この記事では、自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)に関連する最新の研究を紹介しています。具体的には、ASDの診断における新しいアルゴリズムの開発や、コロンビアにおける自閉症児の有病率、LRRC7遺伝子の変異が知的障害や自閉症とどのように関連するかといった内容が含まれています。また、緑茶の摂取がADHDリスクを低減する可能性や、ADHD児における大脳と小脳の機能的異常についての研究も紹介します。
学術研究関連アップデート
Bilinear Perceptual Fusion Algorithm Based on Brain Functional and Structural Data for ASD Diagnosis and Regions of Interest Identification
この論文では、自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断と興味領域(ROI)の特定に使用するための「バイリニア知覚融合(BPF)アルゴリズム」を提案しています。ASD診断において 、従来の深層学習アルゴリズムは単一のデータモダリティに依存することが多く、情報抽出が限定的で安定性に欠ける点を改善するために、機能的および構造的データの複数モダリティを活用しています。このアルゴリズムでは、機能的および構造的な脳のデータから特徴を抽出し、バイリニア操作を通じてその関連をキャプチャし、特徴表現を統合します。さらに、グラフ畳み込みニューラルネットワーク(GCN)を使用し、脳ネットワークのトポロジーやノード特徴を効果的に活用する「BPF-GCN」という深層学習フレームワークを設計しました。実験結果では、分類精度が82.35%に達し、従来の手法を上回りました。このフレームワークは、ASDの診断および病因に関連するROIの特定に有用であることが示されました。
How Many Autistic Children are there in Colombia? A Nationwide Examination of Autism Through Health System Data
この研究では、コロンビアにおける自閉症スペクトラム障害(ASD)の有病率と特徴を、社会保障情報システム(SISPRO)のデータを利用して調査しました。2020年から2022年までのデータに基づき、2022年の4〜14歳の子供におけるASDの有病率は10,000人中13.788件と報告されました。医療保険の種類では、68.28%が貢献者制度、25.36%が補助制度の対象でした。また、地理的な分析では、GDPの高い地域(アンティオキア、アトランティコ、ボゴタなど)で有病率が高く、低い地域(アマゾナス、グアイニアなど)で低い傾向がありました。COVID-19パンデミック中には医療サービスを受ける自閉症児の数が減少しましたが、2022年には有病率が上昇しました。この研究は、コロンビアの自閉症児に対する政策策定や支援策の改善に貢献するものです。
Variants in LRRC7 lead to intellectual disability, autism, aggression and abnormal eating behaviors
この研究は、LRRC7遺伝子の変異が知的障害、自閉症、攻撃性、異常な食行動など、神経発達障害に関連することを明らかにしています。LRRC7がコードするDensin-180は、神経シナプスでのシグナル伝達に重要な役割を果たすタンパク質であり、神経細胞の発達に必要な構造的役割を担っています。33名の患者(うち1名は以前報告されたケース)において、ヘテロ接合のミスセンス変異または機能喪失変異が見られ、知的障害、自閉症、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、攻撃性、食欲亢進に伴う肥満などが確認されました。また、PDZドメインの変異はDensin-180のシナプス標的化を妨げ、LRRドメインの変異は他のタンパク質との結合を減少させることが示されました。結論として、LRRC7は知 的発達や行動において重要な役割を果たすことが示されています。
An EEG signal-based music treatment system for autistic children using edge computing devices
この論文では、自閉症児のための音楽療法システムを提案しています。このシステムは、脳波(EEG)技術を活用し、リアルタイムで自閉症児の感情を認識して音楽を再生することで、音楽療法士を支援します。具体的には、14チャネルのEEGデバイス(EMOTIV EPOC+)を使用して脳波を収集し、バンドパスフィルタリングやウェーブレット分解を行った後、感情(ポジティブ、中立、ネガティブ)の3種類に分類します。この感情認識にはサポートベクターマシン(SVM)を使用し、分類精度は88%に達しています。また、システムはユーザーインターフェースで感情の種類を表示し、リアルタイムでのフィードバックを提供します。さらに、エッジコンピューティングとクラウドコンピューティングを組み合わせて、処理のタイムリーさと計算性能を向上させ、自閉症児のための音楽調整システムを構築しています。
Post-diagnostic support for adults diagnosed with autism in adulthood in the UK: A systematic review with narrative synthesis
