このブログ記事では、自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)に関連する様々な最新の研究を紹介しています。ASDにおけるゲノムアレイの限界や、離婚後の面会と家庭内暴力が障害を持つ子供に与える影響、ASDにおける自殺リスクに関する系統的レビュー、アイルランドでの自閉症の子供を育てる親の体験、複数の行動測定による自閉症リスク乳児の特定の精度向上、食事時間における自閉症やADHDの家族の経験、脳性麻痺(CP)とADHDの症状の関連性、高機能自閉症児童の社会・感情干渉処理の非効率性などを紹介します。
学術研究関連アップデート
Commonly used genomic arrays may lose information due to imperfect coverage of discovered variants for autism spectrum disorder - Journal of Neurodevelopmental Disorders
この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の遺伝的多様性を調べるために使用される一般的なゲノムアレイが、変異の不完全なカバレッジにより情報を失う可能性があることを示しています。ASDの遺伝的スコア(ASD-PGS)は、遺伝的発見データに基づいて計算されますが、予想よりも少ない説明力を示しています。本研究では、ASDに関連する88の主要な遺伝子変異が、異なるゲノムアレイを使用した4つのコホートでどの程度カバーされているかを評価しました。その結果、インピュテーション後も全ての変異が完全にカバーされないことがあり、遺伝子アレイによる情報損失が示されました。新しい指標を使用して、ASDに関する遺伝情報の損失を評価する手法が提案されています。この手法は、他の特性にも適用可能です。
Post-separation Child Contact and Domestic Violence and Abuse: The Experiences of Children with a Disability
この研究は、離婚後の面会と家庭内暴力・虐待(DVA)が障害を持つ子供たちに与える影響について調査しています。特に、自閉症スペクトラム障害(ASD)が最も多く見られた8人の母親を対象に、深層インタビューを通じて子供たちの経験が記録されました。結果として、(1) 家庭裁判所が子供の障害を考慮しないこと、(2) 子供の日常生活の乱れ、(3) 面会の質が、障害を持つ子供に深刻な感情的ストレスを引き起こすことが明らかになりました。この研究は、障害とDVAが交差する場面での子供たちの脆弱性と周縁化を浮き彫りにし、政策や実践の対応における課題を指摘しています。また、子供自身の声を直接取り上げた研究の必要性も強調されています。
Updated Systematic Review of Suicide in Autism: 2018–2024
この論文は、2018年1月から2024年4月までに発表された自閉症スペクトラム障害(ASD)における自殺に関する研究を系統的にレビューしたものです。自殺の考えや行動(STB)の有病率、リスク要因、理論モデル、介入法が検討されました。4つのメタ分析と2つの系統的レビューが確認され、ASDにおける自殺念慮の有病率は34.2%、自殺未遂は24.3%と推定されました。自閉症特性、人間関係の問題、うつ症状が主なリスク要因として特定され、リスクは生涯にわたって高いことが示されています。また、自閉症の人々は自殺による死亡リスクが非自閉症の人々に比べて最大8倍高いと報告されましたが、研究によってその数値は大きく異なります。併存するメンタルヘルスの問題や社会的・心理的・認知的要因がリスクを悪化させることがわかっていますが、STBの評価ツールや介入法は不足しています。
Parental experiences of raising an autistic child in Ireland: A qualitative thematic analysis
この論文は、アイルランドで自閉症の子供を育てる親の体験を調査した質的研究です。6人の親に対して、育児の課題、ストレス、対処法、そして専門的な支援サービスについての見解をインタビューし、データをテーマに整理しました。主な発見として、親たちはアイルランドの医療制度が子供に必要な支援を提供できておらず、支援サービス自体が親のストレスを増大させていると感じていることが明らかになりました。さらに、子供の行動、スティグマ、自閉症に対する理解不足、孤立感もストレスの原 因として挙げられました。この研究は、医療制度の欠陥により、自閉症の子供とその親が共にメンタルヘルスの問題を発症するリスクが高まっていることを示しており、改善が急務であると結論づけています。
Can combining existing behavioral tools improve identification of infants at elevated likelihood of autism in the first year of life?
この論文では、自閉症のリスクが高い乳児を早期に特定するために、複数の行動測定を組み合わせることで、予測精度を向上できるかどうかを調査しています。256人の乳児(自閉症の兄弟を持つ)を対象に、生後6、9、12ヶ月で行動評価を行い、3つの行動マーカーを作成しました。そして、36ヶ月時点で自閉症や他の発達の遅れがあるかどうかを予測しました。結果として、複数のマーカーを持つ乳児は、自閉症や発達の違いがある可能性が高いことが示されました。この研究は、複数の行動測定で差異が見られる場合、サービスの利用を待つ必要がないことを示唆しています。
Comparing eating and mealtime experiences in families of children with autism, attention deficit hyperactivity disorder and dual diagnosis
この研究では、自閉症(ASD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、およびその両方を持つ子供のいる家族が、食事や食事時間にどのような経験をしているかを調査しました。351人の保護者を対象にオンラインアンケートを実施し、子供の食事の習慣や食事時間での行動、ストレスレベルについて質問しました。結果、神経発達障害を持つ子供の家族は、食事のこだわり、感情的な食欲不振、「問題行動」、栄養への懸念、保護者と配偶者のストレスが高く、食事の構造があまり整っていないことが明らかになりました。特にADHDや両方の障害を持つ子供の家族では、食欲が旺盛で「問題行動」が多く、ストレスが増大していることが示されました。これらの家族は、食事に関連するサポートが必要であり、将来的にはより良い食事支援の開発が重要であると結論付けられました。
Exploring the quantity and quality of symptoms of attention deficit hyperactivity disorder and intelligence in children with cerebral palsy: a case-control study
この研究は、脳性麻痺(CP)を持つ子供における注意欠陥多動性障害(ADHD)の症状の違いと、これらの症状がCPの病態とどのように関連しているかを評価しています。6歳から18歳までの22人ずつのボランティアが、CPグループ、ADHDグループ、コントロールグループに分けられました。結果として、CPグループの36.4%にADHDが報告され、CPとADHDを併発する子供は、運動障害がより重く、知能指数が低いことが示されました(WISC-Rテストスコアが低い)。特に、CPとADHDを併発する場合、主に不注意型のADHDが見られ、知能レベルや運動障害が悪化することが確認されました。
Frontiers | Inefficient and Unique Processing of Social-Emotional Interference in School-aged Children with High-Functioning Autism Spectrum Disorder
この研究は、高機能自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ学齢期の子供が、社会的および感情的な干渉を処理する際の効率性を調査しています。6歳から12歳のASDの子供53人と、健常発達(TD)児童53人を対象に、改良されたフランカー課題を使用して反応時間とエラー率を比較しました。その結果、ASDグループはTDグループよりも反応時間が長く、特に同じ顔の干渉タスクで効率が低いことが示されました。ASDグループは、感情的な干渉に対して象徴化のような代償的な戦略を取る可能性があるものの、情報量が増えるとその効果が減少することが示唆されています。この研究は、ASDの子供たちの認知プロファイルの違いを理解し、ターゲットを絞った行動介入の開発に役立つ視点を提供しています。