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オンライン認知行動療法(CBT)が自閉症の子どもの不安症に有効であることを示した研究

· 約20分
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事では、発達障害に関連する最新の学術研究を紹介しています。具体的には、遺伝子変異(PDZD8)が自閉症様行動を引き起こす可能性や、ADHDの人の脳内鉄の蓄積が神経変性リスクと関連することを示した研究オンライン認知行動療法(CBT)が自閉症の子どもの不安症に有効であることを示した研究などが取り上げられています。また、特別支援教育におけるテクノロジー活用の効果、親向けサポートプログラム「AutInsight」の有効性、ASDの人が映像のカメラワークに対して異なる脳活動を示すことについても紹介されています。これらの研究は、発達障害の理解を深め、より効果的な支援や介入方法を見つけるための重要な知見を提供しています。

学術研究関連アップデート

Autistic behavior is a common outcome of biallelic disruption of PDZD8 in humans and mice - Molecular Autism

この研究は、PDZD8遺伝子の両方のコピー(バリアレリック変異)が機能しなくなると、自閉症のような行動が現れることを人間とマウスの両方で確認したものです。PDZD8は、小胞体(ER)という細胞内の構造に関わるタンパク質を作る遺伝子で、知的発達障害(IDDADF)と関連することが分かっています。これまでに報告されたIDDADF患者4名のうち3名が自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断されていました。本研究では、新たにこの遺伝子に変異を持つ**「3つ目の家族(家族C)」を特定し、PDZD8欠損マウス(Pdzd8tm1bマウス)の行動や脳の変化を詳しく調べました**。

主な発見

  1. 人間のIDDADF患者では、発達遅延・知的障害・自閉症・特徴的な顔貌が共通して見られた
  2. PDZD8欠損マウスでは、以下のようなASD関連の特徴が観察された
    • 社会的な認識能力や、においの識別能力の低下
    • 暗い時間帯の運動量の増加
    • 代謝の変化(エネルギー消費の増加、血中中性脂肪の低下(オスのみ))
    • 脳の変化(嗅覚関連の脳領域の増大、小脳の一部の萎縮、神経新生(新しい神経細胞の生成)の低下)
    • 小胞体ストレスとミトコンドリアの融合に関連する遺伝子の変化

結論

この研究により、PDZD8の機能喪失が自閉症行動の原因となる可能性が高いことが確認されました。また、代謝や脳の構造にも幅広い影響を及ぼす可能性があるため、今後はより多くの症例を集めて研究を進めることが重要とされています。

Virtual delivery of group-based cognitive behavioral therapy for autistic children and youth during the COVID-19 pandemic was acceptable, feasible, and effective

この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもや若者(8~13歳)に対するグループ認知行動療法(CBT)のオンライン実施が、受け入れられやすく、実現可能であり、効果的であるかを検証したものです。ASDの子どもの50~79%が不安症を抱えており、日常生活に大きな影響を及ぼすことが知られています。従来、対面形式のCBTプログラム「Facing Your Fears(FYF)」がASDの若者に有効であることが分かっていましたが、専門施設へのアクセスが難しい家庭も多く、提供できる機会が限られていました。そこで、COVID-19の影響を受け、オンライン形式でFYFを実施し、その効果を評価しました。

研究の概要

  • 対象者:8~13歳の自閉症児100名とその保護者
  • 方法:1年間にわたり、バーチャルFYFプログラムを提供し、その効果を評価
  • 評価項目
    • 子ども本人と保護者が報告する不安症状の変化
    • 保護者の自己効力感(子どもの不安に対応できる自信)の向上
    • 治療効果に影響を与える要因(例:子どもの元々の不安の程度、適応能力、ASDの症状、保護者の自己効力感など)

主な結果

  • 子どもの不安症状が有意に改善
  • 保護者の自己効力感が向上
  • 治療効果に影響を与える要因として、子どもの元々の不安のレベル、適応能力、ASDの症状、保護者の自己効力感が関係していた
  • COVID-19関連の要因もわずかながら治療の成果に影響を与えた

結論

オンラインでのFYFプログラムは、ASDの子どもの不安症に対して効果的であり、対面の治療と同様の成果を出す可能性があることが示されました。この方法は、遠隔地に住む家庭でもアクセスしやすく、より多くのASDの子どもたちに治療機会を提供できる可能性があるため、今後の普及が期待されます。

