社会スキル支援におけるロボット活用の実験
本ブログ記事は、主に発達障害(ASD・ADHDなど)に関連する支援、診断、親の期待、医療・技術応用などをテーマとした研究を分かりやすく紹介しています。内容は、親の期待やケア負担に関するスコーピングレビューや定量調査、社会スキル支援におけるロボット活用の実験、AIによるASDリスク予測、ADHD治療薬の副作用や性への影響、VRを活用した新たな介入方法、ADHDと摂食・性・強迫症状との関連、刑務所内ADHDの実態など、多様な角度から発達障害をめぐる支援と理解を深める知見がまとめられています。研究はいずれも、個別支援の精度向上や社会的包摂の促進に貢献する内容で構成されています。
Parental Expectations for Their Children with Developmental Disabilities: A Systematic Scoping Review
この研究は、発達障害のある子どもに対して親がどのような期待を抱いているのかについて、これまでの研究を広く整理したシステマティック・スコーピングレビューです。対象となった発達障害には、自閉スペクトラム症(ASD)、知的障害、ダウン症、脳性麻痺、注意欠如・多動症(ADHD)などが含まれます。
🔍 背景と目的
一般的な育児研究では、「親の期待」が子どもの成長や親の行動に大きく影響することが知られています。しかし、発達障害のある子どもについては、親がどんな期待を持ち、それがどう影響するのかはあまり明らかになっていません。本研究は、**どのような種類の期待があるのか? 期待に影響する要因は? 期待がどのような結果を生むのか?**を整理することを目的としています。
🧪 方法
- 5つのデータベースを用いて、関連する研究を網羅的に検索。
- 合計58件の研究が対象となり、その多くはアメリカで実施された横断的研究でした。
- 特に、自閉スペクトラム症(ASD)を対象とした研究が多く、非欧米の研究は少数にとどまりました。
📊 主な発見
- 親の期待は非常に多様かつ具体的であり、学業だけでなく、就労、対人関係、日常生活スキルなどの領域にまで及んでいました。
- 親の期待は、
- 子どもの特性
- 親自身の経験・価値観
- 社会や文化的背景 などの複数の要因によって形づくられていました。
- 期待は、子どもの将来像を描く上での指針となるだけでなく、親自身の心理的な在り方や支援のスタイルにも影響を及ぼす可能性があると示唆されました。
✅ わかりやすくまとめると
✔ 親たちは、発達障害のある子どもに対して学業だけでなく、仕事・人間関係・生活自立など、多様で現実的な期待を持っていることがわかりました。
✔ こうした期待は、子ども本人の特性だけでなく、家族の価値観や社会的背景などにも影響されているということも示されました。
✔ 親の期待は、子どもや親自身の将来に影響を与える可能性があり、支援者にとっては「親の期待」を丁寧に理解することが重要な視点となります。
📝 一言まとめ
発達障害のある子どもに対する親の期待は多様で現実的かつ文化的影響も受けるものであり、それが子どもと親自身の人生にも影響することを示した重要なレビュー研究です。
Investigating the Feasibility of a Wizard-of-Oz Robotic Interface (R2C3) in a Social Skills Group for Children with Autism Spectrum Disorder
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもたちの社会的スキルを育てるためのグループ活動に、ロボットを活用できるかどうかを調べた実験的な探索研究です。特に、QTrobotというロボットに、「R2C3」というリモート操作型インターフェース(ウィザード・オブ・オズ方式)を組み合わせて使いました。
🔍 研究の背景と目的
- ASDのある子どもは、社会的なやりとり(会話の始め方や返し方)に困難があることが多く、社会スキル訓練(SSG:Social Skills Group)がよく行われます。
- ロボットを使うと、感情表現や刺激のパターンが一定で、子どもが安心しやすく、練習がしやすいとされ、社会的な関わりを引き出す「補助者」としての可能性が注目されています。
- 今回の研究では、ロボットを**操作側が裏で遠隔操作する「ウィザード・オブ・オズ方式(WOZ)」**で使い、実際のグループ活動で効果的に活用できるかを検討しました。
🧪 方法
- 対象:6〜11歳のASD児6名
- 期間:10週間
- 条件:子どもたちはランダムに以下の2条件でロボットを体験
- アクティブモード(操作側がロボットを動かす)
- インアクティブモード(ロボットは動かず)
- 測定:
- 社会的なスキルの変化(ADOS-2)
