

  1. 症状の混合ネットワーク:
    • 不安症状とASD症状が単一のネットワークとして混ざり合っていることが確認されました。
  2. 橋渡し症状(ブリッジ症状):
    • 不安症状とASD症状をつなぐ重要な症状として以下が特定されました:
      • 触られることへの恐怖
      • 悪いことが起こるという恐怖
      • 不変性(変化を嫌う)や予測の必要性
  3. 社会的困難と不安:
    • 友達を作ることが難しいなどの社会的問題が不安症状と関連していることが判明。

意義

ASD症状の中で特に不安症状と強く結びついているものを把握することで、不安を予防するための効果的な介入方法を設計する助けになります。この研究は、ASDとIDを持つ人々の精神的健康を改善するための重要な知見を提供しています。

Nutritional Aspects in the Neurodevelopment of Autism: Folate, Stress, and Critical Periods

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の発達に栄養が与える影響について検討しています。以下の主なポイントが示されています:

  1. ASDと神経発達:
    • ASDは行動やコミュニケーションに重大な影響を与える発達障害であり、8歳の子どもでは2%以上の発症率が報告されています。
  2. 重要な栄養素と発達のクリティカルピリオド:
    • 胎児期や出生直後の特定の「クリティカルピリオド」が、免疫系を介して神経発達に影響を与えます。
    • 葉酸(重要なメチル基供与体)の不足がASDのリスクを高める可能性があります。
    • 酸化ストレスや炎症による影響が神経発達を変化させることが示唆されており、特にタウリンやシステイン不足が免疫や酸化反応に関連しています。
  3. 栄養補助の提案:
    • 妊娠中および出生後の早期に葉酸タウリンを補給することで、ASDの症状を軽減し、神経発達を正常な経路に導く可能性があります。

この研究は、早期の栄養介入がASDの重症度を軽減する有望な方法となる可能性を示唆しています。

Cognitive flexibility in autism: How task predictability and sex influence performances

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の人々が認知の柔軟性(状況に応じた切り替え能力)に課題を抱える理由を探り、予測可能性の違いと性別がその能力にどのような影響を与えるかを調査しました。263名の成人(ASD診断者127名)を対象に、予測可能性が異なる(予測できない、やや予測可能、予測可能)タスクでオンライン実験を実施しました。

主な結果

  1. タスクの予測可能性が高まると:
    • ASDの人も非ASDの人もパフォーマンスが向上しました。
    • しかし、ASDの人は非ASDの人よりも反応時間が遅れる傾向が強まることが分かりました。
  2. 性別の違い:
    • ASDの男性と女性の間で認知の柔軟性に違いが見られ、非ASDの人々の性別差とは異なるパターンが観察されました。

結論

ASDの認知の柔軟性の課題は、予測可能性や性別によって影響を受けることが示唆されました。この研究は、予測脳理論(予測に基づく脳の働き)を背景にASDの認知課題を理解する手がかりを提供し、性別を考慮したさらなる研究の必要性を強調しています。

A pilot evaluation of school-based LEGO® robotics therapy for autistic students

この研究は、**自閉スペクトラム症(ASD)の中高生(13〜16歳)**を対象にした、LEGO®ロボティクスセラピーの効果を検証しました。このセラピーは、LEGO®セラピーの原則をLEGO®ロボット制作に応用し、不安軽減や社会性向上を目指すものです。

主な内容

  • 目的:
    1. LEGO®ロボティクスセラピーが不安、社会性、学業への動機や学校参加に与える効果を調査。
    2. 学生、保護者、学校職員、セラピー提供者の意見や感想を収集。
  • 方法:
    • 8週間にわたり、3人の学生グループが2人のファシリテーターの支援を受けてセラピーに参加。
    • 不安、社会性、動機・学校参加を測定するアンケート(定量データ)と、オンライン質問やインタビュー(定性データ)を使用。
  • 結果:
    • 定量データでは、不安や社会性、動機、学校参加において有意な変化は見られなかった。
    • 定性データでは、学校出席率の向上、自信の増加、社会的スキルの向上などのポジティブな経験や成果が報告された。
  • 結論:
    • LEGO®ロボティクスセラピーは、明確な数値的な改善は示されなかったものの、学生にとって自信や社会的交流を深めるきっかけとなる可能性があることが示唆されました。
    • プログラムの改良とさらなる研究が推奨されます。

この研究は、ASDの学生にとっての楽しさや社会的つながりの促進に役立つ可能性を示しています。

Steroidogenic pathway in girls diagnosed with autism spectrum disorders

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)と診断された学齢前の女児(16人)と、性別・年齢が一致する神経定型発達の女児(16人)の間で、ステロイド生成経路に関連するホルモンを比較しました。血漿サンプルを用いて、ガスクロマトグラフィー・タンデム質量分析法で結合型および非結合型のステロイドを測定しました。

