このブログ記事は、発達障害や注意欠陥・多動性障害(ADHD)、自閉症スペクトラム障害(ASD)に関連する最新の学術研究を紹介しています。主な内容として、神経発達障害における三次元ゲノム構造の役割、近隣の不利な状況が子供たちの精神的健康や発達障害に与える影響、障害を持つ子供たちの口腔保健サービスへのアクセスの問題、ADHDを持つ子供たちの学校における支援や性別による診断の違い、大学への移行における自閉症の学生の課題などについて紹介します。
学術研究関連アップデート
Unraveling the three-dimensional (3D) genome architecture in Neurodevelopmental Disorders (NDDs)
この論文は、神経発達障害(NDDs)における三次元(3D)ゲノム構造の役割を 探るレビューです。ゲノムは単なる線形配列ではなく、クロマチンという複雑な組織構造を持ち、これが遺伝子発現や細胞機能に大きな影響を与えます。特に、Topologically Associating Domains(TADs)と呼ばれるクロマチンの特定領域は、遺伝子調節に重要な役割を果たしており、NDDsにおける脳の発達と機能の維持に関連しています。論文では、自閉症スペクトラム障害(ASD)を含むNDDsの病因理解のために、ゲノムの3D構造と転写制御の相互作用が重要であることが強調されています。
The Relationships Among Neighborhood Disadvantage, Mental Health and Developmental Disabilities Diagnoses, and Race/Ethnicity in a U.S. Urban Location
この論文は、アメリカの都市部における近隣の不利な状況、精神的健康(MH)および発達障害(DD)の診断、そして人種や民族との関係を調査したものです。研究では、2022年のルイビル都市圏に住む18歳未満の子供115,738人の外来受診データを使用しました。結果として、約18,000人の子供(15.5%)がMH またはDDの診断を受けており、そのうち6.8%がDDの診断を受けていました。非ヒスパニック系の黒人(N-H Black)の子供は、非ヒスパニック系の白人(N-H White)の子供に比べて、どのCOIレベルでもMHの診断率が低いことが示されました。
多変量ロジスティック回帰分析により、N-H Whiteの子供たちにおいては、非常に低いCOI地域に住む子供たちが、非常に高いCOI地域に住む子供たちよりもMHやDDの診断を受ける可能性が高いことがわかりましたが、非白人の子供たちについては、COIと診断の関連性は見られませんでした。この研究は、COIが非白人の子供たちの診断における格差を説明するものではないことを示唆しており、人種差別の他の形態など、多層的な要因を探るさらなる研究の必要性を強調しています。また、子供と家族が信頼できる医療リソースとつながるためのプログラム、政策、介入策の開発が求められています。
Access to oral health care services for children with disabilities: a mixed methods systematic review - BMC Oral Health
この論文は、障害を持つ子供たちの口腔保健サービスへのアクセスに関するバリアと促進要因を特定するために、既存の文献を体系的にレビューしたものです。研究の結果、障害を持つ子供たちは一般的に口腔の健康状態が悪く、特有のニーズを抱えていることがわかりました。アクセスの障壁としては、歯科医師の対応の消極性、歯科への恐怖、治療費の高さ、施設の不備などが挙げられました。一方で、アクセスを促進する要因としては、サービスの共同開発や、障害者に合わせたアプローチの利用が有効であることが示されました。結論として、既存のアクセスフレームワークを利用した研究や、サービスの提供方法を共同で開発することが、障害を持つ子供たちの口腔保健へのアクセス向上に寄与する可能性があるとされています。
Changes in MRI head motion across development: typical development and ADHD
この論文は、磁気共鳴画像法(MRI)での頭部運動が子供の発達に伴ってどのように変化するか、またその変化が注意欠陥多動性障害(ADHD)の子供と典型的に発達する子供の間でどのように異なるかを調査したものです。研究には、9歳から14歳までのADHDを持つ105人の子供と84人の対照群が参加し、拡散MRIおよび静止状態の機能的MRIが複数回行われました 。
結果として、年齢が増すにつれて頭部運動(フレームごとの変位)が減少することが確認されましたが、ADHDを持つ子供は対照群よりも頭部運動が多いことがわかりました。また、ADHDが寛解した子供でも頭部運動が対照群よりも依然として高いことが示されましたが、頭部運動の変化率は診断グループ間で大きく異ならなかったことが示されました。これにより、MRI研究においては頭部運動と発達年齢の関係を考慮することが重要であること、そしてADHDの行動症状が臨床的に寛解しても依然として続く可能性があることが示唆されました。
ADHD in Schools: Examining the Role of Gender and Symptom Presentation in Teacher-Initiated Referrals
この論文は、注意欠陥多動性障害(ADHD)の診断と治療が男児や男性に多いとされてきましたが、近年では女児や女性における診断も増加しており、男女間の差が以前より少なくなっていることに着目しています。特に、男性では多動性や衝動性の症状が多く見られ、女性では不注意の症状が多いものの、これらの症状は見逃されがちで、障害として認識されにくいことが指摘されています。