- 子どもの発話や関わりの頻度(開始と応答)
- インターフェースの使いやすさ(DICTI)
📊 主な結果
- 全体として社会的スキルは向上し、ロボットがそれを妨げることはなかった。
- 特にアクティブモードでロボットを使ったとき、子どもたちの「自発的な関わり(社会的開始)」が増えた。
- ただし、相手からの呼びかけに対する応答の増加やADOS-2スコアには有意な変化は見られなかった。
- インターフェース面では課題もあり:
- 反応のタイムラグがあり、会話の流れに乗りにくい
- 操作の複雑さやカスタマイズ性の低さが指摘された
✅ わかりやすくまとめると
✔ ロボットはASDの子どもが自分から関わろうとする場面を増やす可能性がある。
✔ 特に初期段階の社会スキル訓練において、関わりのきっかけ作りに有効と考えられる。
✔ 一方で、現在のロボット操作システムには技術的な改善の余地があり、よりスムーズで直感的な操作が必要とされている。
📝 一言まとめ
QTrobotとR2C3インターフェースは、ASDの子どもたちの「自分からの関わり」を引き出す有望な手段となり得るが、技術的な課題も多く、今後はより多人数・改良版での研究が期待される探索的成果です。
Transformer-based deep learning ensemble framework predicts autism spectrum disorder using health administrative and birth registry data
この研究は、人工知能(AI)を活用して、自閉スペクトラム症(ASD)になる可能性が高い子どもを出生後早期に見つけ出すことができるかどうかを検証したものです。特に、Transformer(トランスフォーマー)という深層学習モデルを応用した最新のAI技術を使って、カナダ・オンタリオ州の出生登録や医療データからASDリスクを予測することを試みました。
🔍 研究の背景と目的
- ASDの早期発見と支援は、その後の発達や生活の質を大きく左右します。
- 現在は、親の気づきや行動観察に基づく診断が多く、見逃しや遅れが生じやすいという課題があります。
- そこで、膨大な健康・出生データをAIで解析し、早い段階(1歳半〜5歳)でASDリスクの高い子どもを抽出できないかを検証しました。
🧪 方法
- 対象データ:オンタリオ州で2006〜2018年に生まれた約70万人の母子ペア(うちASD診断あり約1.1万人)
- 使用したデータには、出生時のスクリーニング結果、妊娠・出産の情報、医療機関の診断記録などが含まれる。
- モデル:
- XGBoost(機械学習モデル)
- Transformerベースの深層学習モデル(自然言語処理などでも使われる高性能AI)
- *AIの説明可能性(explainable AI)**も取り入れ、どの要素が予測に効いているかも分析。
📊 主な結果
- 最も性能が良かったのはTransformerを組み合わせたアンサンブル(複数モデルの組み合わせ)モデルで、
- AUC(予測精度の目安):69.6%
- 感度(見つけられる割合):70.9%
- 特異度(見落としの少なさ):56.9%
- 完璧ではないが、「ASDの可能性が高い集団」を抽出するには実用的な精度を示した。
- 影響の大きい要因(例:出生時の医療データや母親の健康状態)も特定され、今後のリスク評価に役立つ可能性あり。
✅ わかりやすくまとめると
✔ 症状が現れる前の段階でも、出生 〜乳児期の医療データをAIで分析すれば、ASDのリスクが高い子どもをある程度抽出できることが示された。
✔ Transformerという最新AI技術は、医療データのような複雑な情報を扱うのにも適しており、スクリーニングツールとしての可能性がある。
✔ 将来的にこのような仕組みを使えば、ASDの診断が遅れる子どもを早期に見つけ、必要な支援につなげることができるかもしれない。
📝 一言まとめ
出生や医療のビッグデータをTransformer型AIで解析することで、ASDの早期スクリーニングを実現できる可能性があることを示した、先進的かつ実用性の高い研究です。
Cardiovascular Risk Associated with the Treatment of Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder in Adults
この論文は、成人の注意欠如・多動症(ADHD)の治療に使われる薬と心臓へのリスクについて、最新の知見をまとめた**ナラティブレビ ュー(総説)**です。ADHDの診断数が世界的に増加し、治療薬の使用も拡大する中で、薬の効果だけでなく副作用、とくに「心血管リスク」に注目が集まっています。
🔍 背景と目的
- ADHDは子どもだけでなく、大人にも多く見られる発達神経障害。