主な発見

  1. GABA作動性ステロイドプレグネノロン硫酸などのイオン型受容体を調節するステロイドがASD群で多く見られました。
  2. ASD女児では、プレグネノロンやその異性体、極性プロゲステロン、アンドロスタンなど、硫酸化ステロイドが対照群に比べて高濃度であることが示されました。
  3. ステロイド硫酸化酵素の活性が高い、またはステロイドスルファターゼの活性が低い可能性が示唆されました。
  4. 一方で、コルチコステロン濃度が高いにもかかわらず、ステロイド11β-ヒドロキシラーゼの活性が低いことを示すデータが得られました。

結論

ASD女児では、ステロイド生成経路に特有の変化が確認されました。この知見はASDの生物学的特性を理解する一助となり、今後は男女両方や異なる年齢層を対象にした研究が必要とされています。

この研究は、**自閉症の兄弟を持つ幼児(Sibs-autism)自閉症でない兄弟を持つ幼児(Sibs-NA)**において、早期の前言語的コミュニケーションスキルが後の表出言語にどのように関連しているかを調査しました。

方法

  • 対象: 12~18か月の幼児51人(Sibs-autism: 29人、Sibs-NA: 22人)。
  • 測定時期: 初回(Time 1)と9か月後(Time 2)。
  • 測定項目:
    1. 意図的コミュニケーション
    2. 声の複雑さ
    3. 共同注意への応答
  • 評価方法: Time 1で前言語的スキルを評価し、Time 2で表出言語を集計。

結果

  1. 意図的コミュニケーション声の複雑さは、両グループで後の表出言語と関連が見られました。
  2. 声の複雑さはSibs-NAでは意図的コミュニケーションと独立して表出言語を予測しましたが、Sibs-autismではその効果は見られませんでした。
  3. 共同注意への応答は、いずれのグループでも追加的な予測価値はありませんでした。

結論

  • 意図的コミュニケーションは、特に自閉症の兄弟を持つ幼児において、後の言語発達を予測する重要なスキルです。
  • 早期介入で意図的コミュニケーションを育成することが、将来的な言語発達をサポートする可能性があります。

この研究は、特に自閉症リスクの高い幼児の言語獲得を支える方法を設計するためのエビデンスを提供しています。

Acetaminophen in Pregnancy and Attention-Deficit and Hyperactivity Disorder and Autistic Spectrum Disorder

この論文は、妊娠中のアセトアミノフェン(一般的な市販薬)使用が、子どもの注意欠陥・多動性障害(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)のリスクに与える影響についての研究を批判的にレビューしたものです。

主なポイント

  1. 対象研究:
    • 質の高いデータに基づく9件のオリジナル研究と3件のメタ分析をレビュー。
    • ADHDやASDの定義や評価が明確な研究のみを選定。
  2. 結果の評価:
    • 一部の研究で「アセトアミノフェン使用がADHDやASDリスクを高める」と報告されていますが、多くは選択バイアスや交絡因子の調整不足などの問題が指摘されています。
    • 兄弟間比較を行い、遺伝や環境要因を考慮した研究では、関連性が大幅に弱まることが示されました。
  3. 結論:
    • 現在の科学的証拠によれば、妊娠中のアセトアミノフェン使用は、ADHDやASDのリスクを臨床的に重要といえるほど増加させる可能性は低い。
    • 妊娠中の発熱や痛みの治療に関する臨床ガイドラインを変更する必要はない。
  4. 今後の課題:
    • 遺伝的および環境的要因をより詳細に考慮した研究が必要。

この論文は、現在のエビデンスに基づき、アセトアミノフェン使用に関する過度な懸念を払拭しつつ、さらなる研究の必要性を強調しています。

Frontiers | A Review of Research on the Development of Inclusive Education in Children with Special Educational Needs Over the Past Ten Years: A Visual Analysis Based on CiteSpace

この論文は、特別な教育的ニーズ(SEN)を持つ子どもたちのインクルーシブ教育(共生教育)に関する過去10年間の研究動向を分析したものです。CiteSpaceというツールを使用して、Web of Scienceに登録された1024件の文献を対象に、キーワード分布、研究の焦点、新たなトレンドを調査しました。

主な結果

  1. 研究の主な焦点:
    • 教育、心理学、子どもの発達に関連するテーマが中心。
    • 未来の研究には、教育や心理学だけでなく、医学、リハビリテーション、公共政策、神経科学、家族支援などの分野を統合する必要がある。
  2. 研究課題:
    • 教育の効果と学習成果の評価。
    • 子どもの社会的・感情的発達や、家族の教育参加の促進。
    • 教育政策や実践、教師の専門性向上や研修の強化。
  3. 将来の方向性:
    • 比較研究を通じて、特別な支援が必要な子どもとその同年代の発達過程の違いを明らかにする。
    • 定量的研究と定性的研究を統合し、学際的なアプローチを強化。
    • 国際的な比較研究を進め、インクルーシブ教育の理論基盤をより豊かにする。

結論

インクルーシブ教育の研究は、より多面的かつ包括的になっていく必要があり、教育の実践に役立つ確かなエビデンスを提供するために、多分野の協力が重要であると強調されています。