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自閉症とジェンダー多様性を持つ人々の医療体験や健康リスク

· 約21分
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事では、自閉スペクトラム症(ASD)や行動障害を持つ子どもたちに関する研究、自閉症の早期診断ツールの有効性、ミニバスケットボールトレーニングによるASD児の行動改善、神経発達障害(NDD)を持つ家族の支援サービスの強化、また、自閉症とジェンダー多様性を持つ人々の医療体験や健康リスクについて取り上げています。これらの研究は、発達障害や関連する健康課題への理解を深め、より適切な診断、介入、支援体制の構築に向けた重要な知見を提供しています。

学術研究関連アップデート

Diagnostic Value of Serum miR-499a-5p in Chinese Children with Autism Spectrum Disorders

この研究では、中国の自閉スペクトラム症(ASD)の子どもを対象に、血清中のmiR-499a-5pという分子の発現量とその診断価値を調査しました。ASDの子ども40人と健康な子ども43人を対象とし、MRI検査、ASD評価スケール(CARS)と行動チェックリスト(ABC)のスコア測定を行いました。その結果、ASDの子どもでは血清中のmiR-499a-5pの量が著しく低下しており、この分子はASDの診断において高い診断価値を持つことがROC曲線によって示されました。

MRIでは、ASDの子どもは扁桃体の体積が大きく尾状核の体積が小さくなる傾向が確認されました。さらに、血清中のmiR-499a-5pのレベルは、CARSとABCスコアに負の相関を示し、扁桃体の体積とは負の相関、尾状核の体積とは正の相関があることが分かりました。

この研究は、miR-499a-5pがASDの早期診断に役立つバイオマーカーである可能性を示唆しています。また、miR-499a-5pの低下がASDの脳構造の変化と関連していることから、ASDの病態解明や新たな診断ツール開発の一助になると期待されます。

Psychometric Properties of the Japanese Version of the Disruptive Behavior Disorders Rating Scale Reported by Parents

この研究では、子どもの注意欠如・多動症(ADHD)反抗挑戦性障害(ODD)素行障害(CD)を評価するための質問票「Disruptive Behavior Disorders Rating Scale(DBDRS)」の日本語版(J-DBDRS)の信頼性と妥当性を検証しました。また、この質問票を用いて日本の子どもたちのこれらの障害の推定有病率を調査し、それぞれの症状と不安、抑うつ、いらだちとの関連を明らかにしました。

主な内容

  1. J-DBDRSの特性:
    • 構造的妥当性: ADHD、ODD、CDのそれぞれの症状を正確に測定できる4因子構造を確認。
    • 内部一貫性: 質問票全体で信頼性が高い。
    • テスト–再テスト信頼性: 時間が経っても一貫した結果を示す。
    • 収束的妥当性: 他の関連する心理的評価との相関が高いことを確認。
  2. 日本における障害の推定有病率:
    • ADHD、ODD、CDの各障害の推定有病率をJ-DBDRSを用いて算出。
    • 具体的な数値は明示されていないが、日本における子どもの行動障害の分布を把握するための貴重なデータ。
  3. 症状間の関連性:
    • ADHD、ODD、CDの症状は、不安、抑うつ、いらだちなどの精神的症状と関連性が高い。
    • これらの障害が精神的ストレスや感情的困難と深く結びついていることが示された。

結論

  • J-DBDRSは信頼性が高く、妥当な評価ツールであり、日本の子どもや青年の行動障害を測定する際に有用です。
  • ADHD、ODD、CDの症状が不安や抑うつと関連していることから、行動障害を持つ子どもへの介入では、これらの感情面のケアも重視する必要があります。
  • 今後、このツールを活用して日本における行動障害の実態把握や、より適切な支援策の開発が期待されます。

この研究は、行動障害を評価し、支援するための重要な基盤を提供するものです。

Autism screening tool validation for toddlers and young children: advantages and limitations

この研究は、**幼児自閉症スクリーニングツール(STAT: Screening Tool for Autism in Toddlers)**の有効性と限界を、異なる年齢層の子どもを対象に検証したものです。早期の自閉症診断は支援や介入の質を高めるために重要ですが、特に初期医療現場で利用できる評価ツールの不足により、多くの子どもが遅れて診断されることが課題となっています。

研究の目的と方法

  1. 目的: STATが自閉症の早期発見にどの程度役立つかを評価し、その利点と課題を明らかにする。
  2. 対象: 2021年3月から12月の間に自閉症クリニックを訪れた14~48か月(約1歳2か月~4歳)の子ども434人。
  3. グループ分け: 子どもを以下の3つの年齢層に分け、それぞれでSTATの診断結果をDSM-5基準および**ADOS-2(自閉症診断観察スケジュール)**の結果と比較。
    • 14~23か月
    • 24~36か月
    • 37~48か月