- 多くの治療薬は交感神経を活性化させる作用があり、心拍数や血圧の上昇を引き起こす可能性があります。
- 本レビューでは、ADHDの治療薬が心臓に与える影響と、そのリスク管理の必要性を整理しています。
🧪 主な内容と最近の知見
- ADHD治療薬(例:メチルフェニデート、アンフェタミンなど)は、交感神経を刺激して心臓への負荷を高める可能性がある。
- 長期使用により、
- 高血圧
- 頻脈(心拍が速くなる)
- 不整脈や心不全、まれに突然死 などのリスクが懸念される。
- 一部の研究では、薬と心疾患のあいだに明確な関連がないとする報告もあるが、リスクを完全に否定はできない。
✅ わかりやすくまとめると
✔ ADHDの薬は心身を活性化する働きがあるため、心臓に対する負担が増える可能性がある。
✔ 実際に心臓病などの深刻な問題につながることは少ないが、高血圧や不整脈のリスクは注意が必要。
✔ 治療を始める前に心血管の状態を確認し、治療中も定期的にモニタリングすることが大切。
📝 一言まとめ
成人のADHD治療においては、薬の効果だけでなく心臓への影響にも配慮が必要であり、適切な検査とモニタリングを行うことで、安全に治療を続けることができると示された総説です。
Frequency of binge eating in medication adherent patients with ADHD and its relation to impulsivity - Middle East Current Psychiatry
この研究は、ADHD(注意欠如・多動症)のある人が「過食(特にむちゃ食い:binge eating)」をしやすいかどうか、そしてその背景にある「衝動性」がどのように関係しているかを調べたものです。特に今回は薬をきちんと服用しているADHDの患者さんを対象にしています。
🔍 背景と目的
- ADHDの人は、衝動的な行動をとりやすいため、食行動のコントロールにも影響が出ることがあるとされています。
- これまでの研究では、ADHDと過食の関連が示唆されていますが、結果にばらつきがあり、特に薬をしっかり飲んでいる人に絞った研究は少ないのが現状です。
- この研究では、ADHD患者のうち、薬をきちんと服用している人における過食の頻度と、その背景にある衝動性の関係を明らかにしようとしました。
🧪 方法
- 対象:カイロ(エジプト)の精神科で治療中のADHD患者75人(DSM-IV診断)
- 使用ツール:
- K-SADS PL(子どもの精神疾患の診断インタビュー)
- Conners評価尺度(ADHD症状の評価)
- Binge Eating Scale(過食傾向の評価)
- Barratt Impulsiveness Scale(衝動性の評価)
📊 主な結果
- 9.3%の参加者に過食傾向あり(≒10人に1人の割合)。
- ADHDのタイプ(多動性・不注意など)や症状の強さとは、過食の傾向に関連が見られなかった。
- しかし、衝動性のスコアが高い人ほど、過食の傾向も強いという有意な相関が確認された(P ≤ 0.001)。
✅ わかりやすくまとめると
✔ ADHDのある人の中には、むちゃ食いをする人が一定数おり、これは「衝動性」が関係している可能性が高い。
✔ ADHDの治療で薬を使っていても、衝動的な傾向が残っていると、食行動にも影響が出ることがある。
✔ 過食の問題は、ADHDの診断タイプだけでは説明できず、「衝動性」という個人の特性に注目することが重要。
📝 一言まとめ
ADHDのある若者の過食傾向には「衝動性」が深く関係しており、食行動の問題にも目を向けた包括的な支援が求められることを示した研究です。
Incidence and Neuropsychological Profile of Adult Attention Deficit Hyperactivity Disorder (ADHD) in Incarcerated Populations (P6-3.015)
この研究は、アルゼンチンにおける成人の「注意欠如・多動症(ADHD)」の発症率とその認知機能の特徴を、刑務所に収容されている人々を対象に調べたものです。ADHDは子どもの頃に診断されることが多いですが、大人になっても気づかれずに続いているケースが多くあります。
🔍 研究の目的と背景
- *ADHDの成人診断例がどれくらいあるのか(発症率)**を、性別・年齢別に調べるとともに、診断された人たちの認知機能や心理的な特徴を明らかにすることが目的です。
- 特に今回は、アルゼンチンの国勢調査(2022年)をもとに標準化された数値で算出されています。
- 刑務所内の人々は、ADHDのリスクが高いとされる背景を持つことが多く、調 査対象として注目されました。
🧪 方法
- 対象:2022年6月〜2024年7月の間に評価された16〜65歳の被収容者42名
