今回は問題行動を減らすための方法としてよく知られている分化強化(DR)についてご紹介します。正の強化を利用して問題行動を減少させることができる方法なので、比較的低リスクで実施できる方法でもあり、問題行動を減らすだけでなく代替行動を身につけることもできるため問題行動に対処する方法の一つとしてぜひインプットしてみてください。
はじめに
今回は問題行動を減らすための方法としてよく知られている分化強化(DR)についてご紹介します。正の強化を利用して問題行動を減少させることができる方法なので、比較的低リスクで実施できる方法でもあり、問題行動を減らすだけでなく代替行動を身につけることもできるため問題行動に対処する方法の一つとしてぜひインプットしてみてください。
分化強化とは
分化強化は、ある行動を強化し、同時にほかの行動の強化を差し控える方法です。問題行動の減少に関して使用する 場合には、問題行動の強化を控え、代替行動を強化するアプローチになります。
分化強化には複数の種類のアプローチがありますが、本記事では以下の4種類の分化強化に関してご紹介します。
- 非両立行動分化強化(DRI)
- 代替行動分化強化(DRA)
- 他行動分化強化(DRO)
- 低反応率分化強化(DRL)
非両立行動分化強化(DRI)
非両立行動分化強化は、問題行動と同時には発生し得ない行動を強化し問題行動は強化しないというアプローチです。
結果として問題行動は強化されず、問題行動とは同時に発生し得ない行動(望ましい行動など)が強化されることで、問題行動が減少し、望ましい行動が増加するようになります。
廊下を走るという問題行動が注意の獲得によって維持されている場合 廊下を走っている際には声をかけたり注目したりしない。 廊下を歩いているときに声をかけたり注目したりする。 DRIの例
代替行動分化強化(DRA)
DRAは問題行動に代わる代替行動を強化することで、問題行動に費やされていた時間の割合よりも代替行動に費やされる時間の割合を高めるというアプローチです。DRIと異なりこの代替行動は問題行動と同時に発生しないと言い切れないものも可能です。
教室で脈絡なく先生に話しかけるという行動が注意の獲得に維持されている場合 手を上げてから発言することができた時にのみ強化する。 DRAの例
他行動分化強化(DRO)
DROは問題行動が起きていないことを強 化することで、問題行動が起きない時間を拡張するというアプローチです。ある特定の時間ずっと問題行動を起きないことを条件に強化をしたり、特定の瞬間に問題行動が起きていないことを条件に強化をします。
自分の頭を自分で叩く行動が発生していない場合に5分毎に、強化する。 DROの例
低反応率分化強化(DRL)
DRLはこれまでの分化強化とは少し毛色が異なり、高頻度で発生することが問題となっているような行動を減少させるためのアプローチです。
問題行動があらかじめ決めた回数や時間の基準値以下で生起した場合に強化をすることで発生頻度を減少させます。
授業中に挙手する回数が頻繁すぎるような場合 1回の授業で5回以下の挙手であった場合に授業終了後強化する。 DRLの例
DRによって達成できること
分化強化は主に、学習や会話など本人にとって有益な活動への参加を妨げている不適切な行動を減少させるために使用されます。
・癇癪、自傷行為の減少 ・他害行為の減少 ・脱走行為の減少 ・不適切な接触、過度なスキンシップの減少 ・不適切な言動の減少 ・おうむ返しの減少 ・違反行動の減少 ・課題逃避の減少 ・拒食の減少 ・常同行動の減少
科学的に効果があると認められた領域
ここまでで簡単い分化強化に関してご紹介しましたが、以下では実際に分化強化を進めていく上で必要なステップに関して順番にご紹介します。
1.FBAの実施
分化強化の実施に先立ってまず行うのは、対象になる問題行動の定義や機能の把握をFBAを通じて行うことです。FBAに関しては下記の記事をご参照ください。
https://www.easpe.com/blog/article/7/
また、FBAを通じて行動を定義し、データを収集していく上で、問題行動がどのような形で現れているのか、どの程度の頻度か、どの程度の激しさ、強さなのか、どんなシチュエーションや場面で発生しているのか、どのくらいの時間問題行動が継続するのか、といった側面を事前に正確に理解しておくことが必要です。
2.分化教科のアプローチを決める
FBAを実施して、行動の定義や機能、またベースラインデータの収集が完了した後で、DRI、DRA、DRO、DRLいずれの方略を使用するのか、決めます。どんなときにどれを使用すればいいのかを簡単に表にまとめるとこのような形になります。