主な結果

  1. 有効性:
    • 14~23か月および24~36か月の子どもでは、STATの感度(自閉症を正しく検出する力)と特異度(誤診を避ける力)が高く、DSM-5やADOS-2の結果と高い一致を示した。
    • 37~48か月では、診断精度が低下。特に、目立った自閉症の特徴が少ない場合や、発達指数が高い子どもで誤診が見られた(偽陰性結果)。
  2. 課題:
    • 年齢が上がるにつれ、STATの精度が下がる。
    • 自閉症の症状が軽度である場合や、知的能力が比較的高い子どもでは診断が難しくなる。

結論と意義

  • 利点:
    • STATは、特に**2歳前後(14~36か月)**の子どもの自閉症スクリーニングにおいて有望なツールであり、早期発見と支援の提供を促進する可能性がある。
  • 限界:
    • 3歳以上や軽度の特徴を持つ子どもに対しては、診断精度が低下するため、より包括的な評価が必要。
  • 提言:
    • 初期段階のスクリーニングツールとしてSTATを活用しつつ、詳細な診断にはDSM-5やADOS-2などの補完的なツールを併用する。
    • 特にリソースが限られた医療環境において、STATのような簡易ツールを導入することで、早期支援の機会を広げることが可能。

実生活への応用

この研究は、リソースが限られる地域でも活用可能な簡易スクリーニングツールとしてSTATを推奨すると同時に、早期の介入を可能にするためには年齢や特性に応じた多角的な評価の重要性を示しています。これにより、自閉症の早期発見と支援の質を向上させる手がかりとなるでしょう。

Alterations of triple network dynamic connectivity and repetitive behaviors after mini-basketball training program in children with autism spectrum disorder

この研究は、**自閉スペクトラム症(ASD)**を持つ子どもに対して、ミニバスケットボールトレーニングプログラム(MBTP)が繰り返し行動(リピティティブ・ビヘイビア)と脳の動的ネットワークにどのような影響を与えるかを調査したものです。ASDの繰り返し行動を軽減するために運動が有効とされていますが、その背後にある脳の動的な変化は十分に理解されていません。


研究の背景と目的

  • 背景: 脳の「トリプルネットワークモデル」は、認知や感情の制御に関わる3つの主要な脳ネットワークを含み、ASDの特異な行動の背景にあると考えられています。
  • 目的: MBTPがASD児の繰り返し行動やトリプルネットワークの動的接続性を改善するかどうかを検証。

方法

  • 対象: ASDの男児28人を対象に、トレーニング前後の脳機能と行動を評価。
    • 運動群(15人): 12週間のMBTPに参加。
    • 対照群(13人): 通常の生活を継続。
  • 評価:
    • 繰り返し行動スケール(RBS-R)を使用して繰り返し行動を測定。
    • 静止状態機能的MRI(resting-state fMRI)で脳の動的接続性を解析。
    • 動的独立成分分析(dyn-ICA)を用いて、脳ネットワーク間の変化を解析。

主な結果

  1. 繰り返し行動の改善:
    • 運動群では、RBS-Rの合計スコアが低下(自己傷害行動や制限行動が減少)し、行動の改善が確認されました。
  2. トリプルネットワークの変化:
    • 運動群では、以下の脳ネットワークで動的接続性の変化が見られました:
      • ネットワーク1: トリプルネットワーク全体の接続性の変化。
      • ネットワーク2: デフォルトモードネットワーク(内省や社会的認知に関わるネットワーク)の接続性の変化。
  3. 相関関係:
    • 繰り返し行動の改善と、トリプルネットワーク内での接続性の強化には有意な相関がありました。

結論と意義

  • 結論: MBTPは、ASD児の繰り返し行動を改善し、トリプルネットワークの動的接続性を変化させることが示されました。
  • 意義: 運動が脳の機能的な変化を促し、それが行動の改善に寄与する可能性を示唆。これは、ASDにおける運動プログラムの導入を支持する科学的根拠となります。

実生活への応用

ミニバスケットボールのような運動プログラムは、ASD児の行動を改善するだけでなく、社会的認知や感情制御に関わる脳機能を向上させる可能性があります。特に、繰り返し行動に悩むASD児とその家族にとって、新たな支援方法として期待されています。

Improving access to services in neuro-developmental disability: proceedings of a national meeting to advance community capacity - BMC Proceedings

この論文は、神経発達障害(NDD: Neurodevelopmental Disability)を持つ子どもとその家族が利用できる支援サービスのアクセス向上を目指した取り組みについてまとめたものです。カナダのバンクーバーで開催された能力構築会議の内容を基に、地域間の課題共有と解決策の議論、次のステップの計画が報告されています。


背景と目的

  • 背景: 神経発達障害を持つ子どもとその家族にとって、複雑な支援サービスのナビゲーション(利用方法を理解し、必要なサービスを見つけること)は大きな課題です。
  • 目的:
    1. 地域間での知識共有。
    2. 持続可能なアクションを見据えた情報交換。
    3. ナビゲーションリソースを地域ごとに構築するための計画策定。

