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医療および教育分野の専門家の間における聴覚処理障害(APD)に対する認識と知識の現状

· 15 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事は、発達障害や福祉、教育に関連する最新の学術研究に焦点を当て、様々な研究の概要を提供しています。記事では、自閉症スペクトラム障害(ASD)に関する脳のネットワーク構造の性差、AIを利用したASDの検出方法、新しい読み書き介入プログラムの実施可能性、聴覚処理障害に対する専門家の教育の必要性などについて紹介します。

学術研究関連アップデート

Sex differences in the flexibility of dynamic network reconfiguration of autism spectrum disorder based on multilayer network

この論文は、自閉症スペクトラム障害(ASD)における脳の動的ネットワーク再構成の柔軟性に関する性差を調査したものです。研究では、Autism Brain Imaging Data Exchangeデータベースから取得した安静時機能的MRIデータを使用し、ASDを持つ64人の男性と64人の女性、ならびにそれぞれに対応する健常対照群を対象に分析を行いました。マルチレイヤーネットワーク分析を用いて動的ネットワーク再構成の柔軟性を調査し、二元分散分析により性別に関連する変化を評価しました。

結果として、診断と性別の相互作用効果が、前帯状皮質オペルクラムネットワーク(CON)、中央執行ネットワーク(CEN)、サリエンスネットワーク(SN)、および皮質下ネットワーク(SUB)で確認されました。ASDを持つ女性は、健常女性に比べてこれらのネットワークにおいて柔軟性が低く、特にCENとSUBにおいてASDを持つ男性よりも柔軟性が低いことが分かりました。また、これらのネットワークの柔軟性は、ASDを持つ女性の社会的コミュニケーション障害やステレオタイプな行動、制限された興味の重症度を予測しました。この研究は、ASDにおける動的ネットワーク再構成の性差を示し、将来のASD研究において性差の検討が重要であることを強調しています。

CC- GCN: A novel graph-based approach for identification and detection of autism spectrum disorder

この論文では、自閉症スペクトラム障害(ASD)の検出において、グラフベースの新しいアプローチ「CC-GCN」(Clustering Coefficient Graph Convolutional Network)が提案されています。研究は、MRIデータを使用してASDを識別する方法に焦点を当てており、各ノードが患者のMRIデータを表し、エッジがMRI特徴の類似性に基づいて構築されたグラフを作成します。提案されたCC-GCNは、従来のランダム選択に代わりクラスタリング係数に基づいたトレーニングサンプル選択技術を用いて、より構造的に豊かなグラフを生成し、ノード分類の精度を向上させます。この方法は、ASD検出のために使用される2つのベンチマークデータセット(ABIDE-1とABIDE-2)で評価され、他の最先端のGCNベースの方法を上回る分類精度を達成しました。CC-GCNアプローチは、脳疾患の研究において有望であり、個別化された診断および治療アプローチの開発に役立つ可能性があります。

Assessment of intensive care unit delirium in developmentally delayed children

この論文は、小児集中治療室(ICU)でのせん妄(ICU delirium)の評価に焦点を当て、特に発達遅延を持つ子供における評価の課題についてレビューしています。ICUせん妄は、発病すると死亡率や罹患率に悪影響を与える一般的な診断であり、発達遅延を持つ患者は脳疾患や感覚喪失、慣れない環境、せん妄を引き起こす薬の使用などが原因で特にせん妄を発症しやすいとされています。しかし、現在使用されているせん妄評価ツールの中には、発達遅延を持つ患者に対して十分に検証されていないものが多いです。このレビューでは、小児患者に対するICUせん妄の評価ツールの精度に関する文献を概観し、発達遅延がせん妄診断に与える影響や、今後のケアの方向性について議論しています。

この論文は、小学校2年生および3年生を対象とした「SPELL-Links to Reading and Writing」という読み書き介入プログラムの実施可能性を探る研究です。6人の教師が1日の研修を受けた後、追加のコーチングなしでこのプログラムを実施できるかどうかを検証しました。研究では、教師がプログラムを週4日実施するという目標には達しなかったものの、平均して高い忠実度と質を持って実施していることが確認されました。実施における障壁として、研修内容、プログラムの構成、既存の実践との互換性、目標との整合性が挙げられました。一方で、教師の能力や同僚からのサポートが実施を促進する要因として特定されました。教師の満足度は平均して中立的であり、プログラムの実施における要因が教師の実施忠実度を支援する上で重要であることが示唆されています。

