CDCの報告による米国成人におけるADHDの有病率
このブログ記事は、主に発達障害やADHDに関連する最新の研究を紹介しています。米疾病対策センター(CDC)の報告による米国成人におけるADHDの有病率のデータを始め、自閉症スペクトラム障害(ASD)の大脳皮質発達への小脳の影響、早期介入における遊びと関与の測定、ASD様行動に関わるグルタミン酸とセロトニン受容体シグナル の異常、機能的行動評価(FA)の教育と実践、アラビア語を話す発達性言語障害(DLD)児のリテラシー予測因子、妊娠中のPM2.5曝露とASDリスクとの関連、ADHD治療におけるアトモキセチンの個別化投薬の重要性などについて紹介します。
社会関連アップデート
米国のADHD成人患者は1550万人=CDC報告
このニュースは、米疾病対策センター(CDC)の報告によると、米国の成人約1550万人が注意欠陥・多動性障害(ADHD)を患っており、多くが治療薬の入手に苦労していることを伝えています。この報告は、2003年以来初めて米国成人のADHD有病率データを明らかにしました。
学術研究関連アップデート
Multimodal evidence for cerebellar influence on cortical development in autism: structural growth amidst functional disruption
この論文は、小脳が自閉症スペクトラム障害(ASD)の大脳皮質発達にどのよう に影響するかを調査しています。小脳の周産期損傷がASD発症のリスク要因であるにもかかわらず、小脳と大脳皮質の共発達プロセスがASD児と健常児で異なるかは明らかではありませんでした。本研究では、大規模なMRIデータを用いて、小脳と大脳新皮質の構造的変化が、視床を介して発達過程でどのように関連しているかを調べました。
主な発見は以下の通りです:
- ASDでは、視床が小脳と大脳の構造的協調において特異な役割を果たしていました。
- 小脳、視床、大脳新皮質の構造的カップリングは、幼少期に最も強く、思春期初期までに減少しました。この発達軌跡はASDと健常児の間で異なっていました。
- 機能的結合解析では、ASD児における小脳と大脳新皮質間の結合が異常であることが示され、特に小脳の構造が機能的結合を予測するモデルで顕著でした。
- これらの機能・構造の関係は年齢とともに強まり、構造的な影響は幼少期に最も顕著で、左右の脳半球に偏りがありました。
この結果は、ASDにおける小脳と大脳皮質の構造的・機能的連携の異常が発達初期に始まり、その後の発達に伴って機能的同期がさらに異常になるという「小脳ディアスキシスモデル」を支持する証拠を提供しています。
Beyond Trial Counts: Considerations for Measuring Play and Engagement During Early Intervention for Autistic Children
この論文は、自閉症の幼児への早期介入において、遊びと関与の測定方法を見直す重要性を提案しています。遊びは子どもの発達において重要であり、特に共同的な関与は学習や社会的相互作用に不可欠です。しかし、行動分析士(BCBA)が自閉症の幼児に対する介入プログラムの設計やデータ収集を行う際に、遊びや関与の測定に困難を感じることがあります。
本論文では、自然発達行動介入(NDBI)と自然環境教授法(NET)のアプローチを比較し、自然な遊びの中での物の遊びや関与を測定するための方法を紹介しています。具体的には、物の遊びを測定する際には単純な頻度カウントを、関与の状態を追跡する際には区間記録法や評価スケールを推奨しています。これにより、遊びや関与の行動の多様性に対応しやすく、柔軟な遊びのルーティンを取り入れることができ、子どもの進捗をより詳細に分析することが可能になるとしています。
Autism spectrum disorder-like behaviors induced by hyper-glutamatergic NMDA receptor signaling through hypo-serotonergic 5-HT1A receptor signaling in the prefrontal cortex in mice exposed to prenatal valproic acid
この論文は、妊娠中のバルプロ酸(VPA)曝露によって自閉症スペクトラム障害(ASD)様の行動が誘発されるメカニズムを、マウスを用いて調査したものです。ASDは神経発達障害であり、反復行動や社会的欠陥、認知障害を特徴とします。妊娠中のVPA使用は、子どものASDリスクを高めることが知られています。
研究では、VPAを胎児期に曝露されたマウスが、若年期において過剰な自己グルーミングや社会行動障害、物体認識記憶の低下を示しました。これらのマウスでは、前頭前皮質におけるグルタミン酸作動性の過剰機能(基底外部グルタミン酸レベルの増加とCaMKIIリン酸化の増加)とセロトニン作動性の低下(5-HT放出の低下と5-HT輸送体発現の増加)が観察されました。
低親和性NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(フルオキセチン)、および5-HT1A受容体アゴニスト(タンドスピロン)の治療により、CaMKIIリン酸化とASD様の行動が改善しました。また、光遺伝学的手法でセロトニン神経系を活性化すると、社会行動や物体認識の改善が見られました。さらに、5-HT1A受容体拮抗薬(WAY-100635)はフルオキセチンの効果を阻害しました。
これらの結果は、E/I(興奮/抑制)バランスの乱れとASD様行動が、5-HT1A受容体を介したセロトニン作動性機能の低下と関連していることを示唆しています。
Functional Behavior Assessment: What Are We Teaching and What Are We Doing?