- 評価内容:
- ADHDの有病率(年間発症率)を算出
- 自記式アンケートや認知機能テスト(例:TRAIL A/B、PASAT、IFSなど)
📊 主な結果
- 年間粗発症率:人口10万人あたり74.8人(※やや少ない傾向)
- 男性:65人、女性:83人(男女で大きな差なし)
- 国勢調査による標準化後は5.8人/10万人
- ADHDの平均診断年齢:約34歳
- ADHDのタイプ:
- 不注意型(54.8%)が最多、次いで混合型(35.7%)、多動型(4.8%)
- 教育・就労状況:
- 大卒未満が最も多く(30.9%)、就労者は59.5%
- 合併症:
- 不安(90%)と抑うつ(57%)が非常に多い
- 薬物使用歴は35.7%(主にマリファナ)
- 認知テスト:
- 注意・実行機能に関するスコアが全体的に平均以下
- IFS(実行機能):Z = -1.65
- TRAIL A/B(注意・処理速度):Z = -0.95 ~ -1.43
- PASAT(注意と作業記憶):Z = -1.29
- 注意・実行機能に関するスコアが全体的に平均以下
✅ わかりやすくまとめると
✔ アルゼンチンで行われたこの研究は、刑務所に収容されている成人におけるADHDの頻度とその特徴を初めて明らかにした貴重なデータです。
✔ ADHDは**主に「不注意型」**で、診断時には不安やうつの症状も併せ持っていることが多いという実態が示されました。
✔ 注意力や実行機能に関する認知テストでも平均を下回る成績が見られ、生活や社会適応に困難を抱えている可能性が高いことがわかります。
✔ 今後は、刑務所などの特殊環境にいる人へのADHDの早期発見と適切な支援が重要だと示唆されます。
📝 一言まとめ
刑務所に収容されている成人の中には、診断されていなかったADHDのケースが多く含まれており、不安・うつ・注意力の問題を伴いやすいことが確認されました。支援の必要性が高いことを示す意義ある研究です。
Cognitive disengagement syndrome symptoms in obsessive-compulsive disorder with and without attention deficit hyperactivity disorder
この研究は、**強迫性障害(OCD)と注意欠如・多動症(ADHD)が重なって現れる人たちの特徴を調べ、特に「認知的脱集中症候群(Cognitive Disengagement Syndrome:CDS)」**がこの併存に関係しているかどうかを明らかにしようとしたものです。
🔍 背景と目的
- OCDとADHDは別の精神疾患ですが、大人になっても両方を併せ持つ人が一定数います。
- その併存は、症状の現れ方(例:不安や強迫観念の種類)や治療への反応に影響を与えるため、理解が重要です。
- 特に注目したのは、最近注目されている「**認知的脱集中症候群(CDS、以前は“Sluggish Cognitive Tempo”とも)」で、ぼんやりする、集中が続かない、夢想しやすいなどの症状が特徴です。
🧪 方法
- OCDのある成人116名を、**ADHD併存あり(44人)となし(72人)に分け、さらに健常 な人(43人)**とも比較。
- 使用した評価尺度:
- OCDの重症度:Y-BOCS
- ADHDの診断・症状:Wender Utah評価、DSM-IVに基づくスクリーニング
- CDSの評価:Barkley’s Adult Sluggish Cognitive Tempo Rating Scale
- うつ・不安:Beck Depression/Anxiety Inventory
📊 主な結果
- OCDとADHDの併存に関連していた主な要因は:
- 「汚染」に関する強迫観念を持っている(OR = 7.7)
- 男性であること(OR = 3.7)
- 不安が強いこと(OR = 1.05)
- CDS症状が強いこと(OR = 1.15)
✅ わかりやすくまとめると
✔ OCDとADHDが併存する人は、「ぼんやりする」「集中が続かない」といったCDSの特徴を強く持っている傾向があることが示されました。
✔ CDSという視点を使うことで、OCD+ADHDの人たちの理解がより深まり、個別の支援や治療方針の設計にも役立つ可能性があります。
✔ また、「汚染へのこだわり」「不安の強さ」などの特定の症状パターンも併存リスクに関係していることが明らかになりました。
📝 一言まとめ
OCDとADHDが併存する背景には「認知的脱集中症候群(CDS)」が関与している可能性があり、支援や診断の新たなヒントとなる研究です。
Cross-validation of the MMPI dissimulation ADHD scale in a sample of adults presenting for ADHD evaluation