AutInsight: A Pilot Randomised Controlled Trial (RCT) of a Consumer-Informed Parent Support Program for Parents of Autistic Children

この研究は、**自閉症の子どもを持つ親向けの新しいサポートプログラム「AutInsight」の効果を検証するために実施されたパイロットランダム化比較試験(RCT)**です。AutInsightは、自閉症当事者の視点を反映して設計された親向けプログラムで、親の心理的柔軟性やマインドフルネスを高め、家族全体の生活の質を向上させることを目的としています。

研究概要

  • 対象者:10歳以下の自閉症児の親 41名
  • 研究デザイン
    • AutInsightプログラムを受けるグループ(20名)
    • 通常のケア(Care-as-Usual)を受けるグループ(21名)
  • 評価のタイミング:プログラム開始前(ベースライン)、プログラム終了後、3か月後のフォローアップ
  • 評価項目
    • 親の感受性(子どもの気持ちや行動に対する理解と対応)
    • 親の心理的柔軟性やマインドフルネス
    • 親のメンタルヘルスと家族全体の生活の質
    • 子どもの行動(問題行動の減少や社会的行動の向上)

主な結果

  • AutInsightグループは、通常ケアグループに比べて親の感受性や家族の生活の質が改善
    • 親の感受性(子どもの行動に対する適切な対応力):中程度の効果(d = 0.84, d = 0.50)
    • 家族全体の経験や生活の質:小~中程度の効果(d = 0.38, d = 0.29)
  • 子どもの行動の改善も見られた
    • 問題行動の減少(d = 0.62)、社会的行動の向上(d = 0.48)
  • ただし、観察データによる親の感受性や、その他の指標には有意な改善は見られなかった

結論

AutInsightプログラムは、自閉症児を持つ親のサポートとして一定の効果が期待できることが示唆されたものの、さらなる検証が必要です。本研究は規模が小さいため、より大規模な試験で効果を確かめる必要があるとされています。このプログラムは、親がより柔軟に子どもに対応し、家族全体の生活の質を向上させる可能性があるため、今後の発展が期待されます。

Effects of technology-mediated professional development on special education teacher collective efficacy

この研究は、テクノロジーを活用した専門職研修(PD)が、特別支援教育の教師の「集団的有効感(collective efficacy)」を向上させるかを調査したものです。集団的有効感とは、教師がクラスの学習や行動管理に対して一体感を持ち、自信をもって取り組む力のことで、生徒の学習成果や学校文化の向上に重要な要素とされています。

研究の概要

  • 対象:バージニア州の特別支援学校(1年生~12年生)の特別支援教育教師21名
    • この学校では、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(SLD)などの生徒に個別最適化された教育を提供。
  • 研修内容
    • VibeNewline という最新のデジタルホワイトボードを活用し、**学問的・社会的・技術的な目標を視覚的に整理する「ビジョンボード活動」**を実施。
    • 行動管理に関する振り返り(リフレクション)活動も実施。
  • 評価方法
    • 研修前後にアンケートを実施し、集団的有効感の変化をt検定で分析。
    • 回帰分析により、テクノロジーへの適応度が影響するかを検討。
    • ネットワーク分析を用いて、教師間の目標や行動管理戦略の変化を可視化。

主な結果

  • 研修後、教師の集団的有効感が有意に向上(p<0.05)。
  • 特に、テクノロジーに精通している教師ほど有効感の向上が顕著だった。
  • ビジョンボードの分析から、教師は異なる科目間で一貫した教育目標を共有するようになった
  • 行動管理に関する議論を通じて、教師間でより統一された戦略が形成された

結論

この研究は、テクノロジーを活用した研修が、特別支援教育の教師の連携を強化し、教育の質を高める可能性があることを示唆しています。特に、デジタルツールを活用したコラボレーションや振り返りの活動が、教師の自信や一体感を高めることがわかりました。今後は、より長期間の研修や、大規模なサンプルでの検証が求められます。

Camera Movement Impacts on Mu-Wave Activity During Action Observation in Adults With Autism Spectrum Disorders Without Intellectual Disabilities

