AIおよびVR技術を活用したASDを持つ人々への介入の可能性
この記事では、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、神経発達疾患、遺伝的および環境的要因が及ぼす影響に関連する最新の学術研究を幅広く紹介しています。具体的には、ASD児童の症状改善におけるCOVID-19ロックダウン中の親の役割、妊娠中の オゾン暴露が子どもの知的障害リスクに与える影響、AIおよびVR技術を活用したASD治療の可能性、ASD児童の社会的注視における社交不安の影響、ゲーム障害(GD)の年齢依存的進行、および職業訓練がASD若年成人の適応行動や社会的スキルを向上させる効果が取り上げられています。また、DNAメチル化が網膜から脳へとわたる疾患や発達において果たす役割や、口腔衛生が知的発達障害(IDD)を持つ子どもに及ぼす影響に関する知見も含まれています。
学術研究関連アップデート
Social Anxiety Reduces Visual Attention to the Eyes of Emotional Faces in Autistic Youth
この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)と社交不安(SA)が共存する場合、社会的注視(特に顔や目への注視)にどのような影響を与えるかを調査しました。54名のASD児童および青少年と35名の定型発達児童が、目線に応じて顔の表情が変化する動的アイ・トラッキング課題に参加しました。また、SA特性は自己報告および保護者報告の標準化された評価尺度を用いて測定されました。
結果として、ASDの参加者は定型発達の参加者に比べて顔を見る時間が少なく、自己報告によるSA特性が高いほど、目への注視が少ないことが確認されました。この傾向はASDと定型発達の両方で観察されました。これにより、SA特性が社会的注視に与える影響は、ASDの有無にかかわらず類似していることが示されました。
この研究は、ASDにおける社会的注視やアイコンタクトの評価時には、共存する精神医学的特徴(例:社交不安)を考慮する重要性を強調しています。
Determinants of Positive Evolution of Symptoms in Children with Autism Spectrum Disorders (ASD) during the COVID-19 Lockdown in the Democratic Republic of Congo. (DRC)
この研究は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のロックダウン期間中における、コンゴ民主共和国(DRC)の自閉症スペクトラム障害(ASD)児童の症状の進展と、それに影響を与える要因を調査したものです。2020年4月15日から7月15日の期間に、68名のASD児童の症状の変化を分析し、親の在宅状況や他の変数との関連を検討しました。
親が1日8時間以上在宅していた場合、子どもの社会的コミュニケーションや自立性が改善し、ASDの症状が改善したと報告されたケースが全体の42.6%にのぼりました。一方で、親が中等度から重度のうつ状態にある場合や、子どもに併存疾患がある場合、ASDの症状が悪化する傾向が見られました。
これらの結果は、親が物理的に子どもと一緒に過ごす時間の重要性を強調するとともに、親の精神的健康状態やASD児童の併存疾患が、症状の進展に大きく影響することを示しています。この研究は、ASD児童の支援において、親の関与とサポート、そして親自身のメンタルヘルスケアの必要性を示唆しています。
Prenatal ozone exposure and risk of intellectual disability
この研究は、妊娠中のオゾン(O₃)暴露と子どもの知的障害(ID)のリスクとの関連を調査したものです。2002年から2020年の間に、アメリカ・ユタ州におけるトロポスフェリックオゾン濃度、知的障害の診断データ、対象児の兄弟姉妹や一般集団のデータを用いて分析を行いました。
結果として、妊娠前および妊娠1~3期全ての期間においてオゾン暴露が兄弟姉妹との比較で知的障害リスクと正の関連を示しました(すべての期間でp<0.05)。また、一般集団との比較では、妊娠第2期の暴露が知的障害リスクの増加と最も強く関連していました(p<0.05)。妊娠第2期におけるオゾン濃度が10ppb増加すると、兄弟姉妹と比較して知的障害リスクが55.3%増加(信頼区間[CI]: 1.171–2.058)、一般集団と比較して22.8%増加(CI: 1.054–1.431)することが示されました。
本研究は、気候変動がオゾン汚染を悪化させる可能性が高い中で、オゾンが子どもの認知発達に与える影響を強調しています。 この結果は、妊娠中のオゾン暴露が知的障害リスクを高めることを示唆しており、特に妊娠第2期が重要な期間であることが明らかになりました。これにより、妊娠中の大気汚染管理の重要性が強調されています。
Ambiguous facial expression detection for Autism Screening using enhanced YOLOv7-tiny model