この論文は、成人期に自閉症診断を受けた英国の自閉症成人に対する診断後の支援(ポストダイアグノスティックサポート)についての系統的レビューを行ったものです。自閉症診断が有益である一方、多くの自閉症成人は新たな診断に対処するための支援を必要としています。19件の研究を分析した結果、英国のほとんどの地域で何らかの診断後支援が提供されているが、主に情報提供や他のサービスへの案内に限られていることが判明しました。自閉症成人は、診断後に自身の状態を理解し管理するためのサイコエデュケーションやピアサポートを望んでいます。現在の支援がニーズを十分に満たしていないことから、さらなる研究が必要であり、自閉症成人が求める要素を含む支援プログラムの開発と評価が求められています。
Congenital hypothyroidism and risk of subsequent autism spectrum disorder and attention-deficit/hyperactivity disorder in Taiwan
この論文は、台湾の全国規模の人口ベースのコホート研究を通じて、先天性甲状腺機能低下症(CHT)が自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)のリスクにどのように関連しているかを調査しました。対象となったのは、1998年から2013年の間に診断された12歳未満のCHTの子供1,260人と、年齢や性別、居住地を一致させた12,600人のコントロールです。
結果として、CHTを持つ子供は、ASD(発生率7.1‰ vs 1.3‰)やADHD(発生率39.7‰ vs 18.7‰)のリスクがコントロール群よりも高いことが示されました。Cox回帰分析では、CHTを持つ子供は、ASD(HR 4.72)やADHD(HR 2.03)のリスクが有意に高いことが確認されました。これにより、CHTを持つ子供は、ADHDのリスクが約2倍、ASDのリスクが約4倍になることが明らかになり、CHTと神経発達障害との関連を明らかにするさらなる研究の必要性が強調されました。
Conspiracy mentality in autistic and non-autistic individuals
この論文は、自閉症成人と一般人口における「陰謀論傾向」(陰謀論を信じやすい性質)が異なるかどうかを調査しています。研究には、自閉症サンプル(682名)と一般人口サンプル(4358名)が参加し、陰謀論傾向は「陰謀論傾向質問票(CMQ)」を用いて測定されました。年齢、性別、学歴、人種を考慮したANCOVA分析の結果、両グループ間に陰謀論傾向の差は見られませんでし た。つまり、自閉症の有無や自閉症特性が陰謀論を信じやすいかどうかには影響しないことが示されました。結論として、自閉症が陰謀論傾向のリスク要因でも保護要因でもないことが強調されています。
Frontiers | Exploring Causal Associations of Antioxidants from Supplements and Diet with Attention Deficit/Hyperactivity Disorder in European Populations: A Mendelian Randomization Analysis
この研究では、抗酸化物質(サプリメントや食事から摂取されたもの)が注意欠陥・多動性障害(ADHD)に与える影響を調査しました。特に、緑茶、ビタミンC、ビタミンE、カロテン、ビタミンA、亜鉛、セレンなどの摂取とADHDとの因果関係を、メンデルランダム化(MR)分析を用いて検討しました。結果として、緑茶の摂取が男性のADHDリスクを有意に低減することがわかり(OR: 0.977)、他の抗酸化物質や食事との関係は見られませんでした。特に、緑茶の摂取が小児期のADHDリスクを減少させる可能性も示されましたが、他の抗酸化物質については明確な因果関係は見つかりませんでした。この研究は、緑茶の摂取が男性のADHDリスクを減少させる可能性を示唆しており、さらに最適な摂取量やそのメカニズムを探る研究が必要です。
Compressed cerebro‐cerebellar functional gradients in children and adolescents with attention‐deficit/hyperactivity disorder
この研究は、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の子供と青年における大脳と小脳の機能的階層構造の異常を調査しています。脳の組織化において階層性が重要であるという最近の神経画像研究に基づき、著者らは新しい勾配ベースの安静時機能的結合解析を適用しました。その結果、診断と年齢による機能的勾配の相互作用がデフォルトモードネットワーク(DMN)と視覚ネットワーク(VN)に集中していることを発見しました。また、DMNとVNの勾配変化が逆方向であるため、ADHD患者では大脳の主勾配が圧縮されていることが示されました。これは、ADHDにおいて低次の視覚処理と高次の自己関連思考の両方の認知機能障害が同時に存在し、それが大脳と小脳の階層的組織の異常として現れていることを示唆しています。この研究は、ADHDにおける大脳と小脳の低次および高次の機能異常の共起と相互作用を理解するための神経生物学的枠組みを提供しています。