参加者とアプローチ

  • 参加者: 非営利団体、政府、教育、医療、研究者など、多部門から招かれた29人の主要ステークホルダー。
  • 対象地域: カナダの4つの地域(アルバータ州、ブリティッシュコロンビア州、ケベック州、ユーコン準州)。
  • 各地域リーダーが成果や課題を発表し、それに基づき解決策を議論。

主な成果

  1. 成功事例:
    • 信頼できるパートナーシップ: 機関や部門をまたいだ協力関係が築かれた。
    • イノベーション: サービス提供者やナビゲーション組織間での新たな連携やアイデアの発展。
    • トレーニングの向上: スタッフや関係者の能力向上が進んだ。
  2. 課題:
    • 地域間でナビゲーションサービスの指針が明確でないこと。
    • 家族の需要に対してリソースが不足している。
    • 地域ごとのインフラが不十分である。

意義と提案

  • 地域ごとの戦略的発展計画が共有され、参加者全員で次の行動を策定。
  • ナビゲーションサービスをより効果的にするために、以下の取り組みが重要:
    1. 各地域で共通のガイドラインを作成する。
    2. 家族のニーズに見合ったリソースを増やす。
    3. 地域のインフラを強化し、継続的な支援体制を構築する。

実生活への応用

この会議は、NDDを持つ子どもとその家族が必要なサービスにスムーズにアクセスできる仕組みを作るための重要な一歩でした。特に、地域間での協力を強化し、現場の声を反映させた政策やリソース配分が、支援をより実効的にする鍵となります。この取り組みは、地域や国を問わず、同様の課題に取り組むモデルケースとしても参考になるでしょう。

Autistic and transgender/gender diverse people’s experiences of health and healthcare - Molecular Autism

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)を持つ人と、トランスジェンダーまたはジェンダー多様性を持つ人の健康状態と医療体験について調査し、特に自閉症でかつジェンダー多様性を持つ人々の課題に焦点を当てています。このグループの医療体験は限られた研究しか存在せず、健康リスクが高いことが指摘されています。


研究の目的

  1. 自閉症を持つトランスジェンダー/ジェンダー多様性の人々(以下、「ジェンダー多様性自閉症者」)の医療体験と健康状態を明らかにする。
  2. これを自閉症のシスジェンダー(出生時の性別と現在の性自認が一致している人)や非自閉症のシスジェンダーの成人と比較する。

方法

  • 対象者:
    • シスジェンダーの自閉症者(1,094名)
    • ジェンダー多様性自閉症者(174名)
    • シスジェンダー非自閉症者(1,295名)
  • データ収集:
    • 匿名の自己報告アンケートを使用。
    • 質問は、出生時の性別、現在の性自認、健康状態、医療体験について。
  • 分析手法:
    • ロジスティック回帰モデルを用いて、健康状態や医療体験の違いを評価。

主な結果

  1. 健康状態:
    • ジェンダー多様性自閉症者は以下のリスクが特に高い:
      • 身体的健康問題: シスジェンダー非自閉症者の2.3倍。
      • 精神的健康問題: 10.9倍。
      • 自傷行為: 5.8倍。
    • 自閉症を持つグループ全体で、非自閉症者よりも健康状態が悪い傾向が見られる。
  2. 医療体験:
    • 自閉症を持つグループ(ジェンダー多様性含む)は、医療体験がほぼ全項目(50/51)でシスジェンダー非自閉症者より悪いと回答。
    • 医療従事者による偏見や適切な配慮の欠如が影響している可能性。
  3. ジェンダー多様性の影響:
    • 自閉症でないトランスジェンダー/ジェンダー多様性の人々のデータが不足しているため、このグループとの比較は困難だった。

制限と課題

  • 研究対象が主に白人・女性・高学歴・イギリス在住の人々に偏っているため、結果が他の背景の人々に適用できるかは不明。
  • 自己報告データのため、主観的バイアスの可能性がある。

結論と提言

  • 医療の改善が必要:
    • 自閉症者、特にジェンダー多様性を持つ人々は、健康状態や医療体験の面で複数の課題を抱えている。
    • 医療従事者は、このようなマイノリティの人々が直面する特有の困難を認識し、合理的配慮を提供する必要がある。
  • さらなる研究の必要性:
    • より大規模で代表性のある調査が必要。
    • トランスジェンダー/ジェンダー多様性の非自閉症者との比較研究を進め、より包括的な知見を得ることが求められる。

実生活への影響

この研究は、ジェンダーや発達障害に関する**交差的マイノリティ(intersectionality)**が医療アクセスや健康結果に与える深刻な影響を浮き彫りにしました。医療従事者や政策立案者にとって、このような背景を持つ人々への理解と支援体制の構築が急務であることを示しています。