早期介入現場における支援者の支援法の実態調査
本記事では、自閉スペクトラム症(ASD)やディスレクシア、ADHDなどの発達障害に関する最新の学術研究を紹介しています。具体的には、ASD成人の多様な自立観を捉えた質的研究、VRゲームを活用したASD児の運動機能向上の実証、早期介入現場におけ る支援者の支援法の実態調査、おもちゃの有無によるASD幼児と両親の関わり方の比較、脳波を用いたADHDの自動検出技術、感覚運動+認知課題によるディスレクシア児の読みと眼球運動の改善、そして、家庭で実施可能なリズムと言語訓練ゲーム「Poppins Clinical」の有効性を検証する臨床試験計画など、多様な分野にわたる最新の知見が紹介されています。これらの研究は、支援現場や家庭での実践に活かせるヒントを多数含み、今後の支援のあり方を再考する上で有益な示唆を与えています。
学術研究関連アップデート
Experiencing Independence: Perspectives from Autistic Adults
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある成人が「自立(independence)」をどのように捉え、実際にどのように体験しているかを明らかにするために行われた質的研究です。
🔍 研究の目的と背景
- ASDの診断基準には「多様な発達領域での困難」が含まれ、それが自立生活への影響として現れやすい。
- しかし、「自立」とは何か? という問い自体が人によって異なるにもかかわらず、ASD当事者自身の視点からその意味を探った研究はこれまでほとんどありませんでした。
- この研究では、イギリスに住むASDのある成人12人へのインタビューを通じて、自立の捉え方や工夫、経験を深掘りしています。
🧪 研究手法
- インタビュー形式:半構造化インタビュー(柔軟な質問形式)
- 分析方法:リフレクシブ・テーマ分析(主観的・経験的な語りからテーマを抽出)
📚 抽出された3つの主要テーマ
- 「自立」は人それぞれ(Independence is “not a one-size-fits-all”)
- ASDのある人にとっての「自立」の意味は非常に多様。
- ある人にとっては1人暮らし、ある人にとっては他者の支援を受けながらも自己決定できることが自立。
- 画一的な「自立像」に当てはめることは不適切であると強調。
- 「定型発達中心の社会での困難」(“Being autistic has its setbacks” in a neurotypical world)
- 社会の構造や期待が「定型的な人」を前提としており、ASDの人にとっては生活上の壁が多い。
- 例えば就労、行政手続き、日常生活の中に多くの見えにくい障壁が存在。
- 「自立できない」のではなく 、「自立が阻まれている」構造的問題がある。
- 「やり方を見つける」(Finding ways of making it work)
- ASDの人たちは、自分に合った方法で自立を実現しようと工夫している。
- 例:支援ツールの活用、生活リズムの工夫、信頼できる人との協力など。
- 自立とは「すべてを1人でやること」ではなく、自分らしく暮らせるための方法を見つけること。
✅ わかりやすくまとめると
✔ ASDのある人にとっての「自立」は、他者と異なる形でも、尊重されるべき多様なあり方があるということ。
✔ 社会的・制度的な障壁が、ASDの人たちの自立を妨げているという現実がある。
✔ それでも、ASDのある人たちは自分に合った**「工夫や戦略」で生活を築いている**という前向きな実践がある。
📝 一言まとめ
「自立とはこうあるべき」という固定観念を超えて、自閉症のある人が自分らしく暮らすための多様な自立の形を認めることが、真の支援につながる——そんな気づきを与えてくれる研究です。
Effects of VR-Based Serious Games on Gross Motor Skills in Chinese Children with Autism Spectrum Disorder in Special Education: A Pilot Study
この研究は、中国の特別支援学校に通う自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもたちを対象に、VR(バーチャルリアリティ)を使った「セリアスゲーム(教育・療育目的のゲーム)」が粗大運動能力の向上に効果があるかどうかを検証した**ランダム化比較試験(RCT)**です。
🧒 対象と方法
- 対象:6〜12歳のASD児40名(湖南省・長沙市の特別支援学校)
- グループ分け:
- 実験群(20人):VRを使った運動ゲーム訓練
- 対照群(20人):通常の体育授業
- 期間:12週間
