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注意欠陥多動性障害(ADHD)を持つ人々の感情認識能力に関する系統的レビュー

· 10 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事では、発達障害や精神疾患に関連する最新の研究を紹介しています。サウジアラビアにおける精神疾患治療の障壁や障害者の職業スキル向上に向けたロボットチューターの活用、自閉スペクトラム症(ASD)に対する運動療法の効果、オーストラリア地方部でのASD診断の影響、さらに注意欠陥多動性障害(ADHD)を持つ人々の感情認識能力に関する系統的レビューなど、多岐にわたるテーマを取り上げています。

学術研究関連アップデート

Barriers to Treatment of Mental Disorders in Saudi Arabia

この研究は、サウジアラビアにおける精神疾患治療の障壁を調査し、治療の遅延や未治療が個人、家族、地域社会に及ぼす影響を明らかにしました。Qassim Mental Health Hospitalの外来患者332名を対象に、自己記入式オンラインアンケートとBACE(Barrier to Access to Care Evaluation)スケールを用いて分析を行いました。その結果、スティグマ関連障壁(26.7%)態度関連障壁(33.0%)、**手段関連障壁(18.7%)**が確認され、特に若年層でこれらの障壁が高い傾向がありました。精神病性障害を持つ患者は、スティグマおよび態度関連の障壁を経験しましたが、手段関連の障壁は低かった一方で、複数の精神疾患を持つ患者はスティグマと手段関連の障壁が増加する傾向がありました。この研究は、精神疾患治療へのアクセスを改善するために、障壁の理解を深めるさらなる研究の必要性を強調しています。

Improving Work Skills in People with Disabilities in a Long-Term, In-Field Study on Robotic Tutors

この研究は、障害者の労働市場への参加を支援するためのロボットチューターシステムの有効性を、1か月間の現場実験で検証しました。7名の障害者が作業場で組立作業を行い、エラーや躊躇が発生した際に、ロボットの指差しジェスチャー、音声プロンプト、監督者の呼び出しなどの個別化された支援が提供されました。支援モードの選択は、強化学習を用いて参加者ごとに最適化されました。結果として、以下の3つの主な成果が得られました:①参加者は作業時間の短縮を通じてスキルを向上させた、②アルゴリズムは各参加者に最適な支援方法を1セッションで学習した、③シミュレーション結果は実世界の設定と比較して基本仮定が正しいことを示したものの、個人差が影響を及ぼしました。このシステムは、障害者の労働市場への包括的な参加を支援する可能性を示し、社会的・経済的価値を提供することが期待されています。

Comparative effectiveness of physical exercise interventions on sociability and communication in children and adolescents with autism: a systematic review and network meta-analysis

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもや青年に対する運動療法の効果を、社会性とコミュニケーション能力の向上という観点から評価した系統的レビューとネットワークメタアナリシスです。38件のランダム化比較試験(RCT)を分析し、以下の主要な結果が得られました:

  1. 社会性の向上
    • スポーツゲーム(SMD = 1.12)複合療法(SMD = 1.11)チームボールスポーツ(SMD = 1.06)、**屋外運動(SMD = 1.02)**が、受動的対照群と比較して有意に効果的であると判明。
  2. コミュニケーション能力の向上
    • 複合療法(SMD = 1.57)スポーツゲーム(SMD = 1.01)チームボールスポーツ(SMD = 0.85)屋外運動(SMD = 0.79)、**マインドボディエクササイズ(SMD = 0.79)**が特に効果的。

結論

運動療法はASDの症状改善に有効であり、特にスポーツゲーム、複合療法、チームボールスポーツ、屋外運動が社会性を高めるのに効果的で、コミュニケーション能力向上にも有益であることが示されました。本研究は、ASDのQOL(生活の質)を向上させるための運動介入設計に貴重なエビデンスを提供しています。

How does an autism diagnosis impact a child and their carer in regional Australia?

この研究は、オーストラリアの地方・農村部における自閉スペクトラム症(ASD)診断が、子どもとその保護者に与える影響を調査しました。以下が主な結果です:

  1. 診断の利点:
    • 保護者の93%が診断をポジティブに捉え、子どもの行動理解の向上(39%)、療法の利用(16%)、政府の障害者支援(NDIS)へのアクセス(19%)、学習支援の利用(9%)を挙げました。
    • 44%は診断によるデメリットを感じていませんでした。
  2. 課題と懸念:
    • 診断に伴う主な課題として、待機時間(16%)費用(9.9%)、**医療システムの複雑さ(5.9%)**が報告されました。
    • 将来の差別(38%)、特に人間関係(5%)や雇用(14%)に関する懸念も挙げられました。
  3. 診断年齢と費用:
    • 平均診断年齢は6.64歳。
    • 医療費が全くかからなかったのは参加者の5人のみで、多くが経済的負担を感じていました。

結論

保護者はASD診断を肯定的に捉え、診断が子どもの理解や支援アクセスを改善したと考えています。一方で、診断へのアクセスにおける経済的負担や待機時間の長さが課題であり、地方特有の医療アクセス問題を反映しています。

Emotion Recognition Accuracy Among Individuals With ADHD: A Systematic Review

この研究は、注意欠陥多動性障害(ADHD)を持つ人々の感情認識の正確性に関する研究成果を体系的にレビューしたものです。

主な結果

  1. 感情認識の正確性:
    • ADHDを持つ人々は、神経定型発達の人々に比べて感情認識の正確性が低いと報告されたのは全体の58%の研究でした。
    • ただし、これらの研究は、対照条件の欠如や感情認識の評価方法が限定的であるなど、質的に低いと評価されました(p < .001)。
    • 一方で、対照条件を適切に設定し、複数の測定方法を用いた研究では、ADHD群と神経定型群の間に有意差は認められませんでした。
  2. 性別の影響:
    • 多くの研究(86%)で、男性が主に対象とされ、15%の研究では男性のみが対象でした。
    • 性別による感情認識の違いが示されたのはわずか7%の研究であり、ジェンダー多様性については十分に検討されていません。

結論

ADHDを持つ人々の感情認識能力が低いという報告はあるものの、研究の質や方法論による影響が大きいことが示されました。また、性別の影響については、ジェンダー多様性を考慮したさらなる研究が必要です。この分野の将来の研究では、より厳密な評価方法と多様なサンプルを用いたアプローチが求められます。