この研究は、**大人のADHD評価において「症状を実際より重く見せている(=過剰申告)」人を見分けるための新しい尺度「Ds-ADHD-r」**がどれくらい有効かを検証したものです。
🔍 背景と目的
- ADHDの診断では、自己申告による質問票の回答が重要な役割を果たしますが、中には「ADHDだと見なされたい」という意図で意図的に症状を誇張する人もいます(例:薬目的など)。
- こうした「信頼できない症状報告(非信頼性の高い報告=symptom overreporting)」を見 分けるための指標として、MMPI(ミネソタ多面的人格検査)を使ったDs-ADHD-rという新しいスケールが開発されました。
- 本研究では、そのDs-ADHD-rが実際の臨床現場でどれだけ有効かを検証しました。
🧪 方法
- ADHD評価を受けにきた成人113人が対象(大学クリニックでの評価)
- 以下の評価を実施:
- MMPI-2-RFまたはMMPI-3
- Conners’ Adult ADHD Rating Scale(CAARS)
- 症状の信頼性を測るSVT(Symptom Validity Test)
- 認知テストの信頼性を測るPVT(Performance Validity Test):明らかに頑張っていない、意図的に低得点を取っているかをチェック
📊 主な結果
- Ds-ADHD-rスコアが高かった人は、SVT(症状信頼性検査)で非信頼とされた人に多かった
- しかし、PVT(パフォーマンス検査)で非信頼だった人では、Ds-ADHD-rに差が見られなかった
- また、Ds-ADHD-rはMMPIの既存のスケール(FスケールやRBSなど)よりも、症状誇張を見抜く力が高かった
- 一方で、「認知テストでわざと低得点を取る」ようなパフォーマンスの信頼性には反応しなかった
✅ わ かりやすくまとめると
✔ Ds-ADHD-rは、ADHDの診断を受けに来た人が「症状を盛っていないか」を見抜くための有効な手段になりうる。
✔ ただし、「ちゃんとテストに取り組んでいるか」を見抜くことには向いていない(パフォーマンスのチェックには他の検査が必要)。
✔ 今後は、より多様な集団でも検証する必要があるが、ADHDの「本当に困っている人」と「症状を盛っている人」を区別する助けになるツールとして期待される。
📝 一言まとめ
Ds-ADHD-rは、大人のADHD診断における「症状の誇張」を見抜くための信頼性あるスクリーニングツールとして有効性が示されました。
From hyper- to hypo-: ADHD medications & sexual dysfunction
この研究は、ADHD(注意欠如・多動症)の治療薬が、思春期の若者の「性の健康」にどのような影響を与えるかを調べたものです。特 に、刺激薬(メチルフェニデートなど)と非刺激薬(アトモキセチンなど)の違い、そして男女の違いに注目しています。
🔍 背景と目的
- ADHDの若者は、性的リスク行動(早い時期の性交渉、複数の相手との関係など)や性的機能障害のリスクが高いことが知られています。
- しかし、ADHD治療薬が性にどんな影響を与えるかはまだあまり研究されていません。
- 本研究では、60万人以上のADHDの若者の医療データを分析し、薬の種類や性別による違いを調べました。
🧪 方法
- 米国の医療データベース「TriNetX」から、12〜18歳のADHD診断者を抽出。
- 使用薬に応じて以下の3グループに分類:
- 刺激薬使用群
- 非刺激薬使用群
- 薬を使用していない群
- さらに、男女別にも分類。
- 性に関する診断(ICD-10コード)を元に、性欲の増加、性機能障害、避妊行動、性的リスク行動などを評価。
📊 主な結果
- 刺激薬を使用している若者では、以下の傾向が強く見られました:
- 男性:性欲の増加、性衝動の高まり、勃起不全の報告が多い
- 女性:性欲のやや増加と避妊使用率の上昇
- 非刺激薬は、性に関する副作用が少なめ。
- 全体として、性別による違いが大きく、治療の影響も異なる。
✅ わかりやすくまとめると
✔ ADHD治療薬、とくに刺激薬は、思春期の性行動や性機能に影響を及ぼす可能性がある
✔ 男性では性欲や性的衝動の増加に加え、勃起不全などの問題も見られた
✔ 女性では避妊行動が増え、性への関心がやや高まる傾向
✔ 非刺激薬の方が副作用は少なく、安定した選択肢になる可能性あり
📝 一言まとめ
思春期のADHD治療では、薬が性の健康に与える影響を無視できない。とくに刺激薬は性欲や機能に強く作用する可能性があり、性別ごとの特性を踏まえた配慮が求められることを示した重要な研究です。
Frontiers | Integrating Virtual Reality into ADHD Therapy: Advancing Clinical Evidence and Implementation Strategies
