本ブログ記事では、自閉症スペクトラム障害 (ASD) を中心とした発達障害に関する最新の研究論文を紹介します。キプロスにおけるASDの有病率と利用サービスに関する研究、ASDのセルフチェックツールと男女差に関する研究、ASDとてんかんの合併に関する研究、発達後退がみられるASDの特徴とリハビリ効果に関する研究、学習障害のある生徒への教育テクノロジーに関する研究、新型コロナウイルスによる学校休校の影響に関する研究、広東語を話すASDの子供におけるアクセント付けに関する研究、ADHDの薬の短期と長期の効き目に関する研究、fMRIを用いたADHDの自動診断に関する研究、読字障害と記憶に関する研究、ASDの機能レベルに基づいた分類に関する研究などの研究を紹介します。
学術研究関連アップデート
The Childhood Prevalence, Gender Ratio, and Characteristics of Autism Spectrum Disorder in Cyprus Using School Report: A Cross-Sectional Study
キプロス全土の学校に通う5歳から12歳までの子供を対象に、ASDの有病率、特性、関連要因を調べる大規模な調査が行われました。
調査の結果、ASDの子供は全体の1.8%を占め、そのうち8割以上が男の子でした (男女比は約4.1 : 1)。また、ASDの子供は普通の小学校 (1.3%) よりも、幼稚園 (2.7%) や特別支援学校 (41.9%) に通っている割合が高かったです。
ASDの子供たちの多くは、言語療法 (90.4%) や特別支援教育 (93.8%) を受けていました。また、約55.6%はほとんど喋れないか、少ししか喋れない状態でした。併せ持ちが多い合併症としては、注意欠陥多動性障害 (37.6%) と知的障害 (10.7%) が挙げられました。
調査の結果、ASDの可能性が高いのは男の子と、幼稚園や特別支援学校に通っている子供たちだと言えます。キプロスでは、乳幼児健診でのASDスクリーニングを義務化し、正確な実態把握と適切なサポート体制を構築することが必要と考えられます。
Protocol for a systematic review evaluating psychometric properties and gender-related measurement (non)invariance of self-report assessment tools for autism in adults - Systematic Reviews
最近、男性と女性で自閉症の表れ方が違うことがわかってきました。そのため、今使われているセルフチェックツールは、女性の自閉症の特徴を見落とす可能性があります。
そこでこの研究では、2014年以降に開発された、大人向けのセルフチェックツールを調べる予定です。特に、男女で結果が変わらないか、という点に注目します。
もし男女で差のない優れたツールが見つからない場合は、今後改善していくべき既存のツールを見つけたり、新しいチェックツールを開発する必要性が見えてくるでしょう。
この研究は、男女平等に配慮した自閉症診断につなげていくことを目指しています。
Key Treatment Issues for Epilepsy in the Context of Autism Spectrum Disorder
自閉症スペクトラム障害 (ASD) とてんかんは、どちらも脳の発達に関係する病気ですが、お互いに影響し合う複雑な関係にあります。特に、発達障害性脳症 (DEE) というてんかんの一種と ASD は重なりやす く、診断や治療が難しくなります。
ASD とてんかんが一緒に起きると、てんかんの治療薬を選ぶのが大変になります。発作を抑えるだけではなく、ASDの症状にも効く薬を選ぶ必要があります。また、てんかんと ASD の似たような症状を見分けることも大切です。
この論文では、ASD を伴うてんかんの治療の難しさについてまとめられています。てんかんの薬以外にも、脳波検査などを使って、一人ひとりに合った治療法を見つけることが重要だと説いています。
Phenotypic characteristics and rehabilitation effect of children with regressive autism spectrum disorder: a prospective cohort study - BMC Psychiatry
この研究では、発達の後退がみられる自閉症スペクトラム障害 (ASD) の子供の特徴と、リハビリによる効果を調べました。
370人のASDの子供を対象に、発達の後退の有無でグループ分けし、1年間の行動療法的リハビリの前後で評価を行いました。その結果、発達の後退がみられた子供は全体の約28%で、特にコミュニケーションや言葉の面に遅れがみられました。また、発達の後退がみられたグループは、そうでないグループに比べて、自閉症の症状が強かったり、発達の遅れが大きかったりすることがわかりました。
リハビリによって、全てのASDの子供で症状の改善がみられましたが、発達の後退がみられたグループの方が改善の度合いが小さかったことも明らかになりました。さらに、4歳未満の発達の後退がみられた子供の方が、4歳以上の子供よりも症状の改善が大きかったことも示唆されました。
この研究では、特に発達の後退がみられるASDのお子さんに対しては、より早期に介入を行うことが大切だと結論づけられています。
Enhancing Educational Technology in Lectures for School Students with Learning Disabilities: A Comprehensive Analysis
学習障害は、知的能力とは関係なく学習の妨げとなる問題です。しかし、見過ごされたり、誤解されたりすることが多く、子供の教育の大きな障害となります。
この研究では、学習障害と知的障害の違い、そして教師が教育にテクノロジーを取り入れることへの抵抗感という、2つの重要な課題について検討しました。
その解決方法として、以下の2つを提案しています。
- 学習障害のスクリーニングアプリの開発: このアプリは、生徒一人ひとりの学習のつまずきを把握し、講義内容を個別に調整するための手助けとなります。
- テクノロジーを活用した講義の効果検証: 従来の講義とテクノロジーを活用した講義を比較し、生徒の成績を調べました。その結果、学習障害の可能性がある生徒は、テクノロジーを活用した講義の方が成績が向上したことが明らかになりました。一方、そうでない生徒の成績は大きな変化は見られませんでした。
この研究は、テクノロジーを活用することで学習障害のある生徒の学習効果を高めることができると示唆しています。また、学習障害を正しく認識し、適切なサポートを行うことの重要性も明らかにしています。生徒の理解度に合わせて講義を調整することで、よりインクルーシブで効果的な学習環境を作ることができると期待されます。