- 評価方法:粗大運動発達検査(TGMD-2)で「移動スキル(走る・跳ぶ等)」と「物体操作スキル(投げる・蹴る等)」を測定
🎮 VR訓練の内容
- 使用機材:マルチメデ ィア型VRシステム
- ゲーム内容:運動リハビリ用の9種類のゲーム(例:ジャンプ、ボール操作、タイミング運動など)
- 目的:楽しみながら運動技能を練習すること
📊 主な結果
- 両グループともに運動能力は向上したが、
- VR群の方が「移動スキル」や「物体操作スキル」の伸びが大きかった
- 「時間 × グループ」の相互作用が有意 ⇒ VRが効果的に働いたと解釈
- ただし、スコアの平均は依然として標準より低く、運動の課題は残る
✅ わかりやすくまとめると
✔ VRを使った運動ゲームは、ASDのある子どもたちの粗大運動スキルの向上に効果がある可能性がある。
✔ 特に、「楽しく」「繰り返し練習できる」仕組みが、モチベーションの維持と学習効果を高めたと考えられる。
✔ ただし、まだ平均的な水準には達しておらず、長期的・継続的な支援が必要とされる。
📝 一言まとめ
VRを活用した教育的ゲームは、ASDのある子どもたちの運動発達をサポートする有望な手段であり、今後の特別支援教育への導入が期待される研究成果です。
Autism Early Intervention Providers: Their Priorities, Use of Empirically Supported Practices, and Professional Development Needs
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある**幼児への早期支援に携わる支援者(早期介入プロバイダー)**が、どのような支援方法を使っているのか、何を優先しているのか、そしてどんな専門的学び(研修)を求めているのかを明らかにしたものです。
🔍 背景と課題
- ASDの早期介入では、**科学的根拠のある支援法(Empirically Supported Practices:ESP)**が多数あります。
- しかし現場では、研究で効果が実証されていない支援方法も使われ続けている(これを「研究と実践のギャップ」と呼ぶ)ことが問題とされています。
- このギャップを埋めるには、現場の支援者がどのように支援法を選んで使っているか、その意識やニーズを理解することが重要です。
🧪 方法
- 対象:ASDのある幼児を支援する136名の支援者(主にオーストラリア)
- 方法:オンラインアンケート調査
- 内容:
- 使用している支援方法の種類
- 支援の中で特に重視している領域(例:言語、行動、社会性など)
- 各支援法に対する自信の度合い(その方法が科学的に有効かどうかの認識)
- どのような専門研修(PD)を望んでいるか
📊 主な結果
- よく使われている支援法(ESPとして支持されているもの):
- 強化(reinforcement)
- モデリング(模倣提示)
- プロンプト(きっかけ提示)
- 視覚支援(visual supports)
- 一方で、感覚統合など、科学的根拠の乏しい方法も使われていた(特に感覚領域で顕著)。
- 支援者が重視している領域(支援の優先分野):
- コミュニケーション
- 問題行動への対応
- 適応行動(身辺自立など)
- 社会スキル
- 多くの支援者は、科学的根拠のある支援法に興味を持っており、専門研修を希望していた。
- 自信のある支援方法は、自分が優先的に取り組んでいる領域と一致する傾向があった 。
✅ わかりやすくまとめると
✔ 現場の支援者の多くは、有効性のある支援方法を積極的に使っており、さらに学びたいという意欲も高い。
✔ ただし、科学的根拠のない方法も一部で使われており、そこに「研究と実践のギャップ」がある。
✔ 今後は、支援者が自信を持って質の高い支援を行えるように、領域別にわかりやすく整理された専門研修(PD)の提供が重要になる。
📝 一言まとめ
ASDの幼児支援の現場では、科学的根拠に基づいた方法が広く使われつつも、さらに良い実践のためには、現場のニーズに応じた研修の充実が不可欠である——それを示した実践的な研究です。
Play interactions of autistic preschoolers with their mothers and fathers without toys yield more positive interactions than play with toys
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある未就学児(3〜6歳の男児)とその両親との遊び方が、おもちゃの有無によって親子の関わり方にどのような違いがあるかを調べたものです。また、母親と父親の関わりに違いがあるかについても検討しています。