この論文は、ADHD(注意欠如・多動症)の治療にバーチャルリアリティ(VR)を取り入れる可能性と、その実装に向けた課題・戦略を包括的に整理したものです。以下に、専門的すぎる表現を避けながら、要点をわかりやすくまとめます。
✅ 要約:ADHD治療におけるVR活用の可能性と課題
従来のADHD治療(薬物療法、認知行動療法、ニューロフィードバックなど)には効果がある一方で、「副作用」「継続の難しさ」「アクセス格差」などの問題がありました。そうした背景から、VR技術による新しい治療法が注目されています。
この研究では、VRがADHDのある人の注意力、自己制御、柔軟な思考力の向上に役立つ可能性があり、既存の治療を補完するツールとして有望であると評価しています。理論的には、VRは脳の可塑性(学習による変化)や強化学習の仕組みを利用し、実際の生活場面に近い環境でトレーニングができるため、より実用的な介入が可能です。
しかし、以下のような課題も明確になっています:
- 高価な機材コストやインターネット環境の未整備により、特に低・中所得国では導入が難しい
- 一部の人にはVR酔いや感覚過敏による不快感がある
- 長時間使用による影響や現実への応用の難しさ(学んだことが実生活に活かせるか)も未検証
- 個人差が大きいADHD症状に対応するには、VR内容の個別最適化が必要
- データの取り扱いに関する倫理的・プライバシーの問題もある
これらを踏まえ、著者らは以下の実装戦略を提案しています:
- パイロット研究 → 臨床試験 → 多国間での実装といった段階的アプローチ
- 当事者・家族・地域コミュニティの参加を重視したデザイン(ユーザー中心・文化適応型)
- 教育・医療機関との連携、低コスト型VR機器の開発と補助制度
- 専門家の研修制度(VRを正しく使いこなすための教育と認定)
- 政策・法制度の整備(使用時間の規制、年齢制限、データ保護など)
📝 一言まとめ
VRは、ADHDの個別支援に新しい可能性をもたらす一方で、多くの実装・倫理的課題があるため、段階的・多分野協働での導入が求められます。治療法というよりも「補完的ツール」としての現実的な使い方、そして文化や地域に合った工夫が成功の鍵となるでしょう。
Frontiers | Fast-Paced and Violent Media Exposure are Positively Associated with ADHD and Impulsivity in College Students
この研究は、「速いテンポ」や「暴力的な内容」を含むメディア(例:アクション映画、暴力的なゲームなど)に触れることが、大学生のADHD症状や衝動性とどう関係しているかを調べたものです。
✅ 要約:速い・暴力的なメディアは注意力や衝動性に影響する?
3つの調査(合計で1,000人以上の大学生対象)を通じて、テンポが速いメディアや暴力的なメディアへの接触頻度と、注意力の問題(ADHD傾向)や衝動性との関係を分析しました。
- テンポが速いメディア(例:素早く場面が切り替わる動画など)を見る頻度が多い人は、**ADHD症状(注意が続かない・落ち着きがない)**との関連が見られました。
- 暴力的な内容のメディアに多く触れている人ほど、**衝動性(思いつきで行動する傾向)**が高いことが示されました。
- これらの関係性は小さいながらも一貫しており、信頼性のある結果と考えられています。
ただし、これはあくまで**「関連がある」ことを示した調査(=相関研究)であり、「メディアが原因でADHDになる」と証明したわけではない**点に注意が必要です。
📝 一言まとめ
テンポが速く、暴力的なメディアに頻繁に触れる大学生ほど、ADHD的な注意の問題や衝動的な行動傾向が強い傾向があることが示されました。将来的には、因果関係を調べる長期研究が必要とされています。
Autism × Social Psychology: A Collaboration Whose Time Has Come
この論文は、「自閉スペクトラム症(Autism)」と「社会心理学(Social Psychology)」の研究をもっと結びつけようと提案する内容です。これまで自閉症は「社会的な困難さ」が特徴とされてきましたが、最近ではそれが単なる診断ではなく、「社会的アイデンティティ」としても認識されつつあります。
✅ わかりやすい要約
✔ 自閉症はもともと「社会との関わりの難しさ」で知られてきたものの、最近では「多様な社会的在り方のひとつ」としても捉えられるようになってきています。
✔ しかし、社会心理学(例:対人関係、グループ、パーソナリティ)という分野では、自閉症に関する研究がほとんど行われてこなかったのが現状です。
✔ 著者たちは、社会心理学と自閉症研究の融合が、両者にとって大きなメリットをもたらすと主張しています。