Caregivers' Perceptions of COVID-19 Educational Disruptions on Children With Developmental Language Disorder and Typically Developing Peers
この研究では、新型コロナウイルスの影響による学校休校が、発達性言語障害 (DLD) の子供と、通常発達の子供に与えた影響を保護者の体験談をもとに比較しました。
調査の結果、どちらのグループの保護者も子供の学習への悪影響を心配していましたが、DLD の子供の保護者はより深刻な影響を感じていることがわかりました。 特に、DLD の子供は遠隔学習が難しく、読み書きや言語能力、さらには全体的な学習の遅れが大きかったようです。また、DLD の子供の保護者は、サポートが少ないと感じていることも明らかになりました。
この研究結果は、コロナの影響からの回復期において、DLD の子供とその家族へのきめ細やかなサポートが重要であることを示唆しています。
Focus-marking in a tonal language: Prosodic differences between Cantonese-speaking children with and without autism spectrum disorder
自閉症の人の中には、話す言葉のリズムや抑揚 (アクセント) に特徴がみられることが知られています。英語のような非言語言語では、自閉症の人はアクセントを使って強調したい部分を伝えるのが苦手という研究結果があります。しかし、広東語のような声調言語では、アクセントは単語の意味や強調したい部分だけでなく、文の構造を示すのにも使われます。
今回、広東語を話す自閉スペクトラム障害 (ASD) の子供とそうでない子供を対象に、このようなアクセント付けの違いを調べました。その結果、ASD の子供は、強調したい部分の音程や長さをうまく変えられず、声調自体もはっきりしませんでした。
一方、文の中で使われている声調の種類 ( 単一の音調か、複数の音調が組み合わさったものか) は、ASDの子供もそうでない子供も、アクセント付けに影響しなかったようです。
この研究は、広東語を話す自閉スペクトラム障害 (ASD) の子供が、言葉を使ってコミュニケーションをとる際に直面している難しさを示しています。
Association Between Single-Dose and Longer Term Clinical Response to Stimulants in Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder: A Systematic Review of Randomized Controlled Trials
注意欠陥多動性障害 (ADHD) の治療薬として、一般的に最初に試されるのが興奮剤です。
これまでの研究では、興奮剤は効果があるとされているものの、個人差が大きく、誰にどの薬が効くのかははっきりわかっていません。
そこで、今回の一度だけの服用で薬が効くかどうかで、長期的な効き目も予想できるのではないかという研究が行われました。しかし、現時点ではそのような研究はほとんどされていませんでした。
今後は、一度の服用で薬が効くかどうかと、長期的な効き目の関係を調べることで、一人ひとりに合った治療法の開発に役立てることが期待されます。また、年齢や性別によって薬の効き目が違 う可能性についても調べる必要があると考えられています。
The Use of fMRI Regional Analysis to Automatically Detect ADHD Through a 3D CNN-Based Approach
注意欠陥多動性障害 (ADHD) は、集中力不足や多動性、衝動性などがみられる脳の発達障害です。診断には問診や心理検査などが用いられますが、今回、脳の活動を調べる検査 (fMRI) を使って、ADHDかどうかを自動的に診断する方法が提案されました。
この研究では、fMRI データから 3D 畳み込みニューラルネットワーク (3D CNN) という人工知能の手法を用いて、ADHD の人を分類するアルゴリズムを開発しました。実際に、ADHDかどうかが診断された複数施設のデータを使い、この手法の精度を検証しています。
その結果、この手法は、70%を超える精度で ADHD の人を自動的に診断できる可能性が示されました。今後、さらに研究を進めることで、ADHD の診断を補助する新しい手法になることが期待されます。
Feedback timing‐modulated weather prediction reveals relative deficits in both procedural and declarative learning in adults with dyslexia
この研究では、読字障害 (dyslexia) の大人とそうでない大人を対象に、記憶のしくみについての仮説を検証しました。
その仮説とは、読字障害は手続き記憶の弱さが原因であるというものです。手続き記憶とは、自転車に乗る手順などを覚える記憶のことです。
実験では、天気予報を当てるゲームに参加してもらい、フィードバック (答え合わせ) のタイミングによって記憶の使われる脳の部位が異なってくるように工夫しました。
その結果、読字障害の人は、どちらの記憶のしくみにおいても、そうでない人に比べて苦手さがあることがわかりました。特に、長期的な記憶 (宣言的記憶) を使ったほうが、その差が大きかったようです。
この研究は、読字障害は単純に「文字を読むのが苦手」ということではなく、脳のしくみそのものに影響があることを示唆しています。
Toward a functional classification for autism in adulthood
自閉症スペクトラム障害 (ASD) は、乳児期から大人期まで発達と機能に影響を及ぼす複雑な状態です。かつては、アスペルガー症候群や重度自閉症など、ASDを細分化しようと試みられ てきましたが、どれも信頼性や妥当性、解釈が難しく、成功していません。
しかし、ASDの中には、程度や特徴が異なるグループが存在することが考えられます。そうしたグループを分類できれば、研究や支援、サービスをより個々のニーズに合ったものにすることができます。
この研究では、簡単な質問票を使って、ASDの大人たちを「機能レベル」に基づいてグループ分けできるかどうかを調べました。
その結果、アンケートをもとにした専門家による判断で、ASDの大人たちをいくつかのグループにわけることができ、かつ、そのグループ分けは妥当であることが示されました。
今回のような分類は、ASDへの理解や支援の向上に役立つ可能性があります。今後、さらに研究を進めることで、より良い分類方法が開発されることが期待されます。