この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)のスクリーニングにおいて、子どもの曖昧な表情を検出するために改良されたYOLOv7-tinyモデルを提案しています。ASDは発達障害の一種で、社会的および行動的な能力に影響を与えるものです。早期発見は、認知能力や生活の質の向上に役立ちます。
本研究では、ASDの子どもが通常の子どもとは異なる曖昧な表情を示す特徴に着目し、顔の画像からASDを検出する手法を開発しました。具体的には、YOLOv7-tinyモデルの特徴抽出ネットワークに膨張畳み込み層のピラミッドを統合し、さらに認識能力を向上させるために追加のYOLO検出ヘッドを組み込んだ改良版を提案しています。
このモデルは、ASDの特徴を持つ顔を検出し、バウンディングボックスと信頼スコアを生成します。研究では、自閉症顔画像の自己注釈データセットを使用し、提案モデルは**平均適合率(mAP)79.56%**を達成しました。この結果は 、従来のYOLOv7-tinyモデルや最先端のYOLOv8 Smallモデルよりも優れた性能を示しています。
この研究は、表情の特徴を活用したASDの早期スクリーニング手法としての可能性を示しており、実用的な診断ツール開発への貢献が期待されます。
Virtual Behavioral Skills Training for Parents: Generalization of Parent Behavior and Child Learning
この研究は、行動スキルトレーニング(BST)を活用した親向けトレーニングの効果を検証したもので、特に親の行動の一般化と子どもの学習成果に焦点を当てています。親は、応用行動分析(ABA)に基づく行動介入戦略(例: 離散試行訓練)を家庭で実践し、子どもに新しい学術スキルを教える方法を学びました。
研究結果として、すべての親が高い忠実度で戦略を実行し、家庭での親子のやり取りが改善したと報告しました。また、子どもたちは対象スキルを習得し、そのスキルを教室環境でも活用し、介入終了後2週間後にも維持していました。ただし、教えられた目標と教えられていない目標の類似性によって一般化の程度が異なり、非指導環境における親子のやり取りの改善の一般化は観察されませんでした。
この研究は、親の行動の一般化を計画し、より広範で社会的に重要な変化をもたらす方法を模索する必要 性を強調しています。また、BSTを使用した親トレーニングが親と子どもの行動の一般化にどのように影響するかを包括的に調査した初の研究であり、遠隔的な一般化効果についても探求しています。
Oral health status of children with intellectual and developmental disabilities in India: a systematic review and meta-analysis - BMC Pediatrics
この研究は、インドにおける知的および発達障害(IDD)を持つ子どもの口腔健康状態を評価するために実施された体系的レビューおよびメタ分析です。インドが目指す「誰一人取り残さない」という持続可能な開発目標(SDGs 2030)の一環として、IDD児の口腔健康状態に関するデータの不足を補うことを目的としています。
分析対象は、18歳未満のIDDを持つ子どもを対象にしたインド国内の横断研究15件で、以下の結果が得られました:
- *91%**のIDD児が定期的に歯ブラシを使用しているが、**38%**が不良な口腔衛生状態を示しました。
- 虫歯の有病率は**64%**であり、非常に高い割合が確認されました。
- 歯周疾患は1件の研究で報告され、対象児童の**54.2%**に見られました。
これらの結果は、IDD児が日常的に歯を磨いているにもかかわらず、虫歯や口腔衛生の問題が依然として深刻であることを示しています。この課題に対処するためには、統一的なアプローチではなく、柔軟で個別化された介入が必要です。また、予防的な口腔ケアを提供するための特別な健康プログラムの設立が推奨されています。
Perception and Production of Pitch Information in Mandarin-Speaking Children with Autism Spectrum Disorders
この研究は、中国語を話す自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもたちにおけるピッチ情報(声調)の知覚と発話について調査しました。対象は、ASD児26名と、年齢を一致させた定型発達(TD)児29名です。研究では、中国語の声調2(T2)と声調3(T3)の知覚と発話を評価し、ピッチ処理能力と声調の区別能力に焦点を当てました。
結果として、ASD児はTD児と比較して、言語的ピッチ(声調)のカテゴリ知覚(CP)が異常であることが判明しました。しかし、ASD児は非言語的ピッチ(純音)よりも言語的ピッチのカテゴリ化に優れた能力を示し、これは非声調言語を話すASD児に一般的な「局所バイアス」ではなく、「全体処理」パターンに類似していました。
さらに、ASD児のT2とT3の発話ピッチ輪郭はTD児とは異なるものの、両声調を区別する能力はTD児と同等