適応機能に関する本人と親の評価の違い
この記事では、自閉症スペクトラム障害(ASD)に関連する最新の学術研究を紹介しています。具体的には、歯科医療と自閉症の関係を分析した研究、自閉症の診断年齢を早める全国スクリーニングの効果、思春期・成人の食の選り好みへの介入、ASDの脳ネットワー クの時間・空間的変動、新しい診断バイオマーカーの探索、適応機能に関する本人と親の評価の違い、自閉症者の隠れた社会・感情的能力の可視化、自閉症診断前後の精神疾患の性差など、多様なテーマを扱っています。これらの研究は、自閉症の理解を深め、診断の早期化、より適切な支援、科学的根拠に基づいた介入策の開発につながる可能性を示唆しています。
学術研究関連アップデート
Inclusive Dentistry? Mapping the Landscape of Autism and Dentistry Research through Bibliometric Analysis
この研究は、自閉症と歯科医療に関する研究の傾向を分析するため、過去の論文を網羅的に調査(書誌計量分析)したものです。研究者たちは、1996年から2024年までに発表された2,637本の論文を調査し、そのうち厳選した422本を分析しました。その結果、歯科医療と自閉症に関する研究は近年急増しており、特に過去5年間で全体の70.6%の論文が発表されたことが明らかになりました。研究の多く(214本)は観察研究であり、主なテーマは**「口腔の健康状態」と「歯科治療中の行動サポート」**でした。この研究は、自閉症の人々に適した歯科医療の発展が進んでいることを示し、今後の研究や歯科医療の改善に役立つ知見を提供しています。
Could a National Screening Program Reduce the Age of Diagnosis of Autism Spectrum Disorder?
この研究は、オマーンで2017年から実施されている全国的な自閉症スペクトラム障害(ASD)スクリーニングプログラムが、診断年齢を早める効果があるかを検証したものです。研究者たちは、2017年1月1日~2023年6月30日の間にASDと診断された756人の子どもの電子記録を分析しました。その結果、全体の13%(98人)が18か月時点で「M-CHAT-R/F(修正版乳幼児自閉症チェックリスト)」によるスクリーニングを受けており、スクリーニングを受けた子どもは、受けていない子どもに比べて約2年(39.4か月 vs. 63.8か月)早く診断されていたことが判明しました(p<0.001)。また、統計モデルによる分析でも、スクリーニングを受けた子どもは20%早く診断に至る傾向が確認されました。この結果は、全国的なスクリーニングプログラムがASDの早期診断につながり、早期介入の機会を増やし、長期的な発達の改善に寄与する可能性を示しています。
Treating Food Selectivity in Adolescents and Adults with Autism: A Systematic Replication
この研究は、自閉症の思春期・成人における食の選り好み(フードセレクティビティ)を改善するための介入を、グループケア施設で適用し、その効果を検証したものです。研究対象者は、栄養価の低いスナック類を主に食べ、好ましくない(栄養価の高い)食品を拒否し、提供されると問題行動を示す傾向がありました。研究チームは、個々の嗜好や行動を評価し、食事に関する段階的な行動を達成するたびに、本人が選んだ報酬を与える手法(合成強化)を導入しました。その結果、3人の対象者は、それぞれ80%、60%、100%の割合で、新しい食品を問題行動なしに受け入れることができるようになりました。この研究は、自閉症の思春期・成人に対しても、適切な支援を行うことで食事の幅を広げることが可能であることを示しており、今後の食事療法や介入プログラムの発展に貢献する可能性があります。
Temporal and spatial variability of large-scale dynamic brain networks in ASD
この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の人が持つ脳の機能的なつながり(ファンクショナル・コネクティビティ, FC)の時間的・空間的な変動を分析し、新たな診断バイオマーカーを特定することを目的としたものです。従来の研究では、ASDの人の脳のネットワークの異常が、社会的認知の困難やその他の症状と関連していることが明らかになっていますが、そのネットワークがどの程度ダイナミック(時間や空間によって変化するか)については十分に研究されていませんでした。
研究の方法
- ASDの人と健常者(HC)を比較し、脳の機能的つながりの変動パターンを分析。
- *ファジーエントロピー(Fuzzy Entropy)**という手法を用いて、時間的変動(同じ脳ネットワークのつながりが時間によってどれくらい変わるか)と空間的変動(異なる脳領域のつながりが空間的にどれくらい異なるか)を測定。
- ASDの症状の重さと脳の変動パターンの関係を解析し、それを基にASDの識別モデルを作成。
主な結果
- ASDの人は、健常者よりもセンサーモーター(感覚・運動)、サブコーティカル(大脳基底核など)、小脳ネットワークで時間的変動が大きかった。