FBAで分析した結果に基づいて、どれを使用するのか決めます。
DRIを使用する場合
DRIを使用する際には、絶対に同時に成立しない行動を選択し定義する必要があります。ある問題行動がある場合には、その反対の行動が同時に成立しない行動となります。
問題行動→同時成立不可能な行動 離席→着席 叫ぶ→小声で話す 走る→歩く 不適切な言動→適切な言動 同時成立不可能な行動の例
DRAを使用する場合
DRIを使用する場合には、代替行動を選択し定義しておく必要があります。代替行動としての要件と例は下記のような形になります。
代替行動を選択する際の考慮事項
- 問題行動と代替行動は共に同じ機能を有する
- 代替行動は問題行動と比較して、同じかそれ以下の労力や複雑さである
- 代替行動は問題行動の場合と同じスケジュールで強化されうる
- 代替行動は、問題行動時と同じタイプ、質、量の強化子によって強化される
- 代替行動はすでに獲得済みの行動レパートリーが使えない場合には追加で学習が必要になる
問題行動:大声で話す
行動の機能:注意の獲得 代替行動:手を上げる
問題行動:叫び声を上げる 行動の機能:課題の回避 代替行動:休憩カードを指差す
機能に基づいた代替行動の例
3.問題行動のベースライン調査
問題行動の種類に合わせて、現状把握のためにデータ収集を行います。分化強化の際に主に使用される計測方法としては下記の3つが多く使用されます。データ収集の種類や、計測の仕方に関しては、こちらの記事をご参照ください。
https://www.easpe.com/blog/article/45/
データ収集に必要な期間としては、最低でも4日ほどで、収集した結果から、データの傾向が把握できる分だけのデータ量が必要です。
4.強化子の特定
代替行動を強化したり、問題行動を減少したりしていく上で使用する強化子を特定します。
**DRO、DRLを使用する場合には、少なくとも現状の問題行動を維持している強化子と同じ強さの強化子である必要があります。**これは仮 に現状の問題行動を維持している強化子よりも弱い強化子では、問題行動を使用しないことへの動機づけが十分にできないためです。必ず同等かそれ以上に強力な強化子を使用する必要があります。
DRI、DRAを使用する場合には、現状の問題行動を維持している強化子と同じタイプ、質の強化子が必要です。
強化子を選ぶ際には、単一刺激を提示して、その反応を観察する方法、2つのアイテムを順番に提示して、好きな方を選択してもらい比較していく方法、複数のアイテムを並べて順番に選んで行ってもらう方法などがあります。いずれかの方法を使用してある強化子が強いのか弱いのか把握することが可能です。
5.強化スケジュールの作成
使用する強化子を特定したら、どのようなスケジュールで強化をしていくか計画します。問題行動をしなかったときや、代替行動をしたときに随時強化していく方法と、間欠的に強化していく方法があります。
DROの場合
DROの場合には固定の間隔強化が使用されることが多いです。ベースラインデータからIRT(Interresponsee time、行動の間隔)を求めて、どの程度の頻度で強化していけばいいか決めます。
問題行動:友達を叩く データ収集 時間:8:30−9:30 データ収集期間:11/1-11/5(5日) 総発生回数:25回 総観察時間:5時間
平均して1時間当たり5回、他害行為をしている計算になりまた、同様に、12分に1回は他害行為をしていると計算することができる。 そのためこのケースでは現状に限りなく近い、11分間他害行為をしなかったときに、強化をすることから始め徐々に12分、13分などど間隔を広げていく。
DROの固定間隔強化の例
DRLの場合
DRLの場合には、頻度の減少に応じて強化していきます。一番最初の強化スケジュールはベースラインデータに基づいて以下の2パターンのうちいずれかが使用されます。
DRI、DRAの場合
**DRI、DRAの場合には最初はまず継続して即時に強化します。**DRIの場合には、問題行動が同時に成立しない行動が発生するときに、DRAの場合には代替行動が発生したときに必ず強化します。また強化の際には児童がどのような代替行動をすることができたのか説明しながら強化することが有効です(10分間も着席してました!Ipad使えるよ)
代替行動や、適切な行動ができるようになってきた段階に合わせて、間欠強化を使用したりしながら強化を少なくしていきます。