Better education required for professionals in healthcare regarding auditory processing disorder

この論文は、聴覚処理障害(APD)に対する認識と知識が、医療および教育分野の専門家の間で不十分であることを指摘しています。APDは学習障害のある子供の約50%、および加齢性難聴や軽度認知障害のある成人の70%以上に見られると推定されていますが、この障害は十分に認識されておらず、適切な対応がなされていません。

研究では、耳鼻咽喉科医、セラピスト、教育者など522名を対象に36問のアンケート調査を行い、APDに関する知識のレベルを主観的および客観的に評価しました。その結果、耳鼻咽喉科医やセラピストが他の専門家よりも高い知識を持っているものの、それでも50%以下のスコアであり、全体的にAPDに関する知識が不十分であることが明らかになりました。

この研究は、APDに関する教育プログラムの開発が必要であると結論づけており、特に耳鼻咽喉科医を対象とした教育が、診断およびリハビリテーションの質を向上させるために重要であるとしています。これにより、APDを持つ子供や成人の生活の質と精神的健康が改善されることが期待されます。

Frontiers | Exploring the Landscape of Adult Autism Research in Psychology: a bibliometric and network analysis

この論文は、成人の自閉症スペクトラム障害(ASD)に関する心理学分野の研究を対象に、最近のグローバルな科学文献のマッピングを行ったものです。ASDは、社会的コミュニケーションや相互作用の持続的な困難さ、限られた興味、反復的な行動を特徴とする障害で、世界的にその有病率が増加しています。本研究では、2013年から2022年にWeb of Science Core Collectionにインデックスされた心理学分野の850件の論文を対象に、システマティックレビュー、ビブリオメトリック分析、ネットワーク分析を実施しました。結果として、ASDに関する成人の研究は年平均11.69%の成長を示しており、成人ASD研究の理解を深めるための重要な洞察を提供しています。

Frontiers | The benefit of rhythm-based interventions for individuals with autism spectrum disorder: a systematic review and meta-analysis with random controlled trials

この論文は、自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ個人に対するリズムベースの介入が社会的スキルに与える影響を評価したシステマティックレビューとメタ分析です。リズムベースの介入が行動の同期化を促進し、ASDの社会的欠陥を軽減する可能性があることが示されています。11の研究(合計408人のASD患者)を対象に分析した結果、リズムベースの介入はASDにおける全体的な社会的スキルに中程度の効果を持ち、特に社会的相互作用や感情に対して大きな効果を示しましたが、共感に対する効果は統計的に有意ではありませんでした。この結果は、ASDの臨床的リハビリテーションにおいてリズムの重要性を示唆しており、特に社会的能力が低いASD個人に対する介入にリズム要素を加えることが推奨されています。

Acute effects of exercise on gaze fixation and affective response inhibition in children with autism spectrum disorder: A randomized cross‐over study

この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ子供たちにおいて、有酸素運動が感情に関連した反応抑制(例えば、感情を示す顔を見たときの反応)に与える影響を調査したものです。29人の参加者が、クロスオーバーデザインを用いて、サイクリングエルゴメーターで20分間の中程度の有酸素運動を行い、その後、感情的なGo/NoGoタスク(感情を示す顔に対する反応を評価する課題)を実施しました。また、目の動きを追跡して、顔の目や口の部分に注目する時間を測定しました。

結果として、有酸素運動が反応抑制のパフォーマンスに有益な効果をもたらすことは確認されませんでした。むしろ、運動後には、特に「幸せ」な顔に対する反応の精度が低下し、この変化は顔の目に対する注視時間の減少と関連していました。結論として、単回の有酸素運動はASDにおける顔の感情処理や反応に対する特有の障害を一時的に悪化させる可能性が示されました。

Development and predictors of reading skills in a 5‐year Italian longitudinal study

この論文は、イタリア語を話す子供たちの読解力の発達とその予測因子を5年間にわたって調査した縦断研究です。327人の子供たち(男子180人)を対象に、1年生から5年生までの間に毎年読解力を評価しました。研究では、初期の認知的要因(音韻認識、言語的短期記憶、非言語的知能)や環境的要因(社会経済的地位)、そして1年生終了時の読解力が、その後の読解力の発達に与える影響を調べました。

結果として、読解力の発達は線形であり、早期の認知的スキルがその後の読解速度や正確性を予測することが確認されました。この研究は、初期の読解力がその後の学年を通じて安定しており、早期介入プログラムの重要な指標であることを強調しています。