この研究は、知的障害のない自閉症スペクトラム障害(ASD)の成人が、カメラの動きによって脳波(mu波)の活動がどのように変化するかを調査したものです。mu波は、他者の動作を観察したときに関与する脳の活動(ミラーニューロンシステム)と関連しており、社会的認知や共感に重要とされています。

研究の方法

  • 対象者:ASDの成人30名と神経典型(NT, 発達障害のない)成人30名。
  • 実験
    1. EEG(脳波)を記録しながら、3種類のカメラワークを用いた短い動画(目的のある行動を映した映像)を視聴。
      • 固定カメラ(動きなし)
      • ズームイン(特定の対象に焦点を当てる)
      • ステディカム(カメラが移動しながら撮影)
    2. 動画視聴後、主観的な視聴体験を評価

研究の結果

  • NT(発達障害のない人)の場合
    • ステディカム映像を見たときにmu波の抑制(ERD)が強くなり、脳の活動が高まった
    • 動きのある映像の方が**「見やすい」「快適」**と感じる傾向があった。
  • ASDの人の場合
    • ステディカム映像では、mu波の抑制(ERD)がむしろ減少し、脳の活動が低下
    • 固定カメラ映像を見た後、mu波のベースラインへの回復が遅れた(脳の処理負荷が長引く可能性)。
    • 映像の動きの違いによる主観的な快適さの差は見られなかった

考察と意義

  • ASDの人は、自然な動きのある映像よりも、固定カメラの静的な映像の方が認知的負担が大きい可能性がある。
  • カメラワークが脳の処理に影響を与えることが明らかになったため、ASDの人が学習や社会的スキルを向上させるための映像教材のデザインに応用できる可能性がある。
  • 固定カメラ映像が脳に長く影響を与えることが示唆されたため、視覚的な情報処理をサポートする手法を考えることが重要

この研究は、ASDの人が視覚情報を処理する際の違いを明らかにし、映像や教育プログラムの設計に役立つ可能性を示したものです。

Brain iron load and neuroaxonal vulnerability in adult attention-deficit hyperactivity disorder

この研究は、成人の注意欠如・多動症(ADHD)の人の脳内鉄の蓄積が、神経細胞の脆弱性や将来的な神経変性(認知症リスク)と関連している可能性があるかを調査したものです。

研究の背景

  • ADHDの人は、加齢とともに認知症のリスクが高まる可能性があると考えられていますが、その具体的な脳の変化は十分に解明されていません。
  • 脳内の鉄の蓄積は、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患のリスクと関連していることが知られています。
  • そこで、本研究では成人ADHDの人の脳内鉄の量を測定し、それが神経細胞の損傷の指標と関連するかを検証しました。

研究方法

  • 対象者:成人ADHDの人32名(平均35歳)と、年齢・性別をマッチさせた健常者29名(平均32歳)。
  • *MRI(磁気共鳴画像)を用いた「定量的磁化率マッピング(QSM)」**を使用し、脳内の鉄の分布を測定。
  • *血液検査で「神経フィラメント軽鎖(NfL)」**のレベルを測定(NfLは神経細胞の損傷の指標)。
  • 心理検査と生活習慣の評価も実施

研究結果

  1. ADHDの人は、右の前中心皮質(運動を制御する脳の領域)に鉄が多く蓄積していた。
    • 健常者の脳内鉄の濃度:0.0033 ± 0.0017 ppm
    • ADHDの人の脳内鉄の濃度:0.0048 ± 0.0016 ppm
    • *統計的に有意な差(P < 0.001)**が確認された。
  2. 右前中心皮質の鉄の量が多いほど、血中NfLレベルも高かった
    • 鉄の蓄積が多い人ほど、神経細胞の損傷が進んでいる可能性が示唆された(P = 0.001, r² = 0.19)。

結論と意義

  • ADHDの人の脳では、一部の領域で鉄の蓄積が増加していることが確認された
  • この鉄の増加が、神経細胞の損傷(神経変性)のリスクと関連している可能性がある。
  • 今後、長期的な追跡調査を行い、ADHDが加齢に伴い認知症リスクを高めるかどうかをさらに調べる必要がある

この研究は、ADHDの人の脳の鉄の蓄積が、神経変性や認知症リスクと関連する可能性を示した初期の証拠であり、今後の予防策や治療戦略の開発に役立つかもしれないことを示唆しています。