🔍 研究の背景と目的
- 子どもの発達や親子関係の研究では、よく「おもちゃを使った親子遊び」が観察されます。
- しかし近年、「おもちゃがない方が、親子の関わりがよりポジティブになることがある」という指摘も出てきています。
- この研究では、**ASDのある子どもにとっても同じことが言えるか?**という点と、**母親と父親で子どもとの関わり方に違いがあるか?**を明らかにすることが目的です。
🧪 研究方法
- 対象:ASDの診断を受けた男児78名とその母親・父親(イスラエル在住)
- 方法:各子どもについて、
- 母親とおもちゃあり遊び
- 母親とおもちゃなし遊び
- 父親とおもちゃあり遊び
- 父親とおもちゃなし遊び をそれぞれ観察し、**親と子どもの「情緒的なやりとりの質」**を「Emotional Availability(EA)尺 度」で評価。
- おもちゃなし遊びでは、親子が自由に話したりふれあったりする形式。
📊 主な結果
- おもちゃがない時の遊びの方が、親も子もよりポジティブな関わりを示した
- 情緒的な反応性や関与の質など、全ての評価項目で高得点
- 母親と父親の関わり方には、ほとんど違いがなかった
- 日常の育児関与は母親の方が多い傾向にあるが、父親との遊びでも同等に質の高い関わりが見られた
✅ わかりやすくまとめると
✔ ASDのある子どもとの親子遊びでは、「おもちゃなし」の方が、親子双方にとってより情緒的に良い関わりが生まれやすい。
✔ 母親でも父親でも、子どもとの遊びの質に大きな違いはなかった。父親も重要な関わり手であることが示された。
✔ 今後、家庭でも支援の場でも「おもちゃを使わない遊び」も積極的に取り入れることで、親子のつながりを深める手助けになるかもしれない。
📝 一言まとめ
「おもちゃなし」のシンプルな親子遊びが、ASDのある子どもとの関係づくりにおいてより良い効果を生むことがあり、父親との遊びも母親と同じくらい重要であることが示された意義深い研究です。
Entropy difference-based EEG channel selection technique for automated detection of ADHD
この研究は、子どもの神経発達症であるADHD(注意欠如・多動症)を脳波(EEG)から自動で検出する新しい手法を提案したものです。特に、脳波の中でもADHDの識別に最も役立つ信号(チャンネル)を選ぶための「エントロピー差(EnD)」に基づく手法を開発・検証しています。
🔍 研究のポイント
- 脳波(EEG)は、ADHDのような神経発達の違いを検出できる生体信号として注目されていますが、たくさんのチャンネル(電極)から得られるため、必要な情報だけを効率的に選ぶことが重要です。
- この研究では、情報の「不確実さ」や「変化の大きさ」を表す「エントロピー差(EnD)」を使って、最も重要なEEGチャンネルを選び出す新技術を開発しました。
🧪 方法
- EEGデータから、エントロピー差を計算して重要なチャンネルを選定
- 選ばれたチャンネルから3種類の特徴量を抽出:
- 離散ウェーブレット変換(DWT)
- 経験的モード分解(EMD)
- 対称加重ローカルバイナリパターン(SLBP)
- 3種類の機械学習モデルで分類:
- k近傍法(k-NN)
- アンサンブル学習
- サポートベクターマシン(SVM)
📊 主な結果
- 提案手法は、公開EEGデータを用いた分類で最高99.29%の精度を達成。
- 従来の「エントロピーのみ」に基づく手法よりも、EnDを使った方が常に高精度だった。
- 過去の類似研究よりも良い精度でADHDを検出できたと報告されています。
✅ わかりやすくまとめると
✔ この研究は、脳波データからADHDを高精度に検出するための新しい自動診断技術を開発したものです。
✔ 特に、「エントロピー差」によって本当に重要な脳波信号だけを選び出すことで、効率よく、かつ高精度にADHDを識別できることを示しました。
✔ 将来的には、医師の診断を補助するAIツールや装置への応用が期待される成果です。
📝 一言まとめ
脳波を使ったADHDの自動検出において、情報の変動性を捉える「エントロピー差」に基づくチャンネル選択が、従来よりも高精度かつ効果的であることを示した先進的な研究です。
The impact of sensorimotor with cognitive engagement training on reading and eye movement in developmental dyslexia
この研究は、「読み書きに困難を抱える発達性ディスレクシア(読み書き障害)のある子どもに対して、感覚運動(センサリーモーター)と認知的チャレンジを組み合わせたトレーニングが、どのように読みのパフォーマンスや眼球運動に影響を与えるか」を調べたものです。