この論文は、行動分析の分野における機能的行動評価(FA)の教育と実践状況を調査したものです。大学の教授、学生、実務家を対象に、FAの教育方法、監督の内容、実務で使用される評価方法を調べるため、174名の回答者を対象にマルチチョイス形式の調査を実施しました。
主な結果は以下の通りです:
- 大学教育では、間接的評価、記述的評価、従来型のFAに焦点が当てられており、30年にわたり研究されてきたFAの改良版(例:先行条件FA、試行ベースFA、簡略FA)についてはほとんど教えられておらず、監督も行われていません。
- 教員は主にジャーナル記事を使って学生にFAを教えており、学生が実践的にFAを学ぶ機会は少ないです。
- 実務家は、間接的評価と記述的評価を主に使用しており、それらが最も馴染みがあるためです。
これらの結果は、大学生へのスキル教育、フィールドワークの監督、およびクライアントに対する機能的行動評価の方法における最良の実践について、改善の必要性を示唆しています。
Early Oral Language and Cognitive Predictors of Emergent Literacy Skills in Arabic-Speaking Children: Evidence From Saudi Children Wit
この論文は、発達性言語障害(DLD)を持つアラビア語を話す子どもたちの初期リテラシー(読み書き)の予測因子を調査したものです。アラビア語の二重言語や文字体系の特性がリテラシー習得に影響を与える中で、これまでDLDを持つアラビア語話者のリテラシーについての研究は限られていました。本研究では、口頭言語(語彙、文法、聴解)と認知スキル(言語的短期記憶)が、DLDを持つ子どもと通常発達(TD)の子どもにおけるリテラシー習得にどのように関連するかを調べました。
参加者は4歳から6歳11ヶ月の単一言語アラビア語話者で、DLDの子ども26名とTDの子ども40名が含まれました。語彙や文法、聴解スキル、言語的短期記憶、リテラシー(音韻認識、文字知識)を評価するテストを実施しました。
結果として、DLDの子どもたちは言語、短期記憶、リテラシーの全ての評価でTDの子どもたちよりも低いスコアを示しました。TDでは短期記憶がリテラシーに対して重要な予測因子でしたが、DLDの子どもたちでは語彙知識と短期記憶の両方がリテラシーの予測に関与していました。
この研究は、DLDを持つアラビア語話者の子どもたちのリテラシー習得に関する理解を深め、臨床や教育現場での支援に役立つ知見を提供しています。
Imitation of Multisyllabic Items by Children With Developmental Language Disorder: Evidence for Word-Level Atypical Speech Envelope and Pitch Contours
この論文は、発達性言語障害(DLD)を持つ子どもたちにおける多音節語の模倣について調査し、DLDに関連する音声のリズム(振幅エンベロープ:AE)とピッチ(音の高低)の異常を明らかにすることを目的としています。従来の研究はDLDにおける韻律の感覚/神経処理の困難に焦点を当てていましたが、本研究では音声産出におけるこれらの困難を調べました。
研究では、DLDの子ども20名、年齢を一致させた通常発達の子ども21名、言語発達が遅れている若年対照16名が、30の多音節語(例:「alligator」)を模倣する課題を行いました。各子どもの音声産出が目標とどれだけ似ているかを、AEとピッチ輪郭の類似性(相関と相互情報量)で評価しました。
結果として、DLDの子どもたちは通常発達の子どもと比較して、AEとピッチ輪郭の両方で模倣精度が有意に低いことがわかりました。また、模倣の機会を増やしても改善は見られず、単語の長さによる影響は全グループで同様でした。
この結果は、DLDが低周波(ゆっくりした)振幅と周波数変調の感覚/神経処理の障害に基づく理論と一致しており、DLDの子どもたちが多音節語の韻律的特徴を模倣する際に困難を抱えていることを示しています。
Prenatal Exposure to Source-Specific Fine Particulate Matter and Autism Spectrum Disorder
この論文は、南カリフォルニアの妊娠コホートを対象に、妊娠中の特定の発生源からの微小粒子状物質(PM2.5)への曝露と自閉症スペクトラム障害(ASD)の発症リスクとの関連を調査したものです。318,750組の母子ペアが対象で、ASDの症例はICDコードで4,559件特定されました。9つの異なる発生源からのPM2.5濃度は化学輸送モデルを用いて推定され、妊娠中の母親の居住地に割り当てられました。コックス比例ハザードモデルを使用して、各発生源ごとにASD発症リスクのハザード比(HR)を算出しました。
主な結果は以下の通りです:
- ASDリスクの増加が見られた発生源には、道路上のガソリン(HR 1.18)、オフロードガソリン(1.15)、オフロードディーゼル(1.08)、調理(1.05)、航空機(1.04)、および天然ガス燃焼(1.09)が含まれます。
- 特に道路上およびオフロードガソリンの曝露は、他の汚染物質グループに対しても強い関連を示しました。
これらの結果は、異なる発生源からのPM2.5がASDに異なる影響を与える可能性を示しており、将来的な公衆衛生政策に向けた毒性学的研究のための指針となる発生源混合を特定しています。
Frontiers | Precision pharmacotherapy of atomoxetine in children with ADHD: How to ensure the right dose for the right person?
この論文は、注意欠如・多動性障害(ADHD)治療におけるアトモキセチンの個別化投薬の重要性を論じています。アトモキセチンは非刺激薬であり、ADHD治療の代替選択肢として臨床ガイドラインで推奨されていますが、治療反応と薬物の体内での挙動に個人差があるため、個別化された投薬が必要です。
本レビューでは、既存の研究を評価し、アトモキセチンの治療薬モニタリング(TDM)と個別化投薬の臨床導入を支援する証拠をまとめました。特に、CYP2D6遺伝子型の検査とTDMを活用して、個別の投与量調整が推奨されます。現状では、個別化投薬を実現するための重要な要素にいくつかの課題がありますが、既存のエビデンスは臨床実践の改善に役立つものです。
今後の進展には、ADHDの理解を深め、より精密な診断と個別化された治療戦略の開発が求められています。